位相空間論のオススメ参考書【4選】
この記事では、位相空間論を勉強するのにオススメな教科書・参考書を4冊紹介します。
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位相空間論のオススメ参考書
集合・位相入門 / 松坂和夫
★ 本書のメリット
・誤植が全然ない
・説明が丁寧でわかりやすい
本書は誤植が全くないです。
というのも、本書は1968年に出版されて以来、長年に渡って読まれてきた位相の教科書の定番です。
そのため、何度も重版され、誤植は直されています。
また、本書はロングセラーだけあって概念の説明が丁寧であり、定理の証明もわかりにくいところが全然ありません。
なので、初学者でも本書によって位相の概念を「論理的に理解する」ことはそれほど難しくはありません。
★ 本書のデメリット
・位相の具体例や反例がかなり少ない
上記のとおり。
なので、本書を読んでも「定理の証明が論理的に正しいことはわかったけど、具体的なイメージが持てず、分かった気にならない...」という感じになると思います。
その欠点については、私が運営するこのサイト内で位相空間の具体例や反例を解説した記事がたくさんありますので、それを読むことによって欠点を補えます。(参考:位相空間論のコツ)
なお、具体例や反例が少ないのは本書に限らず、位相の教科書すべてに言えることです。
どの本も例が少なく初学者には辛いです。
しかし、位相の教科書の中でも[松坂]が最も丁寧でわかりやすい説明なので、とりあえず消去法で定番になっている、というのが現状だと思います。
ところで、私は位相空間論を本書で勉強しました。
例が少なくて、位相のイメージが持ちにくく、習得するのが大変でした。
しかし、定理の証明や概念の説明が丁寧なので、この本をメインにして位相を勉強するのがオススメです。
★ 集合・位相入門
集合と位相 / 内田伏一
本書も[松坂]と同じく、位相の教科書として定番です。
★ メリット:幾何学に必要な位相の知識がコンパクトにまとまっている
著者の内田先生は幾何学が専門であり、
そのためか、本書の内容は多様体論や位相幾何学などの幾何学に役立つことが中心にまとめられています。
具体的にはコンパクト、ハウスドルフ、連結など位相の最重要な概念が詳しく解説されています。
一方、幾何学でめったに使うことのない正規空間や正則空間については解説が少なめです。
また、[松坂]のように距離空間論や濃度・順序集合に関して深入りしていません。
初学者にとって迷惑な『寄り道』があまりない構成です。
★ デメリット:例が少ない
[松坂]と同じく具体例・反例が少ないです。
なので、その点については繰り返しますが、このサイトにある位相の記事を読んでください。
このサイトには位相空間の例を豊富に載せてあります。
★ 集合と位相
トポロジー入門 / 松本幸夫
★ [松坂]や[内田]よりわかりやすい
本書はトポロジー(位相幾何学)の入門書であって、位相空間論の教科書ではないです。
しかし、最初の100ページは位相空間論の復習になっていて、そこの説明がとてもわかりやすいです。
その復習部分は[松坂]や[内田]よりわかりやすいと思います。
とくに連結や弧状連結のところが、丁寧な説明、豊富な具体例、わかりやすい図があってよかったです。
★ 欠点:値段が高い(約9000円)
惜しいことに、本書は9000円ぐらいします。
さすがに高すぎなので、とりあえず大学の図書館に行ってみて、置いてあれば借りることをオススメします。
値段が安ければ一番にオススメする本ですが、残念ながら高すぎですね。
なお、本書は前半部分の位相空間論も良いですが、後半部分のトポロジーもとてもわかりやすいです。
とくに基本群や単連結、ファンカンペンの定理という重要な概念を懇切丁寧に説明していて良かったです。
位相空間論の教科書として一番のオススメは[松坂]ですが、トポロジー(位相幾何学)の教科書としては本書がダントツで一番のオススメです。
★ トポロジー入門
群と位相 / 横田一郎
本書はタイトルの通り、群と位相を扱っていて、行列群を具体例として豊富に紹介されています。
なお、行列群とは例として下記があります。
・一般線形群 $\GL_n(\R)$
・特殊線形群 $\SL_n(\R)$
・直交群 $O(n)$
行列群はいろんな分野で出てきます。
たとえばリー群論や微分幾何学などでよく出てきます。
これらの行列群は群でもあり位相空間でもあります。
(※多様体でもあり、リー群と呼ぶ。)
そして、これらが連結であるか?コンパクトであるか?
について本書で解説されています。
行列群の他にも射影空間 $\P^n$ という重要な位相空間について詳しい解説があります。
なお、行列群や射影空間は現代数学でとても重要な位相空間にも関わらず、[松坂]や[内田]などの位相の教科書では全く書かれていません。
本書にある具体例に触れることによって位相のイメージがしやすくなり、位相が理解しやすくなるはずです。
ちなみに、行列群の位相的な性質については下記の記事で解説しています。
・
一般線形群 $\GL_n(\R)$ は連結でなくコンパクトでもない
・
直交群 $O(n)$ はコンパクトだが連結でない
・
閉集合であることを簡単に示す裏ワザ
本書は群論も位相空間論も初歩から丁寧に書かれているので、予備知識なしで読めます。
「位相空間の具体例をたくさん知りたい!」という人に特にオススメの本です。
★ 群と位相
【感想・書評】その他の参考書について
ここからは、その他の位相の参考書について感想を述べます。
Morse理論の基礎 / 松本幸夫
モース理論は微分位相幾何学という幾何学の専門分野であり、
位相の初学者が本書を読んでも証明が全く理解できないと思います。
しかし、本書は位相空間の具体例が多く、図も豊富に書かれているので、
パラパラと目を通すだけでも位相空間のイメージがわくと思います。
一度読んでみることをオススメします。
位相空間論の重要な具体例
下記の問題は、位相の理解度を知るのには良い問題です。
問題
次の2つの位相空間は互いに同相でないことを示せ
(1) $\R$と単位円 $S^1$
(2) $\R$ と $\R^2$
(3) $\R$ と $xy=0$ ($x$ 軸と $y$ 軸の和集合)
(解答は同相写像を参照せよ.)
問題
次の位相空間は連結でないことを示せ
(1) 双曲線 $xy=1\subset \R^2$
(2) $\GL_n(\R)$
※$\GL_n(\R)$ は $n$ 次の正則行列全体の集合
(解答は連結空間を参照せよ.)
問題
次の位相空間はコンパクトであることを示せ.
(1) 球面 $S^2$
(2) $n$ 次直交群 $O(n)$
※$O(n)$ は $n$ 次の直交行列全体の集合
(解答はコンパクトを参照せよ.)
上記の問題は幾何学で基本となる例です.
上記の問題を解くことによって位相の概念が理解しやすく楽しく感じれると思います。
【おまけ】位相空間論のコツ
まずは目標を立てよう!
位相の初学者は次の定理を目標にすることがオススメです.
定理
コンパクト空間からハウスドルフ空間への全単射な連続写像は同相写像である.
この定理は多様体論でよく使い, 特に埋め込み定理の証明で使われます.
この定理の証明がわかれば, 松本「多様体の基礎」を読むのに必要な位相の知識はマスターしたことになります.
なので, 位相の初学者はこの定理の証明が理解できることを目標にしましょう.
松本「多様体の基礎」をざっと見よう!
位相空間論の初学者は
松本「多様体の基礎」をざっと見ることをオススメします.
その本に書いてある位相の概念・定理はどれも重要です.
一方,書かれていない位相の概念・定理は重要でないです.
(※連結は書かれていないが重要)
ざっと見て,位相の何が重要かがわかったら,それを重点的に勉強しましょう.
位相は「存在」を示す道具
なぜ位相を学ぶのか?
理由の1つに「存在」を示す道具を手に入れるためです.
・中間値の定理より5次方程式の実数解が存在する
・コンパクト空間上の実連続関数は最大値が存在する
・リプシッツ連続より微分方程式の解が存在する
開写像, 閉写像, 稠密を使って全射(存在)を示すことも可能になります
大多数の読者にとって、位相が他分野でどう使われるのかを知りたいはずだが、 それに関する言及がなかった。