Takatani Note
\[ \def\O{\mathrm{O}} \def\SO{\mathrm{SO}} \def\tA{{}^t \hspace{-1.5pt} A \hspace{1pt}} \def\xeq#1{\hspace{-1pt}\overset{(#1)}{=}\hspace{-2pt}} \]

直交群 $\O(n)$ と特殊直交群 $\SO(n)$【問題と証明】

この記事では, 直交群 $\O(n)$ と特殊直交群 $\SO(n)$ について次の問題を扱います。

・$\det(\O(n))=\{\pm 1\}$
・$\O(n)$ は $\GL_n(\R)$ の正規部分群でない
・$\SO(n)$ は $\O(n)$ の正規部分群である

・$\O(n)$ はコンパクトである
・$\O(n)$ は連結でない
・$\O(n)$ は2つの連結成分をもつ

問題の前に $\O(n)$ と $\SO(n)$ の定義をそれぞれ確認しておきます。

定義
$M_n(\R)$ を $n$ 次の実正方行列全体とする.
$\O(n)$ を直交行列全体, すなわち, \[ \O(n)=\{A\in M_n(\R)\mid {}^t AA=I_n\} \] と定める. (※$I_n$ は $n$ 次単位行列) この $\O(n)$ を $n$ 次直交群という.

補足
・$O(n)$ は $\GL_n(\R)$ の部分群である. 実際, 直交行列の性質より, $A,B$ が直交行列ならば $AB, A^{-1}$ も直交行列である.
・$M_n(\R)$ は $n^2$ 次元のユークリッド空間と同一視できる.
なので, $\O(n)$ はその相対位相を考えることによって位相空間の構造をもつ.

定義
$\SO(n)$ を $\O(n)$ と $\SL_n(\R)$ の共通部分, すなわち \[ \SO(n)=\{A\in \O(n)\mid \det A=1 \}\] と定める. この $\SO(n)$ を $n$ 次特殊直交群という.

直交群と特殊直交群【問題】

直交行列の行列式は $1$ か $-1$

問題
$\det(\O(n))=\{\pm 1\}$ であることを示せ.

証明
[証明]
包含関係 $\subset,\supset$ の両方を示す.
$(\subset)$ $\O(n)$ の任意の元 $A$ は直交行列であり, $\tA A=I_n$ を満たすので,
\[ \det(A)^2\xeq{*1}\det(\tA)\det(A) \xeq{*2}\det(\tA A)=\det(I_n)=1 \] \[ \th \det(A)=\pm 1.\] したがって $\det(\O(n))\subset \{\pm 1\}.$

$(\supset)$ 単位行列 $I_n$ は $I_n\in \O(n)$ かつ $\det(I_n)=1$ を満たす.
また, 対角行列: \[ D:= \m{ -1 & & & O \cr & 1 & & \cr & & \ddots & \cr O & & & 1 } \] は $D\in \O(n)$ かつ $\det(D)=-1$ を満たす.
ゆえに $\det(\O(n))\supset \{\pm 1\}.$

以上から, \[ \det(\O(n))=\{\pm 1\}. \]
$(*1)$ 転置行列の性質より, $\det(A)=\det(\tA).$
$(*2)$ 行列式の性質より, $\det(A)\det(B)=\det(AB).$

正規部分群に関する問題

問題
次を示せ.
(1) $O(2)$ は $\GL_2(\R)$ の正規部分群でない.
(2) $O(n)$ は $\GL_n(\R)$ の正規部分群でない.

証明
[証明]
まず, 正規部分群について復習しておこう.
群 $G$ の部分群 $H$ が正規であるとは,
「任意の $h\in H, g\in G$ に対して $g^{-1}hg\in H$」
が成り立つときをいう.
正規でないことを示すには, 上記が成り立たない $h,g$ を見つければよい.

(1) $O(2)$ の中から
$\ \ \ A=\begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \\ \end{pmatrix}$
をとり, $\GL_2(\R)$ の中から
$\ \ \ P=\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 0 & 1 \\ \end{pmatrix}$
をとる.
$\ \ \ P^{-1}=\begin{pmatrix} 1 & -1 \\ 0 & 1 \\ \end{pmatrix},$
であることはすぐにわかる.

このとき, $\ \ \ P^{-1}AP= \begin{pmatrix} -1 & 0 \\ 1 & 1 \\ \end{pmatrix}\not\in \O(n)$
よって, $O(2)$ は $\GL_2(\R)$ の正規部分群でない.

(2)(1)で定義した行列 $A,P$ をこの問題でも用いる.
$n=2$ の場合は前問で示したので, $n\geq 3$ の場合を示す.
$\O(n)$ の中から
$\ \ \ B=\begin{pmatrix} A & O \\ O & I_{n-2} \\ \end{pmatrix}$
をとる.
(※ $O$ は零行列, $I_n$ は $n$ 次単位行列とする.)

$\GL_n(\R)$ の中から
$\ \ \ Q=\begin{pmatrix} P & O \\ O & I_{n-2} \\ \end{pmatrix}$
をとる.
$\ \ \ Q^{-1}=\begin{pmatrix} P^{-1} & O \\ O & I_{n-2} \\ \end{pmatrix},$
であることはすぐにわかる.

このとき,
$Q^{-1}BQ= \begin{pmatrix} R & O \\ O & I_{n-2} \\ \end{pmatrix}\not\in \O(n).$
ただし, $R=P^{-1}AP$ と定義した.

よって, $\O(n)$ は $\GL_n(\R)$ の正規部分群でない.

問題
特殊直交群 $\SO(n)$ は直交群 $\O(n)$ の正規部分群であることを示せ.

証明
[証明]
任意の $A\in \SO(n), P\in \O(n)$ をとると,
$\ \ \ \det(P^{-1}AP)=\det(A)=1.$
したがって, $P^{-1}AP\in \SO(n)$ である.
ゆえに, $\SO(n)$ は $\O(n)$ の正規部分群である.

[別解]
$f :\O(n)\to \{1,-1\}$
$\ \ \ A\mapsto \det A$
とすると, $f$ は群の準同型写像であり, $\Ker f=\SO(n)$ である.
よって, $\SO(n)$ は $\O(n)$ の正規部分群である.

$\O(n)$ はコンパクトである

問題
$\O(n)$ はコンパクトであることを示せ.

証明
[証明]
後で述べる定理によって, 位相空間 $\O(n)$ が有界閉集合であることを示せばよい.
任意の $A\in \O(n)$ に対して, $|a_{ij}|\leq 1$ なので, $\O(n)$ は有界である.
(※ $a_{ij}$ は行列 $A$ の $i$ 行 $j$ 列成分を表す.)

$f:M_n(\R)\to M_n(\R),\ $ $A\mapsto {}^t\!A A$
とすると, $f$ は連続写像である.
実際, ${}^t\!A A$ の各成分は多項式の形の関数になるから, $f$ は連続である.
1点集合 $\{I_n\}$ は $M_n(\R)$ の閉集合である.
なので, その逆像 $f^{-1}(\{I_n\})=\O(n)$ は $M_n(\R)$ の閉集合である.

上の問題で次の定理を用いた.

定理
$X$ を $\R^n$ の部分集合とする. このとき,
$X$ はコンパクト $\iff$ $X$ は有界閉集合.

[証明]
[松坂 5章定理16]または[内田 例23.1]を参照せよ.

$\O(n)$ は連結でない

定理
$\O(n)$ は連結でないことを示せ.

証明
[証明]
$f:\GL_n(\R) \to \R,\ $ $A \mapsto \det A$ とすると, $f$ は連続である.
($\because\ \det A$ を展開すると多項式の形になるから.)
連続像 $f(\O(n))=\{ 1, -1\}$ は連結でない.
したがって, 次の定理の対偶より $\O(n)$ も連結でない.

上の問題で次の定理を用いた.

定理
$f:X \to Y$ を連続写像とする.
$X$ が連結ならば, $f(X)$ も連結である.

[証明]
[松坂 5章定理1]または[内田 定理25.1]を参照せよ.

直交群は2つの連結成分をもつ

問題
$\O(n)$ は2つの連結成分 $\SO(n)$ と $\{g\in \O(n)\mid \det g=-1\}$ を持つことを示せ.

証明
[証明]
$\SO(n)$ は $\O(n)$ の部分群なので, $\det h=-1$ を満たす $h\in \O(n)$ を任意にとると, \[\O(n)=\SO(n)\cup h(\SO(n))\] のように2つの剰余類に分解できる.
$\det(\O(n))=\{\pm 1\}$ より,
\[h(\SO(n))=\{g\in \O(n)\mid \det g=-1\}\] である.
また $\{\pm 1\}$ は離散位相空間なので, $\SO(n)$ と $h(\SO(n))$ はどちらも開集合かつ閉集合である.

$\SO(n)$ は連結なので, $h(\SO(n))$ も連結である.
なぜなら $\SO(n)\to h(\SO(n)),\ $ $A\mapsto hA$ は同相写像だからである.

以上から $\SO(n)$ と $h(\SO(n))$ はどちらも $\O(n)$ の連結成分である.

問題
$\SO(n)$ は連結であることを示せ.

略解
[略解]
$\SO(n)$ の指数写像 $\exp:\mathfrak{so}(n)\to \SO(n)$ が全射であることを示せばよい.