直交行列の性質【証明】
この記事では, 直交行列(orthogonal matrix)について次の性質を証明します。
- 直交行列の行列式は $1$ または $-1$
- $A,B$ が直交行列 $\Rightarrow$ $AB, A^{-1}$ も直交行列
- $A$ は直交行列 $\iff$ $A$ の列(行)ベクトル全体は正規直交基底
- 実対称行列は直交行列で対角化される
まず定義を確認しておきます。
定義
正方行列 $A$ が
$$ \tA A=I $$
を満たすとき, $A$ を直交行列(orthogonal matrix)という.
(※$I$ は単位行列.)
※$\tA A=I$ ならば $A\tA=I$ である. $(\be A\tA=^t(\tA A)=^tI=I)$
例
次の行列は直交行列である.
$$
\m{ \cos\t & -\sin\t
\cr \sin\t & \cos\t },
\ \ \
\m{ 0 & -1
\cr 1 & 0 }
$$
直交行列の性質
直交行列の行列式は $1$ または $-1$
定理
$A$ を直交行列とすると, $\det(A)=\pm 1$
[証明] $A$ は直交行列なので $\tA A=I$ である. このことと 行列式の性質により, $$ \det(A)\det(A)=\det(A)\det(\tA) =\det(A\tA)=\det(I)=1. $$ $$ \th \det(A)=\pm 1. $$
$A,B$ が直交行列 $\Rightarrow$ $AB, A^{-1}$ も直交行列
定理
$A,B$ が直交行列ならば,
積 $AB$ も逆行列 $A^{-1}$ も直交行列である.
[証明] $A,B$ は直交行列なので, $\tA A=I,\ \ {}^tBB=I$ である. $$ {}^t(AB)(AB)=({}^tB\tA )(AB) ={}^tB(\tA A)B={}^tBB=I. $$ $$ {}^t (A^{-1})A^{-1}=(\tA)^{-1}A^{-1} =(A\tA)^{-1}=I^{-1}=I. $$ よって, 積 $AB$ も逆行列 $A^{-1}$ も直交行列である.
$A$ は直交行列 $\iff$ $A$ の列(行)ベクトル全体は正規直交基底
定理
$A$ を $n$ 次正方行列とするとき,
次の5つの条件は同値である.
ただし, $\R^n$ には標準的内積を考える.
(1) $A$ は直交行列である.
(2) $A$ の列ベクトル全体は $\R^n$ の正規直交基底である.
(3) $A$ の行ベクトル全体は $\R^n$ の正規直交基底である.
(4) $A:\R^n\to \R^n$ は計量を保つ.
(5) $A:\R^n\to \R^n$ は長さを保つ.
[証明]
$$ A=(\a_1 \cd \a_n)=\m{ \a_1'\\ \cd \\ \a_n' } $$
をそれぞれ $A$ の列ベクトル表示, 行ベクトル表示とする.
(1) $\iff$ (2)
$A$ の列ベクトル表示で考えれば,
$$\eq{
A \text{は直交行列} & \iff \tA A=I
\\ & \iff {}^t\a_i\a_j=\delta_{ij}
\ \ \ \ \ \ (1\leq i,j\leq n)
\\ & \iff (\a_i,\a_j)=\delta_{ij}
\ \ \ (1\leq i,j\leq n)
\\ & \iff \a_1, \cd, \a_n \ \text{は}
\ \R^n \ \text{の正規直交基底}
}$$
(1) $\iff$ (3)
$A$ の行ベクトル表示で考えれば,
$$\eq{
A \text{は直交行列} & \iff A \tA=I
\\ & \iff \a_i'{}^t\a_j'=\delta_{ij}
\ \ \ \ \ \ (1\leq i,j\leq n)
\\ & \iff (\a_i',\a_j')=\delta_{ij}
\ \ \ (1\leq i,j\leq n)
\\ & \iff \a_1', \cd, \a_n' \ \text{は}
\ \R^n \ \text{の正規直交基底}
}$$
(2) $\iff$ (4)
$\a_1,\cd,\a_n$ が $\R^n$ の正規直交基底であるとき,
$$\eq{
\x & =x_1\e_1+\cd +x_n\e_n,
\\ \y & =y_1\e_1+\cd +y_n\e_n
}$$
とすると, $A\e_i=\a_i\ (1\leq i\leq n)$ により,
$$\eq{
(A\x,A\y)
& =(x_1\e_1+\cd +x_n\e_n,y_1\e_1+\cd +y_n\e_n)
\\ & =x_1y_1+\cd+x_ny_n
\\ & =(\x,\y)
}$$
よって, (4)が成り立つ.
逆に, $A:\R^n\to \R^n$ は計量を保つとすると,
$1\leq i,j \leq n$ で
$$ (\a_i,\a_j)=(A\e_i,A\e_j)
=(\e_i,\e_j)=\delta_{ij} $$
よって, $\a_1,\cd,\a_n$ は
$\R^n$ の正規直交基底である.
(4) $\iff$ (5)
内積空間の性質から成り立つ.
実対称行列は直交行列で対角化される
定理
$n$ 次実正方行列 $A$ について,
次の2つの条件は同値である.
(1) $A$ は実対称行列である.
(2) $A$ は適当な直交行列 $P$ によって対角化できる:
$$ P^{-1}AP=
\m{ \l_1 & & O
\cr & \ddots &
\cr O & & \l_n }
$$
[証明] 対称行列の性質参照.