転置行列【性質と証明】
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この記事では、転置行列について次の性質を証明します。
- 転置行列の積
${}^t(AB)={}^tB\ {}^tA$ - 逆行列
${}^t(A^{-1})=({}^tA)^{-1}$ - 行列式
$\det(A)=\det({}^tA)$
証明の前に、転置行列の定義を確認しておきます。
定義
$m\times n$ 行列
$$ A=
\m{ a_{11} & \cdots & a_{1n}
\cr \vdots & \ddots & \vdots
\cr a_{m1} & \cdots & a_{mn} }
$$
の転置行列 ${}^t A$ とは
$$ {}^tA=
\m{ a_{11} & \cdots & a_{m1}
\cr \vdots & \ddots & \vdots
\cr a_{1n} & \cdots & a_{mn} }
$$
で定義される $n\times m$ 行列のことである.
つまり, 行列 $A$ の転置行列とは, $A$ の $(i, j)$ 成分と $(j, i)$ 成分を入れ替えてできる行列のことです。
例
$A=
\m{ 1 & 2
\cr 3 & 4 }$
ならば
${}^tA=
\m{ 1 & 3
\cr 2 & 4 }.$
例
$A=
\m{ 1 & 2 & 3
\cr 4 & 5 & 6 }$
ならば
${}^tA=
\m{ 1 & 4
\cr 2 & 5
\cr 3 & 6 }.$
転置行列の性質
転置行列の積
定理X
$A$ を $l\times m$ 行列,
$B$ を $m\times n$ 行列とする. このとき,
$$ {}^t(AB)={}^tB\ {}^tA.$$
[証明]
${}^t(AB)$ の $(i,j)$ 成分は, ($AB$ の $(j,i)$ 成分に等しいので,)
$$ \sum_{k=1}^ma_{jk}b_{ki} $$
である.
一方, ${}^tB\ {}^tA$ の $(i,j)$ 成分は
$$ \sum_{k=1}^mb_{ki}a_{jk} $$
である.
従って, 両者の $(i,j)$ 成分が一致するので,
$$ {}^t(AB)={}^tB\ {}^tA. $$
この定理を使えば, 3つの行列の積の転置が簡単に求まる.
系
$A$ を $l\times m$ 行列, $B$ を $m\times n$ 行列,
$C$ を $n\times p$ 行列とする. このとき,
$$ {}^t(ABC)={}^tC\ {}^tB\ {}^tA. $$
[証明] 定理Xより, $$ {}^t(ABC)={}^t((AB)C) ={}^tC\ {}^t(AB)={}^tC\ {}^tB\ {}^tA.$$
逆行列
定理
$A$ を $n$ 次の正則行列とすると,
$$ {}^t(A^{-1})=({}^tA)^{-1}. $$
[証明] 定理Xより, $$ {}^tA\ {}^t(A^{-1})={}^t(A^{-1}A)={}^tI=I $$ である. ゆえに ${}^tA\ {}^t(A^{-1})=I$ の両辺に $({}^tA)^{-1}$ を左からかけると $$ ^t(A^{-1})=({}^tA)^{-1}. $$
転置行列の行列式
定理
任意の正方行列 $A$ に対して,
$$ \det({}^tA)=\det(A) $$
[証明] 行列式の性質参照.