補有限位相【性質と証明】
この記事では、下記を証明します。
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$\R$ に補有限位相を入れた空間は次の性質をもつ:
- $T_1$ 空間である
- ハウスドルフでない
- 第1可算公理を満たさない
- コンパクトである
- 可分である
上記の中で、重要なのは下記です。
- $T_1$ 空間だがハウスドルフでない
- 第1可算公理を満たさない
上記について、いずれの性質も、それを満たす位相空間は非常に珍しいです。
詳しいことは記事の後半で説明します。
では、補有限位相の定義から始めます。
定義
実数の集合 $\R$ に次のような位相 $\O_C$ を入れる.
$$ \O_C= \{U \sub \R \mid
\R\sm U \te{は有限集合} \} \cup \{\emp\} $$
$\O_C$ を $\R$ の補有限位相(cofinite topology)という.
※$(\R,\O_C)$ の閉集合は有限集合または $\R$ 自身に限る.
問題
補有限位相が位相の公理を満たしていることを示せ.
- ▼ 解答
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[解答]
(T1) $\emp,\R\in \O_C$ は明らか.
(T2) $U,V\in \O_C$ ならば, $U^c,V^c$ は有限集合なので, $(U\cap V)^c=U^c \cup V^c$ も有限集合である. ゆえに $U\cap V\in \O_C.$
(T3) $U_\l\in \O_C\ (\l\in \L)$ ならば, 各 $\l$ に対して $U_\l^c$ は有限集合なので, $(\bigcup_{\l\in\L}U_\l)^c =\bigcap_{\l\in\L}U_\l^c$ も有限集合である. ゆえに $\bigcup_{\l\in\L}U_\l\in \O_C.$
性質
$T_1$ 空間である
$T_1$ 空間とは, 1点集合 $\{a\}$ が常に閉集合であるような位相空間のことである.
定理
$(\R,\O_C)$ は $T_1$ 空間である.
[証明] 補有限位相の定義により, $(\R,\O_C)$ の閉集合は有限集合または $\R$ 自身に限る. 1点集合 $\{a\}$ はもちろん有限集合なので閉集合である.
ハウスドルフでない
定理
$(\R,\O_C)$ はハウスドルフでない.
- ▼ 証明
- [証明] $(\R,\O_C)$ がハウスドルフであると仮定する. このとき, 相異なる2点 $a, b\in \R$ をとれば, $$ a\in U,\ \ \ b\in V, \ \ \ U\cap V=\emp $$ を満たす開集合 $U,V\in \O_C$ が存在する. すると, $V\sub \R\sm U$ であるから, $V$ は有限集合である. 従って $\R\sm V$ は無限集合である. これは $V$ が開集合であることに矛盾する.
したがって $(\R,\O_C)$ は $T_1$ だがハウスドルフでない空間である.
第1可算公理を満たさない
定理
$(\R,\O_C)$ は第1可算公理を満たさない.
- ▼ 証明
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[証明]
点 $x\in \R$ を固定し,
$x$ の可算な基本近傍系 $\U$ が存在すると仮定する.
$\U$ は可算なので, $\U=(U_n)_{n\in\N}$ と表せる.
(各 $n$ に対して $x\in U_n$ かつ $U_n\in \O_C$ に注意.)
$$ A=\bigcap_{n\in \N}{U_n} $$
とおく. 今から, $A\sm \{x\}$ が空集合でないことを示す.
ド・モルガンの法則により,
$$ A^c=\ds\bigcup_{n\in\N}{U_n^{\ c}}. $$
$U_n^{\ c}$ は有限集合なので, $A^c$ は高々可算である.
従って, $A^c\cup \{x\}$ も高々可算である. ゆえに, ($\R$ は非可算なので) $$ A^c\cup \{x\}\neq \R. $$ よって $A\sm \{x\}$ は空でない.
次に $y\in A\sm\{x\}$ をとる. すると, $y\in U_n\ (\all n)$ だから $U_n \not\subset \R\sm\{y\}\ (\all n)$ が成り立つ. ところが, 補有限位相の定義により, $\R\sm\{y\}$ は $x$ の開近傍である. 基本近傍系の定義から, $U_n\subset \R\sm\{y\}$ となる $U_n\in \U$ があるはずである. 従って矛盾が得られた.
コンパクトである
定理
$(\R,\O_C)$ はコンパクトである.
- ▼ 証明
- [証明] $\U$ を $\R$ の任意の開被覆とする. $\U$ の中から空でない開集合 $U$ をとる. このとき, $\R\sm U$ は有限集合なので, $$ \R\sm U=\{x_1,\cd, x_n\} $$ と表せる. ($\U$ は $\R$ の被覆なので,) 各 $i=1,\cd,n$ に対して, $x_i\in U_i$ となる $U_i\in \U$ がとれる. 従って, $$ \U^*=\{U,U_1,\cdots,U_n\} \sub \U $$ とおけば, $\U^*$ は $\R$ の有限被覆である. よって, $(\R,\O_C)$ はコンパクトである.
可分である
定理
$(\R,\O_C)$ は可分である.
[証明] $(\R,\O_C)$ において無限集合かつ閉集合なのは $\R$ のみである. 従って $\Q$ の閉包は $\R$ となる. ゆえに $(\R,\O_C)$ は可分である.
補有限位相の意義
冒頭で述べたとおり, 補有限位相が入った $\R$ は次の性質をもつ.
- $T_1$ 空間だがハウスドルフでない
- 第1可算公理を満たさない
上記について補足する.
$T_1$ 空間だがハウスドルフでない
分離公理には下記の関係がある.
距離空間 $\Longrightarrow$ 正規 $\Longrightarrow$ 正則 $\Longrightarrow$ ハウスドルフ $\Longrightarrow$ $T_1$
しかし, 上記の矢印はどれも逆向きは成り立たない.
それぞれの反例は下記のとおり.
- $T_1$ 空間だがハウスドルフでない空間
例:補有限位相が入った $\R$ - ハウスドルフだが正則でない空間
例:K位相が入った $\R$ - 正則だが正規でない空間
例:ゾルゲンフライ平面 - 正規だが距離化可能でない空間
例:ゾルゲンフライ直線
というわけで, 補有限位相は「分離公理に関する反例」にもなる.
第1可算公理を満たさない
たいていの位相空間は第1可算公理を満たす.
例えば、離散空間 $\R$ や密着空間 $\R$ のようなヘンテコな空間でさえも第1可算公理を満たす.
一方, 第1可算公理を満たさない位相空間は見つけるのが難しい.
その点,
補有限位相は第1可算公理を満たさない例を作れるので有用である.
補有限位相の意義
まとめると, 次の2点である.
- 分離公理に関する反例( $T_1$ 空間だがハウスドルフでない空間)を作れる
- 第1可算公理を満たさない空間として希少な例である.
終わりに...
補有限位相に似た位相としてザリスキ位相(Zariski topology)というのがある.
ザリスキ位相は可換環論や代数幾何学で出てくる.