Takatani Note

固有値と固有多項式【性質】

$ \def\a{\alpha} \def\p{\bm{p}} \def\go{\Rightarrow} \def\co{\Leftarrow} \def\tiff{\Longleftrightarrow} $

この記事では、固有値と固有多項式の性質をまとめています。

はじめに固有値、固有多項式などの定義を確認しておきます。

以下, $I$ を単位行列とする.

定義
$A\in M_n(\C)$ とする. 複素数 $\a$ が $A$ の固有値(eigenvalue)であるとは, $$ \exists \x\in \C^n \sm \{\0\},\ \ \ A\x=\a\x. $$ が成り立つことである.

定義
$A\in M_n(\C)$ とする. $n$ 次多項式 $$ \Phi_A(x):=\det(xI-A) $$ を $A$ の固有多項式(characteristic polynomial)という.
また, $x$ に関する $n$ 次方程式 $\det(xI-A)=0$ を固有方程式(characteristic equation)という.

定義
$A\in M_n(\C)$ とし, $\a\in \C$ を $A$ の固有値とする. $$ W(\a):=\Ker(A-\a I)=\{\x\in \C^n \mid A\x=\a\x \} $$ を固有値 $\a$ に対する固有空間(eigenspace)という.

性質

固有値

固有値を求めるには次の定理を用いる.

定理
$A\in M_n(\C)$ とし, $\a\in \C$ とする. このとき,
$\a$ が $A$ の固有値 $\iff$ $\det(\a I-A)=0.$

証明
[証明]  $$\eq{ & \text{$\a$ が $A$ の固有値である} \\[2pt] \iff & \exists \x\in \C^n \sm \{\0\},\ \ \ A\x=\a\x \\[2pt] \iff & \exists \x\in \C^n \sm \{\0\},\ \ \ (A-\a I)\x=\0 \\[2pt] \iff & \text{$(A-\a I)$ は正則行列でない} \\[2pt] \iff & \det(A-\a I)=0. }$$ (※最後の同値変形については行列式の性質参照.)

上の定理から次がわかる.
『行列 $A\in M_n(\C)$ の固有値全体は固有方程式 $\det(xI-A)=0$ の解全体である.』

定理
$A\in M_n(\C)$ とし, $A$ の固有方程式 $\det(xI-A)=0$ の解を $\a_1,\cd,\a_n$ とする. このとき,
(1) $\tr(A)=\a_1+\cd +\a_n.$
(2) $\det(A)=\a_1 \a_2 \cd \a_n.$

証明
[証明]  (1) $A=(a_{ij})$ とすれば $$ \det(x I-A)= \md{ x-a_{11} & -a_{12} & \cd & -a_{1n} \cr -a_{21} & x-a_{22} & \cd & -a_{2n} \cr \vdots & \vdots & & \vdots \cr -a_{n1} & -a_{n2} & \cd & x-a_{nn} }$$ である. $\Phi_A(x)$ における $x^{n-1}$ の係数を考えてみよう. 右辺を行列式の定義に従って展開したとき, 対角成分の積 $(x-a_{11})(x-a_{22})\cd(x-a_{nn})$ 以外の項から $x^{n-1}$ は現れない. したがって, $x^{n-1}$ の係数は $-(a_{11}+a_{22}+ \cd +a_{nn})=-\tr(A)$ である.
他方, $\a_1,\cd,\a_n$ は $\Phi_A(x)$ の根であるから, $$ \det(xI-A)=(x-\a_1)\cd (x-\a_n) $$ と分解できる. 右辺について $x^{n-1}$ の係数は $-(\a_1+\cd+\a_n)$ である. ゆえに $\tr(A) =\a_1+\cd+\a_n.$

(2)  $\Phi_A(x)=\det(xI-A)$ であるから, $\Phi_A(0)=\det(-A)=(-1)^n\det A.$ 一方, $\Phi_A(x)=(x-\a_1)\cd(x-\a_n)$ であるから, $\Phi_A(0)=(-1)^n \a_1\cd\a_n.$ ゆえに $\det A=\a_1\cd\a_n.$

定理 (正規行列)
$A\in M_n(\C)$ について,
(1) $A$ がエルミート行列 $\iff$ $A$ の固有値はすべて実数.
(2) $A$ が歪エルミート行列 $\iff$ $A$ の固有値はすべて純虚数.
(3) $A$ がユニタリ行列 $\iff$ $A$ の固有値はすべて絶対値 $1$ の複素数.

[証明]  正規行列参照.

定理
行列 $A\in M_n(\C)$ に対して, 次の三条件は互いに同値である.
(1) $A$ は対角化可能.
(2) $A$ の固有ベクトルの中から, $n$ 個の線形独立な $\x_1,\cd,\x_n$ が選べる.
(3) $A$ の相異なる固有値全体が $\a_1,\a_2,\cd,\a_s$ であれば, $$ \C^n=W(\a_1)\oplus \cd \oplus W(\a_s). $$

[証明]  固有空間と固有ベクトル参照.

固有多項式

定理
行列 $A,B\in M_n(\C)$ が相似ならば, $\Phi_A(x)=\Phi_B(x)$ である. したがって, $A,B$ の固有値は一致する. とくに $\tr(A)=\tr(B),\ $ $\det(A)=\det(B).$

証明
[証明]  $A$ と $B$ とは相似なので, ある正則行列 $P\in M_n(\C)$ があって, $B=P^{-1}AP$ となる. 行列式の性質により, $$\eq{ \Phi_B(x) & =|xI-B|=|xI-P^{-1}AP|=|P^{-1}(xI-A)P| \\[3pt] & =|P^{-1}||xI-A||P|=|xI-A|=\Phi_A(x). }$$

定理 (フロベニウスの定理)
$A\in M_n(K)$ とし, $A$ の固有値を $\a_1,\a_2,\cd,\a_n$ とする. $\rho(x)\in K[x]$ を $0$ でない多項式とする. このとき, 行列 $\rho (A)$ の固有値は $\rho(\a_1),\rho(\a_2),\cdots,\rho(\a_n)$ である.

[証明]  三角化定理参照.

定理 (ケーリー-ハミルトンの定理)
行列 $A\in M_n(K)$ の固有多項式 $\Phi_A(x)$ に対して $\Phi_A(A)=O.$

[証明]  ケーリー-ハミルトンの定理参照.

固有多項式と最小多項式

定理
行列 $A\in M_n(\C)$ の固有多項式が $$ \Phi_A(x)=\prod_{i=1}^s(x-\a_i)^{n_i} \ \ \ \ \ (n_i \geq 1)$$ であるとする. ただし, $\a_1,\cd,\a_s$ は相異なる複素数である. このとき, $A$ の最小多項式は $$ \phi_A(x)=\prod_{i=1}^s(x-\a_i)^{m_i} \ \ \ \ \ (1\leq m_i \leq n_i) $$ の形となる.

[証明]  最小多項式参照.