【行列】三角化可能【証明】
$ \def\p{\bm{p}} \def\a{\alpha} $
この記事では, 任意の複素正方行列が三角化できることを証明します。
まず定義を確認しておきます。
定義
正方行列 $A=(a_{ij})\in M_n(K)$ が
$$
\m{ a_{11} & \cdots & a_{1n}
\cr & \ddots & \vdots
\cr O & & a_{nn} }
$$
を満たすとき, すなわち $a_{ij}=0\ \ (i>j)$ のとき,
$A$ を上三角行列(upper triangular matrix)という.
他方,
$$
\m{ a_{11} & & O
\cr \vdots & \ddots &
\cr a_{n1} & \cdots & a_{nn} }
$$
を満たすとき, すなわち $a_{ij}=0\ \ (i< j)$ のとき,
$A$ を下三角行列(lower triangular matrix)という.
定義
$A\in M_n(K)$ が
三角化可能(triangulizable)であるとは,
ある正則行列 $P$ が存在して $P^{-1}AP$
が上三角行列となることである.
正方行列 $A$ が適当な正則行列 $P$ によって, $P^{-1}AP$ が上三角行列(または下三角行列)になるとき, $P^{-1}AP$ を $A$ の三角化という.
この記事では, 上三角行列のことを単に三角行列と呼ぶ.
行列の三角化
定理 (三角化定理)
$n$ 次正方行列 $A\in M_n(\C)$ に対して, ある正則行列
$P$ が存在して $P^{-1}AP$ は三角行列になる.
$$ P^{-1}AP=
\m{ \a_1 & & & *
\cr & \a_2 & &
\cr & & \ddots &
\cr O & & & \a_n }
$$
また, $P$ としてユニタリ行列をとることができる.
[証明]
$n$ に関する帰納法で示す.
$n=1$ のとき, 定理は明らかに成り立つから,
$n\geq 2$ とし, $n-1$
次以下の正方行列について定理は正しいと仮定する.
$A$ の固有値の一つを $\a_1$ とし, $\a_1$
に属する固有ベクトルを $\p_1\ (\|\p_1\|=1)$
とする. 次に $\p_1,\p_2',\cd,\p_n'$ が正規直交基底となるように
$p_2',\cd,p_n'$ を選ぶ. $p_1,\p_2',\cd,\p_n'$
を列ベクトルとするユニタリ行列を $S$ とすれば,
$$\eq{
AS & =(A\x_1\ A\x_2\ \cdots\ A\x_n)
\\ & =(\a_1\x_1\ A\x_2\ \cdots\ A\x_n)
\\ & =S
\m{ \a_1 & *
\cr \0 & A_1}\ \ \ \ \ (A_1\in M_{n-1}(\R))
}$$
の形に書ける. したがって
$$ S^{\ -1}AS=
\m{ \a_1 & *
\cr \0 & A_1}$$
となる.
$A_1$ の固有多項式の根は $A$ の固有値 $\a_2,\cd,\a_n$
と一致する. ゆえに帰納法の仮定により,
ある $n-1$ 次のユニタリ行列 $U$ が存在して,
$$ U^{-1}A_1U=
\m{ \a_2 & & *
\cr & \ddots &
\cr O & & \a_n }
$$
となる.
$T=
\m{ 1 & 0
\cr \0 & U }$
は明らかにユニタリ行列で, $P=ST$ とおけば, $P$ もユニタリ行列である.
そして
$$ P^{-1}AP=
\m{ \a_1 & & & *
\cr & \a_2 & &
\cr & & \ddots &
\cr O & & & \a_n }.
$$
定理 (実行列の三角化定理)
$n$ 次行列 $A\in M_n(\R)$ の固有値がすべて実数のときは,
ある正則行列 $P$ によって $P^{-1}AP$ は三角行列になる.
また, $P$ として直交行列をとることができる.
[証明] $A$ の固有値がすべて実数ならば, 前定理の証明における正規直交基底や行列の成分はすべて実数にとれるから, 同じ証明が適用される.
三角化可能な条件
定理
$A\in M_n(K)$ とする. このとき,
$A$ が三角化可能 $\iff$
$A$ の固有多項式は $K$ において一次式の積に分解される.
[証明]
$(\goo)$ $A$ が三角化可能ならば, ある正則行列 $P$
が存在して $P^{-1}AP$ は三角行列になる:
$$ P^{-1}AP=
\m{ \a_1 & & & *
\cr & \a_2 & &
\cr & & \ddots &
\cr O & & & \a_n } \ \ \ \in M_n(K).
$$
従って $A$ の固有多項式 $\Phi_A(x)$ は
$$ \Phi_A(x)=\Phi_{P^{-1}AP}(x)=(x-\a_1)\cd(x-\a_n) $$
であり, $K$ において一次の積に分解される.
$(\coo)$ 上2つの定理から成り立つ.
三角化定理の応用
三角化定理は多くの応用がある.
例えば, 次の定理の証明で使われる.
フロベニウスの定理
定理 (フロベニウスの定理)
$V$ を $K$ 上の $n$ 次元ベクトル空間とし,
$T$ を $V$ 上の線形変換とする.
$T$ の固有値が $\a_1,\a_2,\cd,\a_n$ ならば,
$0$ でない多項式 $\rho(x)\in K[x]$
に対して, 線形変換 $\rho (T)$ の固有値は
$\rho(\a_1),\rho(\a_2),\cdots,\rho(\a_n)$ である.
言い換えれば,
$$ \Phi_T(x)=(x-\a_1)\cd(x-\a_n) $$
ならば,
$$ \Phi_{\rho(T)}(x)=(x-\rho(\a_1))\cd(x-\rho(\a_n)). $$
- ▼ 証明
-
[証明]
三角化定理により, $V$ の適当な基底をとると, $T$ は上三角行列:
$$ A=
\m{ \a_1 & & *
\cr & \ddots &
\cr O & & \a_n }
$$
によって表現される. このとき,
$$ A^2=
\m{ \a_1^{\ 2} & & *
\cr & \ddots &
\cr O & & \a_n^{\ 2} },
\ \cdots,
\ A^r=
\m{ \a_1^{\ r} & & *
\cr & \ddots &
\cr O & & \a_n^{\ r} }, \cdots
$$
である. したがって, $\rho(A)$ は $\rho(\a_1),\cdots,\rho(\a_n)$
を対角成分とする三角行列:
$$ \rho(A)= \m{ \rho(\a_1) & & * \cr & \ddots & \cr O & & \rho(\a_n) } $$ となる. これから定理が得られる.
系
$A\in M_n(K)$ とし,
$A$ の固有値を $\a_1,\a_2,\cd,\a_n$ とする.
$\rho(x)\in K[x]$ を $0$ でない多項式とする.
このとき, 行列 $\rho (A)$ の固有値は
$\rho(\a_1),\rho(\a_2),\cdots,\rho(\a_n)$ である.
- ケーリー・ハミルトンの定理
→ケーリー・ハミルトンの定理 - 実対称行列はある直交行列で対角化される
→対称行列の性質 - エルミート行列はあるユニタリ行列で対角化される
→エルミート行列の性質