ケーリー・ハミルトンの定理【証明】
$ \def\a{\alpha} \def\b{\beta} \def\g{\gamma} \def\p{\bm{p}} $
この記事では、次のケーリー・ハミルトンの定理(Cayley-Hamilton theorem)について証明を解説し、応用を紹介します。
定理(ケーリー・ハミルトンの定理)
$A$ を $n$ 次正方行列とし,
$\Phi_A(x)$ を $A$ の固有多項式とする.
このとき, $\Phi_A(A)=0.$
証明のやり方はいくつかありますが、ここでは比較的簡単な「三角化による証明」を紹介します。
証明
3次行列の場合
いきなり一般の場合の証明を読んでも理解しにくいと思うので,
まずは3次元の場合を証明する.
定理
$A\in M_3(\C)$ とし, $\Phi_A(x)$ を $A$ の固有多項式とする.
このとき $\Phi_A(A)=0.$
[証明]
三角化定理により, $P^{-1}AP$ が上三角行列となるような正則行列
$P$ が存在する. $P$ の列ベクトルを $\p_1,\p_2,\p_3$ とすると,
$$\eq{
A\ (\p_1\ \ \p_2\ \ \p_3)
& =(\p_1\ \ \p_2\ \ \p_3)
\m{ \a & s & t
\cr 0 & \b & q
\cr 0 & 0 & \g }
\\ & =(\a \p_1 \ \ \ \ s\p_1+\b\p_2 \ \ \ \ t\p_1+q\p_2+\g\p_3)
}$$
という形に表せる. 固有多項式の性質により
$$ \Phi_A(x)=\Phi_{P^{-1}AP}(x)=(x-\a)(x-\b)(x-\g) $$
なので,
$$ \Phi_A(A)=(A-\a I)(A-\b I)(A-\g I). $$
ただし, $I$ は3次単位行列.
さて, $\Phi_A(A)=0$ を示すには, $\p_i\ (i=1,2,3)$ に対して
$$ \Phi_A(A)(\p_i)=0 $$
となることを示せばよい. (なぜなら,
もしそうであれば, 行列 $\Phi_A(A)$ の線形性により
すべての $\x\in\C^3$ に対して $\Phi_A(A)\x=0$ となるからである.)
まず $A\p_1=\a \p_1$ であるから,
$$ (A-\a I)\p_1=0.$$
したがって,
$$ \Phi_A(A)\p_1=(A-\b I)(A-\g I)(A-\a I)\p_1=0. $$
(※行列 $(A-\a I)$ と $(A-\b I)$ と $(A-\g I)$ は
積について互いに可換.)
次に, $A\p_2=s\p_1+\b \p_2$
$\iff (A-\b I)\p_2 =s\p_1$ であるから,
$$ (A-\a I)(A-\b I)\p_2=(A-\a I)(s\p_1)=0. $$
$$ \th \ \Phi_A(A)\p_2=0. $$
最後に $A\p_3=t\p_1+q\p_2+\g \p_3$ であるから,
$$\eq{
& (A-\a I)(A-\b I)(A-\g I)\p_3
\\ = & (A-\a I)(A-\b I)(t\p_1+r\p_2)
\\ = & (A-\b I)(A-\a I)(t\p_1)+ (A-\a I)(A-\b I)(q\p_2)
\\ = & 0.
}$$
$$ \th \ \Phi_A(A)\p_3=0. $$
以上から $\Phi_A(A)=0.$
一般の場合
定理
$A\in M_n(\C)$ とし, $\Phi_A(x)$ を $A$ の固有多項式とする.
このとき $\Phi_A(A)=0.$
[証明] 三角化定理により, $P^{-1}AP$ が上三角行列となるような正則行列 $P$ が存在する. $P$ の列ベクトルを $\p_1,\p_2,\cd,\p_n$ とすると, $$ A(\p_1,\cd,\p_n)=(\p_1,\cd,\p_n) \m{ \alpha_1 & & * \\ & \ddots & \\ \large{O} & & \alpha_n \\ }$$ という形になる. 固有多項式の性質により $$ \Phi_A(x)=\Phi_{P^{-1}AP}(x) =(x-\a_1)(x-\a_2)\cd (x-\a_n). $$ $W_0=\{\0\},\ $ $W_i=\C\p_1+\cd+\C\p_i\ (i=1,2,\cd,n)$ とおけば, $$\eq{ & \{\0\}=W_0 \subsetneqq W_1 \subsetneqq W_2 \subsetneqq \cd \subsetneqq W_n=V, \\ & A\p_i=\a_i\p_i +\bm{w}_{i-1}, \ \ \ \bm{w}_{i-1}\in W_{i-1}\ \ \ \ \ (i=1,2,\cd,n) }$$ が成り立つ. とくに $AW_i \sub W_i$ である. また, $(A-\a I)\p_i \in W_{i-1}$ であるから, $(A-\a_i I)W_i \sub W_{i-1}\ (i=1,2,\cd n).$ したがって $$ (A-\a_1 I)\cd(A-\a_{n-1}I)(A-\a_n I)W_n \sub W_0 =\{\0\} $$ $V=W_n$ だから, これは $$ (A-\a_1 I)\cd(A-\a_{n-1}I)(A-\a_n I)=O $$ を意味する. すなわち, $\Phi_A(A)=O$ である.
ケーリー・ハミルトンの定理の応用
代数学で重要な「中山の補題」の証明に使われる.
中山の補題
$A$ を環, $I$ は
$I\subset \mathrm{rad}(A)$
を満たす $A$ のイデアルとする.
$M$ を有限生成 $A$ 加群とする.
このとき, $M=IM$ ならば $M=0.$
[証明] 中山の補題【証明と応用】