Takatani Note

【行列】最小多項式【例題・性質・証明】

$ \def\a{\alpha} \def\go{\Rightarrow} $

この記事では、行列の最小多項式について解説します。

はじめに最小多項式の定義を確認しておきます。

定義
$A\in M_n(\C)$ とする. $g(A)=O$ となる複素係数の多項式 $0\neq g(x)\in \C[x]$ のうち, 次数が最小であり, かつ最高次の係数が1である多項式を $A$ の最小多項式(minimal polynomial)という.
本記事では, $A$ の最小多項式を $\phi_A(x)$ で表す.


(1) $ \m{ \a & 1 \cr 0 & \a }$ の固有多項式, 最小多項式はともに $(x-\a)^2.$

(2)$ \m{ \a & 1 & 0 \cr 0 & \a & 0 \cr 0 & 0 & \a}$ の固有多項式は $(x-\a)^3$ であるが, 最小多項式は $(x-\a)^2.$

最小多項式の性質

相似な行列は固有多項式と最小多項式が同じ

定理X
2つの正方行列 $A,B$ が相似であるとき, すなわち, ある正則行列 $P$ が存在して $P^{-1}AP=B$ であるとき, 次が成り立つ.
(1) $A,B$ の固有多項式は等しい.
(2) $A,B$ の最小多項式は等しい.

証明
[証明]  (1)行列式の性質により, $$\eq{ \Phi_A(x) & =|xI-A|=|P||xI-A||P|^{-1}=|P(xI-A)P^{-1}| \\[4pt] & =|xI-PAP^{-1}|=|xI-B|=\Phi_B(x). }$$ (2) $f(x)$ を多項式とする. $B^n=(P^{-1}AP)^n$ $=P^{-1}A^nP$ により, $$ f(B)=f(P^{-1}AP)=P^{-1}f(A)P $$ であるので, $$ f(B)=0 \iff f(A)=0. $$ よって, 定理の主張が成り立つ.

固有多項式は最小多項式で割り切れる

定理Y
行列 $A\in M_n(\C)$ と 多項式 $g(x)\in \C[x]$ に対して次は同値である.
(1) $g(A)=0.$
(2) $g(x)$ は最小多項式 $\phi_A(x)$ で割り切れる.

証明
[証明]  $(1)\Rightarrow (2)$
$g(x)$ を $\phi_A(x)$ で割った商を $Q(x),$ 余りを $r(x)$ とする: $$ g(x)=Q(x)\phi_A(x)+r(x), \ \ \ \big(\deg \phi_A(x) > \deg r(x)\big). $$ 上式の $x$ に $A$ を代入すれば, $g(A)=0$ かつ $\phi_A(A)=0$ により, $$ r(A)=0.$$ したがって, 最小多項式 $\phi_A(x)$ の次数の最小性により $r(x)=0$ である. ゆえに $$ g(x)=Q(x)\phi_A(x). $$ よって, $g(x)$ は $\phi_A(x)$ で割り切れる.

$(1)\Leftarrow (2)$
逆は明らかである.

上の定理から次の系がただちに得られる.


行列 $A\in M_n(\C)$ の固有多項式 $\Phi_A(x)$ は最小多項式 $\phi_A(x)$ で割り切れる.

[証明]  ケーリー・ハミルトンの定理から $\Phi_A(A)=0.$ よって前定理から $\Phi_A(x)$ は $\phi_A(x)$ で割り切れる.

最小多項式の根 $\Leftrightarrow$ 固有多項式の根

定理Z
$A\in M_n(\C)$ とし, $\a$ を $A$ の固有値とする. このとき, $\phi_A(\a)=0.$

証明
[証明]  フロベニウスの定理によって $\phi_A(\a)$ は行列 $\phi_A(A)$ の固有値である.
そして $\phi_A(A)=\bm{O}$ であるから $\phi_A(\a)=0$ となる.
(※零行列の固有値はもちろん0のみ.)

上の定理はつまり,『固有多項式の根は最小多項式の根である』という意味である.
この定理から次を得る.

定理W
行列 $A\in M_n(\C)$ の固有多項式が $$ \Phi_A(x)=\prod_{i=1}^s(x-\a_i)^{n_i} \ \ \ \ \ (n_i \geq 1)$$ であるとする. ただし, $\a_1,\cd,\a_s$ は相異なる複素数である. このとき, $A$ の最小多項式は $$ \phi_A(x)=\prod_{i=1}^s(x-\a_i)^{m_i} \ \ \ \ \ (1\leq m_i \leq n_i) $$ の形となる.

証明
[証明]  系により, 固有多項式は最小多項式で割り切れるので, $$ \phi_A(x)=(x-\a_1)^{\nu_1}(x-\a_2)^{\nu_2}\cd(x-\a_s)^{\nu_s}\ \ \ (0\leq \nu_i \leq n_i)$$ の形となる. さらに, 定理Zから, $1\leq \nu_i$ でなければならない.

この定理により次がわかる. $$ \te{最小多項式の根} \iff \te{固有多項式の根} $$

対角化可能の条件

定理
行列 $A\in M_n(\C)$ について次は同値である.
(1) $A$ は対角化可能である.
(2) $A$ の最小多項式は重根をもたない.

[証明]  広義固有空間を参照.

最小多項式の求め方【例題】

2次行列や3次行列のような次数が小さい行列の場合, 最小多項式 $\phi_A(x)$ を求めるのは簡単であり, 次の手順を踏めばよい.

最小多項式を求める手順
(1) 固有多項式 $\Phi_A(x)$ を求めて1次式に因数分解する.
(2) 定理Wを用いて, 最小多項式の候補たちについて1つ1つ $A$ を代入する.
(3) 代入して零行列 $\bm{O}$ になったら, それが最小多項式である.

では, 実際にこの手順で例題を解いてみよう.

例題
次の行列の最小多項式を求めよ.
$\ \ \ A= \m{ 1 & 0 & 0 \cr 0 & 1 & 0 \cr 0 & 0 & -2 }$

解答
[解答]
$A$ の固有多項式は $(x-1)^2(x+2)$ である. 一般に「固有多項式の根は最小多項式の根」なので, $A$ の最小多項式 $\phi_A(x)$ は $$ (x-1)(x+2) \ \text{または} \ (x-1)^2(x+2) $$ である. $(A-I)(A+2I)=O$ なので, $\phi_A(x)=(x-1)(x+2).$

例題
2次正方行列 $A,B$ で, 固有多項式 $\Phi_A(x), \Phi_B(x)$ は同一でありながら, 最小多項式 $\phi_A(x)$ と $\phi_B(x)$ は異なる例をあげよ.

解答
[解答]
$$ A= \m{ \a & 1 \cr 0 & \a },\ \ \ \ \ B= \m{ \a & 0 \cr 0 & \a } $$ とすれば, $\Phi_A(x)=\Phi_B(x)=(x-\a)^2$ であるが, $\phi_A(x)=(x-\a)^2,\ $ $\phi_B(x)=(x-\a)$ である. つまり $\phi_A(x)\neq \phi_B(x).$