4次対称群 S4【性質と証明】
この記事では、4次対称群 $S_4$ の性質について紹介します。
たとえば、下記のことについて説明します。
・$S_4$ の共役類
・$S_4$ の位数4の部分群
・$S_4$ の正規部分群
以下、$A_n$ を $n$ 次交代群とし、$V$ を $S_4$ の部分群: \[ V =\big\{ e,(1\ 2)(3\ 4),(1\ 3)(2\ 4),(1\ 4)(2\ 3)\big\} \] とします。(いわゆる、クラインの4元群)
性質
$S_4$ の共役類と類等式
次の定理は対称群の共役類を調べるのに基本となる定理である.
定理A
$S_n$ の2つの元 $\s,\tau$ が共役であるためには,
$\s,\tau$ が同じ型をもつことが必要十分である.
- ▼ 証明
-
[証明]
$S_n$ の元 $\s$ を \[ \s= \m{ 1 & 2 & \cdots & n \cr x_1 & x_2 & \cdots & x_n } \] と表す. \[ S_n \ni \tau = \m{ 1 & 2 & \cdots & n \cr \tau(1) & \tau(2) & \cdots & \tau(n) } \] に対して, \[ \tau\s\tau^{-1}= \m{ \tau(1) & \tau(2) & \cdots & \tau(n) \cr \tau(x_1) & \tau(x_2) & \cdots & \tau(x_n) } \] である. よって, \[ S_n \ni \s =(i_1 \cd i_{r_1})\cd (l_1 \cd l_{r_k})\] の型を $(r_1,\cd,r_k)$ とするとき, その共役 \[ \s':=\tau\s\tau^{-1} =\big(\tau(i_1) \cd \tau(i_{r_1})\big) \cd \big(\tau(l_1) \cd \tau(l_{r_k})\big) \] の型も $(r_1,\cd,r_k)$ である.
逆に, \[\eq{ \s & =(i_1 \cd i_{r_1})\cd (l_1 \cd l_{r_k}), \\ \s' & =(i_1' \cd i_{r_1}')\cd (l_1' \cd l_{r_k}') }\] が同じ型 $(r_1,\cd,r_k)$ をもつとき, \[ \tau= \m{ i_1 &\cd &i_{r_1} &\cd & l_1 & \cd &l_{r_k} \cr i_1'&\cd &i_{r_1}'&\cd & l_1' & \cd &l_{r_k}' } \] とおけば, $\tau\s\tau^{-1}=\s'$ になる.
例
(1) 型が $(2,2)$ の $\s=(1\ 2)(3\ 4)\in S_4$ については \[ \tau\s\tau^{-1}=\big(\tau(1)\ \tau(2)\big)\big(\tau(3)\ \tau(4)\big) \] であり, これも型が $(2,2)$ である.
$\newcommand{\gg}[1]{\colorbox{yellow}{#1}}$ (2) $\s=(\gg{1}\ \gg{3}\ \gg{2})(\gg{4}\ \gg{5})(\gg{6}\ \gg{7}),\ \ $ $\s'=(2\ 5\ 4)(1\ 6)(3\ 7)\in S_7$ とすると, \[ \tau= \m{ \gg{1}&\gg{3}&\gg{2}&\gg{4}&\gg{5}&\gg{6}&\gg{7} \cr 2 & 5 & 4 & 1 & 6 & 3 & 7 } \] とおけば, $\tau\s\tau^{-1}=\s'$ になる.
※交代群 $A_n$ の場合は必要十分でない.
参考:4次交代群 $A_4$
例
$S_4$ の型は次の5種類である.
\[ (1,1,1,1),\ \ (2,1,1),\ \
(3,1),\ \ (2,2),\ \ (4) \]
よって, $S_4$ のすべての元を巡回置換の積で表せば次のようになる.
型 | 共役類 | 個数 |
---|---|---|
$(1,1,1,1)$ | $(1)$ | $1$ |
$(2,1,1)$ | $(1\ 2),(1\ 3),(1\ 4),(2\ 3),(2\ 4),(3\ 4)$ | $6$ |
$(3,1)$ | $(1\ 2\ 3),(1\ 3\ 2),(1\ 2\ 4),(1\ 4\ 2),$ $(1\ 3\ 4),(1\ 4\ 3),(2\ 3\ 4),(2\ 4\ 3)$ | $8$ |
$(2,2)$ | $(1\ 2)(3\ 4),(1\ 3)(2\ 4),(1\ 4)(2\ 3)$ | $3$ |
$(4)$ | $(1\ 2\ 3\ 4),(1\ 2\ 4\ 3),(1\ 3\ 2\ 4),$ $(1\ 3\ 4\ 2),(1\ 4\ 2\ 3),(1\ 4\ 3\ 2)$ | $6$ |
上記の表より, 類等式は $24=1+6+8+6+3$ である.
$S_4$ の位数4の部分群
定理
$S_4$ の位数4の部分群は全部で次の7つである.
\[\eq{
H_1 & =\big\{ e, (1\ 2\ 3\ 4),(1\ 3)(2\ 4),(1\ 4\ 3\ 2)\big\}
\\ H_2 & =\big\{ e, (1\ 3\ 2\ 4),(1\ 2)(3\ 4),(1\ 4\ 2\ 3)\big\}
\\ H_3 & =\big\{ e, (1\ 2\ 4\ 3),(1\ 4)(2\ 3),(1\ 3\ 4\ 2)\big\}
\\ H_4 & =\big\{ e, (1\ 2),(3\ 4),(1\ 2\ 3\ 4)\big\}
\\ H_5 & =\big\{ e, (1\ 3),(2\ 4),(1\ 3\ 2\ 4)\big\}
\\ H_6 & =\big\{ e, (1\ 4),(2\ 3),(1\ 2\ 4\ 3)\big\}
\\ H_7 & =\big\{ e, (1\ 2)(3\ 4),(1\ 3)(2\ 4),(1\ 4)(2\ 3)\big\}
}\]
- ▼ 証明
-
[証明]
位数4の群は巡回群 $\Z_4$ か加法群 $\Z_2\times\Z_2$ のいずれかに同型であるので,それぞれの場合を考えよう.
Case:$\Z_4$
巡回群 $\Z_4$ は位数4の元, すなわち型(4)の元によって生成されるので, 次の3通りである. \[\eq{ H_1 & =\big\{ e, (1\ 2\ 3\ 4),(1\ 3)(2\ 4),(1\ 4\ 3\ 2)\big\} \\ H_2 & =\big\{ e, (1\ 3\ 2\ 4),(1\ 2)(3\ 4),(1\ 4\ 2\ 3)\big\} \\ H_3 & =\big\{ e, (1\ 2\ 4\ 3),(1\ 4)(2\ 3),(1\ 3\ 4\ 2)\big\} }\]
Case:$\Z_2\times \Z_2$
$\Z_2\times\Z_2$ は次の可換な乗法群 $G$ と同型である. \[ G=\big\{e,a,b,ab \mid a^2=b^2=(ab)^2=e,\ ab=ba \big\} \] 実際, $\v:\Z_2\times\Z_2 \to G$ を \[\eq{ (0,0)\ma e, &\ \ (1,0)\ma a, \\ (0,1)\ma b, &\ \ (1,1)\ma ab }\] とすれば, $\v$ は群の同型写像である.
ここで注目すべきは $a,b,ab$ は位数2なので, 型が $(2,1,1)$ か $(2,2)$ のいずれかということである.
したがって, 共役類の表を見ながら $G$ の条件式を満たす $(S_4$ の)部分群を考えると次の4通りである. \[\eq{ H_4 & =\big\{ e, (1\ 2),(3\ 4),(1\ 2\ 3\ 4)\big\} \\ H_5 & =\big\{ e, (1\ 3),(2\ 4),(1\ 3\ 2\ 4)\big\} \\ H_6 & =\big\{ e, (1\ 4),(2\ 3),(1\ 2\ 4\ 3)\big\} \\ H_7 & =\big\{ e, (1\ 2)(3\ 4),(1\ 3)(2\ 4),(1\ 4)(2\ 3)\big\} }\] よって, $S_4$ の位数4の部分群は $H_1$ から $H_7$ の7つである.
なお, 解答で用いた事実「位数4の群は $\Z_4$ か $\Z_2\times\Z_2$ のいずれかに同型である」の証明は簡単だが, 一応書いておく.
定理
$G$ を位数4の群とする.
$G$ は $\Z_4$ か $\Z_2\times\Z_2$
のいずれかに同型である.
- ▼ 証明
-
[証明]
$a$ を $G$ の単位元でない元とする.
$|G|=4$ なので, ラグランジュの定理より $a$ の位数は($|G|$の約数である)2または4である.
Case1
$a$ の位数が4のとき, $G$ は巡回群になるので, $G\cong \Z_4.$
Case2
$a$ の位数が2のとき, $e,a$ 以外の $G$ の元を $b$ とする.
$b$ の位数も $G$ の約数の2か4である.
(i) $b$ の位数が4の場合, $G$ は巡回群になり, $G\cong \Z_4.$
(ii) $b$ の位数が2の場合, $ab=ba$ である. 実際, $ab\neq ba$ と仮定すると, $|G|\geq 5$ となり矛盾する. 従って, $G$ は \[ G=\big\{e,a,b,ab \mid a^2=b^2=e,\ ab=ba\big\} \] となり, これは $\Z_2\times\Z_2$ と同型である.
実際, $\v:\Z_2\times\Z_2 \to G$ を \[\eq{ (0,0)\ma e, &\ \ (1,0)\ma a, \\ (0,1)\ma b, &\ \ (1,1)\ma ab }\] とすれば, $\v$ は群の同型写像である.
よって, $G\cong \Z_2\times\Z_2.$
$S_4$ の正規部分群
定理
$V$ は $S_4$ の正規部分群である.
- ▼ 証明
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[証明]
定理Aの証明より, 任意の $\s \in S_4$ に対して, \[\eq{ \s (1) \s^{-1} & =(1)\in V \\ \s(1\ 2)(3\ 4)\s^{-1} & =\big(\s(1)\ \s(2)\big)\big(\s(3)\ \s(4)\big)\in V \\ \s(1\ 3)(2\ 4)\s^{-1} & =\big(\s(1)\ \s(3)\big)\big(\s(2)\ \s(4)\big)\in V \\ \s(1\ 4)(2\ 3)\s^{-1} & =\big(\s(1)\ \s(4)\big)\big(\s(2)\ \s(3)\big)\in V }\] (※(1)は恒等置換を表す.)
よって, $V$ は $S_4$ の正規部分群である.
定理
$S_4$ の正規部分群 は $\{e\},V,A_4,S_4$ の4つである.
- ▼ 証明
-
[証明]
$\{e\}$ と $S_4$ は明らかに正規部分群である.
それら以外の正規部分群を $H$ としよう.
$H$ の位数は $|S_4|=4!=24$ の約数なので, $|H|$ のとりうる値は $2,3,4,6,8,12$ である.
一方, 一般に「群 $G$ の正規部分群は $G$ の共役類の直和になっている」という事実があるので, $S_4$ 共役類の表から \[ |H|=1+3a+6b+6c+8d\ \ (a,b,c,d\in \{0,1\})\] と表される.
※ $H$ は単位元を必ず含むので, 上式の右辺の1には文字係数がつかない.
$|H|$ が24の約数(1と24を除く)になるように $a,b,c,d$ の値を考えると, 次の2とおりになる.
(i) $\ 4\ \ (a=1,b=c=d=0)$
(ii) $\ 12\ \ (a=d=1,b=c=0)$
(i)のとき, $H$ はクラインの4元群 $V$ である:
\[ V=\big\{e,(12)(34),(13)(24),(14)(23)\big\} \] (ii)のとき, $H$ は偶置換全体, つまり $A_4$ である.
以上により、S_4の正規部分群は $\{e\},V,A_4,S_4$ の4つである.
$V$ による $S_4$ の剰余類分解
$S_4$ を $V$ で剰余類分解すると, \[ S_4=V+(1\ 2)V+(1\ 3)V+(1\ 4)V+(1\ 2\ 3)V+(1\ 3\ 2)V \] となる. 具体的に書くと次のようになる.
\[\eq{ V & =\big\{ e,(1\ 2)(3\ 4),(1\ 3)(2\ 4),(1\ 4)(2\ 3)\big\}, \\ (1\ 2)V & =\big\{ (1\ 2),(3\ 4),(1\ 3\ 2\ 4),(1\ 4\ 2\ 3)\big\}, \\ (1\ 3)V & =\big\{ (1\ 3),(1\ 2\ 3\ 4),(2\ 4),(1\ 4\ 3\ 2)\big\}, \\ (1\ 4)V & =\big\{ (1\ 4),(1\ 2\ 4\ 3),(1\ 3\ 4\ 2),(2\ 3)\big\}, \\ (1\ 2\ 3)V & =\big\{(1\ 2\ 3),(1\ 3\ 4),(2\ 4\ 3),(1\ 4\ 2)\big\}, \\ (1\ 3\ 2)V & =\big\{(1\ 3\ 2),(2\ 3\ 4),(1\ 2\ 4),(1\ 4\ 3)\big\}. }\]
定理
同型 $S_4/V\cong S_3 $ が成り立つ.
[証明]
群の準同型定理【証明と応用】を参照してください.
$S_4$ は可解群である
定理
$S_4$ は可解群である.
[証明]
可解群の例と性質を参照してください.
$S_4$ の中心
定理
$S_4$ の中心 $Z(S_4)$ は自明群である.
[証明]
群の中心【例と証明】を参照してください.
$S_4$ の既約表現の指標
$(1)$ | $(12)$ | $(123)$ | $(1234)$ | $(12)(34)$ | |
$\chi_U$ | $1$ | $1$ | $1$ | $1$ | $1$ |
$\chi_{U'}$ | $1$ | $-1$ | $1$ | $-1$ | $1$ |
$\chi_V$ | $3$ | $1$ | $0$ | $-1$ | $-1$ |
$\chi_W$ | $3$ | $-1$ | $0$ | $1$ | $-1$ |
$\chi_Z$ | $2$ | $0$ | $-1$ | $0$ | $2$ |
※ $\chi_U$ は自明表現, $\chi_{U'}$ は交代表現,
$\chi_V$ は標準表現, $W=U'\otimes V$ である.
定理
$S_4$ の既約表現の指標は上記の指標表どおりである.
- ▼ 証明
-
[略解]
$\chi_{\C^4}=(4,2,1,0,0)$ であることと, $\C^4=U\oplus V$ から,
\[\eq{ \chi_V & =\chi_{\C^4}-\chi_{U} \\ & =(4,2,1,0,0)-(1,1,1,1,1) \\ & =(3,1,0,-1,-1) }\] である.
次に, $\chi_W$ については $W=U'\otimes V$ より,
\[ \chi_W=\chi_{U'}\chi_V=(3,-1,0,1,-1). \] $W$ が既約表現であることは,
\[ (\chi_W,\chi_W)=\f{3^2\cdot 1+(-1)^2\cdot 6 + 0^2\cdot 8 + 1^2\cdot 6 +(-1)^2\cdot 3}{24}=1 \] からわかる.
公式 $\ds\sum_{i}(\dim V_i)\chi_{V_i}(\s)=0$ を使って計算すれば,
\[ \chi_Z=(2,0,-1,0,2). \]