Takatani Note

群の準同型定理【証明と応用】

この記事では、次の定理について証明と応用問題を扱います。

準同型定理の応用では、群の同型を示す問題を扱います。

準同型定理の証明

準同型定理

準同型定理 (第1同型定理)
$f:G\to G'$ を群の準同型写像とする. このとき,
\[ G/\Ker f\cong \Im f. \] 特に $f$ が全射のとき $G/\Ker f\cong G'$ が成り立つ.

証明
[証明]
$N=\Ker f$ とおく.
$f$ から誘導される全単射 $\v:G/N\to f(G), gN\ma f(g)$ が同型写像であることを示せばよい.
そのために, 次の2つを示そう.
(1) $\v$ はwell-definedである.
(2) $\v$ が準同型写像である.

(1) $gN=g'N\ (g,g'\in G)$ であるとき, ある $n\in N$ が存在して, $g=g'n$ である. \[\eq{ \v(gN) & =\v(g'nN)=f(g'n) \\ & =f(g')f(n)=f(g')e \\ & =f(g')=\v(g'N). }\] したがって, $\v$ はwell-definedである.

(2) $aN,bN\in G/N$ に対して, \[\eq{ \v((aN)(bN)) & =\v(abN)=f(ab) \\ & =f(a)f(b)=\v(aN)\v(bN). }\] ゆえに, $\v$ は準同型写像である.

以上で, 定理は証明された.

第2同型定理

第2同型定理
$H,N$ を群 $G$ の部分群とし, $N\lhd G$ とする. このとき,
\[ H/(H\cap N) \cong HN/N. \]

証明
[証明]
$\v:H\to HN/N,\ \ $ $h\ma heN$ とすると, $\v$ は準同型写像である. (※$e$ は単位元.) \[\eq{ h \in \Ker\v & \iff \v(h)=N \\ & \iff heN=N \\ & \iff h \in N \\ & \iff h \in H\cap N }\] \[ \th \Ker\v=H\cap N \] よって, \[ H/(H\cap N) \cong HN/N. \] が成り立つ.

[補足]
$\v$ が準同型写像である理由:
$N\lhd G$ なので, $h,h'\in H$ に対して, \[\eq{ \v(hh') & =hh'eN=hh'N \\ & =hh'NN=hNh'N \\ & =(heN)(h'eN) \\ & =\v(h)\v(h') }\] が成り立つ.
よって, $\v$ は準同型写像である.

第3同型定理

第3同型定理
$H,N$ を群 $G$ の正規部分群とし, $H\supset N$ とする. このとき,
\[ (G/N)/(H/N)\cong G/H \]

証明
[証明]
$\v:G/N\to G/H,\ \ $ $gN\ma gH$ とすると, $\v$ は準同型写像である. \[\eq{ gN \in \Ker\v & \iff \v(gN)=H \\ & \iff gH=H \\ & \iff g \in H \\ & \iff gN \in H/N }\] \[ \th \Ker\v=H/N \] よって, \[ (G/N)/(H/N)\cong G/H \] が成り立つ.

[補足]
$\v$ が準同型写像である理由:
$N\lhd G$ かつ $H\lhd G$ なので, $gN,g'N\in G/N$ に対して, \[\eq{ \v(gNg'N) & =\v(gg'NN)=\v(gg'N) \\ & =gg'H=gg'HH \\ & =gHg'H \\ & =\v(gN)\v(g'N) }\] が成り立つ.
よって, $\v$ は準同型写像である.

応用問題

準同型定理 (群の同型を示す問題)

問題
乗法群 $S^1=\{z\in \C^*$ $\mid |z|=1\}$ について, $\R /\Z \cong S^1$ を示せ.

証明
[証明]
$f:\R \to S^1,\ $ $\t \mapsto e^\t$ と定める.
\[ f(\t +\phi)=e^{i(\t+\phi)} =e^{i\t}e^{i\phi}=f(\t)f(\phi)\] より, $f$ は準同型写像である.
$f$ は全射であり, $\Ker f\cong \Z.$
よって, $\R /\Z \cong S^1.$

問題
$\Z/6\Z \cong \Z/2\Z \times \Z/3\Z$ を示せ.

証明
[証明]
$f:\Z \to \Z/2\Z \times \Z/3\Z,\ $ $a \mapsto (a,a)$ とすると, $f$ は全射で, $\Ker\v=6\Z.$
従って, 準同型定理より, $\Z/6\Z \cong \Z/2\Z \times \Z/3\Z.$

問題
$S_n$ を対称群, $A_n$ を交代群とする.
このとき, $S_n / A_n \cong \Z/2\Z$ を示せ.

証明
[証明]
$f:S_n \to \{1,-1\},\ $ $\sigma \mapsto \sgn(\sigma)$
と定める.
ただし, $\sgn(\sigma)$ は, $\sigma$ が偶置換なら $1$, 奇置換なら $-1$ とする.
このとき, $f$ は全射であり, $\ker f\cong A_n.$
よって, $S_n / A_n \cong \Z/2\Z.$
※$\{1,-1\} \cong \Z/2\Z$

問題
$\GL_n(\R)/\SL_n(\R)\cong \R^*$ を示せ.
ただし, 記号は下記のとおりである.
$\GL_n(\R)=\{ A\in M_n(\R)$ $\mid \det A\neq 0\},$
$\SL_n(\R)=\{ A\in M_n(\R)$ $\mid \det A=1\},$
$\R^*=\R\sm\{0\}.$
$M_n(\R)$ は実数成分の $n$ 次正方行列全体

証明
[証明]
$f:\GL_n(\R)\to \R^*,\ $ $A\mapsto \det A$
と定める.
\[ f(AB)=\det(AB)=\det(A)\det(B)=f(A)f(B)\] より, $f$ は準同型写像である.
$f$ は全射であり, $\Ker f\cong \SL_n(\R).$
よって, $\GL_n(\R)/\SL_n(\R)\cong \R^*.$

問題
$SO(n)$ を特殊直交群, $O(n)$ を直交群とする.
\[O(n)/SO(n)\cong \Z/2\Z\] であることを示せ.

証明
[証明]
$f :O(n)\to \{1,-1\}$
$\ \ \ A\mapsto \det A$
とすると, $f$ は全射な準同型写像である.
なぜなら, $\det I_n=1$ であり, 対角行列 $D=\mathrm{diag}(-1,1\cdots 1)$ については $\det D=-1$ となるからである.

このとき, $\Ker f=SO(n)$ なので, 準同型定理より,
\[O(n)/SO(n)\cong \Z/2\Z.\]

第2同型定理

問題
$V$ を $S_4$ の正規部分群: \[ V =\big\{ e,(1\ 2)(3\ 4),(1\ 3)(2\ 4),(1\ 4)(2\ 3)\big\} \] とする. このとき次の同型を示せ. \[ S_4/V\cong S_3\]

証明
[証明]
\[ H=\{\s\in S_4 \mid \s(4)=4 \}\cong S_3 \] として, 第2同型定理より, \[ HV/V\cong H/(H\cap V)=H. \] 一方, $|HV|=24$ より, $HV=S_4$ よって, \[ S_4/V\cong H \cong S_3. \] [補足]
$|HV|=24$ である理由:
$|H|=6, |V|=4$ であり, 写像 $\v:H\times V \to HV, (h,x)\ma hx$ は単射であることを示せばよい.
※$H\times V$ は集合の直積で, 元の個数は24である.

実際, $h,h'\in H, x,x'\in V$ として, $hx=h'x'$ が成り立っているとする.
両辺に $h'^{-1}$ を左からかけて, $h'^{-1}hx=x'.$ さらに, $x^{-1}$ を右からかけると, $h'^{-1}h=x'x^{-1}.$ 左辺は $H$ の元, 右辺は $V$ の元なので, 両辺は $H\cap V=\{e\}$ の元である. したがって, \[ h'^{-1}h=x'x^{-1}=e \] ゆえに, $h=h',x=x'.$
よって, $\v$ は単射である.

第3同型定理

問題
同型 $(\Z/6\Z)/(3\Z/6\Z)\cong \Z/3\Z$ を示せ.

証明
[証明]
$\Z$ は可換群なので, その部分群 $3\Z,6\Z$ はともに $\Z$ の正規部分群である. したがって, 第3同型定理より, \[ (\Z/6\Z)/(3\Z/6\Z)\cong \Z/3\Z. \]