Takatani Note

可解群の例と性質

この記事では, 可解群について下記のことを扱います。

・交代群 $A_3,A_4$ は可解群である
・対称群 $S_3,S_4$ は可解群である
・$S_n$ は$ n\geq 5$ のとき可解群でない

可解群の性質
・可解群の部分群は可解である
・可解群と正規部分群に関する定理
・$G$ が可解群ならば, $G$ は単純群 $\iff$ $G$ は巡回群

はじめに可解群の定義を書いておきます。

定義
群 $G$ の部分群の有限列: \[ \{e\}=G_0\sub G_1\sub\cdots \sub G_n=G\] において, 各 $i=1,\cd,n$ に対して $G_{i-1}\lhd G_{i}$ のとき, この列を群 $G$ の正規列(normal series)といい, \[ \{e\}=G_0\lhd G_1\lhd\cdots \lhd G_n=G \] で表す.

定義
群 $G$ の正規列:
\[ \{e\}=G_0\lhd G_1\lhd\cdots \lhd G_n=G \] において, 各 $i=1,\cd,n$ に対して $G_{i-1}/G_i$ がアーベル群になるものをアーベル正規列(abelian normal series)という.
アーベル正規列をもつ群を可解群 (solvable group) という.

可解群の例


アーベル群 $G$ はアーベル正規列 $\{e\} \lhd G$ を持つので可解群である.


$A_3(\cong \Z/3\Z)$ はアーベル群なので可解群である.


$S_3$ は可解群である.

証明
[証明]
\[ \{e\} \lhd A_3 \lhd S_3 \] はアーベル正規列である.
(※ $S_3/A_3\cong \Z/2\Z$ に注意.)
よって, $S_4$ は可解群である.


$A_4$ は可解群である.

証明
[証明]
\[ \{e\} \lhd V \lhd A_4 \] はアーベル正規列である.
よって, $A_4$ は可解群である.

[補足] ・$V$ はクラインの4元群である.
・$A_4/V$ の位数は3なので, 巡回群 $\Z_3$ に同型である. したがって, $A_4/V$ はアーベル群である. ・$V\lhd A_4$ については正規部分群の定義に従って計算すればわかる.


$S_4$ は可解群である.

証明
[証明]
\[ \{e\} \lhd V \lhd A_4 \lhd S_4 \] はアーベル正規列である.
よって, $S_4$ は可解群である.

[補足]
・$S_4/A_4\cong \Z/2\Z$ に注意.
・$V$ はクラインの4元群である.
・$A_4/V\cong \Z/3\Z$ はアーベル群である.

可解群の性質

部分群

定理1
可解群の任意の部分群も可解である.

証明
[証明]
$G$ を可解群, $H$ をその部分群とする.
$G$ に関する正規列
\[ \{e\}=G_0\lhd G_1 \lhd \cdots \lhd G_n=G \] は 商群 $G_{i+1}/G_i$ がアーベル群であるとする.
$H_i=G_i\cap H$ とおく. このとき, $H$ は正規列
\[ \{e\}=H_0\lhd H_1 \lhd \cdots \lhd H_n=H \] を持つ.

商群 $H_{i+1}/H_i$ がアーベル群であることを示す.
第2同型定理より,
\[\eq{ H_{i+1}/H_i & =(G_{i+1}\cap H)/(G_i\cap H) \\ & =(G_{i+1}\cap H)/(G_i\cap (G_{i+1}\cap H) \\ & \cong G_i(G_{i+1}\cap H)/G_i. }\] $G_i(G_{i+1}\cap H)/G_i$ は, $G_{i+1}/G_i$ の部分群なので アーベル群である.
ゆえに, $H_{i+1}/H_i$ はすべての $i$ についてアーベル群である.
よって, $H$ は可解群である.

正規部分群

定理
$G$ を群, $N$ を $G$ の正規部分群とする.
$G/N$ と $N$ が可解群ならば, $G$ 自身は可解群である.

証明
[証明]
$G/N,N$ のアーベル正規列をそれぞれ
\[\eq{ \{e\} & =H_0/N \lhd H_1/N \lhd \cd \lhd H_r/N = G/N \\ \{e\} & =N_0 \lhd N_1 \lhd \cd \lhd N_s =N }\] とする. $H_0=N,\ H_r=G$ に注意しよう.
$H_{i-1}/N \lhd H_i/N$ ならば $H_{i-1} \lhd H_i$ であるから, 第3同型定理より, \[ (H_i/N)/(H_{i-1}/N)\cong H_i/H_{i-1}. \] 上式の左辺はアーベル群なので, 右辺もアーベル群である.
ゆえに, $G$ はアーベル正規列
\[ \{e\} =N_0 \lhd N_1 \lhd \cd \lhd N =H_0\lhd H_1\lhd \cd \lhd H_r=G \] を持つ. よって, $G$ は可解群である.

定理
$G$ を可解群, $N$ を $G$ の正規部分群とする.
このとき, 剰余群 $G/N$ も可解群である.

証明
[証明]
$G$ は可解群なので, $G$ に関する正規列
\[ \{e\}=G_0\lhd G_1 \lhd \cdots \lhd G_n=G \] で商群 $G_{i+1}/G_i$ がアーベル群であるものが存在する.
このとき, 補題Aより, $G_iN \lhd G_{i+1}N.$
補題Bで $H$ を $G_iN$ に, $G$ を $G_{i+1}N$ に置き換えると, $G_iN/N \lhd G_{i+1}N/N.$
そこで, $N_i=G_iN/N$ とおくと, $N$ は正規列
\[ \{e\}=N_0\lhd N_1 \lhd \cdots \lhd N_n=G/N \] を持つ.
さらに, 第3同型定理より, \[\eq{ N_{i+1}/N_i & =(G_{i+1}N/N)(G_iN/N) \\ & \cong G_{i+1}N/G_iN. }\] そして $G_{i+1}N/G_iN$ がアーベル群であることを示そう.
$gn,g'n'\in G_{i+1}N$ とする. \[\eq{ & (gnG_iN)(g'n'G_iN) \\ = & (gnNG_i)(g'n'NG_i) \\ = & (gNG_i)(g'NG_i) \\ = & (gG_iN)(g'G_iN) \\ = & gG_ig'NG_iN \\ = & gG_ig'G_iNN \\ = & g'G_igG_iNN \\ = & g'G_igNG_iN \\ = & (g'G_iN)(gG_iN) \\ = & (g'NG_i)(gNG_i) \\ = & (g'n'NG_i)(gnNG_i) \\ = & (g'n'G_iN)(gnG_iN). }\] ゆえに, $G_{i+1}N/G_iN$ はアーベル群である.
よって, $G/N$ は可解群である. $\square$

補題A
$G$ を群とし, $N,G_1,G_2$ を $G$ の部分群とする.
$N\lhd G$ かつ $G_1 \lhd G_2$ ならば, $G_1N \lhd G_2N$ である.

[証明]
任意の $g_1n_1\in G_1N,\ g_2n_2\in G_2N$ をとる.
\[\eq{ (g_2n_2)(g_1n_1)(g_2n_2)^{-1} & =(g_2n_2)(g_1n_1)(n_2^{\ -1}g_2^{\ -1}) \\ & =(g_2n_2g_2^{\ -1})(g_2g_1g_2^{\ -1})(g_2n_1g_2^{\ -1})(g_2n_2^{\ -1}g_2^{\ -1}) \\ & \in NG_1NN =G_1NNN=G_1N }\] よって, $G_1N \lhd G_2N.$ $\square$

補題B
$H,N$ を群 $G$ の正規部分群とする.
このとき, $HN/N \lhd G/N.$

[証明]
任意の $hnN\in HN/N,\ gN\in G/N$ をとる.
\[\eq{ (gN)(hnN)(gN)^{-1} & =(ghng^{-1})N & \cdots (*) \\ & =(ghg^{-1})(gng^{-1})N \in HN/N & }\] したがって, $HN/N \lhd G/N.$

※剰余群の演算は
$\ \ \ g_1N\cdot g_2N=g_1g_2N$
で定義されているので $(*)$ が成り立つ.

単純群

定義
群 $G$ が単純群であるとは, $G$ の正規部分群が $\{e\}$ と $G$ のみであるものをいう.

定理2
$G$ を可解群とする.
$G$ は単純群 $\iff$ $G\cong \Z/p\Z$

証明
[証明]
$(\Rightarrow)$ $G$ は可解群なので, アーベル正規列
\[ \{e\}=G_0\lhd G_1 \lhd \cdots \lhd G_n=G \] が存在する.
しかし, $G$ は単純群なので, 正規列は $\{e\} \lhd G$ のただ1つしかない.
従って, $G(=G/\{e\})$ はアーベル群である.

アーベル群のすべての部分群は正規部分群であるので, $G$ のどの元も巡回部分群を生成する.
したがって, $G$ は $\{e\}$ と $G$ 以外の部分群を持たない巡回群でなければならない.
よって, $G\cong \Z/p\Z.$

$(\Leftarrow)$ $\Z/p\Z$ は単純群である.

$S_n$ は $n\geq 5$ のとき可解群でない

定理3
$n\geq 5$ のとき, 交代群 $A_n$ は単純群である.

[証明]
省略する.

ちなみに, $A_4$ は単純群でない. 実際,
$\ \ \ V=\{(1),\ (12)(34),\ (13)(24),\ (14)(23)\}$
とすると, $V$ は $A_4$ の正規部分群である.

定理4
対称群 $S_n$ は $n\geq 5$ のとき可解でない.

証明
[証明]
$S_n$ が可解であると仮定する.
このとき, $S_n$ の部分群である $A_n$ も可解群である.
したがって, 定理3より, $A_n$ は単純群である.
ところが, 定理2より, $A_n\cong \Z/p\Z$ である. これは ($n\geq 5$ のとき) $A_n$ が非可換群であることに矛盾する.

この定理は「5次以上の方程式には解の公式が存在しない」を示すときに使われるので重要である.