4次交代群 A4【性質と証明】
この記事では、4次交代群 $A_4$ の性質について紹介します。
$A_4$ の性質
$A_4$ の共役類と類等式
交代群 $A_4$ の共役類は次の4つであることが直接計算することによってわかる.
型 | 共役類 | 個数 |
---|---|---|
$(1,1,1,1)$ | $(1)$ | $1$ |
$(3,1)$ | $(1\ 2\ 3),(1\ 4\ 2),(1\ 3\ 4),(2\ 4\ 3)$ | $4$ |
$(3,1)$ | $(1\ 3\ 2),(1\ 2\ 4),(1\ 4\ 3),(2\ 3\ 4)$ | $4$ |
$(2,2)$ | $(1\ 2)(3\ 4),(1\ 3)(2\ 4),(1\ 4)(2\ 3)$ | $3$ |
類等式は $12=1+4+4+3$ である.
※型 $(3,1)$ の共役類が2種類に分かれていることから, 対称群 $S_n$ の性質「$\s,\tau\in S_n$ が共役 $\iff$ $\s,\tau$ は同じ型」は $A_4$ では成り立たないことがわかる.
$A_4$ の部分群
この節では, $A_4$ の部分群をすべて求める.
まず, $A_4$ 自身と $\{e\}$ が部分群であることは自明である.
次に, 非自明な部分群の位数はラグランジュの定理より $|A_4|=12$ の約数である $2,3,4,6$ のどれかである.
それぞれの位数について, その部分群を求めよう.
定理
$A_4$ は位数 $6$ の部分群を持たない.
[証明]
位数 $6$ の部分群 $H$ があれば, $|A_4:H|=2$ より $H\lhd A_4.$
従って, 任意の $h\in H$ に対して,
$\ \ \ aha^{-1}\in H (a\in A_4).$
つまり, $a$ の共役類のすべての元が $H$ に属するから,
$H$ は $A_4$ の共役類のいくつかの和集合になる.
しかし, 共役類 $C_1\sim C_4$ の個数 $1,4,4,3$ のどれを合わせても $6$
にならないから矛盾である.
定理
$A_4$ の位数4の部分群は次の $V$ のみである.
\[ V=\{e,(1\ 2)(3\ 4),(1\ 3)(2\ 4),(1\ 4)(2\ 3)\} \]
[証明]
位数4の部分群を $H$ とすると, $H$ に属する単位元以外の元はすべて位数が2または4である.
それを満たす元は, 共役類の表を見ると型が $(2,2)$ である元しかない.
そして, $V$ は部分群になっているので, この $V$ のみである.
位数4の場合と同様に, 共役類の表より,
位数3の部分群は型 $(3,1)$ の元から生成され, 位数2の部分群は型 $(2,2)$ の元がから生成される.
位数3:$\langle (1\ 2\ 3)\rangle,\
\langle (1\ 2\ 4)\rangle,\
\langle (1\ 3\ 4)\rangle,\
\langle (2\ 3\ 4)\rangle$
位数2:$\langle (1\ 2)(3\ 4)\rangle,\
\langle (1\ 3)(2\ 4)\rangle,\
\langle (1\ 4)(2\ 3)\rangle$
群の位数ごとにまとめると下記の表になる.
群の位数 | 群 |
---|---|
$12$ | $A_4$ |
$6$ | なし |
$4$ | $V$ |
$3$ | $\langle (1\ 2\ 3)\rangle,\ \langle (1\ 2\ 4)\rangle, \langle (1\ 3\ 4)\rangle,\ \langle (2\ 3\ 4)\rangle$ |
$2$ | $\langle (1\ 2)(3\ 4)\rangle,\ \langle (1\ 3)(2\ 4)\rangle,\ \langle (1\ 4)(2\ 3)\rangle$ |
$1$ | $\{e\}$ |
$V$ による $A_4$ の剰余類分解
クラインの4元群 $V$ は $A_4$ の正規部分群である.
$A_4$ を $V$ で剰余類分解すると,
\[ A_4=V+(1\ 2\ 3)V+(1\ 3\ 2)V \]
となる. 具体的に書くと次のようになる.
\[\eq{
V & =\big\{ e,(1\ 2)(3\ 4),(1\ 3)(2\ 4),(1\ 4)(2\ 3)\big\},
\\ (1\ 2\ 3)V & =\big\{(1\ 2\ 3),(1\ 3\ 4),(2\ 4\ 3),(1\ 4\ 2)\big\},
\\ (1\ 3\ 2)V & =\big\{(1\ 3\ 2),(2\ 3\ 4),(1\ 2\ 4),(1\ 4\ 3)\big\}.
}\]
$A_4$ は可解群である
定理
$A_4$ は可解群である.
[証明]
可解群の例と性質を参照してください.
$A_4$ の中心
定理
交代群 $A_4$ の中心 $Z(A_4)$ は自明群である.
[証明]
群の中心【例と証明】を参照してください.
自由群の表示
$A_4$ は次の自由群で表される.
\[ \langle a,b\mid a^3=b^2=(ab)^3=e\rangle. \]
この表示は,
\[ a\ma (123),\ \ \ b\ma (12)(34) \]
という対応から得られる.
※$(ab)^3=e$ から, $abab=b^{-1}a^{-1}=ba^2$ である.
$A_4$ の既約表現の指標
$(1)$ | $(12)(34)$ | $(123)$ | $(132)$ | |
$\chi_U$ | $1$ | $1$ | $1$ | $1$ |
$\chi_V$ | $3$ | $-1$ | $0$ | $0$ |
$\chi_{W_1}$ | $1$ | $1$ | $\omega$ | $\omega^2$ |
$\chi_{W_2}$ | $1$ | $1$ | $\omega^2$ | $\omega$ |
※ $\chi_U$ は自明表現, $\chi_V$ は標準表現である.
$\omega$ は $1$ の3乗根である.
問題
$A_4$ の既約表現の指標が上記の指標表どおりであることを確認せよ.
[略解]
$\chi_{\C^4}=(4,0,1,1)$ であることと,
$\C^4=U\oplus V$ から,
$\ \ \ \chi_V$ $=\chi_{\C^4}-\chi_{U}$
$=(4,0,1,1)-(1,1,1,1)$
$=(3,-1,0,0).$
$V$ が既約表現であることは,
$\ \ \ (\chi_V,\chi_V)=(3^2\cdot 1+(-1)^2\cdot 3
+ 0^2\cdot 4 + 0^2\cdot 4)/12=1$
からわかる.
$\rho_{W_i}:A_4\to \C^*$ を上記の指標表どおりに定める, すなわち,
$\s\mapsto \chi_{W_i}(\s)$ と定まれば,
$\rho_{W_i}$ は共役類上well-definedな群準同型である.