正規部分群の例題【判定と証明】
この記事では、正規部分群の例題とその証明を扱います。
正規部分群であることを示す判定問題も扱います。
はじめに正規部分群の定義を確認しておきます。
定義
$G$ を群, $H$ を $G$ の部分群とする.
任意の $a\in G$ に対して $aH=Ha$ が成り立つとき,
$H$ を $G$ の正規部分群
(normal subgroup)といい,
$H\lhd G$ で表す.
正規部分群の同値な条件は下記のとおり.
定理
群 $G$ の部分群 $H$ に対して,
次の各条件は互いに同値である.
(1) $H\lhd G$
(2) $a\in G$ ならば $aHa^{-1}=H$
(3) $a\in G,\ x\in H$ ならば $axa^{-1}\in H$
- ▼ 証明
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[証明]
(1)$\iff$(2) \[ aH=Ha \iff aHa^{-1}=H \] であることは明らか. ($\be$ 左式の両辺に $a^{-1}$ を右からかけると右辺になる. 他方, 右式の両辺に $a$ を右からかけると左辺になる.)
(2) $\Rightarrow$ (3) は明らか.
(2) $\Leftarrow$ (3)
(3) が成り立つとき, $aHa^{-1}\subset H$ である.
$a$ を $a^{-1}$ に置き換えると $a^{-1}Ha\subset H.$ である. したがって, \[ H=a(a^{-1}Ha)a^{-1}\subset aHa^{-1}. \] よって, $aHa^{-1}=H.$
※定理(3)は部分群が正規かどうか判定するときによく使います。
例題と証明
例題
$G$ を群, $H$ をその部分群とする.
指数について $|G:H|=2$ ならば
$H\lhd G$ であることを示せ.
- ▼ 証明
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[証明]
任意の $a\in G$ をとる.
$a\in H$ ならば, $H$ は部分群なので, $aH=Ha.$
$a\not\in H$ ならば,
\[ H\cap aH =\emp,\ H\cap Ha=\emp \] である. (実際, $H\cap aH \neq\emp$ と仮定して, $h'=ah\in H\cap aH$ とすると, $a=h'h^{-1}\in H$ で矛盾.)
$|H|=|aH|=|Ha|$ かつ $|G:H|=2$ より, \[ G=H\cup aH =H\cup Ha. \] すなわち, $G$ は $H$ と $aH$ の直和で表せ, さらに $H$ と $Ha$ の直和でも表せる.
ゆえに $aH=Ha.$
よって, 任意の $a\in G$ に対して, $aH=Ha$ なので $H\lhd G.$
※指数 $|G:H|$ とは群 $G$ における部分群 $H$ の剰余類の個数である.
$|G:H|=2$ ならば $|G|=2|H|$ である.
例題
$G$ を群, $N$ をその正規部分群とする.
$|G:N|=n$ ならば, 任意の $g\in G$ に対して $g^n\in N$ であることを示せ.
- ▼ 証明
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[証明]
$g\in G$ を任意にとる.
$gN\in G/N$ かつ $|G/N|=n$ より, $(gN)^n=N.$
したがって, \[ g^nN=(gN)^n=N. \] ゆえに, $g^n\in N$ である.
※$N$ は $G/N$ の単位元である.
※ラグランジュの定理より, 位数 $m$ の群の任意の元は $m$ 乗すると単位元になる.
このことから, $(gN)^n=N.$
$\Ker f$ (準同型写像の核)
例題
$f:G\to G'$ を群 $G$ から群 $G'$ への準同型写像とするとき,
次を証明せよ.
(1) $\Im f$ は $G'$ の部分群である.
(2) $\Ker f$ は $G$ の正規部分群である.
[証明]
群準同型写像【例題と証明】を参照してください.
対称群と交代群
例題
交代群 $A_n$ は対称群 $S_n$
の正規部分群であることを示せ.
- ▼ 証明
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[証明]
$|S_n:A_n|=2$ より, 上の例題の結果を使えば $A_n \lhd S_n$ である.
[別解]
$f:S_n \to \{1,-1\},\ $ $\sigma \mapsto \sgn(\sigma)$ とする.
このとき, $f$ は準同型写像であり, $\Ker f=A_n$ である. よって, 次の定理より, $A_n \lhd S_n.$
定理
$f:G\to G'$ を群の準同型写像とする.
このとき, $\Ker f\lhd G.$
一般線形群と特殊線形群
例題
$M_n(\R)$ を $n$ 次実正方行列全体の集合とする.
$\GL_n(\R)$ を一般線形群:
$$ \GL_n(\R)=\{A\in M_n(\R)\mid\det(A)\neq 0 \} $$
とし, $\SL_n(\R)$ を特殊線形群:
$$ \SL_n(\R)=\{A\in M_n(\R)\mid \det(A)=1 \} $$
と定める.
$\SL_n(\R)$ は $\GL_n(\R)$ の正規部分群であることを示せ.
- ▼ 証明
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[証明]
行列式の性質 $\det(AB)=\det(A)\det(B)$ より, $A\in \GL_n(\R)$ と $X\in \SL_n(\R)$ に対して, $$ \det(AXA^{-1}) =\det(A)\det(X)\det(A)^{-1} =\det(X)=1 $$ が成り立つ. 従って $$ AXA^{-1}\in \SL_n(\R). $$ ゆえに $\SL_n(\R)\lhd \GL_n(\R).$
[別解]
$f:\GL_n(\R)\to \R^*,\ $ $A\mapsto \det A$ とする.
(※$\R^*$ は0でない実数全体の乗法群)
\[ f(AB)=\det(AB)=\det(A)\det(B)=f(A)f(B) \] より, $f$ は準同型写像である.
$\Ker f=\SL_n(\R)$ なので, 準同型写像の性質より, $\SL_n(\R)\lhd \GL_n(\R)$ である.
クラインの4元群
例題
4次交代群 $A_4$ の部分群として,
\[ V=\{ e,\ (1\ 2)(3\ 4),\ (1\ 3)(1\ 4),\ (1\ 4)(2\ 3)\} \]
と定義すると, $V$ は $A_4$ の正規部分群であることを示せ.
(※$V$ をクラインの4元群という.)
- ▼ 証明
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[証明]
定義どおりに地道に計算すればよい.
任意の $\s\in A_4$ に対して,
\[\eq{ \s (1\ 2)(3\ 4)\s^{-1} & \in V, \\ \s (1\ 3)(2\ 4)\s^{-1} & \in V, \\ \s (1\ 4)(2\ 3)\s^{-1} & \in V }\] であることが計算すればわかる.
よって, $V \lhd A_4.$
共通部分&積
例題
$N_1,N_2$ が 群 $G$ の正規部分群ならば,
共通部分 $N_1\cap N_2$ も $G$ の正規部分群であることを示せ.
- ▼ 証明
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[証明]
部分群の定義より, $N_1\cap N_2$ は $G$ の部分群である.
$N_1\cap N_2$ が正規であることを示す.
$g\in G, n\in N_1\cap N_2$ とする.
$N_1,N_2$ は正規なので,
$n\in N_1$ より $gng^{-1}\in N_1.$
$n\in N_2$ より $gng^{-1}\in N_2.$
よって, $gng^{-1}\in N_1\cap N_2.$
例題
$N_1,N_2$ が 群 $G$ の正規部分群ならば,
積 $N_1N_2$ も $G$ の正規部分群であることを示せ.
- ▼ 証明
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[証明]
$g\in G,\ n\in N_1N_2$ とする.
$n$ は, ある $n_1\in N_1$ と, ある $n_2\in N_2$ によって $n=n_1n_2$ と表せる.
$N_1,N_2$ は正規なので,
\[\eq{ gng^{-1} & =gn_1n_2g^{-1} \\ & =(gn_1g^{-1})(gn_2g^{-1}) \in N_1N_2. }\] よって, $N_1N_2$ は $G$ の正規部分群である.
群の中心
例題
$G$ を群とする.
$G$ の各元 $g$ と可換な元 $z\in G$ 全体の集合:
$$ Z(G)=\{z\in G\mid {}^\forall g\in G,\ zg=gz\} $$
を $G$ の中心(center)という.
$Z(G)$ は $G$ の正規部分群であることを示せ.
- ▼ 証明
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[証明]
任意の $g\in G,\ z\in Z(G)$ に対して, $zg=gz$ より,
\[ gzg^{-1}=zgg^{-1}=z\in Z(G). \] よって, $Z(G)\lhd G.$
交換子群
例題
群 $G$ の元 $a,b$ によって $aba^{-1}b^{-1}$ の形に書かれる元を
$G$ の交換子とよぶ.
$G$ のすべての交換子によって生成される
$G$ の部分群を $G$ の交換子群といい, $D(G)$ で表す.
このとき $D(G) \lhd G$ を示せ.
- ▼ 証明
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[証明]
$x\in D(G), a\in G$ を任意のとる.
交換子群の定義より,
\[ axa^{-1}x^{-1}\in D(G). \] そして $D(G)x=D(G)$ より,
\[ axa^{-1}\in D(G). \] よって, $D(G)$ は $G$ の正規部分群である.
正規部分群でない例
例題
3次対称群 $S_3$ の部分群:
\[ H=\{ e,(1\ 2)\} \]
は $S_3$ の正規部分群でないことを示せ.
- ▼ 証明
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[証明]
$\sigma=(1\ 2)\in H,\ \tau=(2\ 3)\in S_3$ とすると, \[ \tau\sigma\tau^{-1}=(1\ 3)\not\in H \] である.
例題
$\GL_2(\R)$ を $\det A\neq 0$
をみたす $2$ 次正方行列 $A$ の全体とする.
$O(2)$ を2次直交行列全体とする.
$O(2)$ は $GL_2(\R)$ の正規部分群でない.
- ▼ 証明
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[証明]
\[ A= \m{ 0 & 1 \cr 1 & 0 },\ P= \m{ 1 & 1 \cr 0 & 1 } \] とすると, $A\in O(2),\ $ $P\in\GL_2(\R)$ である.
\[ PAP^{-1}= \m{ 1 & 2 \cr 1 & 1 } \not\in O(2) \] なので, $O(2)$ は $\GL_2(\R)$ の正規部分群でない.
一般に, $O(n)$ は $GL_n(\R)$ の正規部分群でない.
証明は直交群と特殊直交群【問題と証明】を参照せよ.