Takatani Note

群準同型写像【例題と証明】

この記事では, まず群準同型写像の定義と例を確認してから, 問題を解説していきます.

定義
$G_1,G_2$ を群とする. 写像 $f:G_1\to G_2$ が準同型写像であるとは, すべての $x,y\in G_1$ に対して \[ f(x*y)=f(x)\cdot f(y)\] が成り立つときにいう.
(※「$*$」は $G_1$ の演算, 「$\cdot$」は $G_2$ の演算.)

準同型写像【例題と証明】

準同型写像であることを示せ

例題
写像 $f:\R\to \R^+,\ $ $x\ma e^x$ は準同型写像であることを示せ.
※$\R$ は加法群, $\R^+$ は正の実数のなす乗法群.

証明
[証明]
\[ f(x+y)=e^{x+y}=e^xe^y=f(x)f(y) \] なので, $f$ は準同型写像である.


$f:\R^*\to \R^+,\ $ $x\ma |x|$ は準同型写像であることを示せ.
※$\R^*$ は0でない実数のなす乗法群.

証明
[証明]
\[ f(xy)=|xy|=|x||y|=f(x)f(y) \] より, $f$ は準同型写像である.


$f:\C^*\to \R^+,\ $ $z\ma|z|$ は準同型写像であることを示せ.
※$\C^*$ は0でない複素数のなす乗法群.

証明
[証明]
\[ f(zw)=|zw|=|z||w|=f(z)f(w) \] より, $f$ は準同型写像である.


$f:\GL_n(\R)\to \R^*,\ $ $A\ma\det A$ は準同型写像であることを示せ.
※$\GL_n(\R)$ は $n$ 次可逆行列全体のなす乗法群.

証明
[証明]
\[ f(AB)=\det(AB)=\det(A)\det(B)=f(A)f(B) \] より, $f$ は準同型写像である.


$\sgn: S_n\to \{\pm 1\},\ $ $\s\ma\sgn(\s)$ は準同型写像であることを示せ.
※$\sgn(\s)$ は置換 $\s$ の符号である.
※$S_n$ は $n$ 次対称群, $\{\pm 1\}$ は乗法群($\Z/2\Z$ と同型).

証明
[証明]
偶置換, 奇置換をそれぞれ偶, 奇と略記する.
$\s,\tau$ が偶のとき, $\s\tau$ も偶なので, \[ \sgn(\s\tau)=(+1)=(+1)\cdot (+1)=\sgn(\s)\sgn(\tau). \] $\s$ が偶, $\tau$ が奇のとき, $\s\tau$ は奇なので, \[ \sgn(\s\tau)=(-1) =(+1)\cdot (-1)=\sgn(\s)\sgn(\tau). \] $\s$ が奇, $\tau$ が偶のとき, $\s\tau$ は奇なので, \[ \sgn(\s\tau)=(-1) =(-1)\cdot (+1)=\sgn(\s)\sgn(\tau). \] $\s,\tau$ が奇のとき, $\s\tau$ は偶なので, \[ \sgn(\s\tau)=(+1) =(-1)\cdot (-1)=\sgn(\s)\sgn(\tau). \] 以上から, $\sgn$ は準同型写像である. $\s$

核 $\Ker \v$ と像 $\Im\v$

この節では, 準同型写像の核と像の基本的な例題を解説します。 例題の前に定義を確認しておきます。

定義
$\v:G_1\to G_2$ を準同型写像とし, $e_2$ を $G_2$ の単位元とする.
\[\eq{ &\Ker\v & =\{g\in G_1\mid \v(g)=e_2\}, \\ &\Im\v & =\{\v(g)\in G_2\mid g\in G_1\} }\] とおく. $\Ker\v$ を $\v$ の(kernel)といい, $\Im\v$ を $\v$ の(image)という.

問題
$f:G\to G'$ を群 $G$ から群 $G'$ への準同型写像とするとき, 次を証明せよ.
(1) $\Im f$ は $G'$ の部分群である.
(2) $\Ker f$ は $G$ の正規部分群である.

解答
[証明]
(1) $a',b'\in \Im f$ をとれば, $a'=f(a),\ $ $b'=f(b)$ となる $a,b\in G$ が存在する.
$ab^{-1}\in G$ なので,
\[\eq{ a'b'^{-1} & =f(a)f(b)^{-1}=f(a)f(b^{-1}) \\ & =f(ab^{-1})\in \Im f. }\] よって, $\Im f$ は $G'$ の部分群である.

(2) $a,b\in \Ker f$ をとれば,
\[ f(ab^{-1})=f(a)f(b^{-1})=f(a)f(b)^{-1}=e'.\] 従って, $ab^{-1}\in \Ker f$ なので, $\Ker f$ は $G$ の部分群である.
次に, $a\in \Ker f,$ と $x\in G$ をとれば,
\[ f(xax^{-1})=f(x)f(a)f(x^{-1})=e'.\] よって, $xax^{-1}\in \Ker f$ なので, $\Ker f$ は $G$ の正規部分群である.

問題
$G,G'$ を群とする. $f:G\to G'$ を準同型写像とするとき, 次を示せ.
$\ \ \ f$ は単射である $\iff$ $\Ker f=\{e\}$

解答
[証明]
$f$ が単射のとき, 任意の $a\in \Ker f$ に対して, $f(a)=e'=f(e)$ より, $a=e$ なので, $\Ker f=\{e\}.$
逆に, $\Ker f=\{e\}$ のとき, $a,b\in G$ について $f(a)=f(b)$ であるとする.
準同型写像の性質から, $f(ab^{-1})=e'.$
従って, $ab^{-1}\in \Ker f$ より, $ab^{-1}=e.$
ゆえに, $a=b$ なので, $f$ は単射である.

合成写像も準同型

問題
2つの群準同型写像 $f:G\to G'$ と $g:G'\to G''$ に対して, 合成写像 $g\circ f: G\to G''$ も準同型写像であることを示せ.

解答
[証明]
\[\eq{ (g\circ f)(ab) & =g(f(ab))=g(f(a)f(b)) \\ & =g(f(a))g(f(b))=(g\circ f)(a)(g\circ f)(b) }\] より, $g\circ f$ は準同型写像である.

加法群の準同型

問題
加法群 $A$ から加法群 $A'$ への準同型写像 $f,$ すなわち
\[ f(a+b)=f(a)+f(b)\] を満たす $f$ の全体を $G$ で表す.
$f,g\in G$ に対して, 和 $f+g$ を
\[(f+g)(a)=f(a)+g(a)\] で定義する.
このとき, $G$ はこの和で加法群になることを示せ.

解答
[証明]
$f,g\in G$ とする.
\[\eq{ (f+g)(a+b) & =f(a+b)+g(a+b) \\ & =f(a)+f(b)+g(a)+g(b) \\ & =(f+g)(a)+(f+g)(b) }\] が成り立つから, $f+g$ は準同型写像である. つまり, $f+g\in G$ である.

可換法則 $f+g=g+f$ が成り立つことは, \[(f+g)(a)=f(a)+g(a)=g(a)+f(a)=(g+f)(a)\] からわかる.

結合法則 $(f+g)+h=f+(g+h)$ については
\[\eq{ ((f+g)+h)(a) & =(f+g)(a)+h(a) \\ & =f(a)+g(a)+h(a) \\ & =f(a)+(g+h)(a) \\ & =(f+(g+h))(a) }\] からわかる.
零写像は $G$ の単位元であり, $f\in G$ に対しては $-f$ が $f$ の逆元である.
以上から, $G$ は加法群である.