ユニタリ行列の性質【証明】
$ \newcommand{\tA}{{}^t \hspace{-1.5pt} A \hspace{1pt}} \newcommand{\tP}{{}^t \hspace{-1pt} P \hspace{1pt}} \newcommand{\e}{\bm{e}} $
この記事では, ユニタリ行列について次の性質を証明します。
- ユニタリ行列の行列式は絶対値が $1$ の複素数
- $A,B$ がユニタリ行列 $\Rightarrow$ $AB, A^{-1}$ もユニタリ行列
- $A$ はユニタリ行列 $\iff$ $A$ の列(行)ベクトル全体は正規直交基底
- エルミート行列はユニタリ行列で対角化される
まず定義を確認しておきます。
定義
複素正方行列 $U$ が
$$ U^* U=I $$
を満たすとき, $U$ をユニタリ行列(unitary matrix)という.
(※$I$ は単位行列.)
※$U^* U=I$ ならば $UU^*=I$ である. $(\be UU^*=(U^* U)^*=I^*=I.)$
例
次の行列はユニタリ行列である.
$$
\m{ \alpha & \beta
\cr -\ol{\beta} & \ol{\alpha} }$$
ユニタリ行列の性質
ユニタリ行列の行列式は絶対値が $1$ の複素数
定理
$A\in M_n(\C)$ をユニタリ行列とすると, $|\det(A)|=1$
[証明] まず次が成り立つことに注意しよう. $$ \ol{\det(A)}=\det(\ol{A}) =\det({}^t\ol{A})=\det(A^*). $$ これと $A^* A=I$ と行列式の性質により, $$\eq{ |\det(A)|^2 & =\det(A)\ol{\det(A)}=\det(A)\det(A^*) \\ & =\det(AA^*)=\det(I)=1. }$$ $$ \th |\det(A)|=1. $$
$A,B$ がユニタリ行列 $\Rightarrow$ $AB, A^{-1}$ もユニタリ行列
定理
$A,B$ がユニタリ行列ならば,
積 $AB$ も逆行列 $A^{-1}$ もユニタリ行列である.
[証明] $A,B$ はユニタリ行列なので, $A^* A=I,\ \ B^*B=I$ である. $$ (AB)^*(AB)=(B^*A^* )(AB) =B^*(A^* A)B=B^*B=I. $$ $$ (A^{-1})^*A^{-1}=(A^*)^{-1}A^{-1} =(AA^*)^{-1}=I^{-1}=I. $$ よって, 積 $AB$ も逆行列 $A^{-1}$ もユニタリ行列である.
$A$ はユニタリ行列 $\iff$ $A$ の列(行)ベクトル全体は正規直交基底
$A$ を $n$ 次複素正方行列とするとき, 次の5つの条件は同値である.
ただし, $\C^n$ には標準的内積を考える.
- (1) $A$ はユニタリ行列である.
- (2) $A$ の列ベクトル全体は $\C^n$ の正規直交基底である.
- (3) $A$ の行ベクトル全体は $\C^n$ の正規直交基底である.
- (4) $A:\C^n\to \C^n$ は計量を保つ.
- (5) $A:\C^n\to \C^n$ は長さを保つ.
[証明]
$$ A=(\a_1 \cd \a_n)=\m{ \a_1'\\ \cd \\ \a_n' } $$
をそれぞれ $A$ の列ベクトル表示, 行ベクトル表示とする.
(1) $\iff$ (2)
$A$ の列ベクトル表示で考えれば,
$$\eq{
A \text{はユニタリ行列} & \iff A^* A=I
\\ & \iff \a_i^*\a_j=\delta_{ij}
\ \ \ \ \ \ (1\leq i,j\leq n)
\\ & \iff (\a_i,\a_j)=\delta_{ij}
\ \ \ (1\leq i,j\leq n)
\\ & \iff \a_1, \cd, \a_n \ \text{は}
\ \C^n \ \text{の正規直交基底}
}$$
(1) $\iff$ (3)
$A$ の行ベクトル表示で考えれば,
$$\eq{
A \text{はユニタリ行列} & \iff AA^*=I
\\ & \iff \a_i'\a_j'^*=\delta_{ij}
\ \ \ \ \ \ (1\leq i,j\leq n)
\\ & \iff (\a_i',\a_j')=\delta_{ij}
\ \ \ (1\leq i,j\leq n)
\\ & \iff \a_1', \cd, \a_n' \ \text{は}
\ \C^n \ \text{の正規直交基底}
}$$
(2) $\iff$ (4)
$\a_1,\cd,\a_n$ が $\R^n$ の正規直交基底であるとき,
$$\eq{
\x & =x_1\e_1+\cd +x_n\e_n,
\\ \y & =y_1\e_1+\cd +y_n\e_n
}$$
とすると, $A\e_i=\a_i\ (1\leq i\leq n)$ により,
$$\eq{
(A\x,A\y)
& =(x_1\e_1+\cd +x_n\e_n,y_1\e_1+\cd +y_n\e_n)
\\ & =x_1y_1+\cd+x_ny_n
\\ & =(\x,\y)
}$$
よって, (4)が成り立つ.
逆に, $A:\C^n\to \C^n$ は計量を保つとすると,
$1\leq i,j \leq n$ で
$$ (\a_i,\a_j)=(A\e_i,A\e_j)
=(\e_i,\e_j)=\delta_{ij} $$
よって, $\a_1,\cd,\a_n$ は
$\C^n$ の正規直交基底である.
(4) $\iff$ (5)
内積空間の性質から成り立つ.
エルミート行列はユニタリ行列で対角化される
定理
$n$ 次複素正方行列 $A$ について,
次の2つの条件は同値である.
(1) $A$ はエルミート行列である.
(2) $A$ は適当なユニタリ行列 $U$ によって,
対角成分が実数からなる行列に対角化できる:
$$ U^{-1}AU=
\m{ \l_1 & & O
\cr & \ddots &
\cr O & & \l_n }
\ \ \ (\l_1,\cd,\l_n\in \R)
$$
[証明] エルミート行列の性質を参照してください。