収束半径の求め方【例題】
$ \def\Sum{\sum_{n=0}^\infty} \def\k{\kappa} $
この記事では, べき級数
$$ \sum_{n=0}^\iy a_nz^n=a_0+a_1z+a_2z^2+\cd $$
の収束半径を求める例題を扱います。
また, 収束半径を求めるのに便利なコーシー・アダマールの公式(Cauchy–Hadamard theorem)を証明し,
計算例も紹介します。
注意 以下, 記号 $\ds \sum_{n=0}^\iy$ を $\sum$ で略記することがあります。
収束半径とは?
どんなべき級数も $z=0$ では1項しかないから自明に収束する. では, どのような $z\neq 0$ で収束するか? これに関して次の定理が基本的である.
定理
任意のべき級数 $\sum a_nz^n$ に対して,
次のいずれか1つが成り立つ.
(i) すべての $z$ に対して絶対収束する.
(ii) ある $\rho>0$ があって, $|z|<\rho$ において絶対収束し,
かつ $|z|>\rho$ においては発散する.
(iii) $0$ 以外のすべての $z$ に対して発散する.
- ▼ 証明
-
[証明]
まず, 補題として次を示す.
補題「べき級数 $\sum a_nz^n$ が $z=z_0$ で収束すれば, $|z|<|z_0|$ で絶対収束する. もし, $z=z_0$ で発散すれば $|z|>|z_0|$ でも発散する.」
(補題の証明) べき級数 $\sum a_nz^n$ が $z=z_0$ で収束すれば, $n\to \iy$ のとき, $a_nz_0^n\to 0$ なので, 数列 $\{a_nz_0^n\}$ は有界である. すなわち, ある $M>0$ が存在して, 任意の $n\in \N$ に対して, $$ |a_nz_0^n| \leq M $$ が成り立つ. ゆえに $|z|<|z_0|\neq 0$ では $$ \sum|a_nz^n|\leq \sum M\le( \f{z}{z_0}\ri)^n =\f{M}{1-(z/z_0)} < \iy. $$ 従って, $\sum|a_nz^n|$ は $|z|<|z_0|$ で絶対収束する.
もし, $z_0$ では発散し, $|z|>|z_0|$ となる $z$ で収束しているとすれば, いま示したことに矛盾してしまう.
これで補題が示せた.
さて, $\sum a_nz^n$ が収束するような点 $z_0$ の絶対値の上限を $$ \rho=\sup\{|z_0|\mid \sum a_nz^n \te{が $z_0$ で収束}\}$$ とおけば, $\rho=\iy,0$ の場合もこめて確かに定理が成り立つ.
この定理に基づいて収束半径を定義する.
定義
上の定理の $r$ をべき級数 $\sum a_nz^n$ の収束半径(radius of convergence)という.
$0< r<\iy$ の場合, 原点を中心とする半径 $r$ の円周
$|z|=r$ をべき級数 $\sum a_nz^n$ の収束円(circle of convergence)という.
上の定理から, 収束半径 $r$ のべき級数 $\sum a_nz^n$ は $z$ が収束円 $|z|=r$ の内部にあるとき絶対収束し, $|z|=r$ の外部にあるとき発散する.
注意
(i)は $\rho=\iy$ (収束円は全平面 $\C$),
(iii)は $\rho=0$ (収束円は空集合)と考える.
(ii)には等号が入っていないことに注意しよう.
次の例のように $z$ がちょうど収束円上 $|z|=\rho$
にあるときの収束・発散に関しては色々な状況が起こり, 一般には何も言えない.
例
次の級数は共通の収束半径 $\rho=1$ を持つ.
$$ (a)\ \ds \Sum z^n\ \ \ \ \ \ \
(b)\ \sum_{n=1}^\iy \f{z^n}{n}\ \ \ \ \ \ \
(c)\ \sum_{n=1}^\iy \f{z^n}{n^2} $$
しかし, 円周 $|z|=1$ 上ではそれぞれ収束・発散が違う:
(a)は $|z|=1$ のどの点でも発散する.
(b)は $z=1$ で発散, $|z|=1$ 上のその他の点では収束する.
(c)は $|z|=1$ 上で絶対収束する.
- ▼ 証明
-
[証明]
3つの級数の一般項は $$ |z^n| \geq \f{|z^n|}{n} \geq \f{|z^n|}{n^2} $$ という関係にある. もし $|z|>1$ ならば, $|z^n|/n^2 \to \iy (n\to \iy)$ であるから, いずれの級数も発散する. また, $|z|<1$ ならば幾何級数 $(a)$ は絶対収束するから, 他の2つも絶対収束する. 以上から, 収束半径は共通で $\rho=1$ となる.
円周 $|z|=1$ 上の収束・発散について考える.
$(a)$ は $|z^n|$ が $0$ に収束しないことから, また $(c)$ は $\sum_{n=1}^\iy 1/n^2$ が収束することから明らかである. $(b)$ で $z=1$ とした $\sum_{n=1}^\iy 1/n$ が発散することが既知であるので, $z\neq 1$ としよう. $S_n=1+z+\cd+z^n (S_0=0)$ とおけば, $$\eq{ \sum_{n=1}^N \f{z^n}{n} & =\sum_{n=1}^N\f{1}{n}(S_n-S_{n-1}) \\ & =\sum_{n=1}^{N-1}\le(\f{1}{n}-\f{1}{n+1} \ri)S_n +\f{1}{N}S_N-1 \\ & =\sum_{n=1}^{N-1}\f{1}{n(n+1)}\f{1-z^{n+1}}{1-z} +\f{1}{N}\f{1-z^{N+1}}{1-z}-1 }$$ と変形できる(アーベルの変形法). $|z^{n+1}|$ は有界, また $\sum_{n=1}^\iy 1/n(n+1)$ は収束するから, この式から $(b)$ が $|z|=1, z\neq 1$ で収束することがわかる.
収束半径の求め方
収束半径を求めるのに次の3つが便利である.
- ダランベールの判定法
- コーシーの判定法
- コーシー・アダマールの判定法
それぞれ順番に解説する.
ダランベールの判定法
定理 (ダランベールの判定法)
正項級数 $\sum a_n$ について,
$$ \lim_{n\to \iy}\f{a_{n+1}}{a_n}=r $$
が存在するとき, $0\leq r< 1$ ならば収束し,
$1< r\leq \iy$ ならば発散する.
[証明]
ダランベールの判定法【証明と例題】参照.
系
べき級数 $\sum a_nz^n$ について,
係数 $a_n$ が $0$ にならず, 比の極限
$$ r:=\lim_{n\to \iy}\le|\f{a_{n+1}}{a_n}\ri| $$
$(0\leq r\leq \iy)$ が存在するとき, $\rho=1/r$ である.
[証明]
$$ \lim_{n\to\iy}\le|\f{a_{n+1}z^{n+1}}{a_nz^n}\ri|
=r|z| $$
であるから, ダランベールの判定法より, $\sum a_nz^n$
は $r|z|<1$ のとき絶対収束して, $r|z|>1$ のときは発散する.
ゆえに, $\rho=1/r$ を得る.
例題
次のべき級数の収束半径を計算せよ.
$\ds(1)\sum_{n=1}^\iy n^2z^n\ \ \ \ \ \
(2)\sum_{n=1}^\iy \f{\log n}{n}z^n\ \ \ \ \ \
(3)\sum_{n=1}^\iy \f{(n!)^2}{(2n)!}z^n$
- ▼ 解答
-
[解答]
(1) $a_n=n^2$ とおく. $$ \le| \f{a_{n+1}}{a_n} \ri| =\f{(n+1)^2}{n^2} =\le( 1+\f{1}{n} \ri)^2\to 1\ \ (n\to \iy). $$ 従って, ダランベールの判定法の系より, $\sum n^2z^n$ の収束半径は $1$ である.
(2) $a_n=(\log n)/n$ とおく. $$ \le| \f{a_{n+1}}{a_n} \ri| =\f{n}{n+1}\c \f{\log(n+1)}{\log n} \to 1\ \ (n\to \iy). $$ (※ロピタルの定理より, $\log (x+1)/\log x \to 1\ (n\to \iy)$ となることに注意.)
従って, ダランベールの判定法の系より, べき級数の収束半径は $1$ である.
(3) $a_n=(n!)^2/(2n)!$ とおく. $$ \le| \f{a_{n+1}}{a_n} \ri| =\f{(n+1)^2}{(2n+2)(2n+1)} \to \f{1}{4}\ \ (n\to \iy). $$ 従って, ダランベールの判定法の系より, べき級数の収束半径は $4$ である.
コーシーの判定法
定理 (コーシーの判定法)
正項級数 $\sum a_n$ について
$$ \lim_{n\to \iy}\sqrt[n]{a_n}=r $$
となる $r$ が存在するとき, $0\leq r< 1$ ならば収束し,
$1< r\leq \iy$ ならば発散する.
[証明]
コーシーの判定法【証明と例題】参照.
系
べき級数 $\sum a_nz^n$ について,
$$ r:=\lim_{n\to \iy}\sqrt[n]{|a_n|} $$
$(0\leq r\leq \iy)$ が存在するとき, $\rho=1/r$ である.
[証明]
$$ \lim_{n\to \iy}\sqrt[n]{|a_nz^n|}
=r|z| $$
であるから, コーシーの判定法より, $\sum a_nz^n$
は $r|z|<1$ のとき絶対収束して, $r|z|>1$ のときは発散する.
ゆえに, $\rho=1/r$ を得る.
例題
次のべき級数の収束半径を計算せよ.
$\ds(1)\sum_{n=1}^\iy (1+1/n)^{n^2}z^n\ \ \ \ \ \
(2)\sum_{n=1}^\iy 3^{n^2}z^n$
- ▼ 解答
-
[解答]
(1) $a_n=(1+1/n)^{n^2}$ とおく. $$ \sqrt[n]{|a_n|} =(1+1/n)^n \to e\ \ (n\to \iy). $$ 従って, コーシーの判定法の系より, べき級数の収束半径は $1/e$ である.
(2) $a_n=3^{n^2}$ とおく. $$ \sqrt[n]{|a_n|} =3^n \to \iy\ (n \to \iy). $$ 従って, コーシーの判定法の系より, べき級数の収束半径は $0$ である.
コーシー・アダマールの公式
定理 (コーシー・アダマールの公式)
べき級数 $\sum a_n z^n$ は
$$ \f{1}{r}:=\varlimsup_{n\to \iy}\sqrt[n]{|a_n|} $$
とするとき, $|z|< r$ ならば絶対収束し,
$|z|> r$ ならば発散する.
- ▼ 証明
-
[証明]
まず, $|z|< r$ ならば $\sum a_n z^n$ は絶対収束することを示す.
$|z|< r$ のとき, $|z| < \k < r$ となる実数 $\k$ をとる. $$ \f{1}{\k}> \f{1}{r} =\varlimsup_{n\to \iy}\sqrt[n]{|a_n|} $$ となるから, ある $N\in\N$ が存在して $n\geq N$ ならば $\sqrt[n]{|a_n|}< 1/\k$ である. したがって $|a_n|\k^n < 1$ となる. すなわち, 数列 $\{|a_n|\k^n\}$ は有界である. ゆえに $$ |a_n| \leq \f{M}{\k^n} $$ なる定数 $M$ が存在する. $|z|/\k < 1$ であるから $$ \Sum |a_nz^n|\leq M\sum \le( \f{|z|}{\k} \ri)^n =\f{M\k}{\k-|z|} < \iy. $$ すなわち $|z|< r$ のときべき級数 $\Sum a_nz^n$ は絶対収束する.
$|z|>r$ のとき $\Sum a_nz^n$ が発散することを示す.
そのために対偶「べき級数 $\Sum a_nz^n$ が収束するならば $|z|\leq r$ である」を示す.
ある複素数 $z$ に対して $\Sum a_nz^n$ が収束したとする. そうすれば, $\lim_{n\to \iy}a_nz^n=0$ であるから, すべての自然数 $n$ について $$ |a_nz^n|\leq M $$ となる正の実数 $M$ が存在する. このような $M$ を1つ定めれば $$ |z|\sqrt[n]{|a_n|} \leq \sqrt[n]{M}, $$ したがって, $\ds\varlimsup_{n\to \iy} \sqrt[n]{M} =\lim_{n\to \iy} \sqrt[n]{M}=1$ であるから, $$ |z|\varlimsup_{n\to\iy}\sqrt[n]{|a_n|} \leq 1. \tag{*}$$ $0< \ds\varlimsup_{n\to\iy}\sqrt[n]{|a_n|} < \iy$ なる場合には $$ r=\f{1}{\varlimsup_{n\to\iy}\sqrt[n]{|a_n|}} $$ とおけば, $(*)$ より, ただちに不等式: $$ |z|\leq r $$ を得る.
※以上の証明は[小平 p20]を参照した.
定理に出てきた式 $$ \f{1}{r}=\varlimsup_{n\to \iy}\sqrt[n]{|a_n|} $$ をコーシー・アダマールの公式(Cauchy–Hadamard theorem)という. $r$ はべき級数の収束半径である.
上極限とは?
数列 $\{a_n\}$ の上極限とは次の極限のことである.
$$ \varlimsup_{n\to \iy}a_n
:=\lim_{n\to \iy}(\sup_{k\geq n}a_k) $$
例題
次のべき級数の収束半径を計算せよ.
$\ds(1)\Sum 2^n z^{2n}\ \ \ \ \ \
(2)\sum_{n=1}^\iy z^{n!}$
- ▼ 解答
-
[解答]
(1) $\sum 2^nz^{2n}=\sum a_nz^n$ とおく. 任意の $k\in\N$ に対して, $a_{2k-1}=0$ であるから, $$ \sup_{k\geq n}\sqrt[k]{|a_k|} =\sup_{2k\geq n}\sqrt[2k]{|a_{2k}|} = \sup_{2k\geq n}\sqrt[2k]{2^k} =\sup_{2k\geq n}\r{2}=\r{2}. $$ 従って, $$ \varlimsup_{n\to \iy}\sqrt[n]{|a_n|} =\lim_{n\to \iy}(\sup_{k\geq n}\sqrt[k]{|a_k|}) =\lim_{n\to \iy}\r{2} =\r{2} $$ よって, コーシー・アダマールの公式より, 収束半径は $1/\r{2}$ である.
(2) $\sum z^{n!}=\sum a_nz^n$ とおくと, $$ \varlimsup_{n\to \iy}\sqrt[n]{|a_n|} =\lim_{n\to \iy}(\sup_{k\geq n}\sqrt[k]{|a_k|}) =\lim_{n\to \iy}1 =1 $$ よって, コーシー・アダマールの公式より, 収束半径は $1$ である.
問題演習
指数関数
問題
$e^z$ の収束半径を求めよ.
$$ e^z = 1+z+\f{z^2}{2!}+\f{1}{3!}z^3+\cd
+\f{z^n}{n!}+ \cd $$
- ▼ 解答
-
[解答]
$a_n=1/n!$ とおく.
$$ \le| \f{a_{n+1}}{a_n} \ri| =\f{1}{n+1} \to 0\ (n\to \iy). $$ 従って, ダランベールの判定法の系より, べき級数 $e^z$ の収束半径は $\iy$ である.
三角関数
問題
$\cos z$ と $\sin z$ の収束半径を計算せよ.
$$\eq{
\cos z & = 1-\f{1}{2!}z^2+\f{1}{4!}z^4-\cd
+\f{(-1)^n}{(2n)!}z^{2n}+ \cd
\\ \sin z & = z-\f{1}{3!}z^3+\f{1}{5!}z^5-\cd
+\f{(-1)^n}{(2n+1)!}z^{2n+1}+ \cd
}$$
- ▼ 解答
-
[解答]
(1) $c_n=(-1)^n z^{2n}/(2n)!$ とおく.
$z\neq 0$ のとき, $\sum |c_n|$ は正項級数なので, ダランベールの判定法が使える.
任意の $z \in \C\sm\{0\}$ に対して, $$ \le| \f{c_{n+1}}{c_n} \ri| =\f{|z|^2}{(2n+2)(2n+1)} \to 0\ (n\to \iy). $$ 従って, (ダランベールの判定法より)べき級数 $\sum c_n$ は任意の $z\in \C$ に対して絶対収束する. すなわち, $\cos z$ の収束半径は $\iy$ である.
(2) $c_n=(-1)^n z^{2n+1}/(2n+1)!$ とおく.
$z\neq 0$ のとき, $\sum |c_n|$ は正項級数なので, ダランベールの判定法が使える.
任意の $z \in \C\sm\{0\}$ に対して, $$ \le| \f{c_{n+1}}{c_n} \ri| =\f{|z|^2}{(2n+3)(2n+2)} \to 0\ (n\to \iy). $$ 従って, べき級数 $\sum c_n$ は任意の $z\in \C$ に対して絶対収束する. すなわち, $\sin z$ の収束半径は $\iy$ である.
対数関数
問題
$\log(1+z)$ の収束半径を求めよ.
$$ \log(1+z) = z-\f{z^2}{2}+\f{z^3}{3}-\cd
+(-1)^{n-1}\f{z^n}{n}+ \cd $$
- ▼ 解答
-
[解答]
$a_n=(-1)^{n-1}/n$ とおく.
$$ \le| \f{a_{n+1}}{a_n} \ri| =\f{n}{n+1} \to 1\ (n\to \iy). $$ 従って, ダランベールの判定法の系より, べき級数 $\log(1+z)$ の収束半径は $1$ である.
累乗関数
問題
$$ (1+z)^\a = 1+\f{\a}{1!}z+\f{\a(\a-1)}{2!}z^2+
\cd + \m{\a \\ n} z^n + \cd $$
の収束半径を求めよ.
ただし, 複素数 $\a$ に対して, 記号
$$ \m{\a \\ n}=\f{\a(\a-1)\cd (\a-n+1)}{n!} \tag{*}$$
は2項係数を表す.
- ▼ 解答
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[解答]
$a_n=\m{\a \\ n}$ とおく.
$\a$ が非負整数でなければ常に $a_n\neq 0$ なので, $$ \le| \f{a_{n+1}}{a_n} \ri| =\f{|\a-n|}{n+1} \to 1\ (n\to \iy). $$ 従って, ダランベールの判定法の系より, 収束半径は $1$ である.
もし, $\a=m\ (m$ は非負整数)ならば, 上の級数は有限項で切れて $m$ 次多項式になるから, そのときは収束半径が $\iy$ となる.