ユニタリ群はコンパクトである【証明】
この記事では, ユニタリ群 $U(n)$ がコンパクトであることを証明します。
証明の前にユニタリ群の定義を確認しておきます。
定義
$M_n(\C)$ を $n$ 次の複素正方行列全体とする.
$\ \ \ U(n)=\{A\in M_n(\C)\mid {}^t \overline{A}A=I_n\}$
としたとき,
この $U(n)$ を $n$ 次のユニタリ群という.
補足
・$I_n$ は $n$ 次の単位行列を意味する.
・$M_n(\C)$ は $2n^2$ 次元のユークリッド空間と同一視できる.
なので, $U(n)$ はその相対位相を考えることによって, 位相空間の構造をもつ.
$U(n)$ はコンパクトである【証明】
証明には次の定理を用いる.
定理
$X$ を $\R^n$ の部分集合とする. このとき,
$X$ はコンパクト $\iff$ $X$ は有界閉集合.
[証明]
[松坂 5章定理16]または[内田 例23.1]を参照せよ. $\square$
では, 証明を始めよう.
定理
ユニタリ群 $U(n)$ はコンパクトである.
- ▼ 証明
-
[証明]
上の定理より, $U(n)$ が有界閉集合であることを示せばよい.
任意の $A\in U(n)$ に対して, $|a_{ij}|\leq 1$ なので, $U(n)$ は有界である.
(※ $a_{ij}$ は行列 $A$ の $i$ 行 $j$ 列成分を表す.)
$f:M_n(\C)\to M_n(\C),\ $ $A\mapsto {}^t\!\overline{A} A$
とすると, $f$ は連続写像である.
実際, ${}^t\!\overline{A} A$ の各成分は多項式の形の関数になるから, $f$ は連続である.
1点集合 $\{I_n\}$ は $M_n(\C)$ の閉集合である.
なので, その逆像 $f^{-1}(\{I_n\})=U(n)$ は $M_n(\C)$ の閉集合である. $\square$
$U(n)$ が閉集合であることの証明がテクニカルだと感じた読者がいるかもしれない.
証明がわからなかった人は,
閉集合を簡単に示すテクニックを参照してほしい.
【トピック】$U(n)$ は単連結でない
$U(n)$ は単連結でないことを基本群を用いて証明する.
定理
ユニタリ群 $U(n)$ は単連結でない.
- ▼ 証明
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[証明]
$U(1)=\{z\in\C\mid |z|=1\}\cong S^1$
より, $U(1)$ は単連結でない.
$n\geq 2$ のとき, $U(n)$ は多様体の直積 $S^1\times SU(n)$ に同相である.
さらに, $SU(n)$ は単連結であることが知られているので, $U(n)$ の基本群は $S^1$ の基本群と同型である.
つまり, $U(n)$ は単連結でない. $\square$
上の証明で $SU(n)$ が出てきたので, それについて簡単に説明する.
定義
$\ \ \ SU(n)=U(n)\cap \SL(n,\C)$
とおく. $SU(n)$ を特殊ユニタリ群という.
定理
特殊ユニタリ群 $SU(n)$ は $n\geq 2$ のときに単連結である.
- ▼ 証明
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[証明]
$SU(2)$ は $S^3$ と同相なので単連結である.
以下は $n$ に関する帰納法による.
$SU(n)$ は $\C^n$ に作用するから, その標準基底 $e_i$ $(1\leq i\leq n)$ の最初の $e_1$ を固定する部分群は自然に $SU(n-1)$ に同型になる.
その意味で $SU(n-1)$ を $SU(n)$ の閉部分群と考え, 等質空間 $SU(n)/SU(n-1)$ をつくればこれは
$\ \ \ S^{2n-1}=\{(z_1,\cdots z_n)\in \C^n\mid |z_1|^2+\cdots +|z_n|^2=1\}$
と同一視され同相である.
そこで, $n\geq 2$ に対しては完全系列
$\ \ \ \pi_1(SU(n-1))\to \pi_1(SU(n))\to \pi_1(S^{2n-1})$
と帰納法の仮定から, $\pi_1(SU(n))=\{0\}$ となる.
よって, $n\geq 2$ のとき, $SU(n)$ は単連結である. $\square$