距離空間はハウスドルフである【証明】
この記事では、下記について解説します。
- 「距離空間はハウスドルフである」の証明
- 「距離空間はハウスドルフである」の逆は成り立たない
証明の前に、ハウスドルフの定義を確認しておきます。
定義
位相空間 $X$ が次の条件を満たすとき,
$X$ はハウスドルフ
(Hausdorff)であるという:
任意の相異なる2点 $p, q\in X$ に対して,
ある $p$ の開近傍 $U$ と ある $q$ の開近傍 $V$ が存在して,
$U\cap V = \emp$ が成り立つ.
距離空間はハウスドルフ空間である
定理
距離空間 $(X, d)$ はハウスドルフ空間である.
[証明]
$X$ 内の相異なる2点 $p,\ q$ をとる.
\[ r=d(p,q),\ \ \e=r/3 \]
とする. (※ $r$ は2点 $p,q$ の距離である.)
$N(p\ ;\e)$ を中心が $p$ で半径 $\e$ の $\e$ 近傍とする.
すなわち,
\[ N(p\ ;\e)=\{x\in X \ | \ d(p,x)<\e \} \]
とする.
証明の方針として,
\[ N(p\ ;\e)\cap N(q\ ;\e) \neq \emp\]
と仮定して矛盾を導く.
任意の $a\in N(p\ ;\e)\cap N(q\ ;\e)$ をとる.
このとき,
\[ d(p,a)< \e, \ \ \ d(q,a)< \e. \]
ところが三角不等式より,
\[ \begin{align*}
r &=d(p,q) \leq d(p,a)+d(a,q) \\
&< \e+\e=\frac{r}{3}+\frac{r}{3}=\frac{2}{3}r.
\end{align*} \]
これは矛盾している.
【補足】「距離空間はハウスドルフである」は正確な表現でない
記事の冒頭で「距離空間はハウスドルフであることを証明します。」と書いたが, これは正確な表現ではない.
正確には「距離空間 $(X,d)$ は $X$ の距離位相 $\O_d$ によってハウスドルフ空間となる」である.
距離空間はあくまで集合 $X$ と距離関数 $d:X\times X\to\R$
の組 $(X,d)$ であり, アプリオリ(先天的)には位相空間の構造をもっていない.
ただ, 正確に記述をしようとすると冗長になるので, 単に「距離空間はハウスドルフである」と表現することが多い.
この例だけでなく, 数学では冗長な記述を避けるために正確な言い方をせずに省略したりすることがよくあるので注意しよう.
「距離空間ならばハウスドルフ」の逆は成り立たない
反例としてゾルゲンフライ直線がある
「距離空間はハウスドルフ空間である」が成り立つが,
その逆は成り立たない.
つまり「ハウスドルフだが距離化可能でない空間」が存在する.
例えば, ゾルゲンフライ直線はその例になっている.
なお, 証明はゾルゲンフライ直線で解説してある.
証明するために補題をいくつか用意する必要があり,
証明はけっこう長い.
距離化問題とウリゾーン
「距離空間はハウスドルフ空間である」の逆は成り立たない.
では、ハウスドルフ空間にどんな条件を加えると距離化可能の空間になるのだろうか?
上記のような疑問が出る.
この問題を「距離化問題」という.
距離化問題は位相空間論の創造期に提起され,
長く未解決であった.
しかし, ロシア人数学者ウリゾーンが1924年に解決した.
ウリゾーンが証明した定理は, 現在では「ウリゾーンの距離化定理」と呼ばれていて,
たいていの位相の教科書に載ってある.