Takatani Note

単項イデアル整域【反例/性質の証明】

この記事では, 単項イデアル整域(PID)について下記のことを説明します。

まずは, 単項イデアル整域の定義と例から始めます。

定義
環 $A$ のイデアル $I$ が, ある $a\in A$ によって $I=(a)$ と表せるとき, $I$ を単項イデアルという.

整域 $A$ のすべてのイデアルが単項イデアルのとき, $A$ を単項イデアル整域 (principal ideal domain 略してPID) という.


体はPIDである.
実際, 体のイデアルは $(0)$ と $(1)$ しかなく, 2つとも単項イデアルである.


ユークリッド整域はPIDである.
(※証明はユークリッド整域を参照.)
とくに $\Z$ と $K[x]$ はPIDである.

$K[x]$ がPIDであることは後で証明する.

単項イデアル整域でない例


$\Z[x]$ において, $(3,x)$ は単項イデアルでない.
従って, $\Z[x]$ は単項イデアル整域でない.

証明
[証明]
$(3,x)$ が単項イデアルであると仮定する.
このとき,
$\ \ \ (3,x)=(f)$
を満たす $f\in \Z[x]$ が存在する.

$3\in (f)$ より, $fg=3$ を満たす $g\in \Z[x]$ が存在する.
したがって, $f$ は $1,-1,3,-3$ のいずれかである.

$x\in (f)$ より, $fh=x$ を満たす $h\in \Z[x]$ が存在する.
したがって, $f$ は $1,-1,x,-x$ のいずれかである.

ゆえに, $f$ は $1,-1$ のどちらかである.
よって, $(f)=\Z[x].$
しかし, $1\not\in (3,x)$ なので矛盾する.


$\R[x,y]$ において, $(x,y)$ は単項イデアルでない.
従って, $\R[x,y]$ はPIDでない.

証明
[証明]
$f\in \R[x,y]$ をとる.
$f$ の定数項が $0$ のとき
$\ \ \ (f)\subsetneq (x,y).$
$f$ の定数項が $0$ でないとき
$\ \ \ (f)\neq (x,y).$

したがって, どんな $f\in \R[x,y]$ をとっても
$\ \ \ (f)\neq (x,y).$
ゆえに $(x,y)$ は単項イデアルでない.
よって $\R[x,y]$ はPIDでない.

PIDは一意分解整域である

証明の前に一意分解整域の定義を確認しておこう.

定義
整域 $R$ の0でも単元でもない元 $a$ が有限個の素元の積:
$\ \ \ a=p_1p_2\cdots p_n$
という形に常に書けるとき, $R$ を一意分解整域という.

次の2つの事実も思い出しておこう.
・環 $R$ の単項イデアル $(p)$ が素イデアルであるとき $p$ は素元である.
・極大イデアルは素イデアルである.

では, 証明を始める.

定理
PIDは一意分解整域である.

証明
[証明]
$R$ をPIDとする.
$a\in R$ を0でない非単元とする.
このとき, イデアル $(a)$ を含む極大イデアル $(p_1)$ が存在する.
$a\in (p_1)$ より
$\ \ \ a=a_1p_1$
を満たす $a_1\in R$ がとれる.
$a_1$ が単元ならば $a$ のときには素元分解が成り立つ.

$a_1$ が単元でないとき
イデアル $(a_1)$ を含む極大イデアル $(p_2)$ が存在する.
$a_1\in (p_2)$ より
$\ \ \ a_1=a_2p_2$
を満たす $a_2\in R$ がとれる.
したがって
$\ \ \ a=a_1p_1=a_2p_1p_2.$
$a_2$ が単元ならば $a$ のときには素元分解が成り立つ.

$a_2$ が単元でないとき
$(a_2)$ を含む極大イデアル $(p_3)$ が存在し
$\ \ \ a_2=a_3p_3$
を満たす $a_3\in R$ がとれる.

この過程を何回繰り返しても $a_n$ が単元でないと仮定しよう.
すると, 次のようにイデアルの増大列ができる.
$\ \ \ (a)\subsetneq (a_1)$ $\subsetneq (a_2)\subsetneq \cdots$

そこで $I=\bigcup_i (a_i)$ とおく.
$R$ はPIDだから $I=(b)$ と書ける.
$b$ はいずれかの $(a_i)$ に含まれるので, $b\in (a_m)$ とすると,
$\ \ \ (b)=(a_m)=(a_{m+1})=\cdots$
となり, 仮定に矛盾する.

したがって, ある $a_n$ は単元になるので,
$\ \ \ a=a_np_1\cdots p_n$
のように表せる.
単元と素元の積は素元なので, $a_np_1$ は素元である.
よって $a$ は有限個の素元の積で表される.

多項式環 $K[x]$ はPID

定理
$K$ を体とすれば, 多項式環 $K[x]$ は単項イデアル整域である.

証明
[証明]
$I$ を $K[x]$ のイデアルとする.
$I$ は零イデアルでなく,0以外の定数を含まないとしてよい.
($\because$ $I=(0)$ ならば $I$ は単項イデアルである.
$I$ が0以外の定数 $a$ を含むならば, イデアルはスカラー倍に閉じているので, $aa^{-1}=1\in I$ である.
よって, $I=(1)$ なので, $I$ は単項イデアルである.)

このとき, $I$ に含まれる $0$ でない多項式の中で最小次数のものが存在する.
そのような最小次数の多項式の1つを $g(x)$ とする.
このとき $\deg g\geq 1$ である.

任意の $f(x)\in I$ に対して, 多項式の除法の性質から,
$\ \ \ f=gq+r,$
$\ \ \ \deg r < \deg g$
を満たす $q(x),r(x)\in K[x]$ が存在する.
ここで $r=f-gq\in I$ であるから, $\deg g$ の最小性によって $r=0$ でなければならない.
したがって $I$ の任意の元 $f$ は $f=gq$ と表される.
ゆえに $I=(g)$ となり, $I$ はPIDである.

PIDでは $(0)$ でない素イデアルは極大イデアル

定理
$R$ を単項イデアル整域とする.
$a$ を $R$ の0でない元とする.
このとき, 次が成り立つ.
$(a)$ は素イデアル $\iff$ $(a)$ は極大イデアル.

証明
[証明]
極大イデアルは素イデアルなので $\Longleftarrow$ は明らかである.
これから $\Longrightarrow$ を示す.

$(a)$ は素イデアルとする.
素イデアルの定義より $(a)\neq R$ に注意せよ.
$(a)\subsetneq (b)\subset R$ と満たすイデアル $(b)$ をとる.

証明の方針として,
「$b$ が単元である」
を示せばよい.
なぜなら $(b)=R$ が言えるので
「$(a)$ は極大イデアル」
となるからである.

$a\in (b)$ より, $a=bx$ を満たす $x\in R$ が存在する.
したがって, $bx\in (a)$ である.
$(a)$ は素イデアルなので,
$\ \ \ b\in (a)$ または $x\in (a)$
が成り立つ.

$(a)\subsetneq (b)$ より $b\not\in (a).$
したがって $x\in (a).$
ゆえに $x=ay$ を満たす $y\in R$ が存在する.
よって $a=bx=bay.$
$\therefore$ $a(1-by)=0.$

$R$ は整域でかつ $a\neq 0$ より $by=1.$
したがって $b$ は単元である.
これが示したいことであった.

この定理から次の重要な定理が得られる.

定理
$f\in \Q[x]$ を既約多項式とする.
このとき, 剰余環 $\Q[x]/(f)$ は体である.

この定理は体論で何度も使うことになる.