Takatani Note

交代行列の性質【証明】

$$ \newcommand{\tA}{{}^t \hspace{-1.5pt} A \hspace{1pt}} $$

この記事では、交代行列について次の性質を証明します。

証明の前に定義を確認しておきます。

定義
$A$ を正方行列とし, ${}^tA$ を $A$ の転置行列とする.
${}^tA=A$ を満たすとき, $A$ を対称行列(Skew-symmetric matrix)という.
${}^tA=-A$ を満たすとき, $A$ を交代行列(skew-symmetric matrix)という.

※$K$ が標数2の体であれば対称行列と交代行列は概念として一致する.


$\ds A= \m{ 1 & 2 \cr 2 & 4 },\ \ B= \m{ 1 & 0 \cr 0 & 1 },\ \ C= \m{ 0 & 1 \cr -1 & 0 }$
とすると, $A,B$ は対称行列, $C$ は交代行列である.

交代行列【問題と証明】

随伴性

定理
$A\in M_n(\R)$ とする. このとき,
$A$ が実交代行列 $\iff$ $(A\x,\y)=(\x,-A\y)\ $ $(\all \x,\y\in \R^n).$

証明
[証明]  ($\goo$) $\tA=-A $ により $$(A\x,\y)=(\x,\tA \y)=(\x,-A\y). $$ ($\coo$) 各 $\x,\y\in \R^n$ に対して $$\eq{ (A\x,\y)=(\x,-A\y) & \iff (\x,\tA \y)=(\x,-A\y) \\ & \iff (\x,(\tA +A)\y)=0. }$$ 従って, とくに $\x=(\tA +A)\y$ のとき, $$ ((\tA +A)\y,(\tA +A)\y)=0. $$ ゆえに $(\tA +A)\y=0$ である. $\y$ は任意だから $\tA =-A.$

行列は対称行列と交代行列の和に一意的に表せる

問題
任意の正方行列は対称行列と交代行列の和に一意的に表せる.

解答
[証明]  任意の正方行列 $A$ は $$ A=\f{A+{}^tA}{2}+\f{A-{}^tA}{2} $$ という形に表せる.
${}^t({}^tA)=A$ により, $(A+{}^tA)/2$ は対称行列であり, $(A-{}^tA)/2$ は交代行列である.
したがって, 任意の正方行列 $A$ に対して,
$\ \ \ A=B+C$
を満たす対称行列 $B$ と交代行列 $C$ が存在する.

次に一意性を示そう.
$A$ を正方行列とする.
$B$ を対称行列, $C$ を交代行列とし,
$\ \ \ A=B+C$
が成り立っているとする.

このとき, ${}^tB=B,\ {}^tC=-C$ により,
$\ \ \ {}^tA={}^t(B+C)=B-C$
これと, $A=B+C$ により, $$ B=\f{A+{}^tA}{2},\ \ C=\f{A-{}^tA}{2} $$ したがって, $A$ を定めたら, $B,C$ が一意に決まる.
よって, 対称行列と交代行列の和は一意的である.

上の証明がよくわからなかった人でも, 次の行列の成分を使った証明だとわかるかもしれない.

解答の別解
[別解]
まず一意性を示そう.
$A$ を正方行列とする.
$B$ を対称行列, $C$ を交代行列とし,
$\ \ \ A=B+C$
が成り立っているとする.
$A,B,C$ それぞれの $(i,j)$ 成分を $a_{ij},b_{ij},c_{ij}$ と表すことにしよう.

このとき, ${}^tB=B,\ {}^tC=-C$ により,
$$\eq{ a_{ij} & =b_{ij}+c_{ij}, \\ a_{ji} & =b_{ji}+c_{ji}=b_{ij}-c_{ij}. }$$ 上の連立方程式に対して, $b_{ij},c_{ij}$ について解くと,
$$ b_{ij} =\f{a_{ij}+a_{ji}}{2}, \ \ \ c_{ij} =\f{a_{ij}-a_{ji}}{2}. $$ したがって, 任意の行列 $A$ に対して, 各 $b_{ij},c_{ij}$ が一意的に決まるので, $B,C$ も一意的に決まる.
よって, 和の一意性が示せた.

次に存在を示そう.
(すなわち, 正方行列 $A$ に対して, $A=B+C$ を満たす対称行列 $B$ と交代行列 $C$ が存在することを示そう.)
$b_{ij},c_{ij}$ を
$$ b_{ij}=\f{a_{ij}+a_{ji}}{2}, \ \ \ c_{ij}=\f{a_{ij}-a_{ji}}{2} $$ と定義したとき,
$$ b_{ij}=b_{ji},\ \ \ c_{ij}=-c_{ji}. $$ したがって, $B$ は対称行列であり, $C$ は対称行列である.
よって, 存在が示せた.

問題
次の行列を対称行列と交代行列の和に表せ.
$$ A= \m{ 7 & 3 \cr 1 & 5 }, \ \ \ B= \m{ 3 & 2 & 0 \cr 0 & 3 & 2 \cr 0 & 0 & 3 } $$

解答
[解答]
$$\eq{ A & =\f{A+{}^tA}{2}+\f{A-{}^tA}{2} \\ & = \m{ 7 & 2 \cr 2 & 5 } + \m{ 0 & 1 \cr -1 & 0 }. \\ \\ B & =\f{B+{}^tB}{2}+\f{B-{}^tB}{2} \\ & = \m{ 3 & 1 & 0 \cr 1 & 3 & 1 \cr 0 & 1 & 3 } + \m{ 0 & 1 & 0 \cr -1 & 0 & 1 \cr 0 & -1 & 0 }. }$$

対称かつ交代である行列は零行列である

問題
正方行列 $A$ が対称かつ交代であるとき, $A$ は零行列であることを示せ.

解答
[証明]  $A$ は対称かつ交代なので, $A={}^tA=-A.$ ゆえに $A=O.$

奇数次の交代行列の行列式は零行列

問題
$A$ が $n$ 次の交代行列とする.
$n$ が奇数のとき, $\det A=0$ であることを示せ.

解答
[証明]  行列式の性質により, $$ \det(A)=\det(\tA)=\det(-A)=(-1)^n\det(A) =-\det(A). $$ $$ \th \det(A)=0. $$