マクローリン級数【例題】
$ \def\mod{\mathrm{mod}\ } $
この記事では、マクローリン級数の定義と例題を扱います。
具体的には, $e^x,\ \sin x,\ \cos x$ などの関数について考えます。
関数 $f(x)$ のマクローリン級数を求めるためには $n$ 次導関数 $f^{(n)}(x)$ を(帰納法を用いて)求めることが必要です。 本記事では、その計算も省略せずに説明しています。
マクローリン級数とは?
定義
$f(x)$ は点 $0$ を含む開区間 $I \sub \R$
上で無限回微分可能な関数とする.
このとき, べき級数
$$ \sum_{n=0}^\iy \f{f^{(n)}(0)}{n!}x^n
= f(0)+f'(0)x+\f{f''(0)}{2!}x^2+ \cd +\f{f^{(n)}(0)}{n!}x^n+\cd $$
を $f(x)$ のマクローリン級数(Maclaurin series)という.
補足:マクローリン級数が収束し, 元の関数 $f(x)$ に一致するとき, その級数を $f(x)$ のマクローリン展開(Maclaurin expansion)という. ※関数 $f(x)$ が点 $0$ で無限回微分可能ならば, $f(x)$ のマクローリン級数は常に存在するが, それがマクローリン展開になるとは限らない. (参照:マクローリン展開【証明】)
例題
指数関数 $e^x$
例題
$e^x$ のマクローリン級数を求めよ.
[解答]
$f(x)=e^x$ とおく. 各 $n\in \N$ に対して,
$f^{(n)}(x)=e^x$ なので,
$$ f^{(n)}(0)=1\ \ \ (\all n\in \N) $$
が成り立つ. したがって, $e^x$ のマクローリン級数は
$$ 1+x+\f{x^2}{2!}+\cd
+\f{x^n}{n!}+\cd $$
である.
注意:このように関数 $f(x)$ のマクローリン級数を求めるには,
$f^{(n)}(0)$ を求めるだけでよく, とても簡単である.
しかし, $f(x)$ のマクローリン展開を求めるためには,
さらに剰余項が0に収束することを示す必要がある.
上の例題では $e^x$ のマクローリン級数を求めたが, それだけでは等式: $$ e^x=1+x+\f{x^2}{2!}+\cd +\f{x^n}{n!}+\cd $$ が成り立つことまでは結論できない. 剰余項が0に収束することを示していないからである.
詳細はマクローリン展開【証明】を参照.
三角関数 $\sin x,\ \cos x$
$\sin x$ および $\cos x$ のマクローリン級数の求め方は基本的に $e^x$ の場合と同様である. ただ, $n$ 次導関数 $f^{(n)}(x)$ を求める際, 数学的帰納法を用いる.
例題
$\sin x$ のマクローリン級数を求めよ.
[解答]
$f(x)=\sin x$ とおく.
$$ f^{(n)}(x)=\sin\le(x+\f{n\pi}{2}\ri) $$
であることが数学的帰納法によって示せる. 実際, 上式の両辺を微分すれば
$$\eq{
f^{(n+1)}(x)
& =\cos\le(x+\f{n\pi}{2}\ri)
\\ & =\sin\f{\pi}{2} \c \cos\le(x+\f{n\pi}{2}\ri)
+\sin\le(x+\f{n\pi}{2}\ri) \c \cos\f{\pi}{2}
\\ & =\sin\le(x+\f{(n+1)\pi}{2}\ri)
}$$
となる(※計算に加法定理を用いた). したがって,
$$f^{(n)}(0)=\sin\le(\f{n\pi}{2}\ri)=
\case{
0 & \te{if}\ \ n\equiv 0\ \ (\mod 4)
\cr 1 & \te{if}\ \ n\equiv 1\ \ (\mod 4)
\cr 0 & \te{if}\ \ n\equiv 2\ \ (\mod 4)
\cr -1 & \te{if}\ \ n\equiv 3\ \ (\mod 4)
}$$
なので, $\sin x$ のマクローリン級数は
$$ x-\f{x^3}{3!}+\f{x^5}{5!}-\cd
+(-1)^n\f{x^{2n+1}}{(2n+1)!}+\cd $$
である.
※$n\equiv 1\ \ (\mod 4)$ は合同式であり, $n$ を $4$ で割れば $1$ あまることを意味する.
※解答では三角関数の加法定理 $$ \sin(x+y)=\sin x\cos y + \cos x \sin y $$ を用いた.
例題
$\cos x$ のマクローリン級数を求めよ.
[解答]
$f(x)=\cos x$ とおく.
$$ f^{(n)}(x)=\cos\le(x+\f{n\pi}{2}\ri) $$
であることが数学的帰納法によって示せる. 実際, 上式の両辺を微分すれば
$$\eq{
f^{(n+1)}(x)
& =-\sin\le(x+\f{n\pi}{2}\ri)
\\ & =\cos\f{\pi}{2} \c \cos\le(x+\f{n\pi}{2}\ri)
-\sin\le(x+\f{n\pi}{2}\ri) \c \sin\f{\pi}{2}
\\ & =\cos\le(x+\f{(n+1)\pi}{2}\ri)
}$$
となる(※計算に加法定理を用いた).
したがって,
$$f^{(n)}(0)=\cos\le(\f{n\pi}{2}\ri)=
\case{
1 & \te{if}\ \ n\equiv 0\ \ (\mod 4)
\cr 0 & \te{if}\ \ n\equiv 1\ \ (\mod 4)
\cr -1 & \te{if}\ \ n\equiv 2\ \ (\mod 4)
\cr 0 & \te{if}\ \ n\equiv 3\ \ (\mod 4)
}$$
なので, $\cos x$ のマクローリン級数は
$$ 1-\f{x^2}{2!}+\f{x^4}{4!}-\cd
+(-1)^n\f{x^{2n}}{(2n)!}+\cd $$
である.
※解答では三角関数の加法定理 $$ \cos(x+y)=\cos x\cos y - \sin x \sin y $$ を用いた.
対数関数 $\log (1+x)$
例題
$\log (1+x)$ のマクローリン級数を求めよ.
[解答]
$f(x)=\log (1+x)$ とおく. $n\geq 1$ に対して,
$$ f^{(n)}(x) = \f{(-1)^{n-1}(n-1)!}{(1+x)^n} $$
であることが帰納法から示せる. 実際, 上式の両辺を微分すると,
$$ f^{(n+1)}(x) = \f{(-1)^n n!}{(1+x)^{n+1}} $$
となる. したがって, $n\geq 1$ に対して,
$$ f^{(n)}(0)=(-1)^{n-1}(n-1)!. $$
ゆえに, $\log (1+x)$ のマクローリン級数は
$$ x-\f{x^2}{2}+\f{x^3}{3}-\cd
+(-1)^{n-1}\f{x^n}{n}+\cd $$
である.
分数関数・無理関数
例題
$(1+x)^\a$ のマクローリン級数を求めよ.
ただし, $\a$ は任意の実数とする.
[解答]
$f(x)=(1+x)^\a$ とおく.
$$ f^{(n)}(x)=\a(\a-1)\cd(\a-n+1)(1+x)^{\a-n} $$
なので,
$$ f^{(n)}(0)=\a(\a-1)\cd(\a-n+1). $$
したがって, $(1+x)^\a$ のマクローリン級数は
$$ (1+x)^\a=1+\a x+\f{\a(\a-1)}{2!}x^2 +\cd
+\f{\a(\a-1)\cd(\a-n+1)}{n!}x^n+\cd $$
である.
$(1+x)^\a$ について, 特に
$\a=-1,-2,1/2$ の場合のマクローリン級数は次のようになる.
例
$\f{1}{1+x}$ のマクローリン級数:
$$ 1-x+x^2-x^3+ \cd +(-1)^nx^n+\cd $$
$\f{1}{(1+x)^2}$ のマクローリン級数:
$$ 1-2x+3x^2-4x^3+\cd + (-1)^n (n+1)x^n+\cd $$
$\r{1+x}$ のマクローリン級数:
$$\eq{
& \r{1+x}=1+\f{1}{2}x-\f{1}{2\c 4}x^2
+\f{1\c 3}{2\c 4\c 6}x^3
\\ &\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ -\cd
+(-1)^{n-1}\f{(2n-3)!!}{2n!!}x^n+\cd
}$$