Takatani Note

広義固有空間の求め方【例題】

$ \def\W{\widetilde{W}} \def\la{\left\langle} \def\ra{\right\rangle} \def\a{\alpha} \def\b{\beta} \def\op{\oplus} \def\go{\Rightarrow} $

この記事では、広義固有空間(一般固有空間または準固有空間)の求め方について解説します。

固有値や固有空間に関しては固有値と固有多項式または 固有空間と固有ベクトル【例題】が詳しいです。

まず, 固有空間と広義固有空間の定義を確認します。

定義
$A\in M_n(\C)$ とし, $\a\in \C$ を $A$ の固有値とする. $$ W(\a):=\Ker(A-\a I) =\{\x\in \C^n \mid (A-\a I)\x=\0\} $$ を固有値 $\a$ に対する固有空間(eigenspace)という.

定義
$A$ を $n$ 次複素行列, $\a$ を $A$ の固有値とする. ある自然数 $k$ に対して $$ (A-\a I)^k\x=0 $$ を満たす $\x\in \C^n\sm\{\0\}$ を $A$ の固有値 $\a$ に対する広義固有ベクトル(generalized eigenvector)という.
固有値 $\a$ に対する広義固有ベクトル全体に $\0$ を加えた集合: $$ \W(\a):=\{\x \in \C^n \mid \exists k\in \N,\ (A-\a I)^k\x=0.\} $$ を $\a$ に対する広義固有空間(generalized eigenspace)という.

広義固有空間 $\W(\a)$ は固有空間 $W(\a)$ を拡張した空間である. つまり, $W(\a)\subset \W(\a)$ が成り立つ.

問題
広義固有空間 $\W(\a)$ は $\C^n$ の部分空間であることを示せ.

解答
[解答]
$\x,\y\in \W(\a),\ c\in \C$ とする. このとき, $$ (A-\a I)^k\x=\0,\ \ \ \ \ (A-\a I)^l\y=\0 $$ となる自然数 $k,l$ がとれる. すると, $$\eq{ & (A-\a I)^{k+l}(\x+\y)=\0, \\ & (A-\a I)^k(c\x)=c(A-\a I)^k\x=\0 }$$ により, $\x+\y,c\x\in \W(\a)$ である. よって $\W(\a)$ は部分空間である.

性質

ここでは, 広義固有空間の性質を述べる.
まずは次の補題を用意する.

補題
$B,C\in M_n(\C)$ とし, $BC=CB$ を満たすとする. $\v\in \C^n$ とする. もし, $B^l\v=0,\ $ $C^m\v=0$ となるような自然数 $l,m$ が存在するならば, $(B+C)^t=0$ となるような自然数 $t$ が存在する.

[証明]  $t$ を十分大きくとって $(B+C)^t$ を二項定理により二項展開すれば, $(B+C)^t\v=0$ であることがわかる.

定理1
$A\in M_n(\C)$ とし, $\a$ を $A$ の固有値, $\v$ を $\a$ に対する広義固有ベクトルとする. このとき, $\a$ と異なる任意の $\b\in \C$ および任意の自然数 $m$ に対して, $$ (A-\b I)^m\v\ \ (\neq \0) $$ も $\a$ に対する広義固有ベクトルである.

証明
[証明]  $(A-\b I)^m(\v)=\v'$ とおく. 仮定により, ある自然数 $l$ に対して $$ (A-\a I)^l(\v)=\0 $$ が成り立つから, $\v'$ についても $$ (A-\a I)^l(\v')=(A-\b I)^m\big( (A-\a I)^l(\v) \big)=\0$$ が成り立つ. 残るのは $\v'\neq \0$ の証明である. もし $\v'=(A-\b I)^m(\v)=\0$ ならば, $$ B=\a I-A,\ \ \ C=A-\b I $$ とおくとき, $B^l\v=\0,\ \ C^m\v=\0$ が成り立ち, $B,C$ は交換可能であるから, 補題Aによって, ある自然数 $t$ に対して $(B+C)^t(\v)=\0$ とならなければならない. しかるに $B+C=(\a-\b)I$ であるから, $$ (B+C)^t(\v)=(\a-\b)^t \v $$ となり, $\a\neq \b,\ \v\neq \0$ であるから $(B+C)^t(\v)$ は決して $\0$ とはなり得ない. これで矛盾が導かれた.

定理3
$A\in M_n(\C)$ とし, $\a_1,\cd,\a_s$ を $A$ の相異なる固有値とする. このとき, これらの固有値に対する広義固有ベクトル $\v_1,\cd,\v_s$ は線形独立である.

証明
[証明]  $s$ に関する帰納法で示す. $s=1$ のときは明らかである. $s\geq 2$ とし, $c_i$ をスカラーとして $$ c_1\v_1+\cd+c_s\v_s=0 $$ とする. $\v_s$ は $\a_s$ に対する広義固有ベクトルであるから, $(A-\a_i I)^l(\v_s)=0$ となるような自然数 $l$ が存在する. そこで上式両辺の $(A-\a_s I)^l$ による像を $$ c_1(A-\a_s I)-t(\v_1)+\cd+ c_{s-1}(A-\a_s I)^l(\v_{s-1})=\0.$$ $(A-\a_s I)^t(\v_i)=\v_i'\ (i=1,\cd,s-1)$ とおけば $$ c_1\v_1'+\cd+c_{s-1}\v_{s-1}'=0. $$ 仮定によって $\a_i\neq \a_s\ (i=1,\cd,s-1)$ であるから, 補題Bにより $\v_i'$ は固有値 $\a_i$ に対する広義固有ベクトルである. ゆえに, 帰納法の仮定から $c_1=\cd=c_{s-1}=0$ が得られ, したがって, また $c_s=0$ が得られる. これで主張が証明された.

上の定理から次が成り立つ.


$\a_1,\cd,\a_s$ を $A$ の相異なる固有値とすれば, 広義固有空間の和 $\W(\a_1)+\cd+\W(\a_s)$ は直和である.

証明
[証明]  $Z=\W(\a_1)+\cd+\W(\a_s)$ とおく. $\bm{z}$ を $Z$ の任意の元とし, $$ \bm{z}=\v_1+\cd+\v_s=\v_1'+\cd+\v_s' \ \ \ (\v_i,\v_i'\in \W(\a_i)) $$ とする. このとき $\v_i-\v_i'=\v_i''$ とおけば $$ \v_1''+\cd+\v_s''=0\ \ \ \ \ (\v_i''\in \W(\a_i)) \tag{*}$$ となるが, 前定理によって相異なる固有値に対する固有ベクトルは線形独立であるから, $(*)$ が成り立つためには, 明らかに $$ \v_1''=\cd=\v_s''=0 $$ でなければならない. ゆえに $\v_i=\v_i'\ (i=1,\cd,s).$ すなわち $Z$ の元を $\W(\a_i)$ の元の和として表すしかたは一意的である.

分解定理

この節では,『ベクトル空間 $\C^n$ は広義固有空間の直和に分解される』という分解定理を証明する.

はじめに「ユークリッドの互除法」に関する多項式の補題を用意する.

補題
多項式 $\phi_1(x),\cd,\phi_s(x)\in K[x]$ は定数以外の共通因子を持たず, 各 $\phi_i(x)$ に対して, $\deg \phi_i(x)\geq 1$ を満たすものとする. さらに $s\geq 2$ とする. このとき, ある多項式 $g_1(x),\cd,g_s(x)\in K[x]$ が存在して, $$ \phi_1(x)g_1(x)+\cd+\phi_s(x)g_s(x)=1. $$

証明
[証明]  $\phi_1(x),\cd,\phi_s(x)$ によって生成される $K[x]$ のイデアルを $I$ とおく. $K[x]$ は単項イデアル整域なので, $(h(x))=I$ となる $h(x)\in K[x]$ がとれる. 仮定により $h(x)$ は $0$ 以外の定数であるから, $K[x]=I.$

さて, 準備ができたので分解定理を示そう.

定理 (分解定理)
$A\in M_n(\C)$ とし, $\a_1,\cd,\a_s$ を $A$ の相異なる固有値全体とする. $A$ の最小多項式 $\phi_A(x)$ は $$ \phi_A(x)=(x-\a_1)^{m_1}(x-\a_2)^{m_2}\cd (x-\a_s)^{m_s} $$ とする. このとき, $$ \W(\a_i)=\Ker(A-\a_i I)^{m_i} $$ であり, $\C^n$ は次のように直和分解される. $$ \C^n=\W(\a_1)\op \W(\a_2)\op \cd \op \W(\a_s). $$

証明
[証明]  $s=1$ のとき, $\phi_A(x)=(x-\a_1)^{m_i}$ なので $(A-\a_1 I)^{m_i}=O.$ 従って $\C^n=\W(\a_1)=\Ker(A-\a_1 I)^{m_i}$ であるから, 定理が成り立つ.
$s\geq 2$ のとき, 各 $i=1,2,\cd,s$ に対して, $$\eq{ & V(\a_i)=\Ker(A-\a_i I)^{m_i}, \\[4pt] & \phi_i(x)=\phi_A(x)/(x-\a_i)^{m_i} }$$ とおく. $\phi_1(x),\cd,\phi_s(x)$ には共通因子がないので, 上の補題を適用すると, $$ \phi_1(x)g_1(x)+\cd+\phi_s(x)g_s(x)=1. $$ $\x\in \C^n$ に対して, $\x_i=\phi_i(A)g_i(A)\x$ とおけば, 上の等式から $$ \x_1+\cd+\x_s=\x $$ である. $\phi_A(A)=O$ により, $$ (A-\a_i I)^{m_i}\x_i=(A-\a_i I)^{m_i}\phi_i(A)g_i(A)\x =\phi_A(A)g_i(A)\x=0. $$ ゆえに $\x_i\in V(\a_i).$ これが任意の $\x\in \C^n$ について成り立つから, $$ \C^n=V(\a_1)+\cd+V(\a_s). $$ 各 $i$ に対して $V(\a_i)\sub \W(\a_i)$ であるから, (上の系により,) $$\eq{ \C^n & =V(\a_1)+ \cd + V(\a_s) \\ & \sub \W(\a_1)+ \cd + \W(\a_s) \\ & = \W(\a_1)\op \cd \op \W(\a_s) \sub \C^n. }$$ $$ \th \ \ \C^n=\W(\a_1)\op \cd \op \W(\a_s). $$ 最後に, $\W(\a_i)=V(\a_i)$ は背理法によって直ちに示される.

固有多項式は最小多項式で割り切れるので, 上の定理からとくに次が成り立つ.


$A\in M_n(\C)$ とし, $\a_1,\cd,\a_s$ を $A$ の相異なる固有値全体とする. $A$ の固有多項式 $\Phi_A(x)$ は $$ \Phi_A(x)=(x-\a_1)^{n_1}(x-\a_2)^{n_2}\cd (x-\a_s)^{n_s} $$ とする. このとき, 各 $i=1,\cd,s$ に対して, $$ \W(\a_i)=\Ker(A-\a_i I)^{n_i} $$

この系により, 広義固有空間を求めるために最小多項式を見つける計算は必要はない. その点で系のほうが実際の計算問題で有用である.

例題
次の行列の各固有値に対する広義固有空間を求めよ.
$A= \m{ 2 & 1 & 1 \cr 0 & 2 & 0 \cr 0 & 0 & 1 }$

解答
[解答]
$\Phi_A(x)=(x-2)^2(x-1)$ により, $A$ の固有値は $2$ と $1$ である. 系により, $$ \W(2)=\Ker(A-2I)^2,\ \ \ \W(1)=\Ker(A-I) $$ である. まず, $\W(2)$ については $$ (A-2I)^2= \m{ 0 & 1 & 1 \cr 0 & 0 & 0 \cr 0 & 0 & -1 } \m{ 0 & 1 & 1 \cr 0 & 0 & 0 \cr 0 & 0 & -1 } = \m{ 0 & 0 & -1 \cr 0 & 0 & 0 \cr 0 & 0 & 1 } $$ により, $$ \W(2)=\la \m{1\\0\\0},\m{0\\1\\0} \ra.$$ 次に, $\W(1)$ は $$ (A-I)= \m{ 1 & 1 & 1 \cr 0 & 1 & 0 \cr 0 & 0 & 0 } $$ により, $$ \W(1)=\la \m{1\\0\\-1}\ra.$$

広義固有空間の次元

定理 (広義固有空間の次元)
$V$ を $\C$ ベクトル空間, $T$ を $V$ 上の線形変換, $\a_1,\cd,\a_s$ を $T$ の相異なる固有値全体とする. $T$ の固有多項式 $\Phi_T(x)$ は $$ \Phi_T(x)=(x-\a_1)^{n_1}(x-\a_2)^{n_2}\cd (x-\a_s)^{n_s} \tag{*}$$ とする. このとき, 各 $i=1,\cd,s$ に対して, $$ \dim \W(\a_i)=n_i. $$

証明
[証明]  $\W(\a_i)$ は $T$ の不変部分空間なので, $T$ の $\W(\a_i)$ への制限を $T_i$ とすれば, $$ \Phi_T(x)=\Phi_{T_1}(x)\Phi_{T_2}(x)\cd \Phi_{T_s}(x)$$ である. ここで $T_i$ は $\a_i$ 以外の固有値をもたない.
(実際, $\v$ を $\W(\a_i)$ の $0$ でない元とすれば, 定理1から特に, $\a_i$ と異なるスカラー $\b$ に対して $(T-\b I)(\v)\neq 0,$ したがって $T(\v)\neq \b \v$ となる. これは $T$ が $\W(\a_i)$ 上では $\a_i$ 以外の固有値をもたないことを示している.)

したがって, $\dim \W(\a_i)=n_i'$ とすれば, $$ \Phi_{T_i}=(x-\a_i)^{n_i'} $$ でなければならない. これより $$ \Phi_T(x)=(x-\a_1)^{n_1'}(x-\a_2)^{n_2'}\cd (x-\a_s)^{n_s'}. $$ これと $(*)$ とを比較すれば, 各 $i$ に対して $n_i'=n_i$ でなければならない. よって定理が示された.

上の定理を行列の言葉に言い換えると次のようになる.

定理X
$A\in M_n(\C)$ とし, $\a_1,\cd,\a_s$ を $A$ の相異なる固有値全体とする. $A$ の固有多項式 $\Phi_A(x)$ は $$ \Phi_A(x)=(x-\a_1)^{n_1}(x-\a_2)^{n_2}\cd (x-\a_s)^{n_s} $$ とする. このとき, 各 $i=1,\cd,s$ に対して, $$ \dim \W(\a_i)=n_i. $$

例題
次の行列の各固有値に対する広義固有空間の「次元」を求めよ.
$A= \m{ 2 & 1 & 1 & 0 \cr 0 & 2 & 0 & 1 \cr 0 & 0 & 2 & 0 \cr 0 & 0 & 0 & 5}$

解答
[解答]
$\Phi_A(x)=(x-2)^3(x-5)$ により, $A$ の固有値は $2$ と $5$ である. 系により, $$ \dim\W(2)=3,\ \ \ \dim \W(5)=1. $$

対角化可能の条件

最後に, 広義固有空間の応用として次の対角化可能の必要十分条件を示そう.

定理
$A\in M_n(\C)$ とし, $A$ の相異なる固有値全体が $\a_1,\cd,\a_s$ であるとする. このとき, 次の(1)-(8)は互いに同値である.
(1) $A$ は対角化可能である.
(2) $n$ 個の線形独立な固有ベクトルがとれる.
(3) $\C^n=W(\a_1)\oplus \cd \oplus W(\a_s).$
(4) $\dim\C^n=\dim W(\a_1)+\cd+\dim W(\a_s).$
(5) $W(\a_i)$ の次元は固有値 $\a_i$ の重複度に等しい.
(6) $\dim \W(\a_i)=\dim W(\a_i)\ (\all i).$
(7) $\W(\a_i)=W(\a_i)\ (\all i).$
(8) $A$ の最小多項式 $\phi_A(x)$ は重根をもたない.

証明
[証明]  (8) $\go$ (7) 分解定理において $m_1=\cd=m_s=1$ の場合を考えればよい.
(7) $\go$ (6) 明らか.
(6) $\go$ (5) 定理Xにより $\dim\W(\a_i)$ は $\a_i$ の重複度に等しい.
(5) $\go$ (4) 重複度の定義により, 各固有値の重複度の総和は $n$ である.
(4) $\go$ (3) 固有空間の和は直和である.

(3) $\go$ (2) $W(\a_i)$ の基底を 各 $i=1,\cd,s$ について一組ずつ選び, それら全体を考えればよい.

(2) $\go$ (1) $n$ 個の線形独立な固有ベクトルを $\x_1,\cd,\x_n$ とすれば, これは $\C^n$ の基底である. $P=(\x_1,\cd,\x_n)$ とおけば, $P^{-1}AP$ は対角行列になる.

(1) $\go$ (3) ある正則行列 $P\in M_n(\C)$ があって, $D:=P^{-1}AP$ が対角行列であるとする. このとき, $D$ の最小多項式 $\phi_D(x)$ は重根を持たない. そして, $\phi_D(x)=\phi_A(x)$ により, $A$ の最小多項式も重根を持たない.

定理の(1)から(8)のうち, とくに(5)と(8)が 対角化可能の判定問題で役立つ.