Takatani Note

ネーター環でない例

この記事では, ネーター環でない例を3つ紹介します。
まず, ネーター環の定義を確認しておきます。

定義
環 $A$ がネーター環(Noetherian ring)であるとは $A$ が次の条件を満たすことである. $A$ のイデアルの任意の増大列: $$ I_1 \sub I_2 \sub I_3 \sub \cd $$ に対して, ある自然数 $n$ が存在して $I_n=I_{n+1}=\cd$ となる.

ネーター環は次の性質をもちます。

定理
環 $A$ について次は同値である.
(1) $A$ はネーター環である.
(2) $A$ のすべてのイデアルは有限生成である.
(3) $A$ のイデアルの空でないすべての集合は極大元をもつ.

[証明]  [AM Prop.6.1]と[AM Prop.6.2]参照.

ネーター環の例として, 単項イデアル整域, 多項式環 $k[x_1,\cdots,x_n]$ などが基本的です。

ネーター環でない例


$k[x_1,x_2,x_3,\cdots]$ はネーター環でない.

証明
[証明]  イデアルの増大列
\[ (x_1)\subsetneq (x_1,x_2)\subsetneq \cdots\] は狭義単調増大の無限列になる.
従って,$k[x_1,x_2,\cdots]$ はネーターでない.


$k[x,y]$ の部分環 $k[xy,xy^2,xy^3,\cdots]$ はネーターでない.

証明
[証明]  イデアルの増大列
\[ (xy)\subsetneq (xy,xy^2) \subsetneq (xy,xy^2,xy^3) \subsetneq \cdots \] は狭義単調増大である.

この例からネーター環の部分環は必ずしもネーターとは限らないことがわかります。


代数的整数の集合のなす環はネーターでない.

証明
[証明]  イデアルの増大列
\[ (\sqrt{2})\subsetneq (\sqrt[4]{2}) \subsetneq (\sqrt[8]{2})\subsetneq \cdots \] は狭義単調増大である.

【付録】ネーターでない非可換環


自由代数 $\C\langle x,y\rangle$ は左ネーターでも右ネーターでもない.
実際, イデアル:
$\ \ \ I=(x,xy,xy^2,\cdots)$
は左イデアルとして有限生成でない.
(※ $I$ は右イデアルとしては有限生成である. 実際, $I=xR$ である.)
したがって, $\C\langle x,y\rangle$ は左ネーターでない.
$\C\langle x,y\rangle$ が右ネーターでないことは同様に
$\ \ \ I=(x,yx,y^2x,\cdots)$
を考えればわかる.


自由代数 $\C\langle x,y\rangle$ はネーターでない.
実際, イデアル:
$\ \ \ J:=(xy+yx,x^2y+yx^2,x^3y+yx^3,\cdots)$
とすると, $J$ は両側イデアルとして有限生成でない.
よって, $R$ はネーターでない.

なお, 自由代数の中で有名なものと言えば, ワイル代数:
\[ \C\langle x,y\rangle /(yx-xy-1)\] という非可換代数があります。
このワイル代数は単純環なので, ネーターです。