Cohen-Macaulay環の判定法
この記事では環がCohen-Macaulayであるかどうか判定する方法を紹介します。
定義
$A$ をネーター局所環とする.
$\depth A=\dim A$ が成り立つとき,
$A$ はCohen-Macaulay環という.
(※略してCM環と呼ぶこともある.)
ネーター局所環だけでなく, 一般のネーター環に対するCohen-Macaulay環の定義は次です。
定義
$A$ をネーター環とする.
$A$ が任意の素イデアル $\p$ に対して, その局所化 $A_\p$
がCohen-Macaulay環であるとき,
$A$ はCohen-Macaulay環という.
例
例
アルティン環(すなわち0次元ネーター環)はCohen-Macaulay環である.
実際, ネーター環は $\depth A\leq\dim A$ が常に成り立つので,
$\dim A=0$ のとき, $\depth A=\dim A=0$ である.
特に, 体はCohen-Macaulay環である.
例
$A$ がCohen-Macaulay環ならば $A[x]$ もCohen-Macaulay環である.
特に, $k[x_1,\cdots,x_n]$ はCohen-Macaulay環である.
例
$f\in k[x_1,\cdots,x_n]$ に対して, 超曲面
$k[x_1,\cdots,x_n]/(f)$ はCohen-Macaulay環である.
実際, 下記の定理よりただちにわかる.
定理[松村 定理17,3(ii)]
$(A,\m)$ ネーター局所環とし, $x\in\m$ を $A$-正則元とする.
このとき, $A$ はCohen-Macaulay $\iff$ $A/(x)$ はCohen-Macaulay.
例
$A:=\C[t^3,t^4,t^5]$ はCohen-Macaulay環である.
[証明]
$\C[t^3,t^4,t^5]\subset \C[t]$ は整拡大なので,
$\dim A=\dim\C[t]=1.$
$t^3$ は $A$-正則なので, $1\leq \depth\ A.$
これと, 公式 $\depth\ A\leq \dim A$ より,
$\depth\ A=\dim A=1.$
よって, $A$ はCohen-Macaulay環である.
Cohen-Macaulay環でない例
例
$A:=\C[x,y]/(x^2,xy)$ はCohen-Macaulay環でない.
[証明]
$x,\ y$ は $A$ の零因子であるので,
$A$ のすべての非単元は零因子である.
よって, $\depth A=0.$
次に, $\dim A\geq 1$ を示す.
$(x)$ は $A$ の素イデアルである. 実際,
\[ A/(x)=\C[x,y]/(x^2,xy,x)=\C[x,y]/(x)\cong \C[y]\]
より, $A/(x)$ は整域である.
素イデアルの列: $(x)\subset (x,\ y)$
より, $\dim A\geq 1.$
以上から, $\depth A\neq \dim A.$
よって, $A$ はCohen-Macaulay環でない.
次の定理はCohen-Macaulay環かどうか判定するのに非常に便利な定理である.
定理[松村 定理17,3(ii)]
$(A,\m)$ ネーター局所環とし, $x\in\m$ を $A$-正則元とする.
このとき, $A$ はCohen-Macaulay $\iff$ $A/(x)$ はCohen-Macaulay.
例
$A:=\C[x^4,x^3y,xy^3,y^4]$ はCohen-Macaulay環でない.
[証明]
$A$ がCohen-Macaulay環と仮定する.
$x^4$ は $A$-正則なので, 定理より $A/(x^4)$ はCohen-Macaulay環である.
$A/(x^4)$ において,
\[x^3y\cdot xy^3=x^4\cdot y^4=0 \]
より, $x^3y$ と $xy^3$ は零因子である. また,
\[(x^3y)^2\cdot y^4=x^4\cdot (xy^3)^2=0\]
より, $y^4$ は零因子である.
従って, $A/(x^4)$ のすべての非単元は零因子である.
よって, $\depth A/(x^4)=0$
ところが, $\dim A/(x^4)=\dim A-1=1$ より,
\[ \depth A/(x^4) \neq \dim A/(x^4). \]
よって, $A/(x^4)$ はCohen-Macaulay環でない.
これは矛盾する.