Takatani Note

$\P^1$ 上のモース関数

この記事では、実射影直線 $\P^1$ から $\R$への関数 $f:$ \[ (x:y)\mapsto \f{y^2}{x^2+y^2} \] について次を示します。

証明によって、局所座標表示について理解が深まると思います。

以下、定義・記号は[松本]に合わせます。
さらに、次の記号を以下、固定します。

$\ \ \ U_x:=\{(x:y)\in\P^1 \mid x\neq 0 \},$
$\ \ \ U_y:=\{(x:y)\in\P^1 \mid y\neq 0 \},$
$\ \ \ \ds r=\f{y}{x},\ s=\f{x}{y}.$

$\P^1$ 上の級関数

well-defined性

問題
$f:\P^1\to\R,$ \[ (x:y)\mapsto \f{y^2}{x^2+y^2} \] はwell-definedであることを示せ.

[証明]
任意の $a\in \R\sm\{0\}$ に対して,
\[ (ax:ay) \mapsto \f{(ay)^{\ 2}}{(ax)^{\ 2}+(ay)^{\ 2}} =\f{y^{\ 2}}{x^{\ 2}+y^{\ 2}} \] なので, 確かに $f$ はwell-definedである.

$C^∞$ 級関数であること

問題
$f:\P^1\to\R,$ \[ (x:y)\mapsto \f{y^2}{x^2+y^2} \] は$C^∞$ 級関数であることを示せ.

[証明]
$x\neq 0$ のとき, $(U_x;\ r)$ 上における $f$ の局所座標表示は,
$\ \ \ f(r)=\dfrac{r^2}{1+r^2}$
である.
$(\because \ r \mapsto (1:r)$ $\mapsto r^2/(1+r^2).)$
従って, $f$ は $U_x$ 上で $C^{\infty}$ 級である.

$y\neq 0$ のとき, $(U_y;\ s)$ 上における $f$ の局所座標表示は,
$\ \ \ f(s)=\dfrac{1}{1+s^2}$
である.
$(\because \ s \mapsto (s:1)$ $\mapsto 1/(1+s^2).)$
従って, $f$ は $U_y$ 上で $C^{\infty}$ 級である.

以上から, $f$ は $C^{\infty}$ 級関数である.

$f$ の臨界点について

臨界点の定義は下記のとおり.

定義
$M, N$を $C^{\infty}$ 級多様体, $f:M\to N$ を $C^{\infty}$ 級写像とする. $(df)_p:T_p(M)\to T_p(N)$ が全射のとき, $p$ を $f$ の 正則点 (regular point) という.
一方, $(df)_p$ が全射でないとき, $p$ を $f$ の 臨界点 (critical point) という.

問題
関数 $f:\P^1\to\R,$ \[ (x:y)\mapsto \f{y^2}{x^2+y^2} \] について次を示せ.
・$f$ の臨界点は $(0:1),\ $ $(1:0)$ である.
・2点とも非退化である.
・$(0:1)$ の指数は1で, $(1:0)$ の指数は0である.

証明
$(U_x;r)$ 上において, $f$ は
\[ f(r)=\dfrac{r^2}{1+r^2} \] と表される. $f$ を微分すると,
\[ \dd{f}{r}(r)=-\dfrac{2r}{(1+r^2)^2}, \ \ \dd{^2 f}{r^2}=-\dfrac{-6r^2+2}{(1+r^2)^3} \] であり, \[ \dd{f}{r}(r)=0 \iff r=0\] なので, $U_y$ 上では $f$ の臨界点は $(1:0)$ のみである.
\[ \dd{^2 f}{r^2}(0)=2>0 \] より, $(0:1)$ では非退化であり, その指数は0である.

$(U_y;s)$ 上において, 関数 $f$ は
\[ f(s)=\dfrac{1}{1+s^2} \] と表される. $f$ を微分すると,
\[ \dd{f}{s}(s)=-\dfrac{2s}{(1+s^2)^2},\ \ \dd{^2 f}{s^2}=-\dfrac{6s^2-2}{(1+s^2)^3} \] であり, \[ \dd{f}{s}(s)=0 \iff s=0 \] なので, $U_y$ 上では $f$ の臨界点は $(0:1)$ のみである.
\[ \dd{^2 f}{s^2}(0)=-2<0 \] より, $(0:1)$ では非退化であり, その指数は1である.

以上ですべて示せた.

以上から, モース理論の基本定理[横田 定理106]より次を得る.

\[ \P^1\simeq e^0\cup e^1. \]

【おまけ】 $\P^1$ の接ベクトル空間

この節では, $\P^1$ の接ベクトル空間を具体的な形で表す.


$\P^1$ を斉次座標 $(x_0:x_1)$ の実射影直線とする.
$U_i=\{(x_0:x_1)\in\P^1$ $\mid x_i\neq 0 \}$ とし,
$r=x_1/x_0,\ $ $s=x_0/x_1$ とし,
$(U_0;\ r), (U_1;\ s)$ を $\P^1$ の $C^{\infty}$ 級座標近傍とする.
$U_0\cap U_1$ 上では, $s=(1/r)$ である.

$\def\ddv#1{\left(\dfrac{\d}{\d #1}\right)_p}$ $U_0$ 上では, 各点 $p\in U_0$ に対して,
$\ \ \ T_p(\P^1)=<\ddv{r}>. $
$U_1$ 上では, 各点 $p\in U_1$ に対して,
$\ \ \ T_p(\P^1)=<\ddv{s}>$ である.
$U_0\cap U_1$ 上では, 基底変換
$\ \ \ \ddv{r}=\dd{s}{r}\ddv{s}$ $=\dfrac{-1}{r^2}\ddv{s}$ $=-s^2\ddv{s}$
が成り立つ.