Takatani Note

ヴァンデルモンドの行列式【例と証明】

この記事では、ヴァンデルモンドの行列式について例と証明を紹介します。

記法:
KR または C とする.

ヴァンデルモンドの行列式

定理A
任意の x1,,xnK に対して, |111x1x2xnx1 2x2 2xn 2x1 n1x2 n1xn n1|=i<j(xjxi) が成り立つ. ここで, 右辺は i,j1i<jn を満たす整数の組を動くときのすべての項 xjxi の積を意味する.

左辺の行列式をヴァンデルモンドの行列式(Vandermonde determinant)という.

定理Aの証明をする前に例をいくつか挙げる.


|1111xyzwx2y2z2w2x3y3z3w3|=(yx)(zx)(wx)(wy)(wz)(zy).


|111123452232425223334353|=(32)(42)(52)(53)(54)(43)=123211=12.

定理Aの証明

具体例 (n=2,3,4)

ここからは定理Aの証明について述べる.
まず具体例として n=2,3,4 の場合を証明してみよう.
とくに n=4 の場合の証明(計算)が理解できれば, 一般の場合の証明も自然と理解できるはずである.

(n=2)
|11xy|=yx

[証明]  行列式の定義から明らかである.

(n=3)
|111xyzx2y2z2|=(yx)(zx)(zy)

証明
[証明]  左辺の行列式について, 次の手順で計算する.
(I) 第2行の (x) 倍を第3行に加える.
(II) 第1行の (x) 倍を第2行に加える.
左辺=(I) |111xyz0y(yx)z(zx)|=(II) |1110yxzx0y(yx)z(zx)|=|yxzxy(yx)z(zx)|=(yx)(zx)|11yz|=(yx)(zx)(zy).

(n=4)
|1111xyzwx2y2z2w2x3y3z3w3|=(yx)(zx)(wx)(wy)(wz)(zy).

証明
[証明]  左辺の行列式について, 次の手順で計算する.
(I) 第3行の (x) 倍を第4行に加える.
(II) 第2行の (x) 倍を第3行に加える.
(III) 第1行の (x) 倍を第2行に加える.
(IV) n=3 の計算結果を用いる.
|1111xyzwx2y2z2w2x3y3z3w3|=(I)|1111xyzwx2y2z2w20y2(yx)z2(zx)w2(wx)|=(II)|1111xyzw0y(yx)z(zx)w(wx)0y2(yx)z2(zx)w2(wx)|=(III)|11110yxzxwx0y(yx)z(zx)w(wx)0y2(yx)z2(zx)w2(wx)|=|yxzxwxy(yx)z(zx)w(wx)y2(yx)z2(zx)w2(wx)|=(yx)(zx)(wx)|111yzwy2z2w2|=(IV)(yx)(zx)(wx)(wy)(wz)(zy).

帰納法による証明

n=2,3,4 の場合の証明がわかったと思うので, 一般の場合: |111x1x2xnx1 2x2 2xn 2x1 n1x2 n1xn n1|=i<j(xjxi) を証明する. まず, 帰納法による証明を述べる.

定理Aの証明
[証明]  数学的帰納法で示す.
n=2 のとき, 等式が成り立つことはただちにわかる.
一般の場合, 左辺の行列式について, 次の手順で計算する.
(1)n1 行の (x1) 倍を第 n 行に加える.
(2)n2 行の (x1) 倍を第 n1 行に加える.
    
(n2)2 行の (x1) 倍を第 3 行に加える.
(n1)1 行の (x1) 倍を第 2 行に加える.

すると, 下記の行列式になる. ():=|1110x2x1xnx10x2(x2x1)xn(xnx1)0x2 n2(x2x1)xn n2(xnx1)| さらに計算すると, ()=(x2x1)(xnx1)|111x2x3xnx2 2x3 2xn 2x2 n2x3 n2xn n2|=(x2x1)(xnx1)1<i<j(xjxi)=i<j(xjxi) よって, 等式が成り立つ.

【別証】因数定理による証明

次の(多変数多項式の)因数定理を使えば、エレガントな証明ができる.

因数定理 (多変数)
f(x1,,xn)n 変数多項式とし, g(x2,,xn)n1 変数多項式とする.
このとき, f(x1,,xn)x1g(x2,,xn) で割り切れるための必要十分条件は, f(g(x2,,xn),x2,,xn)=0 を満たすことである.

証明
[証明]  f,gx1 の多項式と見れば gx1 に関して定数である.
したがって, 一変数の場合の因数定理から主張は成り立つ.
※各変数について同様の主張が成り立つ.

では, この因数定理を用いた証明を述べる.

定理Aの別証
[証明]  x1,,xn を多項式の変数として見よう.
xj=xi とすれば, 左辺の行列の第 i 列と第 j 列が等しくなり, 左辺は0になる.
したがって, xj を変数とみた因数定理によって行列式は xjxi で割り切れる. ゆえに
左辺=Q(x)i<j(xjxi) と書ける. ※Q(x):=Q(x1,,xn)n 変数多項式.

次に, Q(x) が定数であることを示すために, 両辺の(多項式の)次数が等しいことを示そう.
左辺の次数は行列式の定義より,
1+2++n1=n(n1)2 である. 右辺の i<j(xjxi) の次数は異なる n 個の変数から2個選ぶ組み合わせを考えると, nC2=n(n1)2. したがって, 左辺と右辺の次数を比較すると, Q(x) は定数であることがわかる.

最後に, Q(x)=1 であることを示そう.
左辺の行列式の対角成分の積
x2x3 2xn n1 に着目すると, この単項式が出るのは対角成分の積しかないので, この項の係数は1である. 他方, i<j(xjxi)=(xnx1)(xnx2) (xnxn1)(xn1x1)(xn1x2)(xn1xn2)      (x3x1)(x3x2)(x2x1) より, 単項式 x2x3 2xn n1 の係数は1であることが分かる.
(実際, xn の指数が n1 になるためには, 上式1行目のそれぞれの括弧から xn を選ぶしかない.
なぜなら, 2行目以下は xn が1つもないからである.
同様に, 上式2行目はそれぞれの括弧から xn1 を選ぶしかない. 以下同様である.)
したがって, Q(x)=1 である.
よって, 求める等式が得られた.

参考文献

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