ヴァンデルモンドの行列式【例と証明】
この記事では、ヴァンデルモンドの行列式について例と証明を紹介します。
記法:
を または とする.
ヴァンデルモンドの行列式
定理A
任意の に対して,
が成り立つ.
ここで, 右辺は が
を満たす整数の組を動くときのすべての項 の積を意味する.
左辺の行列式をヴァンデルモンドの行列式(Vandermonde determinant)という.
定理Aの証明をする前に例をいくつか挙げる.
例
例
例
定理Aの証明
具体例
ここからは定理Aの証明について述べる.
まず具体例として の場合を証明してみよう.
とくに の場合の証明(計算)が理解できれば,
一般の場合の証明も自然と理解できるはずである.
例
[証明]
行列式の定義から明らかである.
例
- ▼ 証明
-
[証明]
左辺の行列式について, 次の手順で計算する.
第2行の 倍を第3行に加える.
第1行の 倍を第2行に加える.
例
- ▼ 証明
-
[証明]
左辺の行列式について, 次の手順で計算する.
第3行の 倍を第4行に加える.
第2行の 倍を第3行に加える.
第1行の 倍を第2行に加える.
の計算結果を用いる.
帰納法による証明
の場合の証明がわかったと思うので,
一般の場合:
を証明する.
まず, 帰納法による証明を述べる.
- ▼ 定理Aの証明
-
[証明]
数学的帰納法で示す.
のとき, 等式が成り立つことはただちにわかる.
一般の場合, 左辺の行列式について, 次の手順で計算する.
第 行の 倍を第 行に加える.
第 行の 倍を第 行に加える.
第 行の 倍を第 行に加える.
第 行の 倍を第 行に加える.
すると, 下記の行列式になる.
さらに計算すると,
よって, 等式が成り立つ.
【別証】因数定理による証明
次の(多変数多項式の)因数定理を使えば、エレガントな証明ができる.
因数定理 (多変数)
を 変数多項式とし,
を 変数多項式とする.
このとき,
が で割り切れるための必要十分条件は,
を満たすことである.
- ▼ 証明
-
[証明]
を の多項式と見れば は に関して定数である.
したがって, 一変数の場合の因数定理から主張は成り立つ.
※各変数について同様の主張が成り立つ.
では, この因数定理を用いた証明を述べる.
- ▼ 定理Aの別証
-
[証明]
を多項式の変数として見よう.
とすれば, 左辺の行列の第 列と第
列が等しくなり, 左辺は0になる.
したがって, を変数とみた因数定理によって行列式は
で割り切れる. ゆえに
と書ける. ※ は 変数多項式.
次に, が定数であることを示すために,
両辺の(多項式の)次数が等しいことを示そう.
左辺の次数は行列式の定義より,
である.
右辺の の次数は異なる 個の変数から2個選ぶ組み合わせを考えると,
したがって, 左辺と右辺の次数を比較すると,
は定数であることがわかる.
最後に, であることを示そう.
左辺の行列式の対角成分の積
に着目すると, この単項式が出るのは対角成分の積しかないので,
この項の係数は1である. 他方,
より, 単項式
の係数は1であることが分かる.
(実際, の指数が になるためには,
上式1行目のそれぞれの括弧から を選ぶしかない.
なぜなら, 2行目以下は が1つもないからである.
同様に, 上式2行目はそれぞれの括弧から を選ぶしかない. 以下同様である.)
したがって, である.
よって, 求める等式が得られた.