【ランク】階数と基本変形【性質と問題】
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この記事では、行列の階数(ランク)と基本変形について定義・性質・問題を扱います。
はじめに階数・基本変形・基本行列の定義を確認しておきます。
定義
階数(ランク)
定義
線形写像 $f$ に対して $\Im f$ の次元を $f$
の階数(rank)といい, $\rank f$ で表す. すなわち,
$$ \rank f=\dim(\Im f). $$
定義
$m\times n$ 行列 $A=(a_{ij})$ に対して
$$ f_A(\x)=A\x\ \ \ \ \ (\x \in K^n) $$
とおくことにより, 線形写像 $f_A:K^n\to K^n$ が定まる.
この線形写像 $f_A$ の階数を行列 $A$ の階数といい,
$\rank A$ で表す. つまり,
$$ \rank A=\dim(\Im A). $$
基本変形
定義
行列についての次の三種類の変形を列基本変形(elementary row operation)という.
(列1) ある列を何倍かしたものを他の列に加える.
(列2) 二つの列を入れ替える.
(列3) ある列に $0$ でない数をかける.
上の変形(列1),(列2),(列3)で列とあるところをすべて行でおきかえた変形を行基本変形(elementary column operation)という.
行, 列の場合を総称して基本変形(elementary operation)という.
定義
次の三種類(1),(2),(3)の行列を基本行列(elementary matrix)という. そして, $A$ が $m\times n$ 行列のとき,
列に関する基本変形は, $n$ 次の基本行列を右からかけることと同じである.
行に関する基本変形は, $n$ 次の基本行列を左からかけることと同じである.
$\def\dd{\ddots} \def\vd{\vdots} $
(1) 単位行列に対して, その $(i,j)$ 成分に $c$ を加えた行列:
$$ \begin{array}{l} \\ P(i,j;c)= \\ (i\neq j)\end{array}
\m{ 1
\\ & \dd
\\ & & 1 & \cd & c
\\ & & & \dd & \vd
\\ & & & & 1
\\ & & & & & \dd
\\ & & & & & & 1
}$$
(2) 単位行列の $i$ 列と $j$ 列を入れ替えたもの:
$$\begin{array}{l} \\ Q(i,j)= \\ (i\neq j)\end{array}
\m{ 1
\\ & \dd
\\ & & 1 &
\\ & & & 0 & \cd & 1
\\ & & & \vd & & \vd
\\ & & & 1 & \cd & 0
\\ & & & & & & 1
\\ & & & & & & & \dd
\\ & & & & & & & & 1
}$$
(3) 単位行列の $(i,i)$ 成分を $c$ でおきかえたもの:
$$\begin{array}{l} \\ R(i;\ c)= \\ (c\neq 0)\end{array}
\m{ 1
\\ & \dd
\\ & & 1 &
\\ & & & c
\\ & & & & 1
\\ & & & & & \dd
\\ & & & & & & \dd
\\ & & & & & & & 1
}$$
基本行列 $P,Q,R$ の逆行列については, $P(i,j;c)^{-1}=P(i,j;-c),\ $ $Q(i,j)^{-1}=Q(i,j),\ $ $R(i,c)^{-1}=R(i,c^{-1}).$
性質
定理
$m\times n$ 行列 $A$ は基本変形を有限回くり返して,
次の標準形に変形できる.
$$
\m{ I_r & O
\cr O & O}$$
ただし, $r$ は $A$ の階数であり, $I_r$ は $r$ 次単位行列である.
この行列は $(1,1),(2,2),\cd,(r,r)$ 成分が $1$ で,
他の成分がすべて $0$ である $m\times n$ 行列を表している.
[証明] [松坂 定理3.27]参照.
定理
$n$ 次正方行列 $A$ に対して次の(i)-(iii)は同値である.
(i) $A$ は正則行列である.
(ii) $\det(A)\neq 0.$
(iii) $\rank A=n.$
定理
任意の正則行列はいくつかの基本行列の積である.
定理
$n\times m$ 行列 $A$ と $m\times l$ 行列 $B$ について
$$ \rank AB \leq \rank A,\ \ \ \ \
\rank AB \leq \rank B. $$
- ▼ 証明
- [証明] 行列 $A,B$ を線形写像 $$ A:K^m \to K^n,\ \ \ \ \ B:K^l \to K^m $$ と考えれば, $\Im AB \sub \Im A$ により, $$ \rank AB=\dim\Im AB \leq \dim\Im A =\rank A. $$ $\dim (\Im AB) \leq \dim (\Im B)$ により, $$ \rank AB \leq \rank B. $$
定理
$\rank {}^t A=\rank A.$
定理
$n\times m$ 行列 $A,B$ に対して, 次は同値である.
(i) $\rank A=\rank B.$
(ii) ある $m$ 次正則行列 $P$ と $n$ 次正則行列 $Q$
によって $B=PAQ$ と表される.
この定理と「基本行列は正則である」ことから, 行列の基本変形について次が成り立つ.
系
行列 $A$ に対して, 行基本変形(または列基本変形)をしても
$A$ の階数は変わらない.
注意 階数を求めるだけの計算ならば行基本変形だけで $r$ 階の階段行列, たとえば, $$ \m{ 1 & * & * & * & * & * & * & * & * \cr 0 & 0 & 1 & * & * & * & * & * & * \cr 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1 & * & * & * \cr 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 }$$ がつくれて, $\rank A=r$ である. (上の例では $\rank=3.$)
問題
例題
次の行列の階数を求めよ.
$$ A=
\m{ 1&1&x
\cr 1&x&1
\cr x&1&1 } $$
- ▼ 解答
-
[解答]
$$ \det(A)=(x-1)^2(x+2) $$ なので, $x\neq 1,-2$ のとき, $A$ は正則なので, $\rank A=3$ である.
$x=1$ のとき, 明らかに $\rank A=1$ である.
$x=-2$ のとき, 行列 $A$ を次の手順で行基本変形をする.
$(a)$ 第1行の2倍を第3行に加え, 第1行の $(-1)$ 倍を第2行に加える.
$(b)$ 第2行を第3行に加える.
$$\eq{ A= \m{ 1&1&-2 \cr 1&-2&1 \cr -2&1&1 } & \xma{(a)} \m{ 1&1&-2 \cr 0&-3&3 \cr 0&3&-3 } \\ & \xma{(b)} \m{ 1&1&-2 \cr 0&-3&3 \cr 0&0&0 } }$$ これより, $\rank A=2$ である. 以上をまとめると, $$ \rank A=\case{ 1 & (x=1) \\ 2 & (x=-2) \\ 3 & (x\neq 1,-2) }$$
例題
次の行列の階数を求めよ.
$$ A=
\m{ 1&x&x
\cr x&1&x
\cr x&x&1 } $$
- ▼ 解答
-
[解答]
$$ \det(A)=(x-1)^2(2x+1) $$ なので, $x\neq 1,-1/2$ のとき, $A$ は正則なので, $\rank A=3$ である.
$x=1$ のとき, 明らかに $\rank A=1$ である.
$x=-1/2$ のとき, 行列 $2A$ を次の手順で行基本変形をする.
$(a)$ 第3行の2倍を第1行に加え, 第3行の $(-1)$ 倍を第2行に加える.
$(b)$ 第2行を第1行に加える.
$(c)$ 第1行と第3行を入れ替える.
$$\eq{ 2A= \m{ 2&-1&-1 \cr -1&2&-1 \cr -1&-1&2 } & \xma{(a)} \m{ 0&-3&3 \cr 0&3&-3 \cr -1&-1&2 } \\ & \xma{(b)} \m{ 0&0&0 \cr 0&3&-3 \cr -1&-1&2 } \\ & \xma{(c)} \m{ -1&-1&2 \cr 0&3&-3 \cr 0&0&0 } }$$ これより, $\rank A=2$ である. 以上をまとめると, $$ \rank A=\case{ 1 & (x=1) \\ 2 & (x=-1/2) \\ 3 & (x\neq 1,-1/2) }$$
【付録】次元とランクの違い
次元とランクの違いを説明する.
$V,W$ をベクトル空間とし, $f:V\to W$ を線形写像とする.
$\dim V$ とは 「$V$ における基底の元の個数」であり,
$\rank f$ とは
「線形写像 $f$ の像の次元」である.
前者はベクトル空間の($V$ の基底のとり方によらない)不変量である.
後者は線形写像の($V,W$ の基底のとり方によらない)不変量である.
たまに $\rank V$ や $\dim A$ と書かれたネット記事を見かけるが, これは間違いである. ベクトル空間に対してランクは定義されていないし, 行列 $A$ に対しても次元は定義されていない.