ジョルダン標準形の求め方
$ \def\p{\boldsymbol{p}} \def\vd{\vdots} $
この記事では, ジョルダン標準形について説明する.
記事の前半では, ジョルダン標準形だけを求める方法を解説する.
後半では, ジョルダン標準形に加えて,
変換行列も求める方法を解説する.
定義
ジョルダン細胞
定義
次の形の $n$ 次正方行列をジョルダン細胞(Jordan cell)という.
$$ J_n(\a ):=
\m{ \a & 1 & \cd & \cd & 0
\cr \vd &\a & 1 & & \vd
\cr \vd & &\ddots & \ddots & \vd
\cr \vd & & & \a & 1
\cr 0 &\cd&\cd &\cd & \a
}$$
例
$$ J_2(\a)=
\m{ \a & 1
\cr 0 & \a },\ \ \ \ \ \ \
J_3(\a)=
\m{ \a & 1 & 0
\cr 0 & \a & 1
\cr 0 & 0 & \a}
$$
ジョルダン行列
定義
対角線に沿ってジョルダン細胞が並んだ形の行列
$$ J_{n_1}(\a_1) \op \cd \op J_{n_r}(\a_r) :=
\m{ J_{n_1}(\a_1) & & O
\cr & \ddots &
\cr O & & J_{n_r}(\a_r) }$$
をジョルダン行列(Jordan matrix)とよぶ.
例
$$ J_2(\a)\op J_1(\b)=
\m{ \a & 1 & 0
\cr 0 & \a & 0
\cr 0 & 0 & \b },\ \ \ \ \ \ \
J_2(\a)\op J_2(\b)=
\m{ \a & 1 & 0 & 0
\cr 0 & \a & 0 & 0
\cr 0 & 0 & \b & 1
\cr 0 & 0 & 0 & \b }
$$
ジョルダン標準形
定義
$A \in M_n(\C)$ に対して, ある正則行列 $P \in \GL_n(\C)$
が存在して,
$$ J:=P^{-1}AP $$
がジョルダン行列になるとき,
$J$ を $A$ のジョルダン標準形(Jordan normal form)という.
性質
次の定理はジョルダン標準形の理論のおける基本定理である.
定理
任意の $A\in M_n(\C)$ に対して, ある正則行列 $P \in M_n(\C)$ が存在して,
$J:=P^{-1}AP$ がジョルダン行列になる.
また, この $J$ はその中のジョルダン細胞の順序を除けば
$A$ に対して一意的に定まる.
[証明] [松坂 定理8.20]参照.
この定理から特に次を得る.
系
$A\in M_n(\C)$ とし, $J$ を $A$ のジョルダン標準形とする.
このとき $A$ と $J$ の固有多項式, 最小多項式, 固有空間の次元はそれぞれ等しい.
この系は次の例で用いる.
例
2次行列のジョルダン標準形
$2$ 次行列に関しては次が成り立つ.
定理
任意の複素 $2$ 次行列は
$$
\m{ \a & 1
\cr 0 & \a }
,\ \ \ \ \
\m{ \a & 0
\cr 0 & \a }
,\ \ \ \ \
\m{ \a & 0
\cr 0 & \b }
$$
のいずれかに相似である. ただし $\a \neq \b$ とする.
つまり, $2$ 次行列のジョルダン標準形は上記の3つの型に分かれる.
それぞれの型の固有多項式, 最小多項式を表でまとめてみよう.
| ジョルダン行列 | 固有多項式 | 最小多項式 | |
|---|---|---|---|
| (1) | $\m{ \a & 1 \cr 0 & \a }$ | $(x-\a)^2$ | $(x-\a)^2$ |
| (2) | $\m{ \a & 0 \cr 0 & \a }$ | $(x-\a)^2$ | $(x-\a)$ |
| (3) | $\m{ \a & 0 \cr 0 & \b }$ | $(x-\a)(x-\b)$ | $(x-\a)(x-\b)$ |
この表から, 最小多項式が大事であることがわかる.
実際, 与えられた行列 $A$ に対し,
$A$ の最小多項式がわかれば, $A$ のジョルダン標準形が求まる.
具体例を述べる.
例題
次の行列のジョルダン標準形を求めよ.
$$ A=
\m{ 3 & 1
\cr -1 & 1 }
$$
[解答] $A$ の固有多項式は $(x-2)^2$ であり, $(A-2I)\neq O,\ (A-2I)^2=O$ から, $A$ の最小多項式も $(x-2)^2$ である. したがって $A$ のジョルダン標準形は $$ \m{ 2 & 1 \cr 0 & 2 }. $$
3次行列のジョルダン標準形
$3$ 次行列に関しては次が成り立つ.
定理
任意の複素 $3$ 次行列は
$$
\m{ \a & 1 & 0
\cr 0 & \a & 1
\cr 0 & 0 & \a }
,\ \ \ \ \
\m{\a & 1 & 0
\cr 0 & \a & 0
\cr 0 & 0 & \a }
,\ \ \ \ \
\m{\a & 0 & 0
\cr 0 & \a & 0
\cr 0 & 0 & \a }
$$
$$
\m{\a & 1 & 0
\cr 0 & \a & 0
\cr 0 & 0 & \b }
,\ \ \ \ \
\m{\a & 0 & 0
\cr 0 & \a & 0
\cr 0 & 0 & \b }
,\ \ \ \ \
\m{\a & 0 & 0
\cr 0 & \b & 0
\cr 0 & 0 & \g }
$$
のいずれかに相似である. ただし $\a,\b,\g$ は相異なる複素数とする.
つまり, $3$ 次行列のジョルダン標準形は上記の6つの型に分かれる.
それぞれの型の固有多項式, 最小多項式を表でまとめてみよう.
| ジョルダン行列 | 固有多項式 | 最小多項式 | |
|---|---|---|---|
| (1) | $\m{ \a & 1 & 0 \cr 0 & \a & 1 \cr 0 & 0 & \a }$ | $(x-\a)^3$ | $(x-\a)^3$ |
| (2) | $\m{\a & 1 & 0 \cr 0 & \a & 0 \cr 0 & 0 & \a }$ | $(x-\a)^3$ | $(x-\a)^2$ |
| (3) | $\m{\a & 0 & 0 \cr 0 & \a & 0 \cr 0 & 0 & \a }$ | $(x-\a)^3$ | $(x-\a)$ |
| (4) | $\m{\a & 1 & 0 \cr 0 & \a & 0 \cr 0 & 0 & \b }$ | $(x-\a)^2(x-\b)$ | $(x-\a)^2(x-\b)$ |
| (5) | $\m{\a & 0 & 0 \cr 0 & \a & 0 \cr 0 & 0 & \b }$ | $(x-\a)^2(x-\b)$ | $(x-\a)(x-\b)$ |
| (6) | $\m{\a & 0 & 0 \cr 0 & \b & 0 \cr 0 & 0 & \g }$ | $(x-\a)(x-\b)(x-\g)$ | $(x-\a)(x-\b)(x-\g)$ |
この表から, 最小多項式が大事であることがわかる.
実際, 与えられた行列 $A$ に対し,
$A$ の最小多項式がわかれば, $A$ のジョルダン標準形が求まる.
具体例を述べる.
例題
次の行列のジョルダン標準形を求めよ.
$A=
\m{\a & 1 & 1
\cr 0 &\a & 1
\cr 0 & 0 &\a }$
[解答] $A$ の固有多項式は $(x-\a)^3$ であり, $A$ の最小多項式は $(x-\a)^3$ である. したがって $A$ のジョルダン標準形は $$ \m{\a & 1 & 0 \cr 0 &\a & 1 \cr 0 & 0 &\a }. $$
例題
次の行列のジョルダン標準形を求めよ.
$A=
\m{\a & 0 & 1
\cr 0 &\a & 0
\cr 0 & 0 &\a }$
[解答] $A$ の固有多項式は $(x-\a)^3$ であり, $A$ の最小多項式は $(x-\a)^2$ である. したがって $A$ のジョルダン標準形は $$ \m{\a & 1 & 0 \cr 0 &\a & 0 \cr 0 & 0 &\a }. $$
4次行列のジョルダン標準形
2次,3次行列の場合, 最小多項式さえわかればジョルダン標準形が決定された.
では, 4次以上の行列も同様なのか? 話はそんなに単純でない。 実際, 次の例がある.
例
次の相異なるジョルダン行列 $A,B$ について,
両方とも固有多項式が $(x-\a)^4$ で最小多項式が
$(x-\a)^2$ である.
$$ A=
\m{\a & 1 & 0 & 0
\cr 0 &\a & 0 & 0
\cr 0 & 0 &\a & 1
\cr 0 & 0 & 0 & \a },
\ \ \ B =
\m{\a & 1 & 0 & 0
\cr 0 &\a & 0 & 0
\cr 0 & 0 &\a & 0
\cr 0 & 0 & 0 & \a }.
$$
※上の例の $A,B$ について
$$ \dim\Ker(A-\a I)=2,\ \ \dim\Ker(B-\a I)=3 $$
により, 固有空間の次元が異なる.
実は4次行列の場合, 固有多項式と最小多項式に加えて「固有空間の次元」がわかればジョルダン標準形が決定する.
変換行列
ジョルダン標準形と変換行列を求める方法
ここまでは, 強力な定理を認めた上で, ジョルダンの標準形を求めた.
そんな定理を使わずに, 直接的にできないだろうか? 定義どおりに, 変換行列 $P$ を求めてジョルダン標準形を直接求められないだろうか?
やや面倒だが、できることはできる. ただ, べき零行列について理解していないと, その計算のメカニズムを把握するのは難しい.
ここでは, 次の例題を紹介するだけに留める.
ポイントは一般的な固有空間 $$ \Ker(A-\a I)^k\ \ \ (k=1,2,3,\cd) $$ の考察である.
例題
次の行列のジョルダン標準形と変換行列を求めよ.
$$A=
\m{ 1 & -1
\cr 1 & 3 } $$
- ▼ 解答
- [解答] $A$ の固有多項式は $(x-2)^2$ なので, 固有値は $2$ のみで, その重複度は $2$ である. $$ A-2I= \m{ -1 & -1 \cr 1 & 1 },\ \ \ \Ker(A-2I)=\la \m{1\\-1}\ra $$ である. 次の包含関係に注意せよ. $$ \Ker(A-\a I)\subsetneqq \Ker(A-\a I)^2=\C^2. $$ ここで, $\C^2$ に属するが, $\Ker(A-2I)$ に属さないベクトルを任意にとろう. たとえば, $$ \p_2:=\m{1\\0} \in \C^2 $$ とする. さらに, $$ \p_1:=(A-2I)\p_2=\m{-1\\1} \in \Ker(A-2I) $$ とする. $$ P=(\p_1\ \p_2)= \m{ -1 & 1 \cr 1 & 0 } $$ とすれば, $$\eq{ AP & =(A\p_1\ A\p_2)=(2\p_1\ \p_1+2\p_2) \\ & =(\p_1\ \p_2) \m{ 2 & 1 \cr 0 & 2} =PJ_2(2) }$$ したがって $A$ のジョルダン標準形は $J_2(2)$ であり, 変換行列は上で定義した $P$ である.