Takatani Note

ジョルダン標準形の求め方【例題】

$$ \def\a{\alpha} \newcommand{\V}{\widetilde{V}} \newcommand{\la}{\left\langle} \newcommand{\ra}{\right\rangle} \newcommand{\p}{\boldsymbol{p}} \newcommand{\q}{\boldsymbol{q}} \def\op{\oplus} $$

この記事では、ジョルダン標準形の求め方について解説します。
最初にジョルダン行列の定義や性質を確認したあと, 2次、3次、4次の正方行列のジョルダン標準形「だけ」を求める方法を説明します。

記事の最後ではジョルダン標準形と「変換行列」を求める問題を扱います。

では最初に, ジョルダン行列とジョルダン標準形の定義とそれらに関する定理を復習します。

定義
$$ N_1=0,\ \ \ N_2= \m{ 0 & 1 \cr 0 & 0 },\ \ \ N_3= \m{ 0 & 1 & 0 \cr 0 & 0 & 1 \cr 0 & 0 & 0 },\cd, N_q= \m{ 0 & I_{q-1} \cr 0 & 0 } $$ と定義する. $\a\in \C$ として, $$ J_\a(q)=\a I_q+N_q $$ とおく. この $q$ 次の正方行列 $J_\a(q)$ を固有値 $\a$ のジョルダン細胞(Jordan block), または $\a$ 細胞という.
※$J_\a(q)$ を$J(\a,q)$ と表すこともある.

定義
対角線に沿ってジョルダン細胞が並んだ形の行列 $$ \m{ J(\a_1,q_1) & & O \cr & \ddots & \cr O & & J(\a_r,q_r) }$$ をジョルダン行列(Jordan matrix)とよび, この行列を $J(\a_1,q_1)\op \cd \op J(\a_r,q_r)$ で表すこともある.


$$J_2(5)= \m{ 5 & 1 \cr 0 & 5 } ,\ \ \ J_3(a)= \m{ a & 1 & 0 \cr 0 & a & 1 \cr 0 & 0 & a}, $$ $$J_3(a)\op J_2(b)= \m{ a & 1 & 0 & 0 & 0 \cr 0 & a & 1 & 0 & 0 \cr 0 & 0 & a & 0 & 0 \cr 0 & 0 & 0 & b & 1 \cr 0 & 0 & 0 & 0 & b }. $$

定義
$n$ 次複素正方行列 $A$ がある正則行列 $P$ によって $P^{-1}AP$ がジョルダン行列になったとき, それを $A$ のジョルダン標準形(Jordan normal form)という.

基本定理

ジョルダン標準形に関する定理を以下にまとめた.

定理A
$n$ 次複素正方行列 $A$ はあるジョルダン行列と相似である. すなわち, ある $n$ 次正則行列 $P$ をとれば, $P^{-1}AP$ がジョルダン行列になる. またそのジョルダン行列は, その中のジョルダン細胞の順序を除けば, $A$ に対して一意的に定まる.

[証明]  [松坂 定理8.20]参照.

定理B
$A\in M_n(\C)$ とし, $J$ を $A$ のジョルダン標準形とする. このとき, $A$ と $J$ の固有多項式, 最小多項式, 各固有空間の次元はそれぞれすべて等しい.

[証明]  $A$ と $J$ は相似なことから定理は成り立つ.

定理C
$A\in M_n(\C)$ とし, $A$ の相異なる固有値全体を $\a_1,\cd,\a_s$ とする. $A$ の最小多項式が $$ (x-\a_1)^{m_1}(x-\a_2)^{m_2}\cd (x-\a_s)^{m_s} $$ であるとする. このとき, $A$ のジョルダン標準形について, $\a_i$ 細胞の最大次数は $m_i$ である.

[証明]  $A-\a I_n$ はべき零行列なので, $n$ 次行列 $N_{q_1}\op N_{q_2}\op \cd \op N_{q_s}$ の形に相似である([松坂 命題8.16]参照.) この事実から定理は成り立つ.

定理D
$A\in M_n(\C)$ とし, $A$ の相異なる固有値全体を $\a_1,\cd,\a_s$ とする. このとき, $A$ のジョルダン標準形の中に現れる $\a_i$ 細胞の個数を $r_i$ とすると, 次が成り立つ. $$ r_i=\dim \Ker(A-\a_i I). $$

[証明]  [松坂 命題8.19]参照.

定理Cと定理Dをまとめよう.

ジョルダン標準形の求め方

2次行列

ジョルダン行列 固有多項式最小多項式
(1) $\m{ \alpha & 1 \cr 0 & \alpha }$ $(x-\alpha)^2$ $(x-\alpha)^2$
(2) $\m{ \alpha & 0 \cr 0 & \alpha }$ $(x-\alpha)^2$ $(x-\alpha)$
(3) $\m{ \alpha & 0 \cr 0 & \beta }$ $(x-\alpha)(x-\beta)$ $(x-\alpha)(x-\beta)$

上の表により, 2次ジョルダン行列は各型によって最小多項式が異なる. したがって, 定理Bから次が成り立つ.

定理
2次複素正方行列に対して, その最小多項式がわかればジョルダン標準形は(ジョルダン細胞の順序を除いて)一意的に決まる.

例題
次の行列のジョルダン標準形を求めよ.
$A= \m{ 1 & -1 \cr 1 & 3 }$

解答
[解答]
$A$ の固有多項式は $(x-2)^2$ であり, $A$ の最小多項式は $$ (A-2I)\neq O,\ \ (A-2I)^2= O $$ により $(x-2)^2$ である. したがって $A$ のジョルダン標準形は $$ \m{ 2 & 1 \cr 0 & 2 }. $$

3次行列

ジョルダン行列 固有多項式最小多項式
(1) $\m{ \alpha & 1 & 0 \cr 0 & \alpha & 1 \cr 0 & 0 & \alpha }$ $(x-\alpha)^3$ $(x-\alpha)^3$
(2) $\m{\alpha & 1 & 0 \cr 0 & \alpha & 0 \cr 0 & 0 & \alpha }$ $(x-\alpha)^3$ $(x-\alpha)^2$
(3) $\m{\alpha & 0 & 0 \cr 0 & \alpha & 0 \cr 0 & 0 & \alpha }$ $(x-\alpha)^3$ $(x-\alpha)$
(4) $\m{\alpha & 1 & 0 \cr 0 & \alpha & 0 \cr 0 & 0 & \beta }$ $(x-\alpha)^2(x-\beta)$ $(x-\alpha)^2(x-\beta)$
(5) $\m{\alpha & 0 & 0 \cr 0 & \alpha & 0 \cr 0 & 0 & \beta }$ $(x-\alpha)^2(x-\beta)$ $(x-\alpha)(x-\beta)$
(6) $\m{\alpha & 0 & 0 \cr 0 & \beta & 0 \cr 0 & 0 & \gamma }$ $(x-\alpha)(x-\beta)(x-\gamma)$ $(x-\alpha)(x-\beta)(x-\gamma)$

上の表により, 3次ジョルダン行列の各型によって固有多項式と最小多項式の組が異なる. したがって, 定理Bから次が成り立つ.

定理
3次複素正方行列に対して, その固有多項式と最小多項式がわかればジョルダン標準形は(ジョルダン細胞の順序を除いて)一意的に決まる.

例題
次の行列のジョルダン標準形を求めよ.
$A= \m{ a & 0 & 1 \cr 0 & a & 0 \cr 0 & 0 & a }$

解答
[解答]
$A$ の固有多項式は $(x-a)^3$ であり, $A$ の最小多項式は $$ (A-aI)\neq O,\ \ (A-aI)^2= O $$ により $(x-a)^2$ である. したがって $A$ のジョルダン標準形は $$ \m{ a & 1 & 0 \cr 0 & a & 0 \cr 0 & 0 & a }. $$

4次行列

4次以上の行列の場合, 固有多項式と最小多項式だけではジョルダン標準形が一意に決まらないことがある.


次のジョルダン行列 $A,B$ について, 両方とも固有多項式が $(x-\alpha)^4$ で最小多項式が $(x-\alpha)^2$ である. $$ A= \m{\alpha & 1 & 0 & 0 \cr 0 & \alpha & 0 & 0 \cr 0 & 0 & \alpha & 1 \cr 0 & 0 & 0 & \alpha }, \ \ \ B = \m{\alpha & 1 & 0 & 0 \cr 0 & \alpha & 0 & 0 \cr 0 & 0 & \alpha & 0 \cr 0 & 0 & 0 & \alpha } $$ ※しかし, $\dim\Ker(A-\alpha I)=2,\ \ \dim\Ker(B-\alpha I)=3$ より, 固有空間の次元は異なる.

上記の例のように4次行列の場合, 固有多項式と最小多項式に加えて「固有空間の次元」も求めないとジョルダン標準形を決定できないときがある.

例題
次の行列のジョルダン標準形を求めよ.
$A= \m{ a & 0 & 0 & 1 \cr 0 & a & 1 & 0 \cr 0 & 0 & a & 0 \cr 0 & 0 & 0 & a}$

解答
[解答]
$A$ の固有多項式は $(x-a)^4$ である. $A$ の最小多項式は $(x-a)^2$ なので, $A$ のジョルダン標準形は(ジョルダン細胞 $J_2(a)$ をもつから) $J_2(a)\op J_2(a)$ または $J_2(a)\op J_1(a)\op J_1(a)$ のどちらかになる. $$ \dim W(a)=\dim(\Ker(A-aI)=2 $$ なので, ジョルダン細胞の数は二つだけである. したがって $A$ のジョルダン標準形は $$ J_2(a)\op J_2(a)= \m{ a & 1 & 0 & 0 \cr 0 & a & 0 & 0 \cr 0 & 0 & a & 1 \cr 0 & 0 & 0 & a}. $$

例題
次の行列のジョルダン標準形を求めよ.
$A= \m{ a & 0 & 0 & 1 \cr 0 & a & 0 & 0 \cr 0 & 0 & a & 0 \cr 0 & 0 & 0 & a}$

解答
[解答]
$A$ の固有多項式は $(x-a)^4$ である. $A$ の最小多項式は $(x-a)^2$ なので, $A$ のジョルダン標準形は(ジョルダン細胞 $J_2(a)$ をもつから) $J_2(a)\op J_2(a)$ または $J_2(a)\op J_1(a)\op J_1(a)$ のどちらかになる. $$ \dim W(a)=\dim(\Ker(A-aI)=3 $$ なので, ジョルダン細胞の数は三つである. したがって $A$ のジョルダン標準形は $$ J_2(a)\op J_1(a) \op J_1(a)= \m{ a & 1 & 0 & 0 \cr 0 & a & 0 & 0 \cr 0 & 0 & a & 0 \cr 0 & 0 & 0 & a}. $$

例題
次の行列のジョルダン標準形を求めよ.
$A= \m{ a & 0 & 1 & 0 \cr 0 & a & 0 & 0 \cr 0 & 0 & a & 1 \cr 0 & 0 & 0 & a}$

解答
[解答]
$A$ の固有多項式は $(x-a)^4$ である. $A$ の最小多項式は $(x-a)^3$ なので, $A$ のジョルダン標準形はジョルダン細胞 $J_3(a)$ をもつ. したがって $A$ のジョルダン標準形は $$ J_3(a)\op J_1(a)= \m{ a & 1 & 0 & 0 \cr 0 & a & 1 & 0 \cr 0 & 0 & a & 0 \cr 0 & 0 & 0 & a}. $$

【付録】ジョルダン標準形を求めるアルゴリズム

まず, 固有空間を一般化しよう.

定義
$A\in M_n(\C)$ とし, $a\in \C$ を $A$ の固有値とする. $$ W_k(\a)=\Ker(A-\a I)^k $$ とおく. とくに $W_1(\a)$ は $\a$ の固有空間にほかならない.

固有多項式 $(x-a)^n$ の $n$ 次正方行列 $A$ に対して, そのジョルダン標準形を求める方法を述べる.

Step1
$r:=\dim W(\a)$ を求める.
→ジョルダン細胞の個数は $r$ である.

Step2
$A$ の最小多項式を計算して, $(x-a)^l$ だったとする.
→ジョルダン細胞の最大次数は $l$ である.

Step3
$W_1(\a),W_2(\a),\cd,W_l(\a)$ の次元をそれぞれ求める.
→$s_k:=\dim W_{k+1}(\a)-\dim W_k(\a)$ がわかり, $A$ のジョルダン標準形が決まる.

例題
$A$ を$9$ 次正方行列とし, $A$ の固有多項式は $(x-\a)^9,$ 最小多項式は $(x-\a)^3$ とする. $$\eq{ s_3 & =\dim W_3 -\dim W_2=1, \\ s_2 & =\dim W_2 -\dim W_1=3, \\ s_1 & =\dim W_1=4 }$$ とする. このとき, $A$ のジョルダン標準形を求めよ.

解答
[解答]
下図のように $s_i$ 個の $\blacksquare$ を左から横に並べる.
$$ \def\b{\blacksquare} \begin{array}{l|llll} s_3 & \b & & & \\ s_2 &\b &\b &\b & \\ s_1 &\b & \b &\b & \b \end{array} $$ 上図の各列を縦棒で区切ろう. $$ \begin{array}{l|l|l|l|l} s_3 & \b & & & \\ s_2 &\b &\b &\b & \\ s_1 &\b & \b &\b & \b \end{array} $$ $s_1=4$ がジョルダン細胞の個数であり, 上図の各列の $\b$ の数 $(3,2,2,1)$ がそのジョルダン細胞の次数である.
したがって, $J(\a,3)\op J(\a,2)\op J(\a,2)\op J(\a,1)$

ジョルダン標準形と変換行列

定義
$n$ 次複素正方行列 $A$ がある正則行列 $P$ によって $P^{-1}AP$ がジョルダン行列になったとき, $P$ を $A$ のジョルダン標準形への変換行列という.

例題
次の行列のジョルダン標準形と変換行列を求めよ.
$A= \m{ 1 & -1 \cr 1 & 3 }$

解答
[解答]
$A$ の固有多項式は $(x-2)^2$ なので, 固有値は $2$ のみで, その重複度は $2$ である. $$ A-2I= \m{ -1 & -1 \cr 1 & 1 },\ \ \ \Ker(A-2I)=\la \m{1\\-1}\ra. $$ ここで, $\C^2$ に属するが, $\Ker(A-2I)$ に属さないベクトルを任意にとろう. たとえば, $$ \p_2:=\m{1\\0} $$ とする. さらに, $$ \p_1:=(A-2I)\p_2=\m{-1\\1} $$ とすると, $\p_1\in \Ker(A-2I)$ である. ここで, $$ P=(\p_1\ \p_2)= \m{ -1 & 1 \cr 1 & 0 } $$ とすれば, $$\eq{ AP & =(A\p_1\ A\p_2)=(2\p_1\ \p_1+2\p_2) \\ & =(\p_1\ \p_2) \m{ 2 & 1 \cr 0 & 2} =PJ_2(2) }$$ したがって $A$ のジョルダン標準形は $J_2(2)$ であり, 変換行列は上で定義した $P$ である.

例題
次の行列のジョルダン標準形と変換行列を求めよ.
$A= \m{ a & 0 & 1 & 0 \cr 0 & a & 0 & 0 \cr 0 & 0 & a & 1 \cr 0 & 0 & 0 & a}$

解答
[解答]
$A$ の固有多項式は $(x-a)^4$ なので, 固有値は $a$ のみで, その重複度は $4$ である. $$ A-aI= \m{ 0 & 0 & 1 & 0 \cr 0 & 0 & 0 & 0 \cr 0 & 0 & 0 & 1 \cr 0 & 0 & 0 & 0},\ \ \ (A-aI)^2= \m{ 0 & 0 & 0 & 1 \cr 0 & 0 & 0 & 0 \cr 0 & 0 & 0 & 0 \cr 0 & 0 & 0 & 0} $$ そして $(A-aI)^3=O$ であるから, $$ \Ker(A-aI)= \la \m{1\\ 0\\ 0\\ 0},\m{0\\ 1\\ 0\\ 0} \ra, $$ $$ \Ker(A-aI)^2= \la \m{1\\ 0\\ 0\\ 0},\m{0\\ 1\\ 0\\ 0}, \m{0\\ 0\\ 1\\ 0} \ra, $$ そして, $\Ker(A-aI)^3=\C^4$ である. $$ \Ker(A-aI)\subsetneqq \Ker(A-aI)^2\subsetneqq \Ker(A-aI)^3=\C^4 $$ という関係に注意せよ. ここで, $\C^4$ に属するが, $\Ker(A-aI)^2$ に属さないベクトルを任意にとろう. たとえば, $\p_3:={}^t(0\ 0\ 0\ 1)$ とする. さらに, $$ \p_2:=(A-aI)\p_3={}^t(0\ 0\ 1\ 0) $$ $$ \p_1:=(A-aI)\p_2={}^t(1\ 0\ 0\ 0) $$ とする. 最後に $\p_4={}^t(0\ 1\ 0\ 0)$ をとって, $$ P=(\p_1\ \p_2\ \p_3\ \p_4)= \m{ 1 & 0 & 0 & 0 \cr 0 & 0 & 0 & 1 \cr 0 & 1 & 0 & 0 \cr 0 & 0 & 1 & 0} $$ とすれば, ($\p_1\in \Ker(A-aI)$ に注意して) $$\eq{ AP & =(A\p_1\ A\p_2\ A\p_3\ A\p_4) \\ & =(a\p_1\ \p_1+a\p_2\ \p_2+a\p_3\ a\p_4) \\ & =(\p_1\ \p_2\ \p_3\ \p_4) \m{ a & 1 & 0 & 0 \cr 0 & a & 1 & 0 \cr 0 & 0 & a & 0 \cr 0 & 0 & 0 & a} \\ & =P\big(J_3(a)\op J_1(a)\big) }$$ したがって $A$ のジョルダン標準形は $J_3(a)\op J_1(a)$ であり, 変換行列は上で定義した $P$ である.