基底と次元【例】
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この記事では, 基底と次元の定義・例などについて説明します。
約束 $K$ 上の線形空間 $V$ を固定する.
基底と次元
線形結合
定義
$V$ のベクトル $\x_1,\x_2,\cd,\x_k$ に対して,
$$ c_1\x_1+c_2\x_2+ \cd + c_k\x_k,
\ \ \ \ \ c_i\in K\ \ \ (i=1,2,\cd,k) $$
の形のベクトルを, $\x_1,\x_2,\cd,\x_k$
の線形結合(linear combination)という.
ベクトル $\x_1,\x_2,\cd,\x_k$ の間の関係
$$ c_1\x_1+c_2\x_2+ \cd + c_k\x_k=\0 $$
を線形関係(linear relation)という.
$\x_1,\x_2,\cd,\x_k$ がどんなベクトルであっても,
線形関係は必ず存在する. それは $c_1=c_2=\cd=c_k=0$
としたもので, 自明(trivial)な線形関係とよばれる.
定義
$\x_1,\x_2,\cd,\x_k$ の間に自明でない線形関係が存在するとき,
$\x_1,\x_2,\cd,\x_k$ は線形従属という.
自明でない線形関係が存在しないとき, $\x_1,\x_2,\cd,\x_k$
は線形独立(linear independent)であるという.
例:$K^n$ における単位ベクトル $\e_1,\e_2,\cd,\e_n$ は線形独立である.
基底
定義
線形空間 $V$ の有限個のベクトル $\e_1,\cd,\e_n$
が次の二条件を満たすとき, $\e_1,\cd,\e_n$ は $V$ の
基底(base)であるという.
(1) $\e_1,\cd\e_n$ は線形独立である.
(2) $V$ の任意のベクトルは $\e_1,\cd\e_n$ の線形結合として表される.
定義
線形空間 $V$ の基底がある有限個のベクトルによって構成されるとき,
$V$ は有限次元であるという.
$V$ が有限次元でないとき, $V$ は無限次元であるという.
定義
$V$ の基底の含むベクトルの個数 $n$ (どの基底についても同じ数)を,
$V$ の次元(dimension)といい, $\dim V$ で表す.
例
例
$K[x]$ を $K$ の元を成分とする多項式全体とする.
単項式 $1,x,x^2,x^3,\cd$ は線形独立であるから,
$K[x]$ は無限次元である.
例
ある区間上の連続関数全体の空間も無限次元である.
実際, 単項式関数 $1,x,x^2,\cd$ は線形独立である.
例
(i) $n$ 次上三角行列全体のなす線形空間は次元が
$n(n+1)/2$ である.
(ii) $n$ 次対称行列全体のなす線形空間は次元が
$n(n+1)/2$ である.
(iii) $n$ 次交代行列全体のなす線形空間は次元が
$n(n-1)/2$ である.
例
$n$ 次正方行列のうち, トレースが $0$ の行列全体のなす線形空間:
$$ V:=\{A\in M_n(K) \mid \tr(A)=0\} $$
について $\dim V=n^2-1$ である.
問題
例題
ベクトル空間
$$ W=\le\{ \le.\m{a \\ b \\ c} \in \R^3
\ri| \ a=3b=6c \ri\} $$
の基底と次元を求めよ.
- ▼ 解答
-
[解答]
$a=6c,\ b=2c$ より, $$ \m{a\\b\\c}=\m{6c\\2c\\c}=c\m{6\\2\\1} $$ であるから, 基底として ${}^t(6\ 2\ 1)$ がとれて, $\dim W=1$ である.
例題
ベクトル空間
$$ W=\le\{ \le.\m{a \\ b \\ c}\
\ri| \ a+b+c=0 \ri\} $$
の基底と次元を求めよ.
- ▼ 解答
-
[解答]
$$ \m{a\\b\\c}=\m{a\\b\\-a-b} =\m{a\\0\\-a}+\m{0\\b\\-b} =a\m{1\\0\\-1}+b\m{0\\1\\-1} $$ なので, $$ \x_1=\m{1\\0\\-1},\ \ \ \x_2=\m{0\\1\\-1} $$ とおくと, $\x_1,\x_2$ は1次独立である. 実際, $x\x_1+y\x_2=\0$ とおくと, $$ x\x_1+y\x_2=x\m{1\\0\\-1}+y\m{0\\1\\-1} =\m{x\\y\\-x-y}=\m{0\\0\\0} $$ これより, $x=0,\ y=0$ が得られるからである. したがって, $W$ の任意のベクトルは $W$ の2個のベクトル $\x_1,\x_2$ の1次結合で表され, しかも $\x_1,\x_2$ は1次独立であるから $\{\x_1,\x_2\}$ は基底で, $\dim W=2$ である.
例題
ベクトル空間
$$ W=\le\{ \le.\m{a \\ b \\ c}\
\ri| \ 2a+b-c=0 \ri\} $$
の基底と次元を求めよ.
- ▼ 解答
-
[解答]
$c=2a+b$ なので, $$ \m{a\\b\\c}=\m{a\\b\\2a+b} =\m{a\\0\\2a}+\m{0\\b\\b} =a\m{1\\0\\2}+b\m{0\\1\\1} $$ なので, $$ \x_1=\m{1\\0\\2},\ \ \ \x_2=\m{0\\1\\1} $$ とおくと, $\x_1,\x_2$ は1次独立である. 実際, $x\x_1+y\x_2=\0$ とおくと, $$ x\x_1+y\x_2=x\m{1\\0\\2}+y\m{0\\1\\1} =\m{x\\y\\2x+y}=\m{0\\0\\0} $$ これより, $x=0,\ y=0$ が得られるからである. したがって, $W$ の任意のベクトルは $W$ の2個のベクトル $\x_1,\x_2$ の1次結合で表され, しかも $\x_1,\x_2$ は1次独立であるから $\{\x_1,\x_2\}$ は基底で, $\dim W=2$ である.