Takatani Note

シローの定理【証明&応用】

$ \def\A{\mathcal{A}} $

この記事では, シローの定理(Sylow theorems)の証明&応用について解説します。

シローの定理の証明

シローの第1定理

定理
$p$ が素数で, $|G|$ が $p^a$ で割り切れるならば, $G$ は位数 $p^a$ の部分群をもつ.

証明
[証明]
$|G|=p^am$ とし, $m$ を割り切る $p$ の最大のべきを $p^r$ とする.
(※もちろん $r=0$ の場合もあり得る.)

$p^a$ 個の元から成る($G$ の)部分集合全体の集合を $\A$ とする. すなわち
$\ \ \ \A=\{ A\subset G\mid |A|=p^a\}$
とする.

$|\A|={}_{p^am} C_{p^a}$ である.
これを割り切る $p$ の最大のべきは $p^r$ に等しいことを示そう.

$\ \ \ _{p^am} C_{p^a} =\dfrac{p^am(p^am-1)\cdots (p^am-i)\cdots (p^am-p^a+1)} {p^a(p^a-1)\cdots (p^a-i)\cdots (p^a-p^a+1)}$
であり, $i=1,\cdots,p^a-1$ に対して, $p^am-i,\ p^a-i$ の素因数分解に現れる $p$ のべきは同じである.
そのため, 上式の分母分子における $p$ のべきは, $m$ を除いて全部約分できる.
したがって $_{p^am} C_{p^a} $ を割り切る $p$ の最大のべきは $p^r$ である.

さて, 集合 $\A$ に群 $G$ を次のように作用させる.
$G\times \A \to \A$
$\ \ (a,A)\mapsto aA$
ただし, $aA$ は $\{ax|x\in A\}$ を意味する.

この作用に関して $\A$ を軌道分解すれば, $|\A|$ は $p^{r+1}$ では割りきれないから, 少なくとも1つの軌道の元の個数は $p^{r+1}$ で割り切れない.
そのような1つの軌道を $\A_1$ としよう.

また $\A_1$ から1つの元 $A_1$ をとって, その固定部分群:
$\ \ \ \{a\in G\mid aA_1=A_1\}$ を $H$ とする.

このとき $H$ は位数 $p^a$ の $G$ の部分群である.
ということを示す.

$\A_1$ は推移的な $G$ 集合であるから, 固定部分群の性質より,
$\ \ \ (G:H)=|G|/|H|=|\A_1|.$
したがって
$\ \ \ |\A_1|\cdot |H|=|G|=p^am\ \cdots (*)$
となる.
ゆえに $|H|$ は $p^a$ で割り切れる.
(※$|\A_1|$ は $p^{r+1}$ では割り切れないことを思い出そう.)
よって, $|H|\geq p^a.$

他方, 任意の $x\in A_1$ を1つ固定する.
$H$ から $A_1$ への写像:
$\ \ \ a\mapsto ax$
は単射である.
($\because\ ax=bx$ ならば $x^{-1}$ を右からかけると $a=b.)$
ゆえに $|H|\leq |A_1|=p^a.$

よって, $|H|=p^a.$
以上で証明は完了した.

シローの第2定理

シローの第2定理の証明の前に, 次の概念を用意しよう.

定義
$G$ を群, $H$ を $G$ の部分群とする.
$G$ の部分集合 $A,B$ に対し $xAx^{-1}=B$ となる $x\in H$ が存在するとき, $A,B$ は$H$ に関して共役であるという.
この関係は $G$ の部分集合の間の同値関係である.

次に2つの補題を用意する.
証明は, 前者はカンタンだが, 後者は難しい.

補題1
$G$ を有限群, $H$ を $G$ の部分群とする.
そのとき, $G$ の与えられた部分集合 $A$ と $H$ に関して共役な集合の個数は $(H:H\cap N(A))$ に等しい.
ここで $N(A)$ は $G$ における $A$ の正規化群である.

補題2
$G$ の任意の $p$ 部分群(位数が $p$ のべきであるような部分群)は, $G$ のある $p$ シロー部分群に含まれる.

証明
[証明]
$|G|=p^es,\ (p,s)=1$ とする.
$P$ を $G$ の1つの $p$ シロー部分群とする.
$\A$ を $P$ に共役な $G$ の部分群全体の集合とする.

$|\A|=(G:N(P))$ であるから, $|\A|$ は $|G|$ の約数である.
また正規化群の定義より $N(P) \supset P$ である.
したがって $|\A|$ は $(G:P)=s$ の約数である.
(※ $s=(G:N(P))(N(P):P)$ に注意.)
ゆえに $|\A|$ は $p$ と互いに素である.

$H$ を $G$ の任意の $p$ 部分群とする.
そのとき, $\A$ の元すべてを $H$ に関して互いに共役であるものに分類することができる.

$\A_1,\cdots,\A_t$ を $\A$ の $H$ に関する共役類とする.
ただし, $\A_1$ は $P$ を含む共役類としておこう.
(※この $\A_1$ の仮定はシローの第3定理で使う.)
$a_i$ を 各共役類 $\A_i$ $(1\leq i\leq t)$ の元の個数とすると,
$\ \ \ |\A|=a_1+\cdots +a_t.$

$P_i$ を各 $\A_i$ から任意にとった1つの代表とする.
補題1より $a_i=(H:H\cap N(P_i)).$
したがって $a_i$ は $|H|$ の約数であるから, $a_i$ は $p$ のべき($p^0=1$ の場合も含む)である.
しかし $|\A|$ は $p$ と互いに素であるから, $a_1,\cdots,a_t$ のうちに $a_i=1$ となるものが必ず存在する.

$a_i=1$ であることは $H=H\cap N(P_i)$ と同値なので
$\ \ \ H\subset N(P_i).$

ここで $N(P_i)$ においてその正規部分群 $P_i$ と部分群 $H$ とに 第2同型定理を適用すれば,
$\ \ \ (HP_i:P_i)=(H:H\cap P_i).$

左辺は $(G:P_i)=s$ の約数である.
(※ $G\supset HP_i \supset P_i$ に注意.)
右辺は $p$ のべきである.
(※ $H$ は $p$ 部分群であり, 右辺は $|H|$ の約数.)

したがって
$\ \ \ (H:H\cap P_i)=1.$
ゆえに $H\subset P_i.$
これで $H$ を含む $p$ シロー部分群が存在することが示せた.

定理
$G$ の任意の2つの $p$ シロー部分群は共役である.

証明
[証明]
$P,H$ を $G$ の任意の $p$ シロー部分群とする.
補題2で定義した記号をそのまま使用しよう.
補題2より $H\subset P_i$ となる $P_i\in \A$ が存在する.
(※ $i$ は $a_i=1$ を満たすもの)

$H$ も $P_i$ も $p$ シロー部分群なので, 両者の位数は等しい.
したがって $H=P_i$ でなければならない.
ゆえに $H$ は $P$ と($G$ において)共役である.

シローの第3定理

定理
$G$ の $p$ シロー部分群の個数は $1+kp$ の形をなし, しかもそれは $|G|$ の約数である.

証明
[証明]
$P$ を $G$ の任意の $p$ シロー部分群とする.
補題2で定義した記号をそのまま使用しよう.
$H$ として $P$ 自身をとると, $a_1=1$ である.
(※ $P$ の $P$ 自身に関する共役部分群は $P$ のみ.)

一方, $2\leq i\leq t$ のとき $P\neq P_i$ であるから, $a_i$ は1に等しくない $p$ のべきである.
(※もし $a_i=1$ ならば上に示したように $P\subset P_i$ となる.)
したがって $a_2+ \cdots +a_t$ は $p$ の倍数である. ゆえに $|\A|=1+kp$ の形となる.

$|\A|=(G:N(P))$ であるから, $|\A|$ は $|G|$ の約数である.
よって, 証明は完了した.

応用問題

問題
位数15のすべての群を決定せよ.

証明
[証明]
$G$ を位数15の群とする.
5シロー部分群の個数は $\l=1+5k$ で, これが15の約数となるのは $\l=1$ のときだけである.
したがって $G$ の位数5の部分群はただ1つで, それゆえ, その部分群 $A$ は正規である.

同様に, 3シロー部分群の個数は $\mu=1+3k$ で, これが15の約数となるのは $\l=1$ のときだけである.
ゆえに $G$ の3シロー部分群はただ1つで, それゆえ, その部分群 $B$ は正規である.
$A,B$ の位数は素数であるから, これらは巡回群である.

$A,B$ の生成元をそれぞれ $a,b$ とすれば, $A\cap B=\{e\}$ かつ $A,B$ は正規であることから, 次の補題3より $ab=ba$ となる.
したがって $ab$ は位数15の元である.
よって $G$ は巡回群である.

補題3
$A,B$ を群 $G$ の正規部分群で $A\cap B=\{e\}$ ならば, $A$ の任意の元と $B$ の任意の元は可換である.

証明
[証明]
$a\in A,\ b\in B$ を任意にとる.
$A$ は正規なので,
$\ \ \ b^{-1}ab\in A.$
$A$ は $G$ の部分群なので,
$\ \ \ b^{-1}aba^{-1}\in A.$

同様に $B$ は正規なので,
$\ \ \ aba^{-1}\in B$
$B$ は $G$ の部分群なので,
$\ \ \ b^{-1}aba^{-1}\in B.$

したがって
$\ \ \ b^{-1}aba^{-1}\in A\cap B.$
仮定より, $A\cap B=\{e\}$ なので,
$\ \ \ b^{-1}aba^{-1}=e.$
よって, $ab=ba.$