群論のコツ
この記事は, 私がツイッター(@takatani57)でつぶやいた群論のコツをまとめたものである.
勉強法・コツ
クラインの四元群は $\Z/4\Z$ と同型でない
群論の初学者はまず
クラインの四元群:
$\ \ \ V=\{e,(1\ 2)(3\ 4),(1\ 3)(2\ 4),(1\ 4)(2\ 3)\}$
が4次巡回群 $\Z/4\Z$ と同型でないことをまず理解しよう.
その次に, $V$ は $\Z/2\Z\times \Z/2\Z$ に同型であることを確認しよう.
群の構造を理解するには同型でないことを示すことが近道です.
問題
$\Z/4\Z$ と $\Z/2\Z \times \Z/2\Z$ は同型でないことを示せ.
証明
$\Z/2\Z \times \Z/2\Z$ の元はどれも2倍すると単位元になる.
一方,$\Z/4\Z$ の1は2倍しても単位元にならない.
なので,1に対応する $\Z/2\Z \times \Z/2\Z$ の元は存在しない. $\square$
群論の目標は準同型定理
群論の目標は「準同型定理」を理解して使えるようになることです.
それ以降について初学者は
・群の作用
・共役類,類等式
・シローの定理
を初読はスルーして先に環論をするのがオススメ
理由は3点
・環論で使わない
・上記3つより環論のほうが簡単
・環論をすれば環だけでなく群の理解が深まる
考える例は可換群から
群論を勉強していて
・部分群の剰余類
・剰余群
がわからなくて悩んでいたら,まずは,$\Z/n\Z$ や $\R/\Z$
などの可換群を例にして考えましょう.
$S_n$ のような非可換な群の剰余類,剰余群は複雑なので初学者はわからなくて当たり前.
悩むことはないです.
群論が抽象的だと感じる人にオススメな方法
群の概念,定理を理解するために
・対称群 $S_n$
・交代群 $A_n$
・$S_n$ と $A_n$ の部分群
を具体例にして大量に計算してください.
・泥臭い計算
・具体例,反例を考える
この2つは群だけでなく代数を理解するのに必須です.
準同型定理の次は?
群論で準同型定理まで勉強した後,次に何を勉強するかで道が分かれます.
・群論の進んだ話(単純群の分類,群の表現など)
・環論
・トポロジーの基本群,ホモロジー群
教科書どおりに進む必要はないです.
幾何学に興味があるならトポロジーが特にオススメ
(※ホモロジー群はℤ上の加群の知識が少し必要)
問題
同型でないことを示す問題
問題
乗法群 $\C^*$ と乗法群 $\R^*$ は同型でないことを示せ.
[証明]
同型 $f:\C^*\to \R^*$ があると仮定すると,
$f(\omega)=a$ を満たす $a\in \R^*$がある.
ここで, $\omega\in \C^*$ は $\omega^3=1$
かつ $\omega\neq 1$ を満たすとする.
$1=f(1)=f(\omega\cdot \omega\cdot\omega)$
$=f(\omega)f(\omega)f(\omega)=a^3.$
しかし, $a^3=1$ かつ $a\neq 1$ を満たす $a\in \R^*$ は存在しないので矛盾.
$\square$
※つまり(単位元以外に)3乗したら単位元になる元は $\C^*$ にはあるが, $\R^*$ にはない
問題
乗法群 $\Q^*$ と加法群 $\Q$ は同型でないことを示せ.
[証明]
同型写像 $f:\Q^*\to \Q$ が存在すると仮定する.
このとき,$f(-1)=a$ を満たす $a\in \Q$ がある.
$0=f(1)=f((-1)⋅(-1))$
$=f(-1)+f(-1)=a+a=2a.$
しかし, $f(-1)\neq 0$ より, $2a\neq 0.$ これは矛盾.
※つまり,(単位元以外に)2乗したら単位元になる元は $\Q^*$ にはあるが,
2倍したら単位元になる元は $\Q$ にはないことを示した.
群準同型定理の応用
群の準同型定理:
$\ \ \ G/\Ker f\cong \Im f \ $
$(f:G\to G')$
を使って同型を示せることが初学者の目標です
問題
(1)$S_n/A_n\cong \Z/2\Z$
(2)$\GL_n(\R)/\SL_n(\R)\cong \R^*$
(3)$\Z/6\Z \cong \Z/2\Z \times \Z/3\Z$
とりあえず,この3つを押さえておけばOK
※$S_n$は対称群, $A_n$ は交代群
$\GL_n(\R)$ は $\ \det A \neq 0$
$\SL_n(\R)$は $\det A=1$
$\R^*$ は乗法群
証明
(1) $f:S_n\to \{1,-1\}$
$(\cong \Z/2\Z), \s\mapsto \sgn(\s)$ とすると, $\Ker f=A_n.$
※$\sgn(\s)$ は $\s$ の置換
(2) $f:\GL_n(\R)\to \R^*,$ $A\mapsto \det A$
とすると, $\Ker f=\SL_n(\R).$
(3) $f:\Z\to \Z/2\Z \times \Z/3\Z,$ $n\mapsto (n,n)$ とすると,
$\Ker f=6\Z.$
(1),(2),(3)はすべて $f$ が全射なので, 準同型定理より同型が成り立つ.$\square$
共役類の応用
群を共役類に分けることは, その群の性質を知るのに役立ちます。
たとえば、次のようなときに使います。
・4次交代群 $A_4$ には位数6の部分群が存在しないことの証明
・5次交代群 $A_5$ は単純群であることの証明
・4次対称群 $S_4$ の正規部分群をすべて求める問題
このように、群の正規部分群について調べることを主に使います。