Takatani Note

巡回群の例題【証明】

$$ \newcommand{\la}{\langle} \newcommand{\ra}{\rangle} $$

この記事では、巡回群の性質を証明します。

はじめに巡回群の定義を確認しておきます。

定義
$G$ を群とする. $G$ がある元 $a$ によって生成されるとき, すなわち, $G$ のすべての元が整数 $k$ によって $a^k$ (加法記号の場合には $ka$) の形に表されるとき, $G$ を巡回群(cyclic group)という. また, このような元 $a$ を $G$ の生成元という.


加法群 $\Z$ は1を生成元とする巡回群である.
実際, 任意の $n\in\Z$ に対して, $n=n\c 1$ の形に表される.


乗法群 $\{1,i,-1,-i\}$ は $i$ を生成元とする位数4の巡回群である.
※$-i$ もこの群の生成元である.

巡回群の例題

例題
次を示せ.
$(i)$ 無限巡回群は加法群 $\Z$ と同型である.
$(ii)$位数 $n$ の有限巡回群は加法群 $\Z_n$ と同型である.

証明
[証明]
$G$ を巡回群, $a$ を $G$ の生成元とする.
そのとき, $f(k)=a^k$ によって定義される写像 $f:\Z\to G$ は全射準同型である. その核を $H$ とすれば, 次の2つの場合が起こる.
(i)$H=\{0\}$ のとき, この場合は $f$ は同型写像で $G\cong \Z$ である.
(ii)$H=n\Z,\ n>0$ のとき, この場合は準同型定理によって $G\cong \Z/n\Z=\Z_n$ となり, $G$ は位数 $n$ の有限群である.

例題
巡回群の部分群はまた巡回群になることを証明せよ.

証明
[証明]
巡回群 $G=\la a \ra$ の部分群を $H$ とおく. $H=\{e\}$ なら明らかであるから, $H\neq \{e\}$ とする. $G$ の元は $a^n\ (n\in\Z)$ の形をしていて, $a^n\in H$ ならば, $a^{-n}=(a^n)^{-1}\in H$ となるから, $a^k\in H$ となる最小の $k\in \N$ が存在する. このとき, $a^k$ を生成元とする巡回群 $\la a^k\ra$ は $H$ に含まれる: $\la a^k \ra \sub H.$ 次に, $b\in H$ は $G$ の元であるから, $b=a^m\ (m\in \Z)$ と書ける. $m=kq+r(q,r\in \Z, 0\leq r < k)$ として $a^r=a^{m-kq}=b(a^k)^{-q}\in H.$ $k$ の最小性から $r=0.$ よって, $b=(a^k)^q\in \la a^k \ra.$ したがって, $H\sub \la a^k \ra$ 以上より, $H=\la a^k \ra$ となり $H$ は巡回群である.

例題
単位群でない群 $G$ が自明な部分群しかもたなければ, $G$ は素数位数の巡回群であることを証明せよ.

証明
[証明]
$G$ の単位元 $e$ でない元 $a$ に対して, $H=\la a \ra$ は $G$ の部分群になる. $H\ni a\neq e$ であるから $H\neq \{e\}.$ よって, $G$ の仮定から $H=G$ となり $G$ は巡回群になる. この $G$ が無限巡回群ならば, $\la a^2 \ra$ は $G$ の自明でない部分群となるから, $G$ は有限巡回群である: $|G|=n.$ 次に, $n=lm(n >l,m > 1), b=a^l$ とおけば, $b\neq e, b^m=a^{lm}=a^n=e$ から $\la b \ra$ は $G$ の真の巡回部分群になる. これは仮定に反する. よって, $n$ は素数でなければならない.

例題
巡回群はアーベル群であることを示せ.

証明
[証明]
$G$ を巡回群とし, $G=\la a \ra$ とする. $a^i,a^j\in G$ をとれば, $$ a^ia^j=a^{i+j}=a^ja^i $$ より, $G$ はアーベル群である.

例題
巡回群の剰余群も巡回群になることを示せ.

証明
[証明]
$G=\la a \ra$ とすれば, 部分群は $H=\la a^m \ra$ と書けて, 剰余群 $G/H$ の元は $a^iH$ の形をしている. $a^iH=(aH)^i$ より $G/H$ は位数 $|G:H|$ の巡回群 $\la aH \ra$ になる.
※巡回群はアーベル群なので, 巡回群の任意の部分群は正規部分群であることに注意.

例題
位数が素数である群は巡回群になることを示せ.

証明
[証明]
$G\ni a(\neq e)$ の位数はラグランジュの定理より $|G|=p$ (素数)の約数であるから $p.$ よって, $G=\la a \ra.$

例題
位数 $n$ の巡回群には $n$ の任意の約数 $m$ を位数にもつ部分群がただ1つ存在することを証明せよ.

証明
[証明]
$G=\la a\ra, l=n/m$ とする. 部分群 $H=\la a^l\ra$ の位数は $m$ である. 他に位数 $m$ の部分群 $K=\la a^k \ra$ があれば, $k=l/m=l$ よって, $m$ を位数にもつ部分群がただ1つ存在する.

例題
位数4の巡回群に属するすべての元の位数を求めよ.

解答
[解答]
$G$ を位数4の巡回群とし, $G=\la a \ra$ とする. $G$ の元 $e,a,a^2,a^3$ の位数はこの順でそれぞれ $1,4,2,4$ である.

例題
位数6の巡回群に属するすべての元の位数を求めよ.

解答
[解答]
$G$ を位数6の巡回群とし, $G=\la a \ra$ とする. $G$ の元 $e,a,a^2,a^3,a^4,a^5$ の位数はこの順でそれぞれ $1,6,3,2,3,6$ である.