Takatani Note

共役類と類等式【例と応用】

この記事では,

・対称群 $S_3, S_4$ の共役類と類等式
・交代群 $A_3, A_4$の共役類と類等式
・類等式の証明&応用

について解説します。

共役類

まず、共役と共役類の定義を確認しておこう.

定義
群 $G$ の2つの元 $a,b$ が共役であるとは, $b=gag^{-1}$ となる $g\in G$ が存在するときにいう.
$a,b\in G$ が共役のとき $a\sim b$ と表す.
この $\sim$ は $G$ における同値関係になる.
$a$ の共役による同値類を $a$ の共役類といい, $C(a)$ で表す.

共役類は群の構造を調べるのに強力な道具である.
次の類等式も重要な道具だ.

定理
$C_1,\cdots, C_n$ を有限群 $G$ の共役類をすべて列挙したものだとすると,
$\ \ \ |G|=|C_1|+\cdots+|C_n|$
が成り立つ.
この等式を類等式という.

類等式の証明は後で述べる.

それでは、共役類の例を紹介する.

対称群の共役類


対称群 $S_3$ の共役類は次の3つである.
$C_1=\{(1)\},$
$C_2=\{(1\ 2),(2\ 3),(1\ 3)\},$
$C_3=\{(1\ 2\ 3),(1\ 3\ 2)\}.$
類等式は $6=1+3+2$ である.


対称群 $S_4$ の共役類は次の5つである.

5つの共役類
$C_1=\{(1)\},$
$C_2=\{(1\ 2),(1\ 3),(1\ 4),(2\ 3),(2\ 4),(3\ 4)\},$
$C_3=\{(1\ 2\ 3),(1\ 3\ 2),(1\ 2\ 4),(1\ 4\ 2),(1\ 3\ 4), (1\ 4\ 3),(2\ 3\ 4),(2\ 4\ 3)\},$
$C_4=\{(1\ 2)(3\ 4),(1\ 3)(2\ 4),(1\ 4)(2\ 3)\},$
$C_5=\{(1\ 2\ 3\ 4),(1\ 2\ 4\ 3),(1\ 3\ 2\ 4),(1\ 3\ 4\ 2), (1\ 4\ 2\ 3),(1\ 4\ 3\ 2)\}.$
類等式は $4!=24=1+6+8+3+6$ である.

交代群の共役類


交代群 $A_3$ は巡回群 $\Z/3\Z$ に同型であり, 従ってアーベル群なので, $A_3$ の共役類は次の3つである.
$C_1=\{(1)\},$
$C_2=\{(1\ 2\ 3)\},$
$C_3=\{(1\ 3\ 2)\}.$


交代群 $A_4$ の共役類は次の4つである.

4つの共役類
$C_1=\{(1)\},$
$C_2=\{(1\ 2\ 3),(1\ 4\ 2),(1\ 3\ 4),(2\ 4\ 3)\},$
$C_3=\{(1\ 3\ 2),(1\ 2\ 4),(1\ 4\ 3),(2\ 3\ 4)\},$
$C_4=\{(1\ 2)(3\ 4),(1\ 3)(2\ 4),(1\ 4)(2\ 3)\}.$
類等式は $12=1+4+4+3$ である.

類等式

類等式の証明のために, 次の補題を示す.
なお, この補題はさらに一般化でき、それはシローの定理の証明に使われる.
そのため, 群論において意外と重要な補題である.

補題
$G$ を有限群とする.
このとき, $G$ の元 $a$ の共役類に含まれる元(すなわち $a$ に共役な元)の個数は $(G:N(a))$ に等しい.

証明
[証明]
$a$ の共役類は
$\ \ \ xax^{-1}\ (x\in G)$
の全体からなる.

このうち異なる元はいくつあるか調べないといけない.
そのために, $x,y\in G$ に対して
$\ \ \ xax^{-1}=yay^{-1}$
が成り立つための条件を考えよう.

この等式は, 両辺の左から $x^{-1},$ 右から $y$ を掛ければ,
$\ \ \ a(x^{-1}y)=(x^{-1}y)a$
と書き直される.

したがって, $xax^{-1}=yay^{-1}$ となるためには,
$\ \ \ x^{-1}y\in N(a),$
すなわち,
$\ \ \ x\equiv y\ \ (\mod\ N(a))$
であることが必要かつ十分である.

ゆえに $xax^{-1}\ (x\in G)$ のうち異なる元の個数は, $N(a)$ を法とする異なる左剰余類の個数に等しい.

この補題によって, 特に $a$ の共役類が $a$ のみから成ることは, $(G:N(a))=1$ すならち $G=N(a)$ であることと同等である.
これは $a$ が $G$ の中心 $Z$ の元であることを意味する.

つまり, 中心 $Z$ に属する各元はそれぞれその1個の元のみで共役類を構成し, $Z$ に属さない元は2個以上の元で共役類を構成する.
このことから次の定理が得られる.

定理
$G$ を有限群とし, $Z$ をその中心とすれば,
$\ \ \ |G|=|Z|+\sum (G:N(a))$
が成り立つ.
ただし, $\sum$ は中心 $Z$ に属さない元によって構成されるすべての共役類からそれぞれ1つずつ代表元 $a$ をとって作った総和を意味する.
この式を類等式という.

※類等式の右辺の各項 $(G:N(a))$ は1より大きく, $|G|$ の真の約数となっている.

類等式の応用

定理1
$G$ が $p$ 群ならば, その中心 $Z$ は単位元以外の元を含む.
※ $p$ 群とは位数が素数 $p$ のべき $p^n\ (n\geq 1)$ である群のことである.

[証明]
$|G|=p^n$ とすれば, 類等式の右辺の各項 $(G:N(a))$ もやはり $p$ のべき $(\neq 1)$ である.
ゆえに 類等式から $|Z|$ は $p$ で割り切れなければならない.
したがって $Z$ は $e$ 以外の元を含む.

定理2
群 $G$ の位数が $p^2$ ($p$ は素数)ならば $G$ は可換群である.

証明
[証明]
$G$ の中心 $Z$ が $G$ と一致することを示せばよい.

定理1によって $Z\neq e$ であるから, $|Z|=p$ または $|Z|=p^2$ である.

もし $|Z|=p$ ならば, $a$ を $Z$ に属さない $G$ の元とするとき, $N(a)$ は $Z$ のすべての元を含むとともに $a$ をも含むから, $|N(a)|> p$ である.

しかもそれは $p^2$ の約数でなければならないから, $|N(a)|= p^2$ すなわち $N(a)=G$ となる.

ゆえに $a\in Z$ となるが, これは矛盾である.
したがって, $|Z|=p^2, Z=G$ でなければならない.

特に, 位数4,位数8の群は可換群である.