Takatani Note

分離拡大でない例

この記事では, $\F_p(t)/\F_p(t^p)$ が非分離拡大であることを証明します。 (※$\F_p(t)$ は標数 $p$ の1変数の有理関数体)

証明の前に、分離的と分離拡大について定義と例を書いておきます。

定義
$\Omega$ を体 $K$ 上の代数的閉包とする.
$K$ 上の多項式 $f(x)$ が $\Omega$ で重根をもたないとき, $f(x)$ は $K$ 上分離的 (separable) という.


$f(x)=x^2+1$ とする.
$f$ を $\Q$ 上の多項式としてみたとき, $\C$ 上で重根をもたない.
従って, $f(x)$ は $\Q$ 上分離的である.

定義
代数拡大 $L/K$ において, $L$ のすべての元が $K$ 上分離的のとき, $L/K$ は分離拡大 (separable extension) という.


標数0では任意の体の拡大は分離拡大である.(※後で示す).
たとえば $\C/\R$ や $\Q(\sqrt{-1})/\Q$ は分離拡大である.

分離拡大でない例


$p$ を素数とし, $\F_p(t)$ を有理関数体とする.
このとき, $\F_p(t)/\F_p(t^p)$ は非分離拡大である.

[証明]
$\F_p(t^p)\subset \F_p(t)$ は体の拡大である.
$\F_p(t^p)$ 上では, $t$ の最小多項式は $x^p-t^p$ である.
ところが, $\F_p(t)$ 上では,
$\ \ \ x^p-t^p=(x-t)^p$
のように分解できる.
従って, $t$ は $\F_p(t^p)$ 上で分離的でない.
よって, $\F_p(t)/\F_p(t^p)$ は非分離拡大である.

【おまけ】標数0では常に分離拡大

次の定理は, 多項式が分離的どうか判定するときに使う.

定理
体 $K$ 上の多項式 $f(x)$ が分離的であるための必要十分条件は $f(x)$ と $f'(x)$ が互いに素となることである.
ここで, $f'(x)$ は $f$ の導関数を表す.

この定理を用いて次を示そう.

定理
標数0のとき, 任意の体の拡大 $L/K$ は分離拡大である.

[証明]
任意の $\a\in L$ をとり, $f(x)$ を $\a$ の最小多項式とする.
$f(x)$ は既約であることから, $f(x)$ と $f'(x)$ の最大公約数は定数である.
そして, 標数0より $f'(x)\neq 0$ なので, その定数は0でない.
従って, $f(x)$ と $f'(x)$ は互いに素である.
ゆえに, 上の定理より $f(x)$ は分離的である.
よって, $L/K$ は分離拡大である.