Takatani Note

【留数定理】三角関数の積分【例題】

$$ \newcommand{\zb}{\overline{z}} \def\all{\forall} \def\del{\delta} \def\tf{\tfrac} \def\Log{\mathrm{Log}\ } \def\Re{\mathrm{Re}\ } $$

$$ \int_0^{2\pi}f(\sin\t,\cos\t)d\t $$ という形の積分について考える. $z=e^{i\t}$ のとき, $$ \cos\t=\f{1}{2}\le(z+\f{1}{z}\ri),\ \ \ \sin\t=\f{1}{2i}\le(z-\f{1}{z}\ri),\ \ \ d\t=\f{dz}{iz} $$ なので, 上の積分は $\ds\oint_{|z|=1}g(z)dz$ という形に表せる.
この複素積分は留数定理を用いて計算できる.

この記事では, 三角関数の定積分を上のテクニックを使って求める例題をいくつか紹介する.

三角関数の定積分

基本例題

例題
$a>1$ に対して, 積分 $$ \int_0^{2\pi}\f{1}{a+\cos\t}d\t =\f{2\pi}{\r{a^2-1}} $$ が成立することを示せ.

解答
[解答]
$z=e^{i\t} \ (0\leq \t \leq 2\pi)$ とすると, $$ dz=ie^{i\t}d\t=izd\t $$ である. また, $|z|^2=1$ より, $\ol{z}=1/z$ なので, $$ \cos\t=\f{e^{i\t}+e^{-i\t}}{2} =\f{1}{2}\le(z+\f{1}{z}\ri) $$ であるので, $$\eq{ \int_0^{2\pi}\f{d\t}{a+\cos\t} & =\int_{|z|=1} \f{1}{a+\tfrac{1}{2}(z+\tfrac{1}{z})}\f{dz}{iz} \\ & =\f{1}{i}\int_{|z|=1}\f{2}{z^2+2az+1}dz \\ & =2\pi\ \Res\le(\f{2}{(z-\a)(z-\b)},\a \ri) \\ & =2\pi \c \f{2}{\a-\b} \\ & =\f{2\pi}{\r{a^2-1}} }$$ ただし, $\a,\b$ は $z^2+2az+1=0$ の解であり, $$ \a=-a+\r{a^2-1},\ \ \ \b=-a-\r{a^2-1} $$ である.


※$\ds f(z)=\f{2}{z^2+2az+1}$ とおくと, $f(z)$ の極は $\a,\b$ であり, 単位円 $|z|=1$ の内部に $\a$ が, 外部に $\b$ がある.
※ $\a$ は一位の極なので, $$ \Res\le( f(z),\a \ri)=\lim_{z \to \a}(z-\a)f(z) =\lim_{z \to a}\f{2}{z-\b}=\f{2}{\a-\b} $$

例題
$a>0$ に対して, 積分 $$ \int_0^{2\pi}\f{1}{a+\cos^2\t}d\t =\f{2\pi}{\r{a(a+1)}} $$ が成立することを示せ.

解答
[解答]
$z=e^{i\t}$ とすると, $$ \cos\t=\f{1}{2}\le(z+\f{1}{z}\ri),\ \ \ d\t=\f{dz}{iz} $$ なので, $$\eq{ \int_0^{2\pi}\f{d\t}{a+\cos^2\t} & =\int_{|z|=1} \f{1}{a+\tfrac{1}{4}(z+\tfrac{1}{z})^2}\f{dz}{iz} \\ & =\f{1}{i}\int_{|z|=1}\f{4z}{z^4+2(2a+1)z^2+1}dz \\ & =2\pi \Big( \Res(f(z),\a) +\Res(f(z),-\a) \Big) \\ & =2\pi \Big( \f{2}{\a^2-\b^2} +\f{2}{\a^2-\b^2} \Big) \\ & =2\pi \Big(\f{1}{2\r{a(a+1)}}+\f{1}{2\r{a(a+1)}}\Big) \\ & =\f{2\pi}{\r{a(a+1)}} }$$ ただし, $f(z),\a,\b$ を次のように定義した.
$$\eq{ & f(z)=\f{4z}{z^4+2(2a+1)z^2+1} \\ & \a^2=-(2a+1)+2\r{a(a+1)} \\ & \b^2=-(2a+1)-2\r{a(a+1)} }$$

[補足]
$$\eq{ z^4+2(2a+1)z^2+1 & =(z^2-\a^2)(z^2-\b^2) \\ & =(z-\a)(z+\a)(z-\b)(z+\b) }$$ と分解でき, $$ |\b|=2a+1+2\r{a(a+1)}>1 $$ であることに注意しよう.
関数 $f(z)$ は $|z|=1$ 内に $z=\a,-\a$ を一位に極に持ち, それ以外の点では $|z|=1$ 内で正則である.

※ $\a,-\a$ は一位の極なので, $$\eq{ \Res( f(z),\a) & =\lim_{z \to \a}(z-\a)f(z) =\lim_{z \to \a}\f{4z}{(z+\a)(z+\b)(z-\b)} \\ & =\f{4\a}{2\a(\a^2-\b^2)}=\f{2}{\a^2-\b^2} =\f{1}{2\r{a(a+1)}}. \\ \Res( f(z),-\a) & =\lim_{z \to -\a}(z+\a)f(z) =\lim_{z \to -\a}\f{4z}{(z-\a)(z+\b)(z-\b)} \\ & =\f{-4\a}{-2\a(\a^2-\b^2)}=\f{2}{\a^2-\b^2} =\f{1}{2\r{a(a+1)}}. }$$

例題
$a>1$ に対して, 積分 $$ \int_0^{2\pi}\f{1}{a+\sin\t}d\t =\f{2\pi}{\r{a^2-1}} $$ が成立することを示せ.

解答
[解答]
$z=e^{i\t}\ (0\leq \t \leq 2\pi)$ とすると, $$ dz=ie^{i\t}d\t=izd\t $$ である. また, $|z|^2=1$ より, $\ol{z}=1/z$ なので, $$ \sin\t=\f{e^{i\t}-e^{-i\t}}{2i} =\f{1}{2i}\le(z-\f{1}{z} \ri) $$ が成り立つ. したがって, $$\eq{ \int_0^{2\pi}\f{d\t}{a+\sin\t} & =\int_{|z|=1} \f{1}{a+\f{1}{2i}\le(z-\f{1}{z}\ri)} \f{dz}{iz} \\ & =\int_{|z|=1}\f{2}{z^2+2iaz-1}dz \\ & =2\pi i\ \Res\le(\f{2}{(z-\a)(z-\b)},\a \ri) \\ & =2\pi i\c \f{2}{\a-\b} \\ & =\f{2\pi}{\r{a^2-1}}. }$$ ただし, $\a,\b$ は $z^2+2aiz-1=0$ の解であり, $$ \a=(-a+\r{a^2-1})i,\ \ \ \b=(-a-\r{a^2-1})i $$ である.


※$\ds f(z)=\f{2}{z^2+2aiz-1}$ とおくと, $f(z)$ の極は $\a,\b$ であり, 単位円 $|z|=1$ の内部に $\a$ が, 外部に $\b$ がある.
※ $\a$ は一位の極なので, $$ \Res\le( f(z),\a \ri)=\lim_{z \to \a}(z-\a)f(z) =\lim_{z \to a}\f{2}{z-\b}=\f{2}{\a-\b} $$

例題
$a>0$ に対して, 積分 $$ \int_0^{2\pi}\f{1}{a+\sin^2\t}d\t =\f{2\pi}{\r{a(a+1)}} $$ が成立することを示せ.

解答
[解答]
$z=e^{i\t}$ とすると, $$ \sin\t=\f{1}{2i}\le(z-\f{1}{z}\ri),\ \ \ d\t=\f{dz}{iz} $$ なので, $$\eq{ \int_0^{2\pi}\f{d\t}{a+\sin^2\t} & =\int_{|z|=1} \f{1}{a+\tfrac{-1}{4}(z-\tfrac{1}{z})^2}\f{dz}{iz} \\ & =\f{-1}{i}\int_{|z|=1}\f{4z}{z^4-2(2a+1)z^2+1}dz \\ & =-2\pi \Big( \Res(f(z),\a) +\Res(f(z),-\a) \Big) \\ & =-2\pi \Big( \f{2}{\a^2-\b^2} +\f{2}{\a^2-\b^2} \Big) \\ & =-2\pi \Big(\f{-1}{2\r{a(a+1)}}+\f{-1}{2\r{a(a+1)}}\Big) \\ & =\f{2\pi}{\r{a(a+1)}} }$$ ただし, $f(z),\a,\b$ を次のように定義した.
$$\eq{ & f(z)=\f{4z}{z^4-2(2a+1)z^2+1} \\ & \a^2=2a+1-2\r{a(a+1)} \\ & \b^2=2a+1+2\r{a(a+1)} }$$

[補足]
$$\eq{ z^4-2(2a+1)z^2+1 & =(z^2-\a^2)(z^2-\b^2) \\ & =(z-\a)(z+\a)(z-\b)(z+\b) }$$ と分解でき, $|\b|>1$ であることに注意しよう.
関数 $f(z)$ は $|z|=1$ 内に $z=\a,-\a$ を一位に極に持ち, それ以外の点では $|z|=1$ 内で正則である.

※ $\a,-\a$ は一位の極なので, $$\eq{ \Res( f(z),\a) & =\lim_{z \to \a}(z-\a)f(z) =\lim_{z \to \a}\f{4z}{(z+\a)(z+\b)(z-\b)} \\ & =\f{4\a}{2\a(\a^2-\b^2)}=\f{2}{\a^2-\b^2} =\f{-1}{2\r{a(a+1)}}. \\ \Res( f(z),-\a) & =\lim_{z \to -\a}(z+\a)f(z) =\lim_{z \to -\a}\f{4z}{(z-\a)(z+\b)(z-\b)} \\ & =\f{-4\a}{-2\a(\a^2-\b^2)}=\f{2}{\a^2-\b^2} =\f{-1}{2\r{a(a+1)}}. }$$

計算方法まとめ

以上の計算方法は次のようにまとめられる.

定理
有理関数 $f(x,y)$ について次が成り立つ. $$\eq{ \int_0^{2\pi} f(\cos\t,\sin\t)d\t & =\int_{|z|=1} f\le(\f{z+z^{-1}}{2},\f{z-z^{-1}}{2i}\ri)\f{dz}{iz} \\ & =2\pi\sum_{\a\in \D} \Res\le(\f{1}{z}f\Big(\f{z+z^{-1}}{2},\f{z-z^{-1}}{2i}\Big),\ \a \ri). }$$ ただし, $\D$ は $|z|=1$ の内部とする.

$\cos\t,\sin\t$ を含む定積分の計算方法に関して, 次の3ステップを覚えておこう.

ポイント
(i) 変数変換 $z=e^{i\t}$ によって, 積分経路が単位円 $|z|=1$ である複素積分に帰着させる.
(ii) 与えられた積分に $$ \cos\t=\f{1}{2}\le(z+\f{1}{z}\ri),\ \ \ \sin\t=\f{1}{2i}\le(z-\f{1}{z}\ri),\ \ \ d\t=\f{dz}{iz} $$ を代入する.
(iii) 留数定理を用いて積分を計算する.

発展問題

例題
次の積分の値と求めよ. $$ I=\int_0^{2\pi}\f{d\t}{a+b\cos\t}\ \ (a> b> 0). $$

解答
[解答]
変数変換 $z=e^{i\t}$ によって, $$\eq{ I & =\oint_{|z|=1}\f{1}{a+\tf{1}{2}b(z+z^{-1})}\f{dz}{iz} \\ & =-2i\oint_{|z|=1}\f{dz}{bz^2+2az+b} \\ & =-2i\oint_{|z|=1}{dz}{b(z-\a))(z-\b)} }$$ となる. ただし, $\a,\b$ は2次方程式 $bz^2+2az+b=0$ の解: $$ \a=\f{-a+\r{a^2-b^2}}{b}, \ \ \ \ \b=\f{-a-\r{a^2-b^2}}{b} $$ である. $\a,\b$ は被積分関数の一位の極である. 今, $$ |\b|=\f{a+\r{a^2-b^2}}{b}> \f{a}{b} >1 $$ なので, $\b$ は単位円 $|z|=1$ の内部にも周上にもない. $\a\b=1$ より $\a< 1$ である. $\a$ における留数は $$ \f{1}{b(\a-\b)}=\f{1}{2\r{a^2-b^2}} $$ である. ゆえに, $$ I=2\pi i(-2i)\f{1}{2\r{a^2-b^2}} =\f{2\pi}{\r{a^2-b^2}}. $$

基本的に, このテクニックは $0$ から $2\pi$ までの積分の場合に有効である. しかし, そうでない場合もうまく変数変換することによってテクニックが使えることもある.

例題
$$ I=\int_0^{\pi}\f{d\t}{a^2+\cos^2\t}\ \ \ (a>0). $$

解答
[解答]
恒等式 $2\cos^2\t=1+\cos 2\t$ から, 変数変換 $\phi =2\t$ によって, $$ I=\int_0^{2\pi}\f{d\phi}{(2a^2+1)+\cos\phi} $$ を得る. このとき, 前の例題の結果を適用すると, $$ I=\f{\pi}{a\r{a^2+1}} $$ となる.

例題
$$ I=\int_0^{2\pi}\f{\cos\t d\t}{1-2a\cos\t+a^2} \ \ \ (|a|< 1). $$

解答
[解答]
$z=e^{i\t}$ とすると, $$ I=\f{1}{2i}\int_{|z|=1}\f{1+z^2}{z(1-az)(z-a)}dz $$ と変形できる. この被積分関数は $0,a,1/a$ で一位の極をもち, そのうち点 $0$ と点 $a$ が単位円の内部にある. 点 $0$ における留数は $-1/a$ であり, 点 $a$ における留数は $\tf{1+a^2}{a(1-a^2)}$ である. したがって, $$ I=\pi\le( \f{1+a^2}{a(1-a^2)}-\f{1}{a} \ri) =\f{\pi(1+a^2-1+a^2)}{a(1-a^2)}=\f{2\pi a}{1-a^2}. $$

$\cos\t$ がある関数の積分は $\cos\t=(z+z^{-1})/2$ に変換することが定石である. しかし, このような変換を次の例ですると計算が複雑になるので, 他の方法を用いる.

例題
次を示せ. $$ \int_0^{2\pi}\f{\cos 3\t d\t}{5-4\cos\t}=\f{\pi}{12}. $$

解答
[解答]
$$\eq{ \int_0^{2\pi}\f{e^{3i\t}d\t}{5-4\cos\t} & =\int_{|z|=1}\f{z^3dz}{iz\{5-2(z+z^{-1})\}} \\ & =i\int_{|z|=1}\f{z^3dz}{2z^2-5z+2} \\ & =i\int_{|z|=1}\f{z^3}{(2z-1)(z-2)}dz. }$$ 単位円内において, 被積分関数は点 $1/2$ だけ(一位の)極をもち, その留数は $-1/24$ である. したがって, 実部だけを見ると, $$ \int_0^{2\pi}\f{\cos 3\t d\t}{5-4\cos\t} =\Re\Big( 2\pi i \c i \c (-1/24) \Big)=\f{\pi}{12} $$ を得る.

例題
$$ \int_0^\iy \cos(x^2)dx=\int_0^\iy \sin(x^2)dx =\r{\pi/8} $$

[解答]
ジョルダンの補題【証明と応用】参照.

問題
次を示せ. $$ \int_0^\iy \f{\sin x}{x}dx =\f{\pi}{2} $$

[解答]
ジョルダンの補題【証明と応用】参照.