複素変数の初等関数
$$ \newcommand{\zb}{\overline{z}} \def\all{\forall} \def\del{\delta} \let\copylim\lim \def\lim{\displaystyle\copylim} \def\tf{\tfrac} \def\Log{\mathrm{Log}\ } $$
この記事では, $e^z,\ \sin z,\ $ $\cos z, \Log z$ など複素変数の初等関数について解説します。
基本的な複素関数
定義
複素数 $z=x+iy$ に対して, 関数 $e^z$ を
$$ e^z=e^x(\cos y+i\sin y) $$
と定義する. 関数 $w=e^z$ を指数関数という.
定義から $e^{x+iy}=e^xe^{iy}$ が成り立つ. また, $z=x$ (実数)のとき, $e^z$ の値は実関数の $e^x$ の値と一致する.
例
$$ e^{2+\tfrac{\pi}{3}i}=e^2\c e^{\tfrac{\pi}{3}i}
=e^2 \le( \cos\f{\pi}{3}+i\sin\f{\pi}{3} \ri)
=e^2\le( \f{1}{2}+\f{\r{3}}{2}i \ri) $$
複素数の積と商およびド・モアブルの公式によって, 任意の複素数 $z,w$ および整数 $n$ に対して, 次が成り立つ. $(1)\ e^ze^w=e^{z+w}\ \ \ \ \ (2)\ \f{e^z}{e^w}=e^{z-w}\ \ \ \ \ (3)\ (e^z)^n=e^{nz}$
$f(z)=e^z$ とすれば, $e^{2\pi i}=1$ であるから, $$ f(z+2\pi i)=e^{z+2\pi i}=e^ze^{2\pi i}=e^z=f(z) $$ となる. したがって, 指数関数 $f(z)=e^z$ は周期 $2\pi i$ の周期関数である. また, 任意の実数 $x,y$ に対して $e^x\neq 0,\ \cos y+i\sin y \neq 0$ であるから, $$ f(z)=e^z=e^{x+iy}=e^x(\cos y+i\sin y)\neq 0 $$ である.
三角関数
オイラーの公式と, その $\t$ を $-\t$ に置き換えた式 $$ e^{i\t}=\cos\t +i\sin \t,\ \ \ e^{-i\t}=\cos\t -i\sin\t $$ を用いると, $\cos\t,\sin\t$ は指数関数を用いて, それぞれ $$ \cos\t=\f{e^{i\t}+e^{-i\t}}{2},\ \ \ \sin\t=\f{e^{i\t}-e^{-i\t}}{2i} $$ と表すことができる. この式の $\t$ を複素数 $z$ として, 三角関数 $\cos z, \sin z$ を $$ \cos z=\f{e^{iz}+e^{-iz}}{2},\ \ \ \sin z=\f{e^{iz}-e^{-iz}}{2i} $$ と定める. また, $$ \tan z=\f{\sin z}{\cos z} =\f{1}{i}\f{e^{iz}-e^{-iz}}{e^{iz}+e^{-iz}} $$ と定める. $z=x$ (実数)のとき, $\cos z,\sin z,\tan z$ の値は, それぞれ実関数の $\cos x,\sin x,\tan x$ と一致する.
$w=\cos z$ に対して, $e^{\pm 2\pi i}=1$ であるから $$\eq{ \cos(z+2\pi) & =\f{e^{i(z+2\pi)}+e^{-i(z+2\pi)}}{2} \\ & =\f{e^{iz}e^{2\pi i}+e^{-iz}e^{-2\pi i}} \\ & =\f{e^{iz}+e^{-iz}}{2} \\ & =\cos z }$$ が成り立つ. したがって, $w=\cos z$ は周期 $2\pi$ の周期関数である. 同様に, $w=\sin z$ も周期 $2\pi$ の周期関数である.
任意の複素数 $z$ に対して, $$\eq{ \cos^2 z+\sin^2 z & =\le( \f{e^{iz}+e^{-iz}}{2} \ri)^2 +\le( \f{e^{iz}-e^{-iz}}{2i} \ri)^2 \\ & =\f{e^{2iz}+2+e^{-2iz}}{4} +\f{e^{2iz}-2+e^{-2iz}}{-4} \\ & =1 }$$ が成り立つ. さらに, 複素数 $z,w$ に対して, 次の加法定理が成り立つ. $$\eq{ &\sin(z+w)=\sin z\cos w + \cos z \sin w \\ & \sin(z-w)=\sin z\cos w - \cos z \sin w \\ & \cos(z+w)=\cos z\cos w - \sin z \sin w \\ & \cos(z-w)=\cos z\cos w + \sin z \sin w }$$
逆関数
複素関数 $w=f(z)$ に対して, 複素数 $w$ に $w=f(z)$ を満たす複素数 $z$ を対応させる関数を $$ z=f^{-1}(w) $$ と表し, $w=f(z)$ の逆関数という.
$n$ 乗根
$n$ を $2$ 以上の自然数とするとき, 関数 $w=z^n$ の逆関数を $w=\sqrt[n]{z}$ ($n=2$ のときは $w=\r{z}$) と表す. $\sqrt[n]{z}$ は $z$ の $n$ 乗根であり, $z=re^{i\t}\ (r\neq 0)$ とすると, $$ \sqrt[n]{z} =\sqrt[n]{r}e^{(\tfrac{\t}{n}+\tfrac{2k\pi}{n})i} \ \ \ \ \ (k=0,1,2,\cd,n-1) $$ となる. $z\neq 0$ である複素数 $z$ に対して, $\sqrt[n]{z}$ は $n$ 個の値をとるものと定義する. これを $n$ 価関数という. 一般に複素関数では, $1$ つの $z$ に対して, 複数の $w$ を対応させる関数を考えることがある. これを多価関数という. $w=\r{z}$ は $2$ 価関数であり, $w=\sqrt[3]{z}$ は $3$ 価関数である.
注意: $\sqrt[n]{z}$ の定義に現れる $\sqrt[n]{r}\ (r> 0)$ は $n$ 乗して $r$ となる正の実数を表し, $1$ つの値をとるものとする.
対数関数
実数の関数と同じように, 指数関数 $w=e^z$ の逆関数を対数関数といい, $w=\log z$ で表す. $z=re^{i\t}\ (r> 0)$ に対して, $w=\log z=u+iv$ とおく. このとき, $z=e^w=e^{u+iv}$ であるので, $$ r=|z|=e^u,\ \ \ \arg z=v $$ となる. このことから, $$ u=\log|z|,\ \ \ v=\t +2n\pi \ (n\in \Z) $$ が得られる. ここで, 実数の自然対数を $\ln$ で表せば, $z=re^{i\t}\ (r>0)$ に対して, 複素数の対数関数は $$ \log z= \ln|z| +i\arg z = \ln r+i(\t +2n\pi)\ (n\in \Z) $$ と定義される. 対数関数は1つの $z$ に対して無限個の値が対応する. このような関数を無限多価関数という. $z=0$ のとき, 対数関数 $\log z$ は定義しない. 対数関数 $w=\log z$ において $-\pi < \arg z \leq \pi$ に制限すると, 1つの $z$ に対して1つの $w$ が対応する. これを $\Log z$ と表し, $\log z$ の主値という.
注意: 主値については, $z$ の偏角を $0\leq \arg z < 2\pi$ に制限したものをとってもよい. 本書では $-\pi < \arg z \leq \pi$ に制限したものを主値とした.
例
(1) $\arg 1=2n\pi$ ($n$ は整数)より,
$\log 1=\ln|1|+i(2n\pi)=2n\pi i$ である.
また, $\Log 1=0$ である.
(2) $1-i=\r{2}e^{\tf{7}{4}\pi i}$ より,
$\log (1-i)=\ln\r{2}+i\le(\f{7}{4}\pi +2n\pi \ri)$
($n$ は整数)であり,
$\Log(1-i)=\ln\r{2}-\f{\pi}{4}i$ である.
例題
対数関数の主値 $\Log z$ は領域 $D=\C\sm(-\iy,0]$
で正則であることを示せ. また, 極座標を用いて
$$ \f{d \Log z}{dz}=\f{1}{z} $$
を示せ.
- ▼ 解答
-
[解答]
$\Log z=\log r +i\t\ (z=re^{i\t})$ は $r>0,\ -\pi< \t < \pi$ で $C^1$ 級である. 微分法の変数変換の公式により極座標 $x=r\cos\t,\ y=r\sin\t$ で表すと, $$ \f{\d}{\d x}=\cos\t\f{\d}{\d r} -\f{\sin\t}{r}\f{\d}{\d \t},\ \ \ \ \ \f{\d}{\d y}=\sin\t\f{\d}{\d r} -\f{\cos\t}{r}\f{\d}{\d \t} $$ が成り立つ. したがって, $$\eq{ \f{\d}{\d \zb}\Log z & =\f{1}{2}\le( \f{\d}{\d x}+i\f{\d}{\d y} \ri) \log(|z|+i\arg z) \\ & =\f{1}{2}e^{i\t} \le( \f{\d}{\d r}+\f{i}{r}\f{\d}{\d \t} \ri) (\log r+i\t) \\ & =\f{1}{2}e^{i\t}\le(\f{1}{r}+\f{i}{r}i \ri) \\ & =0. }$$ よって, コーシーリーマンの関係式が成り立つので, $\Log z$ は $D$ 上で正則である.
また, $$\eq{ \f{\d}{\d z}\Log z & =\f{1}{2}\le( \f{\d}{\d x}-i\f{\d}{\d y} \ri) \log(|z|+i\arg z) \\ & =\f{1}{2}e^{-i\t} \le( \f{\d}{\d r}+\f{1}{ir}\f{\d}{\d \t} \ri) (\log r+i\t) \\ & =\f{1}{2}e^{-i\t}\le(\f{1}{r}+\f{1}{ir}i \ri) \\ & =\f{1}{re^{i\t}}=\f{1}{z}. }$$ より, $$ \f{d \Log z}{dz}=\f{1}{z} $$ を得る.
複素べき関数
複素数 $a$ に対して, $w=z^a$ を対数関数を用いて次のように定義する. $$ w=z^a=e^{a\log z} $$ $n$ を $2$ 以上の自然数とするとき, $w=z^n$ は1価関数であり, $w=z^{\tf{1}{n}}$ は $n$ 価関数である. このように, $w=z^a$ は $a$ の値によって関数のとりうる値の個数が変わる.
例
$n$ を整数とする.
$$ 2^i=e^{i\log 2}=e^{i(\ln 2+2n\pi i)}=e^{i\ln 2-2n\pi}
=e^{2n\pi}\Big( \cos(\ln 2)+i\sin(\ln 2) \Big) $$