Takatani Note

コーシー・リーマンの関係式【証明と例題】

$$ \newcommand{\zb}{\overline{z}} $$

この記事では、コーシー・リーマンの関係式(コーシー・リーマン方程式)について証明と例題を扱います。

コーシー・リーマンの関係式

まず、定理と証明を述べます。

定理
$f(z)$ を領域 $D$ 上で正則な関数とする. $z=x+iy$ とし, $f(z)$ は実数値関数 $u(x,y)$ と $v(x,y)$ によって, $f(z)=u(x,y)+iv(x,y)$ と表せるとする. このとき, $$\dd{u}{x}=\dd{v}{y},\ \ -\dd{u}{y}=\dd{v}{x} $$ が成り立つ. これらの式をコーシー・リーマンの関係式(Cauchy-Riemann equations)という.

証明
[証明]  $f(z)$ は領域 $D$ 上で正則なので, 各点 $z\in D$ で極限値 $$ f'(z)=\lim_{\D z\to 0}\f{f(z+\D z)-f(z)}{\D z}\tag{*1}$$ が存在する. 極限値 $(*1)$ は $\D z \to 0$ の近づき方によらない. ここで, $z=x+iy,\ $ $\D z=\D x+i\D y$ とすれば, $\D z\to 0$ のとき $\D x\to 0,\ \D y\to 0$ である. とくに, $\D y=0,\ \D z=\D x$ としたときの極限値 $(*1)$ は $$\eq{ \f{df}{dz} & =\lim_{\D x\to 0}\f{f(z+\D z)-f(z)}{\D x} \\ & =\lim_{\D x\to 0} \f{\{u(x+\D x,y)+iv(x+\D x,y)\}-\{u(x,y)+iv(x,y)\}}{\D x} \\ & =\lim_{\D x\to 0} \le(\f{u(x+\D x,y)-u(x,y)}{\D x} +i\f{v(x+\D x,y)-v(x,y)}{\D x}\ri) \\ & =\dd{u}{x}+i\dd{v}{x} \ \ \ \ \ \cd (*2) }$$ となる. 一方, $\D x=0,\ \D z=i\D y$ としたときの極限値 $(*1)$ は $$\eq{ \f{df}{dz} & =\lim_{\D y\to 0}\f{f(z+\D z)-f(z)}{i\D y} \\ & =\lim_{\D x\to 0} \f{\{u(x,y+\D y)+iv(x,y+\D y)\}-\{u(x,y)+iv(x,y)\}}{i\D y} \\ & =\lim_{\D y\to 0} \le(-i\f{u(x,y+\D y)-u(x,y)}{\D y} +\f{v(x,y+\D y)-v(x,y)}{\D y}\ri) \\ & =\dd{v}{y}-i\dd{u}{y} \ \ \ \ \ \cd (*3) }$$ が成り立つ. $f(z)$ が正則ならば, $(*2)$ と $(*3)$ は一致しなければならないから, $$ \dd{u}{x}+i\dd{v}{x}=\dd{v}{y}-i\dd{u}{y} $$ となる. この式の両辺の実部と虚部を比較することによって, $$\dd{u}{x}=\dd{v}{y},\ \ -\dd{u}{y}=\dd{v}{x} $$ を得る.

コーシー・リーマンの関係式の逆

次の定理のとおり, $u,v$ が領域 $D$ 上で $C^1$ 級かつコーシー・リーマンの関係式が成り立つとき, $f(z)$ は $D$ 上で正則であることが言える.

定理
$f(x +iy) = u(x, y) +iv(x, y)$ とおく. ただし, $u,v$ は実数値関数である.
さらに, $u,v$ は $D$ 上で $C^1$ 級で, かつコーシーリーマンの関係式 $$ \dd{u}{x}=\dd{v}{y},\ \ -\dd{u}{y}=\dd{v}{x} $$ が成り立つとする. このとき, $f(z)$ は $D$ 上で正則である.

証明
[証明]  任意の $z_0=a+ib\in D$ をとり, $\D z=h+ik$ を $z_0+l$ が $D$ に含まれる複素数とする.
(※$\D z$ は「点」でなく「$z_0$ の微小量」として扱う. 以下では, 2変数の微分に関する議論をしていく.)

平均値の定理より, ある $\t,\phi \in (0,1)$ が存在して, $$\eq{ u(a+h, & b+k) -u(a,b) \\ & =[u(a+h,b+k)-u(a,b+k)]+[u(a,b+k)-u(a,b)] \\ & =h\f{\d u}{\d x}(a+\t h, b+k) +k\f{\d u}{\d y}(a,b+\phi k) }$$ が成り立つ. 上式の偏微分は連続なので, $$ u(a+h,b+k)-u(a,b)=h\le(\f{\d u}{\d x}+\e_1\ri) +k\le(\f{\d u}{\d y}+\e_2\ri) $$ と表せる. ただし, $h,k\to 0$ のとき, $\e_1,\e_2 \to 0$ となる. 同様に, $$ v(a+h,b+k)-v(a,b)=h\le(\f{\d v}{\d x}+\e_3\ri) +k\le(\f{\d v}{\d y}+\e_4\ri) $$ と表せる. ただし, $h,k\to 0$ のとき, $\e_3,\e_4 \to 0$ となる. したがって, コーシー・リーマンの関係式から, $$\eq{ f(z_0+\D z)-f(z_0) & =h\le(\f{\d u}{\d x}+\e_1\ri) +k\le(\f{\d u}{\d y}+\e_2\ri) +ih\le(\f{\d v}{\d x}+\e_3\ri) +ik\le(\f{\d v}{\d y}+\e_4\ri) \\ & =(h+ik)\le( \f{\d u}{\d x}+i\f{\d v}{\d x} \ri) +\e_1h +\e_2k+i\e_3h+i\e_4k }$$ が成り立つ. ゆえに $$\eq{ \f{f(z_0+\D z)-f(z_0)}{\D z} & = \f{\d u}{\d x}+i\f{\d v}{\d x} +\f{1}{\D z}(\e_1h +\e_2k+i\e_3h+i\e_4k) \\ & \to \f{\d u}{\d x}+i\f{\d v}{\d x} \ \ \ (\D z\to 0) }$$ なので, $f'(z_0)$ が存在する. よって, $f(z)$ は $D$ 上で正則である.

※$u,v$ が $C^1$ 級であるとは, $u,v$ が $x,y$ に関して偏微分可能で, それらの偏導関数 $\d u/\d x, \d u/\d y, \d v/\d x, \d v/\d y$ がすべて連続であることをいう.

上の定理の「偏導関数が連続である」という条件は必要である. 例を挙げよう.


$f(x+iy)=u(x,y)+iv(x,y)$ とし, $$ u(x,y)=\r{|xy|},\ \ \ v(x,y)=0 $$ とする. このとき, コーシー・リーマンの関係式が $z=0$ で成り立つが, $f(z)$ は $z=0$ で複素微分可能でない.
※$\d u/\d x$ が $z=0$ で連続でないから, 定理の仮定を満たさない.

証明
[証明]  明らかに $\d v/\d x=\d v/\d y=0$ である. また, $$\eq{ & \f{\d u}{\d x}=\lim_{x\to 0}\f{u(x,0)-u(0,0)}{x-0} =\lim_{x\to 0}\f{0}{x}=0, \\ & \f{\d u}{\d y}=\lim_{y\to 0}\f{u(0,y)-u(0,0)}{y-0} =\lim_{y\to 0}\f{0}{y}=0 }$$ より, $\f{\d u}{\d x}(0,0)=\f{\d u}{\d y}(0,0)=0$ である. したがって, コーシー・リーマンの関係式が $z=0$ で成り立つ. 一方で, $x=r\cos\t,\ y=r\sin\t$ とすると, $$ \f{f(z)-f(0)}{z-0}=\f{\r{|xy|}}{x+iy} =\f{\r{|\cos\t\sin\t|}}{\cos\t +i\sin\t} =\r{|\cos\t\sin\t|}e^{-i\t} $$ が成り立つ. 上式の右辺は $\t=0$ の状態で $z\to 0$ をすると $0$ に収束する. また, $\t=\pi/4$ の状態で $z\to 0$ をすると $(1-i)/2$ に収束する. ゆえに, $$ \lim_{z\to 0}\f{f(z)-f(0)}{z-0} $$ は存在しないので, $f(z)$ は $z=0$ で複素微分可能でない.

最後に, $\d u/\d x$ および $\d u/\d y$ は $z=0$ で連続でないことを示す. $x,y>0$ のとき, $$ \f{\d u}{\d x}=\f{1}{2}\r{\f{y}{x}},\ \ \ \f{\d u}{\d y}=\f{1}{2}\r{\f{x}{y}} $$ であり, これらの偏導関数は $(x,y)\to(0,0)$ のとき, 極限値は存在しない. よって, $\d u/\d x$ および $\d u/\d y$ は $z=0$ で連続でない.

例題

複素関数の正則性の判定

正則関数の例題【判定】を参照してください.

複素偏微分とコーシー・リーマンの方程式

定義
複素偏微分作用素を $$\eq{ \dd{f}{z} & =\f{1}{2}\le( \dd{f}{x}-i\dd{f}{y} \ri) \\ \dd{f}{\ol{z}} & =\f{1}{2}\le( \dd{f}{x}+i\dd{f}{y} \ri) }$$ と定義する.

定理
領域 $D$ 上の正則関数 $f(z)$ に対して次が成り立つ. $$\eq{ \dd{f}{z}(z) & =f'(z) \\ \dd{f}{\ol{z}}(z) & =0 }$$

証明
[証明]  $f(z)=f(x+iy)=u(x,y)+iv(x,y)$ とすると, $$\eq{ \dd{f}{z} & =\f{1}{2}(f_x-if_y)=\f{1}{2}((u_x+iv_x)-i(u_y+iv_y)) \\ & =\f{1}{2}((u_x+v_y)+i(v_x-u_y)) \\ \dd{f}{\ol{z}} & =\f{1}{2}(f_x+if_y) =\f{1}{2}((u_x+iv_x)+i(u_y+iv_y)) \\ & =\f{1}{2}((u_x-v_y)+i(v_x+u_y)) }$$ となる. したがって, 領域 $D$ 上の正則関数 $f(z)$ に対して, コーシー・リーマンの関係式より, $$\eq{ \dd{f}{z}(z) & =f'(z) \\ \dd{f}{\ol{z}}(z) & =0 }$$ が成立する.

$\dd{f}{\ol{z}}(z)=0$ はコーシー・リーマンの関係式を複素偏微分作用素を書き直したものである. これについて次が成り立つ.

定理
領域 $D$ 上の複素関数 $f(z)$ に対して, 次は同値である.
$(1)\ f(z)$ は正則である.
$(2)\ f(z)$ は $C^1$ 級かつ $D$ 上で次が成り立つ. $$ \dd{f}{\ol{z}}(z)=0 $$

例題
$z\neq 0$ のとき, 次が成り立つことを示せ.
$(1)\ \dd{|z|}{z}=\f{\zb}{2|z|}\ \ \ \ \ (2)\ \dd{|z|}{\zb}=\f{z}{2|z|}$

解答
[解答]
$|z|=\r{x^2+y^2}$ より, $z\neq 0$ のとき,
(1) $$\eq{ \dd{|z|}{z} & =\f{1}{2}\le( \dd{f}{x}-i\dd{f}{y} \ri)\r{x^2+y^2} \\ & =\f{1}{2}\le( \f{2x}{2\r{x^2+y^2}}-i\f{2y}{2\r{x^2+y^2}} \ri) \\ & =\f{x-iy}{2\r{x^2+y^2}} =\f{\zb}{2|z|} }$$ (2) $$\eq{ \dd{|z|}{\zb} & =\f{1}{2}\le( \dd{f}{x}+i\dd{f}{y} \ri)\r{x^2+y^2} \\ & =\f{1}{2}\le( \f{2x}{2\r{x^2+y^2}}+i\f{2y}{2\r{x^2+y^2}} \ri) \\ & =\f{x+iy}{2\r{x^2+y^2}} =\f{z}{2|z|} }$$

例題
$f(z)$ が実数値関数であれば $\dd{f}{\zb}=\ol{\dd{f}{z}}$ が成り立つことを示せ.

解答
[解答]
$f(z)=f(x+iy)=u(x,y)+iv(x,y)$ とすると, $$\eq{ \dd{f}{z} & =\f{1}{2}(f_x-if_y)=\f{1}{2}((u_x+iv_x)-i(u_y+iv_y)) \\ & =\f{1}{2}((u_x+v_y)+i(v_x-u_y)), \\ \dd{f}{\ol{z}} & =\f{1}{2}(f_x+if_y) =\f{1}{2}((u_x+iv_x)+i(u_y+iv_y)) \\ & =\f{1}{2}((u_x-v_y)+i(v_x+u_y)). }$$ $f(z)$ が実数値なので, $v=0$ だから $v_x=v_y=0$ である. したがって, $$ \dd{f}{\ol{z}}=\f{1}{2}(u_x-iu_y)=\ol{\dd{f}{z}}$$ である.

極座標のコーシー・リーマンの方程式

例題
$z=re^{i\t}$ のように極座標表示を用いるとき, コーシー・リーマンの方程式は $$\case{ \dd{u}{r} =\f{1}{r}\dd{v}{\t} \\ \dd{u}{\t}=-r\dd{v}{r} }$$ と表されることを示せ. さらに次が成り立つことを示せ. $$\eq{ f'(z) & =(\cos\t-i\sin\t)\le(\dd{u}{r}+i\dd{v}{r}\ri) \\ & =\f{\cos\t-i\sin\t}{ir} \le(\dd{u}{\t}+i\dd{v}{\t}\ri) }$$

解答
[解答]
$z=re^{i\t}$ とすると, $x=r\cos\t,\ y=r\sin\t$ なので, 合成関数の微分より, $$\eq{ \dd{u}{r} &=\dd{u}{x} \dd{x}{r}+\dd{u}{y}\dd{y}{r} =u_x\cos\t+u_y\sin\t \\ \dd{u}{\t}&=\dd{u}{x}\dd{x}{\t}+\dd{u}{y}\dd{y}{\t} =u_x(-r\sin\t)+u_yr\cos\t \\ \dd{v}{r}&=\dd{v}{x}\dd{x}{r}+\dd{v}{y}\dd{y}{r} =v_x\cos\t+v_y\sin\t \\ \dd{v}{\t}&=\dd{v}{x}\dd{x}{\t}+\dd{v}{y}\dd{y}{\t} =v_x(-r\sin\t)+v_yr\cos\t }$$ である. コーシー・リーマンの関係式 $u_x=v_y,\ u_y=-v_x$ 用いれば, 求める式を得る.

後半の式については $f(z)$ が正則のとき, $f'(z)=u_x+iv_x$ で表されることに注意して, 上式を用いれば容易に求まる.

【付録】ラプラシアンと調和関数

定義
領域 $D$ 上の $C^2$ 級の関数 $f$ に対して偏微分作用素 $$ \D f=\dd{{}^2f}{x^2}+\dd{{}^2f}{y^2} $$ と定義する. $\D$ をラプラシアンと呼ぶ. 領域 $D$ 上の $\D f=0$ を満たす $C^2$ 級の関数 $f$ を $D$ 上の調和関数と呼ぶ.

例題
領域 $D$ 上の $C^2$ 級の関数 $f$ に対して $$ \D f=4\dd{{}^2f}{z\partial \zb} $$ であることを示せ.

解答
[解答]
$f$ は $C^2$ 級なので, $$ \dd{{}^2f}{x\partial y}=\dd{{}^2f}{y\partial x} $$ が成り立つから, $$\eq{ \dd{{}^2}{z\partial \zb} & =\f{1}{2}\le( \dd{}{x}-i\dd{}{y} \ri) \f{1}{2}\le( \dd{}{x}+i\dd{}{y} \ri) \\ & =\f{1}{4}\le(\dd{{}^2}{x^2}+\dd{{}^2}{y^2}\ri) \\ & =\f{1}{4}\D }$$ $$ \th \D f=4\dd{{}^2f}{z\partial \zb} $$

例題
領域 $D$ 上の調和関数 $f$ に対して 複素偏導関数 $\dd{f}{z}$ は $D$ 上の正則関数であることを示せ.

解答
[解答]
$f$ は調和関数なので, $\D f=0$ が成り立つ. $g=\dd{f}{z}$ とおくと, $$ \f{1}{4}\D f=\dd{{}^2f}{z\partial \zb}=\dd{g}{\zb}=0 $$ より, $g$ はコーシー・リーマンの関係式が成り立つから正則である. すなわち, $\dd{f}{z}$ は正則である.