Takatani Note

ラプラス変換の公式【証明】

$$ \newcommand{\L}{\mathcal{L}} \newcommand{\f}[2]{\dfrac{#1}{#2}} $$

この記事では、ラプラス変換の公式を証明します。

証明の前に、ラプラス変換の定義とラプラス変換表を書いておきます。

定義
$t\geq 0$ で定義された関数 $f(t)$ に対して, 広義積分 $$ F(s)=\int_0^\iy e^{-st}f(t)dt $$ が存在するとき, $F(s)$ を $f(t)$ のラプラス変換(Laplace transform)といい, $$ F(s)=\L[f(t)] $$ と表す. このとき, $f(t)$ を原関数(original function), $F(s)$ を像関数(image function)という.

ラプラス変換表

$f(t)$$\L[f(t)]$ $e^{at}f(t)$$\L[e^{at}f(t)]$
$1$$\f{1}{s}$ $e^{at}$$\f{1}{s-a}$
$t$$\f{1}{s^2}$ $te^{at}$$\f{1}{(s-a)^2}$
$t^n$$\f{n!}{s^{n+1}}$ $t^ne^{at}$$\f{n!}{(s-a)^{n+1}}$
$\sin\o t$$\f{\o}{s^2+\o^2}$ $e^{at}\sin\o t$ $\f{\o}{(s-a)^2+\o^2}$
$\cos\o t$$\f{s}{s^2+\o^2}$ $e^{at}\cos\o t$ $\f{s-a}{(s-a)^2+\o^2}$
$\sinh\o t$$\f{\o}{s^2-\o^2}$ $e^{at}\sinh\o t$ $\f{\o}{(s-a)^2-\o^2}$
$\cosh\o t$$\f{s}{s^2-\o^2}$ $e^{at}\cosh\o t$ $\f{s-a}{(s-a)^2-\o^2}$

公式の証明

※この記事では広義積分の収束性を考えないことにします。

定理
$\L[1]=\f{1}{s}\ \ (s>0)$

証明
[証明]
$$\L[1]=\int_0^\iy e^{-st}dt =\le[-\f{1}{s}e^{-st}\ri]_0^\iy=\f{1}{s} $$

定理
$\L[t]=\f{1}{s^2}\ \ (s>0)$

証明
[証明]
部分積分より, $$\eq{ \L[t] & =\int_0^\iy te^{-st}dt \\ & =\le[t\c\le(-\f{1}{s}\ri)e^{-st}\ri]_0^\iy -\int_0^\iy 1\c \le(-\f{1}{s}\ri) e^{-st}dt \\ & =0+\f{1}{s}\int_0^\iy 1\c e^{-st}dt \\ & =\f{1}{s}\c \L[1]=\f{1}{s^2} }$$

定理
$\L[t^n]=\f{n!}{s^{n+1}}\ \ (s>0)$

証明
[証明]
数学的帰納法で示す. $n=1$ のときは前定理よりOK.
$n=k$ のときに成り立つと仮定すると, $$\eq{ \L[t^{k+1}] & =\int_0^\iy t^{k+1}e^{-st}dt \\ & =\le[t^{k+1}\c\le(-\f{1}{s}\ri)e^{-st}\ri]_0^\iy -(k+1)\int_0^\iy t^k\c \le(-\f{1}{s}\ri) e^{-st}dt \\ & =0+\f{k+1}{s}\int_0^\iy t^k\c e^{-st}dt \\ & =\f{k+1}{s}\c \L[t^k] \\ & =\f{k+1}{s}\c \f{k!}{s^{k+1}} \\ & =\f{(k+1)!}{s^{k+2}} }$$ よって, 帰納法より定理の主張が成り立つ.

定理
$\L[e^{at}]=\f{1}{s-a}\ \ (s>a)$

証明
[証明]
$$\eq{ \L[e^{at}] & =\int_0^\iy e^{-st}e^{at}dt \\ & =\int_0^\iy e^{-(s-a)t}dt \\ & =-\f{1}{s-a}\le[e^{-(s-a)t}\ri]_0^\iy \\ & =\f{1}{s-a} }$$

定理
$\L[\sin\o t]=\f{\o}{s^2+\o^2}\ \ (s>0)$

証明
[証明]
$$\eq{ \L[\sin\o t] & =\int_0^\iy e^{-st}\sin\o tdt \\ & =\le[ \f{1}{-s}e^{-st}\sin\o t \ri]_0^\iy -\int_0^\iy \f{1}{-s}e^{-st}\o\cos\o tdt \\ & =0+\f{\o}{s}\int_0^\iy e^{-st}\cos\o tdt \\ & =\f{\o}{s}\le( \le[ \f{1}{-s}e^{-st}\cos\o t \ri]_0^\iy -\int_0^\iy \f{1}{-s}e^{-st}(-\o\sin\o t)dt \ri) \\ & =\f{\o}{s}\le( \f{1}{s} -\f{\o}{s}\int_0^\iy e^{-st}\sin\o tdt \ri) \\ & =\f{\o}{s^2}-\f{\o^2}{s^2}\L[\sin\o t] }$$ 両辺に $s^2$ をかければ, $$ s^2\L[\sin\o t]=\o-\o^2\L[\sin\o t] $$ これを変形すれば求める式を得る.

定理
$\L[\cos\o t]=\f{s}{s^2+\o^2}\ \ (s>0)$

証明
[証明]
$$\eq{ \L[\cos\o t] & =\int_0^\iy e^{-st}\cos\o tdt \\ & =\le[ \f{1}{-s}e^{-st}\cos\o t \ri]_0^\iy -\int_0^\iy \f{1}{-s}e^{-st}(-\o\sin\o t)dt \\ & =\f{1}{s}-\f{\o}{s}\int_0^\iy e^{-st}\sin\o tdt \\ & =\f{1}{s}-\f{\o}{s}\L[\sin\o t] \\ & =\f{1}{s}-\f{\o}{s}\c \f{\o}{s^2+\o^2} \\ & =\f{s}{s^2+\o^2} }$$

定理
$\L[\sinh\o t]=\f{\o}{s^2+\o^2},\ \ \ \L[\cosh\o t]=\f{s}{s^2-\o^2}\ \ \ (s>0)$

証明
[証明]
$$\eq{ \L[\sinh\o t] & =\L\le[\f{e^{\o t}-e^{-\o t}}{2}\ri] \\ & =\f{1}{2}\le( \L[e^{\o t}]-\L[e^{-\o t}] \ri) \\ & =\f{1}{2}\le( \f{1}{s-\o}-\f{1}{s+\o} \ri) \\ & =\f{\o}{s^2-\o^2} }$$ $$\eq{ \L[\cosh\o t] & =\L\le[\f{e^{\o t}+e^{-\o t}}{2}\ri] \\ & =\f{1}{2}\le( \L[e^{\o t}]+\L[e^{-\o t}] \ri) \\ & =\f{1}{2}\le( \f{1}{s-\o}+\f{1}{s+\o} \ri) \\ & =\f{s}{s^2-\o^2} }$$

線形性

定理
$a,b$ を定数とすると, $$ \L[af(t)+bg(t)]=a\L[f(t)]+b\L[g(t)] $$

証明
[証明]
$$\eq{ \L[af(t)+bg(t)] & =\int_0^\iy e^{-st}(af(t)+bg(t))dt \\ & =a\int_0^\iy e^{-st}f(t)dt +b\int_0^\iy e^{-st}g(t)dt \\ & =a\L[f(t)]+b\L[g(t)] }$$

像関数の移動公式

定理
$\L[f(t)]=F(s)$ とするとき, 次が成り立つ. $$ \L[e^{at}f(t)]=F(s-a)\ \ \ (s >a) $$

証明
[証明]
$$\eq{ \L[e^{at}f(t)] & =\int_0^\iy e^{-st}e^{at}f(t)dt \\ & =\int_0^\iy e^{-(s-a)t}f(t)dt \\ & =F(s-a) }$$

逆ラプラス変換

ラプラス変換の逆変換を定義したいが, やっかいな問題がある.
それは「$f(t)$ と $g(t)$ のラプラス変換が一致しても, $f(t)$ と $g(t)$ が一致するとは限らない」という問題である.
その例を紹介しよう.


$f(t)=e^{at}\ (a>0)$ とし, $$ g(t)= \case{ f(t) & (t\neq 1) \\ 0 & (t=1) } $$ とする. $f(t)$ と $g(t)$ は一点だけ違う関数なので, 両者の積分は等しく, $$ F(s)=G(s)=\f{1}{s-a} $$ である. ※$G(s)$ は $g(t)$ のラプラス変換. したがって, $f(t),g(t)$ のラプラス変換は一致するが, $f(t)\neq g(t)$ である.

このような例があるために, ラプラス変換の逆対応が一意的に定まらない場合がある.
しかし, 次に紹介する「ゼロ関数」の概念を用いればラプラス変換の逆対応を定義できる.

定義
任意の $t>0$ に対して $$ \int_0^x f(t)dt =0 $$ であるような関数 $f(t)$ をゼロ関数(zero function)という. つまり, ゼロ関数とはほとんどいたるところゼロ (zero almost everywhere)な関数である.

例えば, 有限個の点で1, それ以外の点では0な関数はゼロ関数である.

次の定理が成り立つことが知られている.

定理
$\L[f(t)]=\L[g(t)]$ ならば, $f(t)-g(t)$ はゼロ関数である.

$f(t)$ が連続なゼロ関数であるとき, $$ \int_0^t f(x)dx =0 $$ の両辺を $t$ で微分すると, $f(t)=0$ となるから, 連続なゼロ関数は恒等的に0に等しい.

このことと上の定理から次の定理が得られる.

定理
$f(t),g(t)$ が連続関数で, $\L[f(t)]=\L[g(t)]$ ならば, $t>0$ のとき, $f(t)=g(t)$ である.

定義
$f(t)$ のラプラス変換を $F(s)$ とする. 先に述べたとおり, ラプラス変換が $F(s)$ であるような関数を一意的に $f(t)$ であると決めることはできない. しかし, ゼロ関数だけの差を無視すれば, $F(s)$ に $f(t)$ を対応させることができる. このとき, $f(t)$ を $F(s)$ の逆ラプラス変換(inverse laplace transform)といい, $$ \L^{-1}[F(s)]=f(t) $$ で表す.

例題
次の関数の逆ラプラス変換を求めよ.
ただし, $a,b$ は定数で, $(3)$ では $a\neq b$ で, $(4)$ では $b$ を0でない実数とする.
$\ds (1)\ \f{1}{s-a}\ \ \ (2)\ \f{1}{(s-a)^2}\ \ \ (3)\ \f{1}{(s-a)(s-b)}\ \ \ (4)\ \f{1}{(s-a)^2+b^2}$

解答
[解答]
ラプラス変換の変換表より,
$(1)\ds \L^{-1}\le( \f{1}{s-a} \ri) =e^{at}$
$(2)\ds \L^{-1}\le( \f{1}{(s-a)^2}\ri) =te^{at}$
(3) $$ \f{1}{(s-a)(s-b)}=\f{1}{a-b} \le( \f{1}{s-a} -\f{1}{s-b} \ri) $$ であるから, $$ \L^{-1}\le( \f{1}{(s-a)(s-b)}\ri) =\f{1}{a-b}(e^{at}-e^{bt}) $$ (4) $$ \f{1}{(s-a)^2+b^2} =\f{1}{b}\c \f{b}{(s-a)^2+b^2} $$ であるから, $$ \L^{-1}\le( \f{1}{(s-a)^2+b^2} \ri) =\f{1}{b}e^{at}\sin bt $$

例題
次の関数の逆ラプラス変換を求めよ.
$\ds (1)\ \f{1}{s^2-s-2}\ \ \ (2)\ \f{1}{s^2-4s+13}$

解答
[解答]
(1) $$ \f{1}{s^2-s-2}=\f{1}{(s-2)(s+1)}=\f{1}{3} \le( \f{1}{s-2} -\f{1}{s+1} \ri) $$ であるから, $$ \L^{-1}\le( \f{1}{s^2-s-2}\ri) =\f{1}{3}(e^{2t}-e^{-t}) $$ (4) $$ \f{1}{s^2-4s+13}= =\f{1}{3}\c \f{3}{(s-2)^2+3^2} $$ であるから, $$ \L^{-1}\le( \f{1}{s^2-4s+13} \ri) =\f{1}{3}e^{2t}\sin bt $$