Takatani Note

可換環論のコツ

この記事は, 私がツイッター(@takatani57)でつぶやいた環論のコツをまとめたものである.

アティマク「可換代数入門」の主な内容は下記のとおり.

・可換環の基礎事項
・ネーター環の性質
・代数多様体の既約性,次元,非特異性

これらはハーツホーンの1章を読むのに役立ちます.

しかし,2章以降はアティマクの知識だけでは全然足りず, 松村「可換環論」の多くの知識が必要になるので要注意.

アティマク「可換代数入門」の演習問題は全部解かなくてもいいですよ

理由はハーツホーンを読むのに必要のない問題が少なくないから

例えば「ネーター環でない場合はどうか」という問題も, ハーツホーンではネータースキームで一般論を展開しているので要りません.
※EGAはネーターでない場合も扱う

松村『可換環論』は辞書として使うのがオススメ.

代数幾何学を勉強していて,可換環論に関するわからないところが出てきたとき, この本を参照すると,たいてい疑問が解決します.

[松村]を通読するのがしんどい人は 『代数幾何学で必要になったら参照する』という読み方に変えてみるのもありです.

整拡大のとき部分環は環の次元を計算するのに役立ちます.

整拡大ならば部分環はもとの環と次元が一致します.
つまり, $A\subset B$ が整拡大ならば $\dim A =\dim B.$
[松村英之 可換環論 問題9.2]

応用例
$\dim\Z[\sqrt{-1}]=1,$
$\dim\C[t^2,t^3]=1$
であることを示せ.

[証明]
$K[t^2,t^3]\subset K[t]$ は整拡大なので,
$\dim K[t^2,t^3] = \dim K[t]=1.$

$\Z\subset\Z[\sqrt{-1}]$ は整拡大なので,
$\dim\Z =\Z[\sqrt{-1}]=1.$

このように環の次元を簡単に計算できます

Gorenstein環について

次の2つを覚えておこう!

$\C[x,y]/(x^2,y^2)$ はGorである.
実際, $\C[x,y]$ はGorであり, $x^2,y^2$ は $\C[x,y]$ の正則元なので, [松村 問題18.1]よりGorである.

$\C[x,y]/(x^2,xy,y^2)$ はGorでない.
実際, $(0)=(x)\cap (y)$ より, $(0)$ は既約イデアルでない.
よって,[松村 定理18.1(5)]よりGorでない.

空間曲線の特異点

空間曲線は可換環論の例を作るのに役立ちます.


$A:=\C[t^3,t^4,t^5]$ とすると,
$A/(t^3)\cong\C[Y,Z]/(Y^2,YZ,Z^2).$

$\because X=t^3,Y=t^4,Z=t^5$ とおくと,
$Y^2=t^3\cdot t^5\in(t^3),$
$YZ=t^3\cdot t^3\cdot t^3\in (t^3),$
$Z^2=t^3\cdot t^3\cdot t^4\in (t^3).$

※$\C[Y,Z]/(Y^2,YZ,Z^2)$ はGorでないので,
$A$ もGorでない.(※$t^3$ は $A$ の正則元.)

【テンソル積】平坦加群でない例

$A=\C[x,y],J=(x,y)$
とすると,イデアル $J$ は $A$ 加群として平坦でない.

実際,包含写像 $J\to A$ に対して,右から $J$ をテンソルした $J\otimes J \to A\otimes J(\cong A)$ は単射でない.
$\because x\otimes y \neq y\otimes x,$
$x\otimes y - y\otimes xx \mapsto xy-yx=0.$

※$J\otimes J$ では $x\otimes y$ を $1\otimes xy$ に変形できない.
しかし, $A\otimes J$ では $x\otimes y$ を $1\otimes xy$ に変形できる

小ネタ集

包含写像:
$\ \ \ i: \C[xy]\to \C[x,y]$
によって誘導される射は下記のとおり.
$\ \ \ i^\#: \Spec\C[x,y]\to \Spec\C[xy]$
$\ \ \ (a,b)\mapsto ab$

注意
$\ \ \ i^{-1}(x-a,y-b)=(xy-ab)$
$\ \ \ y(x-a)+a(y-b)=xy-ab$
が成り立つので $(a,b)\mapsto ab$ となる.
(※1つめの式はイデアルの逆像を表している.)

上の例は幾何学的不変式論で,
$\newcommand{A}{\mathbb{A}}$ 乗法群 $G_m$ から $\A^2$ への作用を
$t\cdot (x,y)=(tx,t^{-1}y)$
を考えたときに出てくる.

$\ \ \ v: \C[x,y]\to \C[t]$
$\ \ \ f(x,y)\mapsto f(t^2,t^3)$
によって誘導される射は下記のとおり.
$\ \ \ v^\#: \Spec\C[t]\to \Spec\C[x,y]$
$\ \ \ a \mapsto (a^2,a^3)$

次の定理は次元計算にとても役立つ.

定理 [松村 問題9.2]
$A$ を環, $B$ をその整拡大な環ならば,
$\ \ \ \dim A=\dim B.$


$\C[t^2,t^3]\subset \C[t]$ は整拡大なので,
$\ \ \ \dim \C[t^2,t^3]$ $=\dim \C[t]=1.$


$\Z\subset \Z[i]$ は整拡大なので,
$\ \ \ \dim \Z$ $=\dim \Z[i]=1.$
このように, $\Z[i]$ の次元が簡単に求まる.

アルティン環

定理
次の条件は同値である.
(1) $A$ はアルティン環である.
(2) $A$ はネーター環でかつ $\dim A=0$ である.


体はアルティン環である.
実際, 体 $K$ のイデアルは $(0)$ と $K$ 自身のみだからである.


$\R[x](x^3)$ はアルティン環である.
実際, $\R[x](x^3)$ のイデアルは,
$\ \ \ (0),\ (x),\ (x^2),\ \R[x](x^3)$
しかなく, 有限個なので, アルティン環である.
同様に, $\R[x](x^n)$ や $\R[x](x^3,y^2)$ もアルティン環である.

正則局所環でない例


$A:=\C[[X, Y]]/(XY)$ は正則局所環でない.

[証明]
$\m=(x,y)$ とおくと, $\ \ \ \dim_\C\m/\m^2=2.$
ところが, $\dim A=1$ なので,
$\ \ \ \dim_\C \m/\m^2 \neq \dim A.$
よって, $A$ は正則局所環でない.


$A:=\C[[t^2,t^3]]$ は正則局所環でない.

[証明]
$\m=(t^2, t^3)$ とおくと, $\dim_\C\m/\m^2=2.$
一方で, $\C[t^2,t^3] \subset \C[t]$ は整拡大なので,
$\dim A=\dim \C[t^2,t^3]$ $=\dim \C[t]=1$
よって, $A$ は正則局所環でない.


$A:=\C[X]/(X^2)$ は正則局所環でない.

[証明]
$\m=(x)$ とおくと, $\m^2=0$ より, $\dim_\C\m/\m^2=1.$
ところが, $\dim A=0$ なので, $\dim_\C \m/\m^2 \neq \dim A.$
よって, $A$ は正則局所環でない.