Takatani Note

環論のコツ

この記事は, 私がツイッター(@takatani57)でつぶやいた環論のコツをまとめたものです。

環の準同型定理:
$A/\Ker f\cong \Im f$ $(f:A\to B)$
を使って環の同型を示せることが初学者の目標です.
この定理は体論や可換環論で使いまくります


$(1)\Q[x]/(x^2-2)\cong \Q(\sqrt{2})$
$(2)\R[x]/(x^2+1)\cong\C$
$(3)\R[x,y]/(y^2-x^3)\cong \R[t^2,t^3]$

[証明]
$(1)f:\Q[x]\to\Q(\sqrt{2}),$
$\ \ g(x)\mapsto g(\sqrt{2})$
とすると, $\Ker f=(x^2-2).$

$(2)f:\R[x]\to\C,$
$\ \ g(x)\mapsto g(i)$
とすると, $\Ker f=(x^2+1).$
※$i$ は虚数単位 $\sqrt{-1}$

$(3)f:\R[x,y]\to \R[t^2,t^3],$
$g(x,y)\mapsto g(t^2,t^3)$
とすると, $\Ker f=(y^2-x^3).$

(1),(2),(3)はすべて $f$ が全射なので,準同型定理より同型が成り立つ. $\square$

環論を勉強していて, イデアルが抽象的な概念だと思っている人には
コックスの「グレブナ基底と代数多様体入門」がオススメです.

この本で
・イデアルの有用性
・イデアルを幾何的にみる方法
が多くの具体例を用いて説明されています.

この本を読めば少なくともイデアルの苦手意識はなくなるはずです.

整域でない環はたくさん作れます.

・$\R[x]/(x^3)$
・$\R[x,y]/(x^3,y^2)$
・$\R[x,y,z,w]/(xy,zw)$

このように多項式環の剰余環を考えれば簡単に大量に作れます.

教科書では $\Z/6\Z$ ぐらいしか整域でない環は出てきません.
なので,整域でない環は少ないと思いがちですが違います.

問題
$\Z[i]$ と $\Z[\sqrt{2}]$ は同型でないことを示せ.
※$i$ は虚数単位

[解答]
同型写像 $f:\Z[i]⟶\Z[\sqrt{2}]$ があると仮定する.
$\ \ f(i)²=f(i²)$ $=f(-1)=-f(1)=-1$
より, $f(i)=\pm i\not\in \Z[\sqrt{2}]$ なので矛盾する. $\square$

問題
次の加群の同型を示せ.
$\ \ \ \Z^2/(3,2)\Z\cong \Z\oplus \Z_2.$

[証明]
$\Z\oplus \Z\to \Z\oplus \Z_2$
$(x,y)\mapsto (2x-3y,y)$
とすれば, その核は $(3,2)\Z$ なので, 準同型定理より, 上式が成り立つ. $\square$

環の具体例集


・$\Z[i],\Z[\sqrt{5}]$
・$\Z[x]$
・$\Z[x]/(2x-1)$
・$\Z\Bigl[\dfrac{1}{2}\Bigr]=\Bigl\{\dfrac{a}{2^n}\in \Q$ $\mid a\in\Z,\ n\in \Z_{\geq 0}\Bigr\}$
・$\Z_{(2)}=\Bigl\{ \dfrac{a}{b}\in \Q$ $\mid a\in\Z,\ 2\not\mid b\Bigr\}$


・$\R[t]$
・$\R[t^2,t^3]$
・$\R[t^4,t^5,t^6]$


・$\R[x,y]$
・$\R[x,y]/(y^2-x^3)$
・$\R[x,y]/(x^3,y^2)$
・$\R[x^2,xy,y^2]$