Takatani Note

ノルム空間【例と証明】

$ \def\norm#1{\| #1 \|} \def\nx#1{\| #1 \|} \def\D{\mathcal{D}} \def\L{\mathcal{L}} \def\No{\norm{\c}} \def\del{\delta} \def\O{\Omega} \def\X{\mathfrak{X}} \def\Xt{\widetilde{X}} $

この記事では, ノルム空間について「ノルムの例と証明」「距離空間の違い」「性質」「完備化」について説明します。

はじめに, ノルムとノルム空間の定義を確認しておきましょう。

定義
$X$ を $K$ 上の線形空間とする. 写像 $\norm{\c} : X \to \R$ が次の3条件を満たすとき, $\nx{\c}$ を $X$ 上のノルム(norm)という.
(i) (正値性)   $\nx{u}\geq 0 \ \ \ (\all u\in X).\ $ かつ $\norm{u}=0 \iff u=0.$
(ii) (斉次性) $\norm{\a u}=|\a|\norm{u}\ \ \ (\all \a\in K, \all u\in X).$
(ii) (三角不等式) $\norm{u+v}\leq \norm{u}+\norm{v}\ \ \ (\all u,v\in X).$

線形空間 $X$ とその上のノルム $\norm{\c}$ が与えられたとき, $X$ はノルム空間(normed space)であるという.

ノルム空間と距離空間の違い

ノルム空間と距離空間は次の点で違う.

$\def\Lra{\Longrightarrow}$ したがって, ノルム空間は距離空間より狭いクラスである. さらに, 次の関係が成り立つ:

内積空間 $\Lra$ ノルム空間 $\Lra$ 距離空間 $\Lra$ 位相空間

ゆえに ノルム空間は位相空間なので, 開集合や閉集合など位相の諸概念を用いることができる.


有限次元の複素ベクトル空間 $\C^N$ における標準的な長さ: $$ \norm{u}=\le(\sum_{j=1}^N |u_j|^2 \ri)^{1/2} \ \ \ (u=(u_1,\cd,u_N) \in \C^N) $$ はノルムの公理を満たす. しかし, $\C^N$ 上のノルムはこれだけではない. 例えば, $$ \norm{u}_1=\sum_{j=1}^N |u_j|, \ \ \ \norm{u}_\iy=\max_{j=1,\cd,N}|u_j| $$ もそれぞれノルムの公理を満たす.


$X:=C[a,b]$ とする. $u=u(t)\in X$ に対して, $$ \nx{u}_C = \max_{t\in [a,b]}|u(t)| $$ とおけば, ノルムの公理を満たす.

証明
[証明]
以下, $\max_{t\in [a,b]}$ を単に $\max$ で表すことにする.

まず, $|u(t)|\geq 0\ \all t\in [a,b]$ により $\nx{u}\geq 0$ は明らかである. また, $\max|u(t)|=0$ は $u(t)\equiv 0$ を意味する. すなわち, $\nx{u}=0 \Rightarrow u=0.$ この逆も明らかである. ゆえに, ノルムの公理(i)が成り立つ.

次に $$ \max|\a u(t)|=\max|\a||u(t)|=|\a|\max|u(t)| $$ により(ii)が成り立つ.

最後に, $$ \nx{u(t)+v(t)} \leq |u(t)|+|v(t)| \leq \max|u(t)| + \max|v(t)| $$ としてから, 左辺で $t$ に関する最大値をとれば三角不等式 $$ \nx{u+v} \leq \nx{u} + \nx{v} $$ が得られ, (iii)が成り立つ.

次の例のように定義域に関しては閉区間 $[a,b]$ を $\R^N$ のコンパクト集合にまで拡張できる.


$K$ を $\R^N$ のコンパクト集合(すなわち有界閉集合)とし, $C(K)$ を $K$ 上の連続関数の全体とする. $$ \norm{u}_C=\max_{x\in K}|u(x)|\ \ (u\in C(K)) $$ とおけば, ノルムの公理を満たす.

[証明]
前例と同様である.


$\O$ を $\R^N$ の開集合とする. $C(\O)$ の関数 $u$ のうち, $\O$ で二乗可積分なもの, すなわち, $$ \int_\O |u(x)|^2 dx < \iy $$ を満たすものの全体を $X$ とする. そういsて $$ \nx{u}=\le( \int_\O |u(x)|^2 dx \ri)^{1/2} $$ とおけば, この $\nx{\c}$ はノルムの公理を満たす.

証明
[証明]
$\nx{u} \geq 0\ (\all u\in X)$ は 定義より明らかである. $\nx{u}=0$ のとき, $u$ は連続関数なので, $u=0$ である. したがって, (i)が成り立つ.

$\nx{\a u}=|\a|\nx{u}$ が $u\in L^2(\O),\ \a\in K$ に対して成り立つことは積分の線形性から自明である. ゆえに, (ii)が成り立つ.

三角不等式に関しては, シュワルツの不等式より, $$\eq{ \nx{u+v}^2 & =\nx{u}^2 + (u,v) + (v,u) + \nx{v}^2 \\ & = \nx{u}^2 + 2\mathrm{Re}(u,v) +\nx{v}^2 \\ & \leq \nx{u}^2 + 2|(u,v)| + \nx{v}^2 \\ & \leq \nx{u}^2 + 2\nx{u}\nx{v} + \nx{v}^2 \\ & = (\nx{u}+\nx{v})^2. }$$ $$ \th \nx{u+v} \leq \nx{u}+\nx{v} $$ よって, (iii)が成り立つ.

このノルムは $C(\O)$ だけでなく $L^2(\O)$ でもノルムになりえる. ただし, $L^2(\O)$ の場合, 可測関数を考えるので「ほとんどいたるところ(almost everywhere」という概念が出てきて, それがノルムの正値性に少々問題が生じる. そのことを次の $L^p$ ノルムのところで説明する.

関数空間 $L^p$


$p$ を $1\leq p <\iy$ を満たす実数とする. $\R^n$ の開集合 $\O$ 上の可測関数 $u$ で, $$ \nx{u}_p :=\le( \int_\O |u(y)|^p dy \ri)^{1/p} < \iy $$ を満たすものの全体を $L^p(\O)$ と書く.
ただし, $u=v\ (\text{a.e.})$ となる $u$ と $v$ が同一視するものとする. (※この条件がなければ $\nx{u}=0\iff u=0$ が成り立たない.)
このとき, $\nx{\c}_p$ は $L^p(\O)$ のノルムとなる. ノルム $\nx{\c}_p$ を$L^p$ ノルム($L^p$ norm)という.

証明
[証明]
$\nx{u}_p \geq 0\ (\all u\in X)$ は 定義より明らかである. $\nx{u}_p=0$ のとき, $$ u(x)=0 \ \ \ \ \ (\te{a.e.} x\in \O) $$ であるから, 条件より, $u=0$ である. したがって, (i)が成り立つ.

$\nx{\a u}_p=|\a|\nx{u}_p$ が $u\in L^2(\O),\ \a\in K$ に対して成り立つことは積分の線形性から自明である. ゆえに, (ii)が成り立つ.

三角不等式に関しては, ミンコフスキーの不等式より, $$ \th \nx{u+v}_p \leq \nx{u}_p+\nx{v}_p. $$ よって, (iii)が成り立つ.

※$L^2$ ノルムの三角不等式はシュワルツの不等式によって簡単に示せるが, $L^p$ ノルムの場合はミンコフスキーの不等式を使わなければならない.

数列空間 $l^p$


$p$ を $1\leq p < \iy$ を満たすパラメータとして, 条件 $$ \sum_{n=1}^\iy|x_n|^p < \iy $$ を満たす無限数列 $x=(x_n)_{n=1}^\iy\ (x_n\in K)$ の全体を $l^p$ で表す. $l^p$ は線形空間になる. そうして $$ \nx{x}_{l^p} = \le( \sum_{n=1}^\iy|x_n|^p \ri)^{1/p} \ \ \ (x\in l^p) $$ とおけば, $\nx{\c}_{l^p}$ は $l^p$ におけるノルムである.

証明
[証明]
ノルムの公理(i),(ii)を満たすのは明らか.
三角不等式に関しては, 数列のミンコフスキーの不等式より, $$ \th \nx{u+v}_{l^p} \leq \nx{u}_{l^p}+\nx{v}_{l^p}. $$ なので, (iii)が成り立つ.


有界な無限数列のなす空間: $$ l^\iy := \Big\{ u=(x_1,x_2,\cd) \mid \sup_{1\leq j< \iy} |x_j| < \iy \Big\} $$ を考えよう. $l^\iy$ のノルムを $$ \norm{u}_{\iy}=\sup_{j}|x_j| \ \ \ (u=(x_1,x_2,\cd) \in l^\iy ) $$ で定義すると, これはノルムの公理を満たす.

ノルム空間の積


$X,Y$ をそれぞれノルム $\nx{\c}_X,\nx{\c}_X$ をもつノルム空間とする. $X,Y$ の直積 $X \times Y=\{ [x,y] \mid x\in X,\ y\in Y\}$ は $$ \nx{[x,y]}_{X\times Y}=\nx{x}_X + \nx{y}_Y \tag{*}$$ をノルムとしてノルム空間をなす.

証明
[証明]
記号を簡単にするため $Z:=X\times Y$ とおく. $$ \nx{[x,y]}_Z=\nx{x}_X + \nx{y}_Y \geq 0. $$ $$\eq{ \nx{[x,y]}_Z=0 & \iff \nx{x}_X=\nx{y}_Y=0 \\ & \iff [x,y]=[0,0] }$$ $$\eq{ \nx{\a[x,y]}_Z & = \nx{[\a x,\a y]}_Z \\ & =\nx{\a x}_X +\nx{\a y}_Y \\ & =|\a|\nx{x}_X + |\a|\nx{y}_Y \\ & =|\a|\nx{[x,y]}_Z }$$ $$\eq{ \nx{[x,y]+[x',y']} & =\nx{[x+x',y+y']}_Z \\ & =\nx{x+x'}_X + \nx{y+y'}_Y \\ & \leq (\nx{x}_X + \nx{x'}_X) + (\nx{y}_Y + \nx{y'}_Y) \\ & =\nx{[x,y]}_Z + \nx{[x',y']} }$$ よって, $\nx{\c}_Z$ はノルムの公理を満たすので, $X\times Y$ はノルム空間である.

ノルム空間の商


$X$ をノルム空間とし, $Y$ を $X$ の閉部分空間とする. このとき, 商空間 $Q:=X/Y$ は $$ \nx{[x]}_Q=\inf_{y\in Y}\nx{x-y}\ \ ([x]\in X/Y) $$ をノルムとしてノルム空間になる.

証明
[証明]
$\nx{\c}_Q$ がノルムの公理を満たすことを示そう. まず, $\nx{[x]}_Q\geq 0$ は明らかである. また, $\nx{[0]}_Q=0$ および $\nx{\a [x]}_Q=|\a|\nx{[x]}_Q$ も自明である. 三角不等式 $$ \nx{[x_1]+[x_2]}_Q \leq \nx{[x_1]}_Q +\nx{[x_2]}_Q $$ は $y_1,y_2\in Y$ として $$ \nx{[x_1+x_2]}_Q \leq \nx{x_1+x_2-(y_1+y_2)} \leq \nx{x_1-y_1} + \nx{x_2-y_2} $$ が成り立つことから, $$ \nx{[x_1+x_2]}_Q \leq \inf_{y_1}\nx{x_1-y_1} + \inf_{y_2}\nx{x_2-y_2} =\nx{[x_1]}_Q + \nx{[x_2]}_Q $$ を導き, $Q$ における加法の定義に注意すれば得られる. 最後に, $\nx{[x]}_Q=0$ ならば, $[x]=0$ であること, すなわち $x\in Y$ であることを確かめる. 実際, $$ 0=\nx{[x]}_Q=\inf_{y\in Y}\nx{x-y} $$ から, $\nx{x-y_n}< 1/n,\ $ $y_n \in Y$ を満たす $y_n(n=1,2,\cd)$ が存在する. いいかえれば, $x$ は $Y$ の点列 $y_n$ の極限である. したがって, $Y$ が閉集合であることにより, $x\in Y$ である. これで, $\nx{\c}_Q$ がノルムの公理を満たすことが示された.

ノルムの性質

ノルムの連続性

定義
$X$ をノルム空間とし, $x, x_n \in X$ とする.
点列 $\{x_n\}$ が $x$ に収束するとは, $$ \lim_{n\to\iy}\nx{x_n-x}=0 $$ を満たすことである. また, $x$ をこの点列の極限という. そして $$ x=\lim_{n\to\iy} x_n \te{または} x_n\to x\ (n\to \iy) $$ とかく. ※$(n\to\iy)$ を省略することもある.

定理
ノルム空間 $X$ において, 加法とスカラー積の演算は連続である. すなわち,
(i) $x_n\to x, y_n \to y$ ならば $x_n+y_n \to x+y$
(ii) $\a_n\to \a, x_n \to x$ ならば $\a_n x_n \to \a x.$

証明
[証明]
(i) $$ \nx{(x_n+y_n)-(x+y)} \leq \nx{x_n-x} + \nx{y_n-y} \to 0\ \ (n\to \iy) $$ より, 加法は連続である.

(ii) $$\eq{ \nx{\a_nx_n-\a x} & \leq \nx{\a_n x_n -\a x_n} +\nx{\a x_n -\a x} \\ & = |\a_n-\a|\nx{x_n} + |\a|\nx{x_n-x} \\ & \to 0\ \ (n\to \iy) }$$ より, スカラー積は連続である.

定理
ノルムはノルム空間 $X$ 上の連続関数である. すなわち, $$ x_n \to x \te{ならば} \nx{x_n} \to \nx{x}. $$

[証明]
三角不等式より, $$ |\nx{x_n}-\nx{x}| \leq \nx{x_n-x} \to 0 \ (n\to \iy)$$ であるから, ノルムは $X$ 上の連続関数である.

同値なノルム

定義
同じ線形空間 $X$ において定義された二つのノルム $\nx{\c}_1, \nx{\c}_2$ が同値であるとは, 条件 $$ \del \nx{x}_2 \leq \nx{x}_1 \leq \del'\nx{x}_2 \ \ \ (x\in X) $$ が成立するような定数 $\del,\del'>0$ が存在することである.


$X=C[0,1]$ とし, 任意の $u\in X$ に対して, $$\eq{ \nx{u}_C & =\max_{t\in [0,1]}|u(t)|, \\ \nx{u}_1 & =\max_{t\in [0,1]}|tu(t)|, \\ \nx{u}_2 & =\max_{t\in [0,1]}|(1+t)u(t)| }$$ とおく. これらが, すべて $X$ のノルムであることは容易に示せる. ところで, $\nx{\c}_C$ と $\nx{\c}_2$ とは同値である. しかし, $\nx{\c}_C$ と $\nx{\c}_1$ とは同値ではない.

証明
[証明]
任意の $t\in [0,1]$ に対して, $$ |u(t)| \leq |(1+t)u(t)| \leq 2|u(t)| $$ より, $$ \nx{u}_C \leq \nx{u}_2 \leq 2 \nx{u}_C $$ であるから, $\nx{\c}_C$ と $\nx{\c}_2$ は同値である.

$\nx{\c}_C$ と $\nx{\c}_1$ が同値であると仮定する. このとき, ある $a,b>0$ が存在して $$ a \nx{u}_C \leq \nx{u}_1 \leq b\nx{u}_C \ \ \ (u\in X) $$ が成り立つ. 特に $u\equiv 1$ のとき, $$ a \leq |t| \leq b \ \ \ (t\in [0,1]) $$ となる. ところが, $a>0$ より, $t=a/2$ のとき, 上の不等式は成立しない. よって, 矛盾が導かれたので, $\nx{\c}_C$ と $\nx{\c}_1$ は同値でない.

定理
$X$ が有限次元空間ならば, $X$ の上の任意の二つのノルムは互いに同値である.

[証明]
[藤田 定理1.2]参照.

定理
系:ノルム空間の有限次元の部分空間は, すべて閉部分空間である.

[証明]
[藤田 定理1.2の系]参照.

注意 無限次元の部分空間は閉じているとはかぎらない. 次の例を参照.


$X:=C[0,1]$ にノルム $\nx{\c}_C$ を与える.
$$ P=\{ u\in X \mid \te{$u(t)$ は $t$ の多項式} \} $$ とおく. このとき, $P$ は無限次元の部分空間であるが, 閉部分空間でない.

証明
[証明]
$P$ が無限次元の部分空間であることは明らかである.
$P$ が閉じていないことを示そう. $$ u_n=u_n(t)=1+\f{t}{2}+\le( \f{t}{2} \ri)^2 + \cd + +\le( \f{t}{2} \ri)^{n-1}\ \ \ (n=1,2,\cd) $$ とおけば, $u_n \in P$ であり, $u_n$ は $n\to \iy$ のとき $$ u_0=\f{1}{1-t/2}=\f{2}{2-t} \in X $$ に一様収束する. よって $u_n \to u_0\ (n\to \iy)$ である. ところが $u_0$ は $t$ の多項式ではない. ゆえに $u_0 \not\in P.$ すなわち, $P$ は閉じていない.

局所コンパクト性とノルム空間

ユークリッド空間 $\R^N$ では, 任意の有界点列から収束する部分列を選び出すことができる. さらに一般に有限次元のノルム空間について同じことが成立する. つまり, 有限次元のノルム空間は局所コンパクトである. しかし, 無限次元の場合はそうではない.

定理
ノルム空間 $X$ が無限次元ならば, $X$ の点列 $\{e_n\}_{n\in\N}$ で, 条件 $$ \nx{e_n}=1\ \ (n\in \N) $$ $$ \nx{e_n-e_m} > \f{1}{2} \ \ (\forall n,m,\ n\neq m) $$ を満足するものが存在する. すなわち, $X$ は局所コンパクトではない.

[証明]
[藤田 定理1.3]参照.

完備化

この節では, ノルム空間の完備化について論じる.
目標は(あとで定義する) $\Xt$ が完備であることの証明である.
以下, $X$ はノルム空間とする.

$\X$ を $X$ のコーシー列 $\{x_n\}$ 全体の集合とする. $\X$ は演算 $\a\{x_n\}+\b\{y_n\}=\{\a x_n+\b y_n\}$ によって線形空間をなす.

命題
$\X$ に対して, 二項関係 $\sim$ を $$ \{x_n\} \sim \{y_n\} \iff \lim_{n\to\iy}\nx{x_n-y_n}_X=0 $$ と定める. このとき, $\sim$ は $\X$ の同値関係である.

証明
[証明]
$\{x_n\},\{x_n'\},\{x_n''\}\in \X$ とする.
$\{x_n\} \sim \{x_n\}$ は明らかである.
$\{x_n\} \sim \{x_n'\}$ ならば $\{x_n'\} \sim \{x_n\}$ も明らかである.
$\{x_n\} \sim \{x_n'\}$ かつ $\{x_n'\} \sim \{x_n''\}$ ならば $$ \nx{x_n-x_n''}_X \leq \nx{x_n-x_n'}_X+\nx{x_n'-x_n''}_X \to 0 \ \ (n\to\iy) $$ より, $\{x_n\} \sim \{x_n''\}$ である.
よって, 関係 $\sim$ は $\X$ の同値関係である.

$\Xt$ を線形空間 $\X$ の同値関係 $\sim$ による商空間 $\X/\sim$ とする. ※$\Xt$ は自然に定義される演算によって線形空間になる.

命題
$[\{x_n\}]\in \Xt\ \ (\{x_n\}\in \X)$ に対して, $$ \nx{[\{x_n\}]}_\Xt=\lim_{n\to\iy} \nx{u_n}_X $$ とおくと, この値は同値類によって定まり, 代表元 $\{u_n\}$ の選び方によらない.

証明
[証明]
$\{x_n\}\sim \{x_n'\}$ とすると, $$\eq{ & \nx{x_n}_X \leq \nx{x_n-x_n'}_X + \nx{x_n'}_X, \\ & \nx{x_n'}_X \leq \nx{x_n'-x_n}_X + \nx{x_n}_X. }$$ である. 上式それぞれの両辺に $n\to\iy$ とすれば, $$\eq{ & \lim_{n\to\iy}\nx{x_n}_X \leq \lim_{n\to\iy}\nx{x_n'}_X, \\ & \lim_{n\to\iy}\nx{x_n'}_X \leq \lim_{n\to\iy}\nx{x_n}_X. }$$ よって, $$ \lim_{n\to\iy}\nx{x_n}_X = \lim_{n\to\iy}\nx{x_n'}_X.$$ すなわち, $$ \nx{[x_n]}_\Xt=\nx{[x_n']}_\Xt. $$

命題
$\nx{\c}_\Xt$ は $\Xt$ 上のノルムとなる.

証明
[証明]
$\bm{x}\in \Xt$ とする. $\nx{\bm{x}}_\Xt\geq 0$ は明らか. $\nx{\bm{x}}_\Xt=0$ ならば, $\bm{x}$ の任意の代表元 $\{x_n\}$ は $0$ に同値なコーシー列となるから, $\bm{x}=0$ である. 任意の $\a\in K$ に対して, 明らかに $$ \nx{\a\bm{x}}_\Xt=\lim_{n\to\iy}\nx{\a x_n}_X =|\a|\lim_{n\to\iy}\nx{x_n}_X=|\a|\nx{\bm{x}}_\Xt. $$ また, $\{x_n\},\{y_n\}$ をそれぞれ $\bm{x},\bm{y}\in \Xt$ の代表元とすれば, $$ \nx{x_n+y_n}_X \leq \nx{x_n}_X + \nx{y_n}_X $$ において, $n\to \iy$ とすれば, $$ \nx{\bm{x}+\bm{y}}_\Xt \leq \nx{\bm{x}}_\Xt + \nx{\bm{y}}_\Xt $$ を得る. よって, $\Xt$ はノルム空間である.

命題
$u\in X$ に $[\{u,u,\cd\}]\in \Xt$ を対応させる線形作用素を $J$ とすると, $J$ は等長 ($\nx{Ju}_{\Xt}=\nx{u}_X$) かつ単射であり, $R(J)$ は $\Xt$ で稠密である.

証明
[証明]
等長かつ単射であることは明らかである.
$R(J)$ が $\Xt$ で稠密であることを示そう.
任意に $\bm{x}\in \Xt$ をとり, $\bm{x}$ に属する代表元を $\{x_n\}$ とする. このとき, $\{x_n\}$ はコーシー列であるから, 各 $\e>0$ に対して, ある $N\in \N$ が存在して, $$ \nx{x_n-x_m}_X < \e \ \ (n,m\geq N) $$ が成り立つ. このような $n$ に対して, $$ \nx{\bm{x}-Jx_n}_\Xt =\lim_{m\to\iy}\nx{x_m-x_n} \leq \e $$ となるから, $\bm{x}$ にいくらでも近くに $X$ の $J$ による像の元が存在する. よって, $R(J)$ は $\Xt$ で稠密である.

定理
$\Xt$ は完備である.
$\Xt$ のことを $X$ の完備化という.

証明
[証明]
$\{\bm{x}^{(n)}\}$ を $\Xt$ のコーシー列であるとし, $\bm{x}^{(n)}\in \Xt$ の代表元の一つを $\{x_k^{(n)}\}_{k=1}^\iy$ とする: $$ \bm{u}^{(n)}=[\{u_k^{(n)}\}]. $$ $x_k^{(n)}\ (k=1,2,\cd)$ は $X$ のコーシー列なので, 各 $n$ に対して, ある $k_n\in \N$ が存在して, $$ m\geq k_n \Rightarrow \nx{x_m^{(n)}-x_{k_n}^{(n)}} \leq n^{-1} \tag{*1}$$ が成り立つ. このとき, $$ \{ x_{k_1}^{(1)},x_{k_2}^{(2)},\cd,x_{k_n}^{(n)}, \cd\} $$ を含むクラスが, $\{\bm{x}^{(n)}\}$ の $\Xt$ における収束点であることを示そう. そのために $\{x_{k_n}^{(n)}\}$ がコーシー列となることを示さねばならない. $(*1)$ より, $$ \nx{\bm{x}^{(n)}-Jx_{k_n}^{(n)}}_{\Xt} =\lim_{m\to\iy}\nx{x_m^{(n)}-x_{k_n}^{(n)}}_X \leq n^{-1} $$ よって, $$\eq{ \nx{x_{k_n}^{(n)} - x_{k_m}^{(m)}}_X & =\nx{Jx_{k_n}^{(n)} - Jx_{k_m}^{(m)}}_{\Xt} \\ & \leq \nx{Jx_{k_n}^{(n)} - \bm{x}^{(n)}}_{\Xt} + \nx{\bm{x}^{(n)}-\bm{x}^{(m)}}_{\Xt} + \nx{Jx_{k_m}^m - \bm{x}^{(m)}}_{\Xt} \\ & \leq \nx{\bm{x}^{(n)}-\bm{x}^{(m)}}_{\Xt} + n^{-1} + m^{-1}. }$$ $n,m\to \iy$ とすれば, 右辺 $\to 0$ より, $\{x_{k_n}^{(n)}\}$ がコーシー列であることがわかる. これを含むクラスを $\bm{x}$ とすれば, (1.27)より, $$ \nx{\bm{x} - \bm{x}^{(n)}}_{\Xt} \leq \nx{\bm{x} - Jx_{k_n}^{(n)}}_{\Xt} + \nx{Jx_{k_n}^{(n)}-\bm{x}^{(n)}}_{\Xt} \leq \nx{\bm{x}-Jx_{k_n}^{(n)}}_{\Xt} + n^{-1}. $$ また, (1.28)より, $$\eq{ \nx{\bm{x}-Jx_{k_n}^{(n)}}_{\Xt} & =\lim_{p\to\iy}\nx{x_{k_p}^{(p)}-x_{k_n}^{(n)}}_X \\ & \leq \lim_{p\to\iy}(\nx{\bm{x}^{(p)}-\bm{x}^{(n)}}_{\Xt} +p^{-1} + n^{-1}) \\ & \leq \lim_{p\to\iy}\nx{\bm{x}^{(p)}-\bm{x}^{(n)}}_{\Xt} + n^{-1} }$$ であるから, (1.29)と(1.30)より, $$ \lim_{n\to\iy}\nx{\bm{x}-\bm{x}^{(n)}}_{\Xt} \leq \lim_{n\to\iy}\nx{\bm{x}-Jx_{k_n}^{(n)}}_{\Xt} \leq \lim_{n,p\to\iy} \nx{\bm{x}^{(p)}-\bm{x}^{(n)}}_{\Xt}=0. $$ かくして, $\bm{x}^{(n)}$ は $\bm{x}$ に収束する. よって, $\Xt$ は完備である.

定理
さらに, $X$ が内積空間であるとき, $\Xt$ における内積を $$ ([\{x_n\}],[\{y_n\}])=\lim_{n\to\iy}(x_n,y_n) \ \ \ (\{x_n\}, \{y_n\}\in \X) $$ によって定義すれば $\Xt$ はヒルベルト空間である.

証明
[証明]
内積の公理を満たすことは容易に示せる.