Takatani Note

$\P^2$ 上のモース関数

この記事では、実射影平面 $\P^2$ 上のモース関数の計算をします。
以下、定義・記号は[松本]に合わせます。


$f:\P^2 \to \R,$
\[ (x_0:x_1:x_2) \ma \f{x_1 x_2}{x_0^{\ \ 2}+x_1^{\ \ 2}+x_2^{\ \ 2}} \] とする. このとき, 次が成り立つ.
・ $f$ の臨界点は $(1:0:0),\ $ $(0:1:1),\ $ $(0:1:-1)$ の3点である.
・3点とも非退化である.
・ $(1:0:0)$ の指数は1であり, $(0:1:1)$ の指数は2であり, $(0:1:-1)$ の指数は0である.
・ $\P^2\simeq$ $e^0\cup e^1\cup e^2.$

[証明]
$U_i=\{(x_0:x_1:x_2)\in\P^2$ $\mid x_i\neq 0 \}$ とし, $x=\f{x_1}{x_0},$ $y=\f{x_2}{x_0}$ とおく.
$C^{\infty}$座標近傍 $(U_0;\ x,y)$ において, 関数 $f$ は
$\ \ \ f(x,y)=\dfrac{xy}{1+x^2+y^2}$
と表される. $f$ を微分すると,
\[ \eqalign{ \dd{f}{x} &=\dfrac{y(1-x^2+y^2)}{(1+x^2+y^2)^2}, \\ \dd{f}{y} &=\dfrac{x(1+x^2-y^2)}{(1+x^2+y^2)^2}, \\ \dd{^2f}{x^2}&=\dfrac{2xy(-3+x^2-3y^2)}{(1+x^2+y^2)^3}, \\ \dd{^2 f}{y^2}&=\dfrac{2xy(-3-3x^2+y^2)}{(1+x^2+y^2)^3}, \\ \dd{^2 f}{x\d y}&=\dfrac{1-x^4-y^4+6x^2y^2}{(1+x^2+y^2)^3}. \\ }\] 上式より, \[ \dd{f}{x}(x)=\dd{f}{y}(x)=0 \iff (x,y)=(0,0) \] なので, $U_0$ 上では $f$ の臨界点は $(1:0:0)$ のみである.
$a=(1:0:0)$ とおく, 点 $a$ におけるヘッセ行列は
\[ H(a)= \m{ \dd{^2 f}{x^2}(0,0) & \dd{^2 f}{x\d y}(0,0) \\ \dd{^2 f}{x\d y}(0,0) & \dd{^2 f}{y^2}(0,0) } = \m{ 0 & 1 \\ 1 & 0 }. \] $H(a)$ の固有値は $1,\ -1$ なので, $H(a)$ を対角化すると,
$\ \ \ \m{ -1 & 0 \\ 0 & 1 }$
となる. よって, $(1:0:0)$ における指数は $1$ である.
(ちなみに, $\det H(a)\neq 0$ より, $a$ では非退化である.)

次に, 局所座標系 $(U_1;\ z,w)$ で考える.
ただし, $z=\dfrac{x_0}{x_1},$ $w=\dfrac{x_2}{x_1}$ とする.
$f$ は $U_1$ 上では
$\ \ \ f(z,w)=\dfrac{w}{1+z^2+w^2}$
と表される. $f$ を微分すると, \[ \eqalign{ \dd{f}{z}&=\dfrac{-2zw}{(1+z^2+w^2)^2},\\ \dd{f}{w}&=\dfrac{1+z^2-w^2}{(1+z^2+w^2)^2},\\ \dd{^2 f}{z^2}&=\dfrac{-2w(1-3z^2+w^2)}{(1+z^2+w^2)^3},\\ \dd{^2 f}{w^2}&=\dfrac{-2w(1+z^2-3w^2)}{(1+z^2+w^2)^3},\\ \dd{^2 f}{z\d w}&=\dfrac{-2z(1-3w^2+z^2)}{(1+z^2+w^2)^3}.\\ }\] 上式より, \[ \dd{f}{z}(z)=\dd{f}{w}(w)=0 \iff (z,w)=(0,1),\ (0,-1)\] なので, $U_1$ 上では $f$ の臨界点は $p:=(0:1:1),\ $ $q:=(0:1:-1)$ の 2点である.
点 $p,q $ におけるヘッセ行列は
\[ H(p)= \begin{pmatrix} \dd{^2 f}{z^2}(0,1) & \dd{^2 f}{z\d w}(0,1) \\ \dd{^2 f}{z\d w}(0,1) & \dd{^2 f}{w^2}(0,1) \\ \end{pmatrix} =\dfrac{1}{2} \begin{pmatrix} -1 & 0 \\ 0 & -1 \\ \end{pmatrix}. \] \[ H(q)= \begin{pmatrix} \dd{^2 f}{z^2}(0,-1) & \dd{^2 f}{z\d w}(0,-1) \\ \dd{^2 f}{z\d w}(0,-1) & \dd{^2 f}{w^2}(0,-1) \\ \end{pmatrix} =\dfrac{1}{2} \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 2 \\ \end{pmatrix}. \] 従って, $p$ における指数は $2$ であり, $q$ における指数は $0$ である.
(ちなみに, $\det H(p)\neq 0, $ $\det H(q)\neq 0$ より, $p,q$ では非退化である.)

最後に, $U_2$ 上での臨界点は $p,q$ の2点であることが容易にわかる.
実際, 関数 $f$ の 変数 $x_1$ と $x_2$ を入れ替えても $f$ は不変である.
従って, その対称性から, $U_1$ 上の臨界点と, $U_2$ 上の臨界点は 同じにならなければならない.

以上より, $f$ の臨界点は $a,p,q$ の3点であり, それらの指数は順に $1,2,0$ である.
よって, モース理論の基本定理より,
$\ \ \ \P^2\simeq e^0\cup e^1\cup e^2.$

補足
モース理論の基本定理については[横田]の定理106を参照せよ.

【おまけ】 $\P^1$ の接ベクトル空間

この節では, $\P^2$ の接ベクトル空間を具体的な形で表す.


$\P^2$ を斉次座標 $(x_0:x_1:x_2)$ の実射影平面とする.
$U_i=\{(x_0:x_1:x_2)\in\P^2$ $\mid x_i\neq 0 \}$ とし,
$r=x_1/x_0,\ $ $s=x_2/x_0$
$t=x_0/x_1,\ $ $u=x_2/x_1$ とし,
$(U_0;\ r,\ s),\ $ $(U_1;\ t,\ u)$ を $\P^2$ の $C^{\infty}$ 級座標近傍とする.
$U_0\cap U_1$ 上では, 座標変換
$\ \ \ t=1/r,\ $ $u=s/r$
が成り立つ.

$\def\ddv#1{\left(\dfrac{\d}{\d #1}\right)_{\! p}}$ $U_0$ 上では, 各点 $p\in U_0$ に対して,
$T_p(\P^2)=<\ddv{r},\ddv{s}>.$
$U_1$ 上では, 各点 $p\in U_1$ に対して,
$T_p(\P^2)=<\ddv{t},\ddv{u}>.$

また, $U_0\cap U_1$ 上では, 次の基底変換が成り立つ.
$\ \ \ \ddv{r}$
$=\dd{t}{r}\ddv{t}+\dd{u}{r}\ddv{u}$
$=\dfrac{-1}{r^2}\ddv{t}+\dfrac{-s}{r^2}\ddv{u}$
$=-t^2\ddv{t}-tu\ddv{u},$

$\ \ \ \ddv{s}$
$=\dd{t}{s}\ddv{t}+\dd{u}{s}\ddv{u}$
$=0+\dfrac{1}{r}\ddv{u}$
$=t\ddv{u}.$