Takatani Note

クラメルの公式【証明&応用】

クラメルの公式とは、連立1次方程式の解を『行列式』で表す公式です。

行列式によって解が簡潔に表されているため、公式を覚えやすいです。

しかし、クラメルの公式は4次以上の行列だと計算量がとても多く、計算に関しては実用的ではありません。
(※2次行列、3次行列の場合、計算は簡単です。)

ただ、理論的には役立つことがあって、定理の証明に応用されることがあります。

この記事では、クラメルの公式を証明し、その応用を紹介します。

3次行列のクラメルの公式

いきなり $n$ 次行列のクラメルの公式を述べると, 添え字が多くてわかりにくいので, まずは3次行列の場合を述べる.

$x,y,z$ に関する連立1次方程式: \[\begin{cases} a_{11}x+a_{12}y+a_{13}z=b_1 \\ a_{21}x+a_{22}y+a_{23}z=b_2 \\ a_{31}x+a_{32}y+a_{33}z=b_3 \end{cases}\] について, $A=(a_{ij}),\ $ $v={}^t(x\ y\ z),\ $ $b={}^t(b_1\ b_2\ b_3)$ とおくと, $Av=b$ と表せる.

$\det A\neq 0$ のとき, この方程式の解 $v$ は一意的に存在し, $v$ の各成分 $x,y,z$ は次のように表せる. \[ x=\dfrac{\det A_x}{\det A},\ \ y=\dfrac{\det A_y}{\det A},\ \ z=\dfrac{\det A_z}{\det A}. \] これがクラメルの公式である.
ただし, $A_x,A_y,A_z$ は下記のように定義した. \[A_x= \begin{pmatrix} \color{red}{b_1} & a_{12} & a_{13} \\ \color{red}{b_2} & a_{22} & a_{23} \\ \color{red}{b_3} & a_{32} & a_{33} \\ \end{pmatrix} \] \[ A_y= \begin{pmatrix} a_{11} & \color{red}{b_1} & a_{13} \\ a_{21} & \color{red}{b_2} & a_{23} \\ a_{31} & \color{red}{b_3} & a_{33} \\ \end{pmatrix} \] \[ A_z= \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \color{red}{b_1} \\ a_{21} & a_{22} & \color{red}{b_2} \\ a_{31} & a_{32} & \color{red}{b_3} \\ \end{pmatrix} \]

上記のとおり, $A_x,A_y,A_z$ はそれぞれ行列 $A$ の1列目、2列目、 3列目にベクトル $b$ を入れ替えた行列である.

ここで, クラメルの公式を使って実際に連立方程式を解いてみよう.

問題
クラメルの公式を用いて, 次の連立方程式を解け.
$\begin{cases} -x+y+z=2 \\ \ \ \ x-y+z=4 \\ \ \ \ x+y-z=-2 \end{cases}$

解答
[解答]
\[ A= \begin{pmatrix} -1 & 1 & 1 \\ 1 & -1 & 1 \\ 1 & 1 & -1 \\ \end{pmatrix}, \ \ v=\begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}, \ \ b=\begin{pmatrix} \color{red}{2} \\ \color{red}{4} \\ \color{red}{-2} \end{pmatrix}\] とおくと, 与えられた連立方程式は $Av=b$ と表される.

$\det A=4$ なので, クラメルの公式より,
\[ x=\dfrac{1}{\det A} \begin{vmatrix} \color{red}{2} & 1 & 1 \\ \color{red}{4} & -1 & 1 \\ \color{red}{-2} & 1 & -1 \\ \end{vmatrix}=1.\] \[y=\dfrac{1}{\det A} \begin{vmatrix} -1 & \color{red}{2} & 1 \\ 1 & \color{red}{4} & 1 \\ 1 & \color{red}{-2} & -1 \\ \end{vmatrix}=0.\] \[z=\dfrac{1}{\det A} \begin{vmatrix} -1 & 1 & \color{red}{2} \\ 1 & -1 & \color{red}{4} \\ 1 & 1 & \color{red}{-2} \\ \end{vmatrix}=3.\] よって, 連立方程式の解は \[ x=1,\ \ y=0,\ \ z=3. \]

例題を見てのとおり, 3次行列のときは計算量がそれほど多くない.
しかし, 4次行列から計算量が大幅に増えて大変である.

さて, 次に $n$ 次行列のクラメルの公式を証明する.

クラメルの公式とその証明

$A$ を $n$ 次の正則行列とし, $b\in \R^n$ とする.
このとき, 連立1次方程式 $Ax=b$ は一意的な解をもち, その解は次のようになる.

クラメルの公式
$j=1,\cdots,n$ に対して, \[ x_j=\dfrac{\det(a_1,\cdots,b,\cdots,a_n)} {\det A}\ \ \ \cdots (*) \]

ただし, $a_i$ は $A$ の第 $i$ 列のベクトルを表し, $(a_1,\cdots,b,\cdots,a_n)$ は $A$ の第 $j$ 列 $a_j$ を $b$ で置き換えた行列を表す.

クラメルの公式の証明
[証明]
解の一意性は $\det A\neq 0$ よりただちに示せるから, その解 $x_j$ が $(*)$ になることだけを示せばよい.
そのために, $\det(a_1,\cdots,b,\cdots,a_n)$ を計算しよう.

$Ax=b$ は
\[ x_1a_1+x_2a_2+\cdots+x_na_n=b \] と表せるから, 行列式の線形性より, \[ \begin{align} &\det(a_1,\cdots,a_{j-1},\ b,\ a_{j+1},\cdots,a_n) \\ = &\det(a_1,\cdots,a_{j-1},\ \sum_{k=1}^nx_ka_k,\ a_{j+1}\cdots,a_n) \\ = & \sum_{k=1}^nx_k\det(a_1,\cdots,a_k,\cdots,a_n) \end{align} \] 最後の行に関して, $j$ 以外の $k$ に対しては
\[\det(a_1,\cdots,a_k,\cdots,a_n)\] は等しい2列を含むから, その値は0に等しい.

したがって $k=j$ に対する項, すなわち $x_j\det A$ のみが残り,
\[ \det(a_1,\cdots,b,\cdots,a_n)=x_j\det A \] となる.
この式から $(*)$ を得る.

【応用】逆行列を余因子行列で表す

クラメルの公式を使えば, 逆行列を余因子行列の形に表せる.

なお, 正方行列 $A$ の余因子行列 $\widetilde{A}$ とは, $(i,j)$ 成分が $(-1)^{i+j}\det(A_{ij})$ である行列のことである.
ここで, $A_{ij}$ は $A$ の第 $i$ 行と第 $j$ 列を取り除いて得られる $n-1$ 次の行列を指す.

定理
$A$ を正則行列とし, $\widetilde{A}$ をその余因子行列とする.
このとき, $A$ の逆行列 $A^{-1}$ は次のように表せる. \[ A^{-1}=\dfrac{1}{\det A}\widetilde{A}. \]

証明
[証明]
$A^{-1}=(v_1,\cdots,v_n)$ と表すことにすると, $AA^{-1}=I$ より, \[ \begin{align} & A(v_1,\cdots,v_n) \\ = & (Av_1,\cdots,Av_n) \\ = & (e_1,\cdots,e_n). \end{align} \] したがって $Av_j=e_j$ が $j=1,\cdots,n$ に対して成り立つ.

列ベクトル $v_j$ の第 $i$ 成分を $a_{ij}$ と表すことにしよう.
すると, 連立1次方程式 $Av_j=e_j$ に対してクラメルの公式を使えば
\[ a_{ij}=\dfrac{\det(a_1,\cdots,e_j,\cdots,a_n)}{\det A}\] である. ただし, 右辺の分子は $A$ の第 $i$ 列 $a_i$ を $e_j$ で置き換えた行列の行列式を表す.

右辺の分子は $(-1)^{i+j}\det A_{ij}$ に等しいので,
\[ A^{-1}=\dfrac{1}{\det A}\widetilde{A} \] が成り立つ.

上の定理は有名であり他分野で使うので, 数学科はとくに覚えておいたほうがいい.

線型代数以外の分野で「クラメルの公式より,...」という文言が出てきたら, クラメルの公式そのものでなく、この逆行列に関する定理を指すことがあるので注意.

例として, リー群に関する次の定理を示そう.

定理
$G$ を一般線形群 $\GL_n(\R)$ とする.
写像 $G \to G,\ $ $A\mapsto A^{-1}$ は $C^{\infty}$ 級関数である.

証明
[証明]
クラメルの公式より, 与えられた写像は \[ A\mapsto A^{-1}=\dfrac{1}{\det A}\widetilde{A} \] と表せる.

$\det A$ と $\det A_{ij}$ を展開することによって, 逆行列 $A^{-1}$ の各成分は有理関数であることがわかる.
(※有理関数とは分母分子がともに多項式である関数)

したがって, この写像は $C^{\infty}$ 級関数である.

この定理は $\GL_n(\R)$ がリー群であることを証明するときに用いられる.
※上の定理は $\GL_n(\R)$ だけでなく特殊線形群 $\SL_n(\R)$ や 直交群 $O(n)$ のときでも成り立つ.

なお, $G$ がリー群であるとは群構造を持ち, 次の写像が $C^{\infty}$ 級関数の微分多様体のことである: \[ G\times G \to G,\ \ (A,B)\mapsto AB \] \[ G \to G ,\ \ A\mapsto A^{-1} \]