Takatani Note

線形代数のオススメ参考書【数学科向け】

この記事では, 数学科の学生にとって役立つ線形代数学のオススメ参考書を紹介します。

次の5冊を説明します。

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線形代数のオススメ参考書

『線型代数入門』松坂和夫

線型代数入門 松坂和夫
『線型代数入門』
松坂和夫 / 岩波書店

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本書のメリット

本書の一番いいところは下記の点です。

ジョルダン標準形のところが丁寧でわかりやすい

おそらく、このわかりやすさは数ある線形代数の教科書の中で一番だと思います。

証明は最短の方法ではなく、他の本よりけっこう長いです。
しかし、証明の意図がわかり、なおかつ論理の筋道がはっきりしているので初学者にとって親切な証明です。

なお、本書ではジョルダン標準形の理論を『単因子論』ではなく『広義固有空間』を用いて理論展開しています。

単因子論を使う場合、証明を短く済ますことができますが、証明方法はややテクニカルで初学者にはそのメカニズムがわかりずらいです。
「証明が正しいことが確認できたけど、何かわかったような気がしない...」
ということになりがちです。

一方で、広義固有空間を使う場合、「複素正方行列をジョルダン標準形に分類することはベキ零行列の分類に帰着される」というのが理論の流れです。
この流れは初学者にとってわかりやすく、[松坂]ではその部分を本当に丁寧に説明しています。

なのでジョルダン標準形を理解したい人に本書をオススメします。

ジョルダン分解についても詳しい

ジョルダン分解とは「任意の複素正方行列 $A$ と対角化可能な行列 $S$ とベキ零行列 $N$ の和($A=S+N$)に分解することです。

なお、ジョルダン分解は一意的に存在します。 その事実の証明は本書でされています。

実はジョルダン標準形よりもジョルダン分解を応用することが多いです。
特に数学科ではリー群とリー代数を勉強する人が多く、その分野でジョルダン分解をよく使います。

ジョルダン分解まで扱っている本は他にあまりないので、数学科の人にとってありがたいです。

スペクトル分解も計算例つきで解説している

関数解析で大事なスペクトル分解も具体的な計算例つきで説明しています。
たいていの教科書はスペクトル分解を紹介程度に軽く扱っていて, 具体的な計算例はないことが多いのですが、本書は違います。

初学者にとって丁寧な説明であり、冗長ではない

この本のアマゾンのレビューを見ると冗長だという意見があります。
確かに一度線形代数を勉強した人にとって簡潔ではなく説明がくどいと感じることが多いと思います。
ですが、初学者にとっては丁寧な説明とは感じても冗長とは感じないはずです。

昔は約5000円もしたため、人気がなかった。

本書は現在は新装版となり値段が3500円ほどですが, 実は2015年ぐらいまで出版されていた旧版は5000円ぐらいもしました。
値段が高すぎたためか、本書を使う学生は多くはいませんでした。

良書にもかかわらず、定番にはならなかったので、私としては本書が過小評価されていると感じています。

しかし、新装版になって値段が安くなった現在、学生の間で人気になりつつあるので、数年後には本書が線形代数学の定番の教科書になっているかもしれません。

本書について、下記の書評記事にさらに詳しく書いてありますので、 もっと知りたい人は読んでみてください。
【書評】線型代数入門 / 松坂和夫

『理系のための線型代数の基礎』永田雅宜

理系のための線型代数の基礎 永田雅宜
『理系のための線型代数の基礎』
永田雅宜 / 紀伊國屋書店

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理論重視で計算例が少ない数学科向け本

本書は線形代数の理論を重点的に勉強したい人向けです。
読者は理学部数学科の人を想定した内容構成になっています。

本書を読めば線形代数の理論に対する深い理解が得られるはずです。 また、一度学んだことがある人にとって論理の筋道が明確に思えるので復習にうってつけです。

個人的には、随所に見られる証明の工夫が良かったです。
他の本では見られないテクニックを使ってうまく証明されている部分が多々あり、「なるほど。こんな方法があるのか!」とおもしろく読めました。

ただ、行列の計算例が少ないので初学者の人にとっては難しい本だと思います。

表現行列とジョルダン標準形の説明は少ししかない

基本的にどの概念もうまく解説されていますが, 表現行列とジョルダンの標準形の説明が少ししかなく、その説明ではわからないかもしれません。

この2つについては[松坂]を図書館で借りて参照すればいいと思います。
さっきも言いましたが[松坂]のジョルダンの標準形の説明はとても丁寧で論理の飛躍がないので初学者は理解しやすいはずです。 また、表現行列の解説も[松坂]で丁寧に説明されています。

本の最初に数学の勉強法について書かれています。
この勉強法はためになる内容です。
その勉強法の部分を繰り返し読むだけでも価値がある。
そこに書かれている勉強法は数学者が当たり前のようにやっているが,大学数学を学び始めた人にとっては意外だと感じるかもしれません。

この本は線形代数の理論的な部分を重点的に解説されていいます。
他の教科書にはない理論的なコツをところどころに書いているのでとてもタメになります。
例えば2次形式のところの説明は他の本にはないコツが書かれている。
ただ,計算例は少なめなので行列計算は他の本で補う必要があります。

線形代数の他の分野への応用例がある

各章の終わりに『研究』というトピックがあり,そこで線形代数が他の分野にどう応用されているのかをうまく説明しています。

特に、表現論の説明がされているのがとても良いと思います。
表現論は現代数学のあらゆる分野に出てくる重要な理論なのですが,その表現論では線形代数を縦横無尽に使います。

数学科の学生はできるだけ早く表現論の興味を持つべきであり、この教科書では表現論について専門用語をできるだけ使わずに説明されています。

本書について、さらに詳しいことは下記の書評記事に書いてあります。
【書評】理系のための線型代数の基礎 / 永田雅宜

『線型代数入門』斎藤正彦

線型代数入門 斎藤正彦
『線型代数入門』
斎藤正彦 / 東京大学出版会

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理論と計算がバランスよく構成されている

この本は数学科の教科書として定番です。
線形代数の理論と計算がバランスよく構成されていて初学者にとってわかりやすい。

ただ、ジョルダンの標準形の証明では単因子論が使われています。
この方法は証明を短くできるという利点がある。
だが、証明を読んでも意図がわからない、わかった気がしない感じになって初学者にとってジョルダンの標準形が難しい印象を抱いてしまう恐れがあります。
なので、ジョルダンの標準形がわからなければ松坂など他の本を参照する必要があります。

でも、ジョルダンの標準形以外では説明がわかりやすく内容も詰め込みすぎずバランスがとてもいいです。
だから、ずっと数学科の教科書として定番になっているのだと思います。

この本には姉妹書として演習があります。
この演習書とセットで学べば線形代数の力をさらにつけることができます。
典型的な基礎問題が網羅されているので、大学のテスト対策として使用するのもとても効果的です。

『線型代数学』佐武一郎

線型代数学 佐武一郎
『線型代数学』
佐武一郎 / 裳華房

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上級者向け。(リー群論や表現論を専攻する人など)

この本は決して初学者向けではなく、本格的に線形代数学の本です。
行列計算や初歩的な実ベクトル空間からの話はなく、 抽象ベクトル空間から始まって線形代数の理論を構築していきます。

もうすでに線形代数の基本的な証明や概念を理解した人がより深く理解するためにこの本を使うのはオススメです。
特にリー群を専攻する人にとっては線形代数は非常によく使うので、[佐武]を理解できるレベルまで線形代数の力をつけないといけません。

ただ、大学1年2年の人がこのレベルまで到達するのは少ししんどいと思うので、 この本で最初に読むのはオススメではないです。
やはり、松坂や斎藤、永田あたりで勉強するのが無難だと思います。

佐武を読むのはリー群の重要性がわかって、リー群を本格的に学ぼうとしたときにこの本を本気で取り組む、といった読み方がベストだと思います。

リー群論と表現論を専攻する人にとっては最終的には[佐武]に書かれている内容をすんなり理解できるレベルにならないといけません。
線形代数を自由自在に使えるようにならないと表現論は厳しいです。

『線形代数学』三宅敏恒

線形代数学―初歩からジョルダン標準形へ 三宅敏恒
『線形代数学―初歩からジョルダン標準形へ』
三宅敏恒 / 培風館

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行列の計算力をつけたい人向け

線形代数の計算力つけるのに良い本です。
行列の計算ができないと理論を理解するのがすんなりいきませんから、計算力に自信がない人はこの本で基礎を身につけましょう。

この本は演習書として理工系に定番の教科書です。
定番どおり、説明が丁寧です。
計算だけでなく証明もわかりやすく解説されているので、線形代数の初学者にとってオススメです。

参考文献

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