Takatani Note

正規部分群の例題【判定と証明】

$ \def\Ra{\Rightarrow} \def\La{\Leftarrow} \def\iff{\Leftrightarrow} \def\all{\forall} \def\k{\hspace{15pt}} $

この記事では、正規部分群の例題とその証明を扱います。
正規部分群であることを示す判定問題も扱います。

はじめに正規部分群の定義を確認しておきます。

定義
群 $G$ の部分群 $N$ が $$ \all n\in N,\ \ \all g\in G,\k gng^{-1}\in N $$ を満たすとき, $N$ は $G$ の正規部分群 (normal subgroup)であるといい, $N\lhd G$ で表す.

正規部分群の同値な条件は下記のとおり.

定理
群 $G$ の部分群 $N$ について, 次の各条件は互いに同値である.
(1) $N\lhd G.$
(2) $gNg^{-1}=N\ \ \ (\all g\in G).$
(3) $gN=Ng\ \ \ (\all g\in G).$

証明
[証明]
(1) $\Ra$ (2)
$N\lhd G$ のとき, $$ \all g\in G,\k gNg^{-1}\sub N $$ である. $g$ を $g^{-1}$ に置き換えると $$ \all g\in G,\k g^{-1}Ng\sub N. $$ 従って, $$ gNg^{-1}\sub N=g(g^{-1}Ng)g^{-1}\sub gNg^{-1} \k (\all g\in G). $$ $$ \th\ \ gNg^{-1}=N \k (\all g\in G). $$
(2) $\Ra$ (3)
$gNg^{-1}=N\ \ \ (\all g\in G)$ より, $$ \all g\in G,\k gN=(gNg^{-1})g=Ng. $$ (3) $\Ra$ (1)
$gN=Ng\ \ \ (\all g\in G)$ より, 任意の $x\in N,\ g\in G$ に対して, $gx=yg$ を満たす $y\in N$ が存在する. これより, $$ gxg^{-1}=y \in N. $$ 以上で三条件が互いに同値であることが示せた.

※$gNg^{-1},gN,Ng$ の定義:
$gNg^{-1}=\{gng^{-1}\in G\mid n\in N\}$
$gN=\{gn \in G\mid n\in N\}$
$Ng=\{ng \in G\mid n\in N\}$

例題と証明

例題
$G$ を群, $H$ をその部分群とする.
指数について $|G:H|=2$ ならば $H\lhd G$ であることを示せ.

証明
[証明]
任意の $g\in G$ をとる. 前の定理より, $gH=Hg$ を示せばよい.
$g\in H$ ならば, $H$ は部分群なので, $gH=Hg.$
$g\not\in H$ ならば,
$$ H\cap gH =\emp\ \te{and}\ \ H\cap Hg=\emp $$ である. (実際, 前者については $H\cap gH \neq\emp$ と仮定して, $h'=gh\in H\cap aH$ とすると, $g=h'h^{-1}\in H$ で矛盾. 後者も同様.)

$|H|=|gH|=|Hg|$ かつ $|G:H|=2$ より, $$ G=H\cup gH =H\cup Hg. $$ すなわち, $G$ は $H$ と $gH$ の直和で表せ, さらに $H$ と $Hg$ の直和でも表せることから, $gH=Hg.$
よって, 任意の $g\in G$ に対して, $gH=Hg$ なので $H\lhd G.$

※指数 $|G:H|$ とは群 $G$ における部分群 $H$ の剰余類の個数である.
$|G:H|=2$ ならば $|G|=2|H|$ である.

例題
$G$ を群, $N$ をその正規部分群とする.
$|G:N|=n$ ならば, 任意の $g\in G$ に対して $g^n\in N$ であることを示せ.

証明
[証明]
$g\in G$ を任意にとる.
$gN\in G/N$ かつ $|G/N|=n$ より, $(gN)^n=N.$
したがって, $$ g^nN=(gN)^n=N. $$ ゆえに, $g^n\in N$ である.

※$N$ は $G/N$ の単位元である.

※ラグランジュの定理より, 位数 $m$ の群の任意の元は $m$ 乗すると単位元になる.
このことから, $(gN)^n=N.$

$\Ker f$ (準同型写像の核)

例題
$f:G\to G'$ を群 $G$ から群 $G'$ への準同型写像とするとき, 次を証明せよ.
(1) $\Im f$ は $G'$ の部分群である.
(2) $\Ker f$ は $G$ の正規部分群である.

[証明]
群準同型写像【例題と証明】参照.

対称群と交代群

例題
交代群 $A_n$ は対称群 $S_n$ の正規部分群であることを示せ.

証明
[証明]
$|S_n:A_n|=2$ より, 上の例題の結果を使えば $A_n \lhd S_n$ である.

[別解]
$f:S_n \to \{1,-1\},\ $ $\sigma \mapsto \sgn(\sigma)$ とする.
このとき, $f$ は準同型写像であり, $\Ker f=A_n$ である. よって, 次の定理より, $A_n \lhd S_n.$

定理
$f:G\to G'$ を群の準同型写像とする.
このとき, $\Ker f\lhd G.$

一般線形群と特殊線形群

例題
$M_n(\R)$ を $n$ 次実正方行列全体の集合とする.
$\GL_n(\R)$ を一般線形群: $$ \GL_n(\R)=\{A\in M_n(\R)\mid\det(A)\neq 0 \} $$ とし, $\SL_n(\R)$ を特殊線形群: $$ \SL_n(\R)=\{A\in M_n(\R)\mid \det(A)=1 \} $$ と定める. $\SL_n(\R)$ は $\GL_n(\R)$ の正規部分群であることを示せ.

証明
[証明]
行列式の性質 $\det(AB)=\det(A)\det(B)$ より, $A\in \GL_n(\R)$ と $X\in \SL_n(\R)$ に対して, $$ \det(AXA^{-1}) =\det(A)\det(X)\det(A)^{-1} =\det(X)=1 $$ が成り立つ. 従って $$ AXA^{-1}\in \SL_n(\R). $$ ゆえに $\SL_n(\R)\lhd \GL_n(\R).$

[別解]
$f:\GL_n(\R)\to \R^*,\ $ $A\mapsto \det A$ とする.
(※$\R^*$ は0でない実数全体の乗法群)
$$ f(AB)=\det(AB)=\det(A)\det(B)=f(A)f(B) $$ より, $f$ は準同型写像である.
$\Ker f=\SL_n(\R)$ なので, 準同型写像の性質より, $\SL_n(\R)\lhd \GL_n(\R)$ である.

クラインの4元群

例題
4次交代群 $A_4$ の部分群として,
$$ V=\{ e,\ (1\ 2)(3\ 4),\ (1\ 3)(1\ 4),\ (1\ 4)(2\ 3)\} $$ と定義すると, $V$ は $A_4$ の正規部分群であることを示せ.
(※$V$ をクラインの4元群という.)

証明
[証明]
定義どおりに地道に計算すればよい.
任意の $\s\in A_4$ に対して,
$$\eq{ \s (1\ 2)(3\ 4)\s^{-1} & \in V, \\ \s (1\ 3)(2\ 4)\s^{-1} & \in V, \\ \s (1\ 4)(2\ 3)\s^{-1} & \in V }$$ であることが計算すればわかる.
よって, $V \lhd A_4.$

共通部分&積

例題
$N_1,N_2$ が 群 $G$ の正規部分群ならば, 共通部分 $N_1\cap N_2$ も $G$ の正規部分群であることを示せ.

証明
[証明]
$N_1\cap N_2$ が $G$ の部分群であることは省略する (部分群【例題と証明】参照).
$N_1\cap N_2$ が $G$ の正規部分群であることを示す.
任意の $g\in G, n\in N_1\cap N_2$ をとる.
「$n\in N_1$ かつ $N_1 \lhd G$」なので, $gng^{-1}\in N_1.$
同様に「$n\in N_2$ かつ $N_2 \lhd G$」なので, $gng^{-1}\in N_2.$
よって, $gng^{-1}\in N_1\cap N_2.$

例題
$N_1,N_2$ が 群 $G$ の正規部分群ならば, 積 $N_1N_2$ も $G$ の正規部分群であることを示せ.

証明
[証明]
$g\in G,\ n\in N_1N_2$ とする. このとき, $n=n_1n_2$ を満たす $n_1\in N_1,\ n_2\in N_2$ がとれる.
$N_1,N_2$ は $G$ の正規部分群なので,
$$ gng^{-1}=gn_1n_2g^{-1} =(gn_1g^{-1})(gn_2g^{-1}) \in N_1N_2. $$ よって, $N_1N_2$ は $G$ の正規部分群である.

群の中心

例題
群 $G$ の各元と可換な元の集合:
$$ Z(G)=\{z\in G\mid \all g\in G,\ \ zg=gz\} $$ を $G$ の中心(center)という.
$Z(G)$ は $G$ の正規部分群であることを示せ.

証明
[証明]
部分群であること:
$a,b\in Z(G)$ に対して, $(ab)g=agb=g(ab)$ より $ab\in Z(G).$ また, $$ a^{-1}g=(g^{-1}a)^{-1}=(ag^{-1})^{-1}=ga^{-1} $$ より $a^{-1}\in Z(G).$ よって, $Z(G)$ は $G$ の部分群である.

正規であること:
任意の $g\in G,\ z\in Z(G)$ に対して, $zg=gz$ より,
$$ gzg^{-1}=zgg^{-1}=z\in Z(G). $$ よって, $Z(G)\lhd G.$

交換子群

例題
群 $G$ の元 $a,b$ によって $aba^{-1}b^{-1}$ の形に書かれる元を $G$ の交換子とよぶ.
$G$ のすべての交換子によって生成される $G$ の部分群を $G$ の交換子群といい, $D(G)$ で表す.
このとき $D(G) \lhd G$ を示せ.

証明
[証明]
$x\in D(G), a\in G$ を任意のとる.
交換子群の定義より,
$$ axa^{-1}x^{-1}\in D(G). $$ そして $D(G)x=D(G)$ より,
$$ axa^{-1}\in D(G). $$ よって, $D(G)$ は $G$ の正規部分群である.

正規部分群でない例

例題
3次対称群 $S_3$ の部分群: $$ H=\{ e,(1\ 2)\} $$ は $S_3$ の正規部分群でないことを示せ.

証明
[証明]
$\sigma=(1\ 2)\in H,\ \tau=(2\ 3)\in S_3$ とすると, $$ \tau\sigma\tau^{-1}=(1\ 3)\not\in H $$ である.

例題
$\GL_2(\R)$ を $\det A\neq 0$ をみたす $2$ 次正方行列 $A$ の全体とする.
$O(2)$ を2次直交行列全体とする.
$O(2)$ は $GL_2(\R)$ の正規部分群でない.

証明
[証明]
$$ A= \m{ 0 & 1 \cr 1 & 0 },\ P= \m{ 1 & 1 \cr 0 & 1 } $$ とすると, $A\in O(2),\ $ $P\in\GL_2(\R)$ である.
$$ PAP^{-1}= \m{ 1 & 0 \cr 1 & -1 } \not\in O(2) $$ なので, $O(2)$ は $\GL_2(\R)$ の正規部分群でない.

一般に, $O(n)$ は $GL_n(\R)$ の正規部分群でない.
証明は直交群と特殊直交群【問題と証明】を参照せよ.