Takatani Note

群の中心【例と証明】

この記事では、次の内容を扱います。

はじめに群の中心の定義を確認しておきます.

定義
群 $G$ の各元 $g$ と可換な元全体の集合
\[ Z(G)=\{z\in G\mid {}^\forall g\in G,\ zg=gz\} \] は $G$ の正規部分群になる.
この $Z(G)$ を $G$ の中心(center)という.

群の中心は正規部分群である

定理
$Z(G)$ は $G$ の正規部分群である.

証明
[証明]
まず, $\Z(G)$ が $G$ の部分群であることを示そう.
$x,y\in \Z(G)$ とする.
任意の $g\in G$ に対して, $xg=gx,\ $ $yg=gy$ なので,
\[\eq{ & x^{-1}g =gx^{-1}, \\ & xyg =xgy=gxy. }\] 従って, $x^{-1},xy \in Z(G)$ なので, $Z(G)$ は $G$ の部分群である.

次に, $Z(G)$ が $G$ の正規部分群であることを示そう.
$g\in G,\ c\in Z(G)$ に対して,
\[ gcg^{-1}=cgg^{-1}=c\in Z(G). \] よって, $Z(G)\lhd G.$

群の中心の例

一般線形群 $\GL(n,\C)$

定理
一般線形群 $G:=\GL(n,\C)$ の中心は
\[ Z(G)=\{aI\in G\mid a\in \C^*\} \] である. (※$I$ は $n$ 次単位行列とする.)

証明
[証明]
$A$ を $\GL(n,\C)$ の中心の元とする.
$A=(a_{ij})$ とし, $X=I+J$ とする.
ここで, $J$ は $i$ 行 $j$ 列が $\l\in \C$ で, それ以外はすべて0である行列とする.
$AX=XA$ の $(i,j)$ 成分と $(j,j)$ 成分をそれぞれ比較すると, \[\eq{ a_{ii}\l+a_{ij} & =a_{ij}+\l a_{jj}, \\ a_{ji}\l+a_{jj} & =a_{jj} }\] となる. (※添え字がややこしいので下に例を付けました.)
これがすべての $\l\in \C$ について成り立つから,
\[ a_{ii}=a_{jj},\ a_{ji}=0\ \ (i\neq j) \] を得る. さらに, これがすべての $i,j$ について成り立つから,
\[ A=aI,\ \ (a\neq 0) \] の形になる.
逆に $aI,(a\neq 0)$ は $\GL(n,\C)$ の中心の元である.

[例]
$n=3$ で, $l$ が $(2,3)$ 成分にある場合: \[\eq{ AX= \m{ a_{11}&a_{12}&a_{13} \cr a_{21}&a_{22}&a_{23} \cr a_{31}&a_{32}&a_{33} } \m{ 1 & 0 & 0 \cr 0 & 1 & \l \cr 0 & 0 & 1 } = \m{ * & * & * \cr * & * & a_{22}\l +a_{23} \cr * & * & a_{32}\l +a_{33} } \\ XA= \m{ 1 & 0 & 0 \cr 0 & 1 & \l \cr 0 & 0 & 1 } \m{ a_{11}&a_{12}&a_{13} \cr a_{21}&a_{22}&a_{23} \cr a_{31}&a_{32}&a_{33} } = \m{ * & * & * \cr * & * & a_{23}+\l a_{33} \cr * & * & a_{33} } }\] $AX=XA$ の $(2,3)$ 成分と $(3,3)$ 成分をそれぞれ比較すると, \[\eq{ a_{22}\l+a_{23} & =a_{23}+\l a_{33}, \\ a_{32}\l+a_{33} & =a_{33}. }\]

特殊線形群 $\SL(n,K)$

定理
特殊線形群 $\SL(n,K)$ の中心は
\[\eq{ & Z(\SL(2m+1,\R))=\{I\} \\ & Z(\SL(2m,\R)) =\{I,-I\} \\ & Z(\SL(n,\C)) =\{aI\mid a\in\C, a^n=1\} }\] である. (※$I$ は $n$ 次単位行列とする.)

証明
[証明]
$A$ が $\SL(n,K)$ の中心の元であれば, 前の例題と同様にしてまず $A=aI$ がわかる.
さらに $\det A=1$ であるから $a^n=1$ である.
$K=\R,\C$ に分けて考えると, 上記のようになる.

二面体群 $D_n$

定理
二面体群
\[\eq{ D_n & =\langle a,b\mid a^n=b^2=e,\ ab=ba^{-1}\rangle \\ & =\{e,a,\cdots,a^{n-1},b,ab,\cdots,a^{n-1}b\} }\] の中心 $Z(D_n)$ について
\[ Z(D_n)= \case{ D_2, & (n=2) \\ \{e\} & (n=2m+1, m\geq 1) \\ \{e,a^m\} & (n=2m, m\geq 2) }\] が成り立つ.

証明
[証明]
$D_2$ は可換群 $\Z_2\times \Z_2$ に同型なので, $Z(D_2)=D_2$ である.
$a^i\ (1\leq i\leq n-1)$ が中心の元だとすると, $b$ と可換であるから, \[ ba^i=a^ib=ba^{-i}. \] $ba^i=ba^{-i}$ の両辺に $ba^i$ をかけると, $a^{2i}=e.$ したがって, $2i$ は $a$ の位数 $n$ で割り切れる.
$1\leq i\leq n-1$ より $2i=n$ となる.
従って, $n$ が奇数ならば $a^i\not\in Z(D_n)$ であり, $n$ が偶数 $n=2m$ ならば $a^m\in Z(D_n)$ である.

同様に, $a^ib\ (0\leq i\leq n-1)$ が中心の元ならば, $a$ との可換性より $a(a^ib)=(a^ib)a$ なので, $ab=ba$ となるが, これは $n=2$ のときに限る.
以上で中心 $Z(D_n)$ が決定された.

対称群 $S_n$

定理
対称群 $S_n$ の中心 $Z(S_n)$ について \[ Z(S_n)= \case{ S_2 & (n=2) \\ \{e\} & (n \geq 3) }\] が成り立つ. (※$e$ は恒等置換)

証明
[証明]
$S_2$ は可換群であるから, $Z(S_2)=S_2$ である.
$n\geq 3$ のとき, $\s\in S_n$ が $\s\neq e$ ならば $\s\not\in \Z(S_n)$ であることを示そう.

$\s\neq e$ ならば, ある文字 $i$ に対して, \[ \s(i)=j\ \ \ (i\neq j) \] となっている. $n\geq 3$ だから, $i,j$ と異なる文字 $k$ が存在し, $\tau=(j\ k)$ とすると, \[\eq{ (\s\tau)(i) & =\s(\tau(i))=\s(i)=j, \\ (\tau\s)(i) & =\tau(\s(i))=\tau(j)=k. }\] 従って, $\s\tau\neq \tau\s$ なので, $\s\not\in Z(S_n).$
よって, $Z(S_n)=\{e\}\ (n\geq 3).$

交代群 $A_n$

定理
交代群 $A_n$ の中心は
$\ \ \ Z(A_3)=A_3,$
$\ \ \ Z(A_n)=\{e\}\ (n\leq 4)$
である.
交代群 $A_n$ の中心 $Z(A_n)$ について
\[ Z(A_n)= \case{ A_3 & (n=3) \\ \{e\} & (n \geq 4) }\] が成り立つ. (※$e$ は恒等置換)

証明
[証明]
$A_3$ は可換群であるから $Z(A_3)=A_3$ である.
$n\geq 4$ のとき, $\s\in A_n$ が $\s\neq e$ ならば $\s$ は $Z(A_n)$ の元でないことを示そう.
$\s\neq e$ ならば, ある文字 $i$ に対して \[ s(i)=j\ \ \ (i\neq j) \] となっている.
$n\geq 4$ だから, $i,j$ と異なる文字 $k,l$ が存在し, $\tau=(i\ k\ l)\in A_n$ とおく.
$\tau$ と $\s$ の可換性を調べると
\[\eq{ (\tau\s)(i) & =\tau(\s(i))=\tau(j)=j. \\ (\s\tau)(i) & =\s(\tau(i))=\s(k)\neq j, }\] 従って, $\tau\s \neq \s\tau$ なので, $\s\not\in Z(A_n).$
よって, $Z(A_n)=\{e\}\ (n\geq 4).$